交通事故の損害賠償については、通常、被害者と加害者(もしくは加害者が加入している保険会社)が示談に向けて話し合いをしていきますが、交渉が決裂することがあります。その時には裁判所など第三者機関を用いて解決を目指します。ここでは裁判所機関とは別の第三者機関である、【交通事故紛争処理センター】についてご説明と、物損事故の時に利用する場合についてご案内をさせていただきます。
目次
1 交通事故紛争処理センターとは?
⑴特徴
交通事故紛争処理センターは、自動車事故の損害賠償問題の紛争を解決するための、【ADR】の1つです。ADRとは、裁判外で当事者の紛争を解決する目的をもつ紛争処理機関です。交通事故紛争処理センターは、公正であり、かつ中立な立場から「無料」で解決のお手伝いをする公益財団法人となります。
⑵施設の概要
交通事故紛争処理センターには、嘱託された弁護士が常時配置されており、被害者と加害者の保険会社双方の話を聞き、和解あっせんを行います。あっせん案に合意することができない場合は、審査会がセンターには設置されておりますので、審査を請求し、審査会が決定する損害賠償の解決方法=裁定を待ちます。
⑶全国の窓口
交通事故紛争処理センターは全国に11か所の窓口を設けています(これは全国の高等裁判所が設置されている場所と同じです)。東京本部の他、札幌支部、仙台支部、名古屋支部、大阪支部、広島支部、高松支部、さらにさいたま相談室、金沢相談室、静岡相談室です。どの相談窓口でも無料です。
⑷探し方
被害者と加害者の保険会社があらかじめ合意をしている場合を除いて、被害者の住所地もしくは事故現場住所地のセンターに利用申し込みをします。下記が各センターと該当地域です。例えば被害者の居住地、事故場所が岡山県の場合、担当窓口は広島支部になります。
札幌支部:北海道 仙台支部:宮城県青森県岩手県秋田県山形県福島県 東京本部:東京都神奈川県千葉県山梨県茨城県 さいたま相談室:埼玉県群馬県栃木県長野県新潟県 名古屋支部:愛知県岐阜県三重県 静岡相談室:静岡県 金沢相談室:石川県富山県福井県 大阪支部:大阪府兵庫県京都府滋賀県奈良県和歌山県 広島支部:広島県岡山県山口県鳥取県島根県 高松支部:香川県愛媛県徳島県高知県 福岡支部:福岡県佐賀県長崎県熊本県大分県宮崎県鹿児島県沖縄県 |
2 業務内容は?
⑴物損事故での相談割合
交通事故の損害賠償となると、怪我のイメージを強くお持ちの方がいらっしゃいますが、怪我はなく、車=物だけが壊れる場合の事故もあります。これを物損事故と一般的にいいます。この物損事故の場合でも交通事故紛争処理センターは使用できます。ただし、自転車対歩行者の交通事故、自転車同士の事故では利用はできません。あくまで自動車の事故での使用となります。
⑵利用のための費用
交通事故紛争処理センターの最大の特徴が利用料は無料ということです。相談を受ける時も、和解あっせんを受ける時も、また審査を受ける時も無料です。かかる費用とすると、加害者側に通知書面を出すときの通信費の他、センターまでの交通費や手続きに必要な各種証明書を発行する時の費用といった最低限のもので、センター自体の利用料はかかりません。
3 物損事故のケースはどうなるのでしょうか?
