交通事故で手首を骨折したあと,手で握る際に力が入らなくなってしまった。
このような場合,握力低下の後遺障害が残った可能性があります。
当コラムでは,握力低下の後遺障害についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で握力が低下する原因と症状とは?
交通事故で手首を骨折したり,靭帯を損傷すれば握力低下の後遺障害が残ることがあります。
また,むちうちを発症した場合なども,握力低下の後遺障害が残ることがあります。
⑴橈骨遠位端骨折
前腕にある橈骨という骨が手首の部分で折れる骨折です。
自転車やバイクで走行中に交通事故に遭い,倒れて手をついた際に発症します。
橈骨遠位端骨折を発症すると,手首の強い痛み,腫れ,手首の変形などの症状がみられます。
橈骨遠位端骨折が原因で,橈骨の背側の傾きが20°以上,橈骨が5mm以上の短縮変形をきたすと握力の低下などの後遺障害が残ることがあります。
⑵TFCC損傷
TFCCとは,手首の小指側にある靭帯と軟骨の複合体です。
交通事故で転倒した際に,手をついてTFCC損傷を発症することが多いです。
TFCC損傷を発症すれば,手首を小指側に曲げたとき,小指側に痛みが現れます。
完治しなければ,握力が低下するなどの後遺障害が残ることがあります。
⑶むちうち
むちうちとは,交通事故の衝撃で首に大きな力が加わり,頚椎を損傷することです。
むちうちを発症すると,頚椎の位置がずれてしまい,頚椎の横から出ている末梢神経に影響し,握力が低下することがあります。
それ以外には,頚椎間板ヘルニアや胸郭出口症候群などを発症しても,握力低下の後遺障害が残ることがあります。
2 交通事故による握力低下はどの程度で後遺障害等級に該当するか?
上記の原因から生じる,握力低下の後遺障害は神経症状によるものです。
そのため,交通事故による握力低下は12級13号または14級9号に該当する可能性があります。
神経症状
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | ・他覚的検査により神経系統の障害が証明されるもの。この場合の他覚的所見とは,レントゲン撮影・MRIの画像所見,針筋電図検査で立証された神経原性麻痺のこと。自覚症状に一致する外傷性の画像所見と神経学的所見の両方が一致しなければならない。 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | ・目立った他覚的所見が認められないが,神経系統の障害が医学的に推定されるもの・外傷性の画像所見は得られないが,自覚症状に一致する神経学的所見が得られているもの |
3 交通事故で握力が低下した場合の慰謝料相場と請求方法とは?
⑴慰謝料相場
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準(裁判所基準) |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 32万円 | 110万円 |
⑵慰謝料の請求方法
①病院を受診する
事故直後に体の異常を感じなくとも,後から症状が出てくることがあります。
交通事故から数日経過後に病院を受診した場合,事故とは無関係だと判断される恐れがあります。
そのため,事故当日,遅くとも翌日には病院に行きましょう。
②弁護士に相談する
遅くとも示談交渉開始までには弁護士に依頼しましょう。
ただし,通院の仕方の助言を受けたり,後遺障害申請を代行してもらった方が,弁護士に依頼するメリットを享受できます。
なるべく早い段階がよいので,交通事故が発生してすぐに弁護士に依頼することをお勧めします。
③病院への通院を続ける
後遺障害が残らないことが理想なので,継続的な治療を行いましょう。
仮に後遺障害が残ったとしても,月10日以上の通院を6ヶ月は続けなければいけません。
月10日以上の通院を続けましょう。
④後遺障害申請する
握力低下の後遺障害に対する補償を受けるには,後遺障害等級認定を受けなければいけません。
被害者申請または事前認定(加害者申請)の手続を利用して,後遺障害申請しましょう。
⑤示談交渉を行う
加害者の加入している保険会社から示談案が送られてきます。
保険会社の主張する示談金額は,「任意保険基準」と言われる低い基準をもとにしています。
一方で,弁護士が示談交渉を行うのであれば,「弁護士基準」と言われる高い基準をもとに示談金を算定することができます。
保険会社の提示する示談案の内容を受け入れる必要はなく,対抗案を提示することが可能です。
書面や電話などのやり取りを何度か行い,示談金額について合意します。
⑥示談成立
示談金額について合意すれば,示談書の内容を確認して署名・捺印しましょう。
一般的には,示談成立から1~2週間で示談金が振り込まれます。
なお,交通事故で慰謝料の交渉については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
4 握力低下の後遺障害等級認定に必要な証拠や書類とは?
