交通事故被害者が自転車・バイクに乗っている場合,転倒,手・肘・肩を打撲して手や肩などに衝撃を受けると,その衝撃が鎖骨に伝わり鎖骨骨折することがあります。
また,追突事故などでもシートベルトに圧迫され,鎖骨骨折することがあります。
当コラムでは,鎖骨骨折の後遺障害についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で鎖骨骨折したらどんな治療が必要?
鎖骨骨折の症状としては,骨折部位が腫れあがる,肩に痛みが広がる,骨折部位が盛り上がって見えることが挙げられます。
診察・X線検査などを行って鎖骨骨折であるか診断を行います。
鎖骨骨折すれば,保存療法をとることが一般的です。
胸を張り,肩を後上方に引いた状態で,クラビクルバンドと呼ばれる固定帯を装着し,固定します。
被害者が成人であれば,4~6週間固定すれば,骨折部は骨癒合します。
2 鎖骨骨折した場合の後遺障害等級の判定基準とは?
体幹骨の変形障害
後遺障害等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | 裸体で鎖骨の変形が確認できるものであり,エックス線写真によってはじめて変形が発見しうる程度のものは該当しない |
肩関節の可動域制限
後遺障害等級表 | 後遺障害 | 認定基準 |
8級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | ・肩関節の主要運動の全てが強直/完全弛緩性麻痺かそれに近い |
10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 肩関節の患側の関節可動域が,健側の関節可動域の2分の1以下 |
12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 肩関節の患側の関節可動域が,健側の関節可動域の4分の3以下 |
併合11級 | 鎖骨骨折による鎖骨の変形が確認できるうえに,肩関節の患側の関節可動域が,健側の関節可動域の4分の3以下 |
※強直とは,関節がまったく可動しない,健側の関節可動域の10%程度以下に制限されたもの,関節可動域が10度以下に制限されていることのいずれかを指す
※完全弛緩性麻痺に近い状態とは,他動では稼働するが自動では健側の関節可動域の10度程度以下になったもの,関節可動域が10度以下に制限されているもののいずれかを指す
※肩関節の主要運動は複数あります。
そこで,患側について,屈曲,外転+内転いずれか一方の主要運動の可動域が,健側と比べて上記の表のとおり制限されていれば,肩関節の可動域制限が後遺障害として認定されます。
3 鎖骨骨折した場合の慰謝料の相場はいくら?
鎖骨骨折の後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料の相場は,以下のように後遺障害等級・支払基準ごとに異なります。
慰謝料の支払基準のうち,自賠責基準は1番低い金額で,自動車運転者全員に加入が義務付けられている自賠責保険の定める基準です。
弁護士基準は,1番高い金額で,弁護士が示談交渉をする際に用いる基準です。
過去の裁判例をもとに算出されているので,裁判所基準とも呼ばれます。
任意保険基準は,任意保険会社がそれぞれ定めている基準であるため非公開であり,自賠責基準と弁護士基準の中間の額となっています。
体幹骨の変形障害
後遺障害等級 | 後遺障害 | 弁護士基準 | 自賠責基準 |
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | 290万円 | 94万円 |
肩関節の可動域制限
後遺障害等級表 | 後遺障害 | 弁護士基準 | 自賠責基準 |
8級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 830万円 | 331万円 |
10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 | 190万円 |
12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 290万円 | 94万円 |
併合11級 | 420万円 | 136万円 |
4 鎖骨骨折の後遺障害が残ったら,逸失利益は請求できる?
鎖骨骨折の後遺障害が残った場合,労働能力喪失率に影響があれば,逸失利益を請求することができます。
以下の裁判例では,仕事や家事への影響が考慮された結果,逸失利益が認められています。
⑴千葉地裁平成23年4月12日 交民44巻2号522頁
被害者は,左鎖骨遠位端骨折,左肩鎖靭帯損傷,頸椎捻挫,腰背部打撲の傷害を負い,左肩関節機能障害10級10号の後遺障害等級の認定を受けた。
事故発生前の年収と症状固定後の年収を比較すると、約200万円、率にして約15パーセントの減少にとどまっており、この間の年収の推移をみると、被害者が定年までの間、年収が症状固定後より大幅に低下するとは考えにくい。
しかし、被害者は、症状固定後も残存する神経症状を軽減させるため、理学療法やブロック注射を受けたり、鍼灸、マッサージ等の施術を受けるなどしており、年収の低下が抑えられているのは、被害者の努力に依拠するところが少なくない。
これらを勘案すると、現在の勤務先を定年退職するまでは、事故直前の年収を基準とし、後遺障害による労働能力喪失率を20パーセントとして逸失利益を算出するのが相当である。
他方、給与所得者の場合、定年退職後も従前と同様の職種に就いて同程度の収入を維持することは、一般的には困難といえるから、定年退職後67歳までは、賃金センサス大卒男子60歳~64歳平均年収(平成20年)である637万9400円を基準とし、労働能力喪失率は10級の27パーセントとして逸失利益を算定するのが相当と考える。
⑵名古屋地裁平成21年11月25日 交民42巻6号1562頁
被害者は,右肋骨骨折,右鎖骨骨折,左橈骨遠位端骨折の傷害を負った。
そして,右肩関節の機能障害(12級6号),右鎖骨の変形障害(12級5号),右手関節神経障害(14級9号),手話能力低下(12級),併合11級の後遺障害等級の認定を受けた。
被害者は,家事労働につき左手関節部の疼痛があり,左手で重いものが持てない,フライパンを左手だけでは使えない,包丁が使いにくい,更衣時右鎖骨疼痛がある,更衣時左手は使えない,タオル絞りができない,ビン,缶のふたが開けられない,寒冷時に右鎖骨・肩甲部,左手関節の疼痛がある,右肩の違和感がある,左手で右手指の爪は切れない,受傷前はバドミントン,ウオーキング,スキー,水泳をやっていたが,現在はしていない,左手で食器把持は困難軽度,手話での会話に支障があるという状態である。
鎖骨変形は,鎖骨骨折によるものであり,更衣時あるいは寒冷時に鎖骨に疼痛が残り,家事労働への影響を否定することはできず,11級の20パーセントの労働能力喪失率を認めるのが相当である。
5 鎖骨骨折の交通事故に強い弁護士を見つけるメリット&ポイントとは?