⑴平均的な和解率
交通事故紛争処理センターの平均的な和解率は全体の約80%以上となっており、多くの案件が和解あっせんにて和解が成立しています。交通事故紛争処理センターにて取り扱う物損事故の案件で、一番多い争点は過失割合です。平成29年度の統計データによると物損事故の取り扱い件数は1,712件で、そのうち1,150件が過失割合について、賠償請求については556件、その他が6件という内訳になっており、約7割が過失割合に関するものです。
⑵和解までの流れ
和解までの流れですが、担当弁護士が、被害者と加害者の保険会社双方から話を聞き、公正・中立な立場で情報を整理し、和解のためのあっせん案をまとめて、双方に提示をします。和解あっせんの手続きには1回あたり1時間ほどかかります。人身事故の場合は資料等がしっかりとそろえば、おおよそ3~5回程度、物損事故の場合は1~2回程度で和解が成立することが多いです。物損事故の方が争点は少なく、案件が単純であるため、人身事故に比べると回数は少なくなることが多いです。和解あっせんによって双方が合意したら、担当弁護士が立会いの下で、示談書が作成され、双方の署名捺印がそろえば示談成立です。
ただし、双方折り合いがつかず、審査までに持ち込まれることもあります。その場合は、物損事案においては注意点があります。
本来であれば、和解あっせんにて合意ができず、申立人(被害者)の希望により審査会にて審査となった場合、審査会による裁定(判断)がなされます。この裁定ですが、被害者は裁定の告知が下りてから14日以内に同意、不同意をセンターに回答することとなります。つまり申立人である被害者が裁定に納得できなければ、それを受け入れず、裁判へと移行することも可能です。しかし一方で保険会社は、裁定に納得ができない場合だったとしても、裁定を尊重しなければいけないこととなっています。
ただし、物損事故の事案で、車両の相互の衝突等により、被害者、加害者に共に物損が発生しており、かつ双方に過失があると認められているケースの場合は、審査・裁定を審査会が行う条件として、【予め裁定に必ず同意すること】を条件として求められることがあります。つまり例外的に申立人である被害者も裁定に拘束をされます。
4 利用に関する事例について知りたい!
実際にどんな方が利用されているのでしょうか。
物損の事故の場合、大きな争点になるのは1つが過失割合、もう1つが評価損です。評価損とは事故歴や修理歴があると、事故車扱いとなり、将来の下取りや売却の際に価格価値が下がってしまうことをいいます。この過失割合と評価損は被害者本人と加害者の保険会社が直接交渉するには、被害者側にも豊富な知識と経験が必要となります。特に、評価損に関しては弁護士でさえ、交通事故に慣れていない弁護士では難しいときがあります。
このような被害者本人ではなかなか戦えない、過失割合や評価損、他にも代車代等といった争いを解決するために、センターを利用する方も少なくないです。ただし、注意しなければならないのは、センターの弁護士はあくまでも中立であるため、証明するための資料等は自身で集めなければなりません。とはいえ、ご自身で保険会社と示談交渉をするには限界がありますので、一度センターに相談に行くことが重要です。
交通事故紛争処理センターは多くの利用者が人損事故の場合に利用をしており、物損事故での争いに利用されている方は、人損事故に比べて少ないです。しかし、実際は取り扱いをされていますので、ご自身の物損事故の争いについて、センターで取り扱いしてもらえるのかどうかについては、ぜひ窓口にお問い合わせしてみてください。
5 まとめ
交通事故紛争処理センターについてご紹介させていただきましたが、被害者本人が申し立てをして実際に利用するには、いくつかのハードルがあります。資料はすべて自分で収集し、申請まで行うこととなります。また、先ほども述べましたように、センターはあくまでも公正・中立ですので、決して被害者の味方ではありません。被害者本人でなかなか申し立てをするのは…とお悩みの方は、一度弁護士に相談をしてみることをおすすめします。
被害者が弁護士に依頼をしたとしても、センターは使用できます。弁護士は被害者の代理人として、和解あっせんの場に出席をしてくれますので、安心して任せることができます。特に物損事故の過失割合についての和解あっせんとなると、知識がなければ、相手は交通事故のプロである保険会社なため、被害者自身で和解あっせんの内容について、【本当に自分にとっていい解決案なのかどうか】を判断するには、かなり負担が強いられます。しかし弁護士が入れば、そういった物損事故の過失割合についても妥当か否かを判断し話を進めてくれます。また、万が一訴訟に移行したとしても事情を把握したうえで力になってくれます。当事務所では、数多くの交通事故問題を取り扱っております。
物損事故の示談が難航している方、交通事故紛争処理センターの利用をお考えの方は、是非一度、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。