大腿骨はヒトの身体を支えているので,大腿骨骨折すると歩けなくなることがあります。
大腿骨骨折は,他の後遺障害以上に日常生活に与える影響が大きいです。
当コラムでは,交通事故で大腿骨骨折して後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で大腿骨骨折するとどうなる?症状と生活への影響
⑴大腿骨骨折とは
大腿骨は,股関節から膝までの太ももの骨のことです。
大腿骨は頚部で内側に屈曲しています。
ヒトは,屈曲した大腿骨で身体を支えていますが,屈曲した部分は転倒や転落の際に外力が集中するため,骨折しやすい形になっています。
自転車や原付対自動車の衝突事故で,自転車や原付の運転者に大腿骨骨折が多発しています。
大腿骨骨折は,医学的には大腿骨頚部骨折,大腿骨転子部骨折,大腿骨転子下骨折に分類されています。
最も多いのが大腿骨頚部骨折です。
⑵大腿骨骨折の症状と生活への影響
一般的には,事故直後から痛み,腫れ,関節の可動域制限の症状が出て,歩行できません。
立つこと,歩くことができなくなるので,日常生活に支障を来します。
高齢者の場合,大腿骨骨折をきっかけとして寝たきりになり,要介護状態となることもあります。
また,高齢者の場合は,骨折して思うように動けなくなると外に出かけようとせず,人と交流する機会も減って引きこもりになることがあります。
なお,高齢者の交通事故被害予防については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
2 交通事故で大腿骨骨折した場合の後遺障害等級の判定基準とは?
大腿骨骨折した場合の後遺障害には,短縮障害,機能障害,神経障害の3種類があります。
⑴短縮障害
8級5号 | 1下肢を5㎝以上短縮したもの |
10級8号 | 1下肢を3㎝以上短縮したもの |
13級8号 | 1下肢を1㎝以上短縮したもの |
短縮の有無・程度は,X線写真による左右肢の比較などにより判断されます。
⑵機能障害
大腿骨骨折の機能障害は,股関節の可動域制限のことです。
①人工関節または人口骨頭を入れた場合
8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
8級7号となるのは,骨折していない側の股関節と比べ,骨折した側の股関節の可動域が2分の1以下に制限されている場合です。
可動域の制限がなければ10級11号となります。
②人工関節または人口骨頭を入れなかった場合
8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの |
8級7号となるのは,骨折した側の股関節が全く可動しない・骨折していない側の股関節と比べて可動域が10%以下に制限されている・骨折していない側の股関節と比べて可動域が10度以下に制限されている場合です。
骨折していない側の股関節と比べ,骨折した側の股関節の可動域が2分の1以下に制限されている場合は10級11号,4分の3以下に制限されている場合は12級7号となります。
⑶神経障害
大腿骨骨折をして,痛みだけが残ることもあります。
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは,障害の存在が医学的(ないしは他覚的)に証明できるもののことです。
「障害の存在が医学的(ないしは他覚的)に証明できる」とは,現在残存している症状の原因が何であるかが他覚的所見に基づいて判断できる状態を指します。
他覚的所見とは,検査結果に基づく医師の所見のことをいいます。
レントゲンやMRIなどで異常があることが認められれば,12級13号が認定されます。
「局部に神経症状を残すもの」とは,障害の存在が医学的に説明可能なもののことです。
3 交通事故で大腿骨骨折した場合の慰謝料はいくらもらえる?相場と支払い時期
⑴大腿骨骨折の後遺障害慰謝料の相場
交通事故で大腿骨骨折した場合,加害者に後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害慰謝料とは,後遺障害が原因で,将来にわたって不便を強いられたり,辛い思いをすることで生じる精神的苦痛に対する金銭的補償のことです。
慰謝料の算定基準は,3種類あります。
自賠責基準 | 車を運転する人全員に加入が義務付けられている自賠責保険が定める基準です。 |
