ご家族が交通事故に遭い,脳死となってしまったら,加害者に損害賠償請求することができます。
当コラムでは,ご家族が交通事故に遭い,脳死となった場合の損害賠償請求についてご説明いたします。
目次
1 交通事故による脳死とは?
脳死とは,脳全体の働きが無くなり,人工呼吸器などの助けがなければ心臓が停止してしまう状態です。
脳死になれば,どのような治療をしても回復せず,心停止に至ります。
交通事故で頭部を損傷し,脳に著しい損傷を受ければ,時間が経つにつれてその障害は進行していきます。
脳障害が進行すれば,二度と脳を蘇生できない「脳死」となります。
脳死であるかどうかは,
⑴「深い昏睡にあること」、 ⑵「瞳孔が固定し一定以上開いていること」 ⑶「刺激に対する脳幹の反射がないこと」 ⑷「脳波が平坦であること」 ⑸「自分の力で呼吸ができないこと」 |
の5項目を検査し、6時間以上経過した後に同じ一連の検査(2回目)をして,状態が変化せず、不可逆的であることの確認をし、脳死と判定されます。
上記の検査は,必要な知識と経験を持つ臓器移植に無関係な2人以上の医師が行います。
植物状態では,脳幹の機能が残っていて自分で呼吸できることが多く回復の可能性があるので,植物状態と脳死は異なります。
厚生労働省 「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)
なお,交通事故が原因で,脳死ではなく高次脳機能障害になった場合については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
2 交通事故で脳死になったら、損害賠償金の請求は「死亡」?「後遺障害」?
⑴損害賠償金の請求は「死亡」,「後遺障害」どちらで考えることになるか
交通事故で脳死になったら,「死亡」か「後遺障害が残ったこと」どちらを前提に損害賠償請求することになるのでしょうか。
日本では,臓器提供を前提とした場合に限り,脳死は人の死とされます。
そのため,臓器提供を行わないのであれば,後遺障害が残ったことを前提に損害賠償請求することになります。
⑵臓器提供を行わない場合
①後遺障害慰謝料
(ア)後遺障害等級
交通事故で脳死になった場合,要介護1級1号の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」に当たります。
(イ)後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料とは,後遺障害が原因で,将来にわたって不便を強いられたり,辛い思いをすることで生じる精神的苦痛に対する金銭的補償のことです。
慰謝料の算定基準は,3種類あります。
自賠責基準 | 車を運転する人全員に加入が義務付けられている自賠責保険が定める基準です。 |
自賠責保険は,交通事故被害者への最低限の補償を行うものなので,3つの基準の中では最も慰謝料の金額が低くなります。
任意保険基準 | 各任意保険会社が定めている慰謝料の基準です。 |
弁護士基準 | 過去の裁判例等に基づいて作られた基準で,弁護士が慰謝料の算定に使います。 |
3つの基準の中では最も慰謝料の金額が高くなります。
弁護士が交渉すれば,「弁護士基準」に基づいて示談交渉を行うことができるので,より高額の示談金を獲得できる可能性が高まります。
自賠責基準 | 1650万円 |
弁護士基準 | 2800万円 |
②後遺障害慰謝料以外に請求できるもの
後遺障害逸失利益も請求することができます。
後遺障害が残れば,事故前と同じように働くことができなくなってしまいます。
働くことができなくなった度合に応じて,将来得られたはずの収入分が,逸失利益として補償されます。
後遺障害逸失利益は,
基礎収入額×労働能力喪失率(100%)×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
の計算式で計算します。
基礎収入額は,事故前の収入をベースに計算します。
労働能力喪失率とは,後遺障害によって失われた労働能力の割合のことで,要介護1級1号の場合は100%です。
逸失利益が認められると,本来であれば段階的に得られたお金を一括で受け取ることになります。
そうすると,逸失利益を運用するなどして利益が生じるので,その分を控除しなければなりません。
そのため,労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数を掛け,あらかじめ中間利息分の金額を逸失利益から差し引きます。
労働能力喪失期間とは,交通事故が原因で生じた後遺障害の影響で,労働能力を失った期間を指します。
後遺障害逸失利益の計算は煩雑なので,弁護士に依頼した方が,正確な額を請求することができます。
⑶死亡したことを前提に損害賠償請求する場合
臓器提供をする場合,脳死は人の死だとされます。
また,脳死となり数日後に亡くなられることもあります。
これらの場合は,死亡事故として扱われるので,被害者の方が死亡したことを前提に損害賠償請求することになります。
①死亡慰謝料
(ア)死亡した被害者本人の慰謝料の相場
死亡慰謝料の相場は,弁護士基準と自賠責基準では異なります。
一家の支柱 | 自賠責基準なら400万円。弁護士基準なら2800万円 |
