家族が交通事故に遭って植物状態になってしまったら,大きなショックを受けるでしょう。
そして,悲しみにくれる暇もなく,被害に遭われたご家族に代わって治療方針の決定などを行わなければいけません。
当コラムでは,ご家族が交通事故によって遷延性意識障害(植物状態)となってしまった場合についてご説明いたします。
目次
1 遷延性意識障害(植物状態)とは?
遷延性意識障害とは,いわゆる植物状態のことです。
疾病・外傷により種々の治療にもかかわらず,
①自力移動が不可能 ②自力摂食が不可能 ③糞便失禁状態にある ④意味のある発語が不可能 ⑤簡単な従命以上の意思疎通が不可能 ⑥追視あるいは認識が不可能 |
の6項目を満たす状態が3か月以上続くと,遷延性意識障害(植物状態)にあたります。
交通事故で頭を強く打ち,脳を損傷することが原因です。
脳死と違い,遷延性意識障害では脳幹は動いているので,回復する可能性もあります。
2 交通事故で遷延性意識障害(植物状態)になった方の家族が直面する問題
⑴介護倒れしてしまうかもしれない
遷延性意識障害となったご本人は,移動する,食べる,排泄をするなど生命維持に必要な動作を全く行うことができません。
また,痰が喉に詰まって窒息しないよう夜中でも吸痰しなければいけません。
床ずれしないよう,体の姿勢も定期的に変えなければいけません。
診療点数の問題からずっと入院することは難しいですし,ヘルパーを頼んでもヘルパーは医療行為ができないので結局ご家族の付添いが必要です。
そこで,ご家族は24時間介護することが多いです。
遷延性意識障害の患者の介護には体力が必要なのに,ご家族は慢性的に寝不足となり,介護倒れしてしまうことがあります。
⑵成年後見申立を行わなければならない(被害者が成人している場合)
ご本人は損害賠償請求することができない状態なので,ご家族がご本人に代わって損害賠償請求をするためには,成年後見の申立てが必要になります。
申立をする管轄の家庭裁判所に電話して面接予約を行い,申立書類を提出します。
家庭裁判所で書類審査,面接や鑑定,本人・候補者調査などを経て審判が行われます。
適任と判断された人が成年後見人に選任されると,審判内容が登記されます。
(東京家庭裁判所後見センター 東京家庭裁判所立川支部後見係)
3 交通事故で遷延性意識障害(植物状態)になったら請求できる損害賠償項目
⑴被害者自身が請求できる損害賠償項目
遷延性意識障害の後遺障害が残った被害者は,以下の損害賠償項目を加害者側に請求することができます。
もっとも,被害者は意識がない状態なので,成年後見人となった家族が被害者に代わって損害賠償請求することになります。
治療費 | 必要性・相当性が認められる実費の請求をすることができます。 |
付添費用 | 入院付添費,通院付添費や症状固定までの自宅付添費などが付添費用として認められる可能性があります。 |
将来介護費 | 医師の指示または症状の程度により必要があれば,請求することができます。 |
雑費 | 入院雑費,将来の雑費などを指します。 |
通院交通費 | タクシー利用が相当とされる場合を除き,公共交通機関の料金がこれにあたります。 |
装具・器具等購入費 | 後遺障害によって生じた不自由な身体機能を補うために必要であれば認められます。 |
家屋等改造費 | 受傷内容,後遺障害の程度・内容を踏まえて必要かつ相当な範囲内で認められます。 |
損害賠償請求関係費用 | 診断書料等の文書料,保険金請求手続費用など,必要かつ相当な範囲で認められます。 |
後見等関係費用 | 成年後見開始の審判手続費用,後見人報酬など,必要かつ相当な範囲で認められます。 |
休業損害 | 事故での受傷が原因で休業したことによる収入減を指します。 |
逸失利益 | 労働能力喪失率,収入の変化,将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性,日常生活上の不便等を考慮して算定されます。 |
慰謝料 | 精神的・肉体的苦痛に対する補償のことで,入通院慰謝料,後遺障害慰謝料が含まれます。入通院慰謝料は入通院日数によって,後遺障害慰謝料は後遺障害等級によって変わります。 |
物損 | 修理が相当な場合,適正修理費相当額が損害として認められます。 |
⑵家族が請求できる損害賠償項目:近親者の慰謝料請求権
被害者が死亡した場合,近親者は慰謝料請求権を有します(民法711条)。