自賠責保険は,交通事故被害者への最低限の補償を行うものなので,3つの基準の中では最も慰謝料の金額が低くなります。
任意保険基準 | 各任意保険会社が定めている慰謝料の基準です。 |
弁護士基準 | 過去の裁判例等に基づいて作られた基準で,弁護士が慰謝料の算定に使います。 |
3つの基準の中では最も慰謝料の金額が高くなります。
弁護士が交渉すれば,「弁護士基準」に基づいて示談交渉を行うことができるので,より高額の示談金を獲得できる可能性が高まります。
①短縮障害
8級5号 | 自賠責基準では331万円。弁護士基準では830万円。 |
10級8号 | 自賠責基準では190万円。弁護士基準では550万円。 |
13級8号 | 自賠責基準では57万円。弁護士基準では180万円。 |
②機能障害
(ア)人工関節または人口骨頭を入れた場合
8級7号 | 自賠責基準では331万円。弁護士基準では 830万円。 |
10級11号 | 自賠責基準では190万円。弁護士基準では550万円。 |
(イ)人工関節または人口骨頭を入れなかった場合
8級7号 | 自賠責基準では331万円。弁護士基準では830万円。 |
10級11号 | 自賠責基準では190万円。弁護士基準では550万円。 |
12級7号 | 自賠責基準では94万円。弁護士基準では290万円。 |
③神経障害
12級13号 | 自賠責基準では94万円。弁護士基準では290万円。 |
14級9号 | 自賠責基準では32万円。弁護士基準では110万円。 |
⑵慰謝料の支払い時期
大腿骨骨折で後遺障害等級認定がなされる場合,慰謝料を含めた示談金はいつ受け取ることができるのでしょうか。
事故発生から症状固定までの期間 | 6ヶ月(※) |
症状固定から申請までの期間 | 1カ月 |
申請から認定結果が出るまでの期間 | 1~2ヶ月 |
示談交渉の期間 | 1~3カ月 |
示談交渉後,示談金が振り込まれるまでの期間 | 1~2週間 |
※後遺障害慰謝料を受け取るには,後遺障害の等級認定がなされる必要があるところ,後遺障害の等級認定の申請は症状固定後に行います。
大腿骨骨折の場合,抜釘後に症状固定となります。
抜釘は,骨癒合が得られた時点で,一般的には交通事故から6ヶ月前後です。
上の表を踏まえると,大腿骨骨折で後遺障害等級認定がなされる場合,慰謝料を含めた示談金を受け取るまで, 9ヶ月~1年ほどかかります。
4 交通事故で大腿骨骨折した場合に必要な証拠とは?
⑴レントゲン撮影
まず,レントゲン撮影をして骨折していることを確認します。
⑵MRI撮影
大腿骨頚部骨折で,受傷直後に,レントゲン撮影で骨折が見えない場合があります。
その場合は,MRI撮影をして骨折があることを証明します。
⑶3DCT
大腿骨頚部骨折では,機能障害の後遺障害があるかどうかは骨折の形状・オペの内容・オペ後の骨癒合を踏まえて,整合性があるかを検討し,判断されます。
オペ後の骨癒合は3DCTで立証します。
5 弁護士に依頼するメリットとは?
⑴後遺障害認定申請を行ってもらえる
後遺障害慰謝料を受け取るには,後遺障害等級認定を受けなければいけません。
弁護士に依頼すれば,ご自身に代わって後遺障害認定申請を行ってもらえます。
大腿骨骨折では,抜釘のタイミングに個人差があるので,症状固定の時期の見極めが難しいです。
弁護士に依頼すれば,症状固定のタイミングのアドバイスを受けることができるうえに,後遺障害認定申請を代わりに行ってもらうことができます。
⑵示談交渉を代行してもらえる
弁護士に依頼すれば,示談交渉を代行してもらえます。
大腿骨骨折の後遺障害の症状は重いので,弁護士に示談交渉を代行してもらえれば,ご自身への負担は非常に軽くなります。
⑶十分な損害賠償金を受け取ることができる
弁護士が示談交渉を行えば,弁護士基準で慰謝料を算定できるうえに,弁護士は交渉に長けているので,高額な示談金を受け取ることができる可能性が高まります。
6 まとめ
大腿骨骨折をすると,事故以前のように歩けなくなり,高齢者の場合は寝たきりで要介護状態になってしまうことがあります。
日常生活に非常に大きな影響を与えるので,十分な損害賠償金を受け取ることができなければ,事故後の生活が金銭的にも苦しくなるでしょう。
交通事故で大腿骨骨折した場合は,なるべく早い段階で弁護士にご相談ください。
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