母親・配偶者 | 自賠責基準なら400万円。弁護士基準なら2500万円 |
独身者・子ども・幼児 | 自賠責基準なら400万円。弁護士基準なら2000万円~2500万円 |
(イ)遺族の慰謝料の相場
自賠責保険では,被害者の父母(養父母を含む),配偶者及び子(養子,認知した子及び胎児を含む)が請求権者になります。
請求権者1人 | 550万円 | 被害者に被扶養者がいれば,200万円加算されます。 |
請求権者2人 | 650万円 | 被害者に被扶養者がいれば,200万円加算されます。 |
請求権者3人 | 750万円 | 被害者に被扶養者がいれば,200万円加算されます。 |
②死亡慰謝料以外に請求できるもの
葬儀費・死亡逸失利益も請求することができます。
(ア)葬儀費
葬儀費は100万円が支払われます。
(イ)死亡逸失利益
死亡逸失利益とは,被害者が死亡したために,被害者が将来にわたって得られるはずであった利益を失ったことに対する補償です。
死亡逸失利益は,
基礎収入額×(1―生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数 |
の計算式で計算します。
基礎収入額は職業によって異なります。
例えば,給与所得者の場合,原則として事故前の収入を基礎として算出されます。
交通事故が原因で被害者が死亡すれば,被害者の生活費は発生しなくなります。
そこで,その生活費を控除するために,「1―生活費控除率」を掛けています。
生活費控除率は,被害者の属性によって異なります。
被害者が一家の支柱→被扶養者が1人の場合 | 40% |
被扶養者が2人以上の場合 | 30% |
被害者が女性(主婦・独身・幼児等を含む) | 30% |
男性(独身・幼児等を含む) | 50% |
逸失利益が認められると,本来であれば段階的に得られたお金を一括で受け取ることになります。
そうすると,逸失利益を運用するなどして利益が生じるので,その分を控除しなければなりません。
そのため,就労可能年数に対するライプニッツ係数を掛け,あらかじめ中間利息分の金額を逸失利益から差し引きます。
就労可能年数は,原則として67歳までとされています。
死亡逸失利益の計算は煩雑なので,弁護士に依頼した方が,正確な額を請求することができます。
なお,交通事故の死亡保険金について,当事務所の次の2つのコラムで詳しくご紹介しているのでご覧ください。
3 被害者が脳死の場合,誰が損害賠償請求するのか?
交通事故で被害者が脳死となった場合,被害者は脳死であるので示談交渉を通して損害賠償請求することはできません。
死亡慰謝料等を請求する場合,被害者のご家族は被害者の相続人であるので,損害賠償請求を行うことができます。
それでは,加害者に後遺障害慰謝料等を請求する場合も,ご家族が損害賠償請求を行うことができるのでしょうか。
加害者に後遺障害慰謝料等を請求する場合,以下の方法があります。
⑴成年後見人の申立てを行う
被害者ご本人が意思表示を行うことは不可能なので,家庭裁判所に対して成年後見人の申立てを行い,成年後見人を選任してもらいます。
成年後見人は,親族や弁護士などがなることができます。
成年後見人が,被害者ご本人に代わって損害賠償請求することになります。
当事務所では,弁護士費用を後払いで,成年後見の申立てもお手伝いさせていただいておりますので,先に経済的負担がかからずに手続きを進めさせていただくことができますので,ご安心くださいませ。
⑵(被害者が未成年の場合)両親が損害賠償請求する
両親は被害者の法定代理人なので,損害賠償請求を行うことができます。
参照:厚生労働省 成年後見制度についてよくわかるパンフレット
4 脳死になったときに弁護士に相談するメリット
⑴損害賠償金の算定をしてもらえる
交通事故で家族が脳死になった場合,精神的ショックが大きく,他のことを考えることはできないでしょう。
そのような状況で,「後遺障害が残ったこと」を前提に損害賠償請求するのか,死亡したことを前提に損害賠償請求するのかを判断し,適切な損害賠償金額を算定することは非常に難しいですし,ご自身の負担にもなります。
弁護士に相談すれば,「後遺障害が残ったこと」を前提に損害賠償請求するのか,死亡したことを前提に損害賠償請求するのかを判断し,適切な損害賠償金額を算定することが可能です。
⑵示談交渉を代行してもらえる
弁護士に被害者の成年後見人となってもらえば,示談交渉を代行してもらえます。
⑶十分な損害賠償金を受け取ることができる
弁護士が示談交渉を行えば,弁護士基準で慰謝料を算定できるうえに,弁護士は交渉に長けているので,高額な示談金を受け取ることができる可能性が高まります。
5 まとめ
ご家族が交通事故に遭い,脳死となってしまったら,ショックが大きく,どのように損害賠償請求をすればよいか考えることはできないでしょう。
弁護士に相談すれば,どのように手続を進めればよいかアドバイスができるうえに,示談交渉を代行することもできます。
また,弁護士に相談した方が適切な損害賠償金を受け取ることができるでしょう。
当事務所の弁護士は,交通事故案件の経験が豊富です。ご家族が交通事故に遭い,脳死となってしまい,悩まれている方は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。