握力低下の後遺障害が認定されるには,神経系統の障害を他覚的検査により証明するか,医学的に推定されるものでなければいけません。
そこで,以下の検査が有効的です。
⑴画像検査
X線,CT,MRIなどを行って,握力低下の原因が現れていれば,交通事故が原因で握力低下の後遺障害が残った証拠になります。
⑵神経学的検査
神経学的検査を行えば,握力低下の原因となる障害の有無や程度などが分かります。
5 弁護士に依頼するメリットと相談する際のポイントとは?
⑴弁護士に依頼するメリット
①面倒で難しい手続きを任せることができる
弁護士に依頼しなければ,ご自身で,早期の治療打ち切りがなされないよう注意しながら保険会社と連絡をとり,市役所などを訪れて後遺障害申請の必要書類を集め,示談交渉を行うことになります。
手続が多いので非常に時間がかかるため,仕事などの日常生活と並行して行うことになれば,手続き疲れで治療に集中することはできないでしょう。
弁護士に依頼すれば,弁護士に被害者の方の代理人として手続を代行してもらうことができます。
そのため,煩雑な手続きのストレスを感じることなく,仕事や治療に専念することができます。
②弁護士基準で慰謝料を算定することができる
弁護士が示談交渉を行うのであれば,「弁護士基準」と言われる慰謝料算定基準を使用することができます。
弁護士基準は自賠責基準の2倍以上の額なので,弁護士基準で慰謝料を算定できれば被害者の方にとってはかなり有利です。
③交渉のプロに示談交渉を行ってもらうことができる
弁護士は一般の方よりも交渉に慣れています。
また,保険会社も弁護士は専門家だと分かっていること,訴訟に発展することを恐れていることから,被害者本人が示談交渉を行う場合よりもきちんと対応してくれることが多いです。
⑵弁護士に相談する際のポイント
①事故状況をまとめる
弁護士への相談は時間が決まっている,もしくは一定時間が経過するごとにお金がかかることが一般的です。
アドバイスを受ける時間も必要なので,交通事故の説明は手短に行いましょう。
そのためには,相談へ行く前に,説明する事故状況をまとめておきましょう。
②資料を用意する
口だけの説明では,事故状況や相手方の対応は理解しにくいです。
写真や相手方とのやり取りの記録などの資料を用意できるのであれば,相談の際に持参しましょう。
③自分に不利な事情も伝える
示談交渉では,過失割合が問題になることもあります。
ご自身に有利な過失割合にするためには,不利な事情も知っていなければ,弁護士もきちんと反論することができません。
自分に不利な事情も含め,あらゆる事情を相談時には伝えましょう。
④自分が信頼できそうな弁護士か確認する
評判が良い弁護士でも,依頼者の方との相性があります。
弁護士の説明内容や,態度をみて,事故対応を安心して任せることができるか見極めましょう。
⑤今後の見通しを説明してくれるか確認する
交通事故案件に長けた弁護士であれば,示談金を獲得できるかどうか,今後何をすればよいかの見通しを立てることができます。
逆に,今後の見通しについて尋ねても不明瞭な答えしか返ってこなければ,交通事故案件の対応に慣れていない可能性があります。
相談の際には,今後の見通しについて質問してみましょう。
なお,交通事故で弁護士に相談できる内容,相談・依頼するリスク,弁護士の選び方については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故で弁護士に相談できる内容はどういった内容か知りたい。
6 まとめ
握力低下の後遺障害は,ご自身では変化を感じていても,立証することが難しいです。
そこで,後遺障害等級認定を受け,さらに慰謝料を獲得するには工夫が必要です。
握力低下の後遺障害が残った場合は,後遺障害や示談交渉に詳しい弁護士に依頼することをお勧めします。握力低下の後遺障害で悩まれている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。