⑴鎖骨骨折の交通事故に強い弁護士を見つけるメリット
鎖骨骨折の後遺障害に強い弁護士を見つけることには,以下のようなメリットがあります。
①病院への通院の仕方などのアドバイスを受けることができる
鎖骨骨折の後遺障害を認定してもらうには,少なくとも6ヶ月以上,定期的に通院しなければいけません。
また,後遺障害の申請を行うにあたっては,検査を受ける必要があることもあります。
鎖骨骨折の交通事故に強い弁護士であれば,後遺障害認定を受けるために必要な通院期間,頻度を把握しているので,通院にあたっての注意点を教えてもらうことができます。
②後遺障害等級認定の申請を代行してもらうことができる
被害者自身が後遺障害の申請手続きを行う方法を,被害者申請と呼びます。
被害者申請では,様々な必要書類を作成・収集する必要があります。
鎖骨骨折の交通事故に強い弁護士であれば,被害者申請の手続に慣れているので,安心して申請手続を代行してもらうことができます。
③後遺障害等級を認定してもらうことができる可能性が高くなる
鎖骨骨折の交通事故に強い弁護士は,認定ポイントを把握しているので,等級認定を受けやすい後遺障害診断書を医師に作成してもらうことができます。
そのため,後遺障害等級の認定を受けることのできる場合が多いでしょう。
④示談金が増える可能性がある
弁護士が示談交渉を行う場合,弁護士基準を用いて後遺障害慰謝料を算定することができます。
また,鎖骨骨折の交通事故に強い弁護士は,後遺障害が残った交通事故に関する交渉のプロなので,根拠を示して保険会社と示談交渉を行うことができます。
そのため,示談金を増額できる可能性が高まります。
⑤示談交渉を代行してもらうことができる
鎖骨骨折の交通事故に強い弁護士に依頼すれば,被害者に代わって示談交渉を行ってくれます。
そのため,被害者の精神的負担が軽減されます。
⑥異議申立を代行してもらうことができる
仮に,鎖骨骨折の後遺障害等級を認定してもらうことができなくても,異議申立を使えば,後遺障害等級の認定を受けることができるかもしれません。
2021年度,異議申立を行った結果,等級変更が認められた件数は約13%にすぎません。
鎖骨骨折の交通事故に強い弁護士は,鎖骨骨折の後遺障害等級認定ポイントを把握しているので,異議申立を代行し,等級変更の認められる可能性が上がります。
⑵鎖骨骨折の交通事故に強い弁護士を見つけるポイント
①後遺障害等級認定を受けた実績があるか
各弁護士事務所のホームページには,取り扱った案件が掲載されていることが多いです。
後遺障害等級認定を受けて,示談金を増額させた事例が多い事務所の弁護士に依頼しましょう。
特に,鎖骨骨折の後遺障害案件で後遺障害等級認定を受けた実績があることが理想です。
②弁護士と相性が合うか
弁護士に依頼する前に,実際に会ってみて,安心して対応を任せられる人物か確認しましょう。
評判が良い弁護士でも,ご自身との相性が悪いこともあります。
そのため,できれば対面で会い,話しましょう。
③弁護士費用が払えるか
依頼する前に,弁護士費用体系を確認して,自分の払える範囲かどうか確認しておきましょう。
なお,自動車保険などに弁護士費用特約を付していれば,弁護士費用の心配をする必要はありません。
④口コミがいいか
後遺障害案件(とりわけ鎖骨骨折の後遺障害)について,高評価の口コミが多い弁護士を探しましょう。
なお,交通事故で相談する弁護士の選び方,弁護士費用の相場,弁護士費用特約については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
6 まとめ
鎖骨骨折の後遺障害が残った場合,弁護士に依頼するか,どの弁護士に依頼するかで被害者の方の負担や示談金の額は大きく異なります。
後遺障害に見合った示談金を獲得し,ご自身の精神的・肉体的負担を軽減するには,弁護士に依頼することが最適です。
弊所の弁護士は,後遺障害案件の解決実績が豊富です。
鎖骨骨折の後遺障害が残った場合,弁護士に相談することをお勧めします。鎖骨骨折の後遺障害で悩まれている方は,ぜひ法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。