被害者が死亡しておらずとも,死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合には,近親者にも慰謝料請求権が認められます(最判昭和33.8.5 民集12・12・1901 判時157・12)
重度の後遺障害が残れば,死亡に比肩するような精神的苦痛を受けたとして,近親者にも慰謝料請求権が認められます。
遷延性意識障害は要介護1級1号にあたる重度の後遺障害なので,近親者に慰謝料請求権が認められた裁判例があります。
・大阪地判平成19.1.31 交民40・1・143
遷延性意識障害の高校生につき,傷害分700万円のほか,本人分2800万円,父母各400万円,後遺障害分合計3600万円を認めた。
・神戸地伊丹支判平成30.11.27 自保ジ2039・1
遷延性意識障害の中学生につき,傷害分435万円のほか,本人分3000万円,父母各400万円,姉と兄に各200万円の後遺障害分合計4200万円を認めた。
4 交通事故で遷延性意識障害(植物状態)になった方の家族が弁護士に依頼するメリット
⑴心身の負担を減らすことができる
遷延性意識障害のご家族が示談金を受け取るまでは,通常,以下のように2年ほどかかります。
症状固定 1年以上 ↓ 後遺障害等級認定を受ける 2ヶ月間 ↓ 示談交渉 半年から1年 |
症状固定だと判断されると,遷延性意識障害の患者が入院を続けることは難しく,自宅療養を行うのが一般的です。
示談金を受け取るまでの間,ご家族は自宅で24時間被害者の介護をしなければいけません。
疲労困憊の中,成年後見申立,後遺障害申請や示談交渉を行えば,忙しさを理由にご家族が倒れるかもしれませんし,慣れない手続であるため満足いく結果にならない可能性が高いです。
弁護士に依頼すれば,手続きを代わってもらえるので,介護に専念することができます。
⑵納得いく金額で示談することができる
加害者が任意保険に加入している場合,示談交渉の相手方は加害者の加入している任意保険会社です。
遷延性意識障害の後遺障害が残れば,一般的に示談金は高額になります。
加害者側の任意保険会社は高額の保険金を支払いたくないので,何かと理由をつけて示談金を低くしようとしてきます。
示談交渉に不慣れな一般の方が,示談金額を上げるよう保険会社と交渉することは難しいです。
弁護士に依頼すれば,ご家族に代わって示談交渉を行ってもらえます。
弁護士は示談交渉の経験が豊富ですし,弁護士が示談交渉を行えば弁護士基準で後遺障害慰謝料を算定することができます。
なお,交通事故で弁護士に依頼するメリットについては,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
5 遷延性意識障害(植物状態)の後遺障害等級と申請にあたっての注意点
⑴遷延性意識障害の後遺障害等級
遷延性意識障害の後遺障害等級は,要介護1級1号が考えられます。
後遺障害等級 | 後遺障害 |
要介護1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
⑵遷延性意識障害の後遺障害申請にあたっての注意点
①成年後見申立の手続を行う
被害者が未成年の場合,両親は被害者の法定代理人なので被害者に代わって損害賠償請求や,弁護士へ事件処理の依頼を行うことができます。
これに対して被害者が成人の場合,両親が被害者に代わって損害賠償請求などを行うには,成年後見申立の手続を経て被害者の成年後見人となる必要があります。
この手続きを行わなければ,損害賠償請求などをそもそも行うことができないので,まず成年後見申立の手続を行いましょう。
②必要な検査を受ける
遷延性意識障害は,脳の重大な損傷が原因で起こるので,MRIやCTを受けて脳に損傷があると証明しましょう。
その検査画像を後遺障害申請の際に添付すれば,後遺障害等級が認められる可能性が上がります。
6 困ったらすぐに弁護士にご相談を
ご家族に遷延性意識障害の後遺障害が残れば,退院後は24時間介護が必要となり,ご家族の生活も一変してしまいます。
十分な示談金を獲得できれば,少なくとも金銭面での負担は軽減できる可能性が高いです。
心身両面でしんどい状況で,ご家族だけで示談金獲得に向けて動くことには無理があります。
弁護士に相談すれば,複雑な手続きを代わりに行ってもらえるので,ご家族のストレスを減らすことができるでしょう。ご家族に遷延性意識障害の後遺障害が残って悩まれている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ一度ご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。