交通事故 交通事故基礎知識 慰謝料
2024.01.25 2024.07.02

交通事故の「仮渡金」制度とは?使うメリット・デメリット

交通事故の「仮渡金」制度とは?使うメリット・デメリット

交通事故の怪我を治療するには多額の治療費がかかるうえに,仕事は休まざるを得ず収入が減ることがあります。 

そのような状況でも,示談金を受け取るまで半年はかかるので,事故後の生活は苦しいです。

そんなとき,一定のまとまったお金を受け取ることができるのが,「仮渡金」です。

当コラムでは,仮渡金について,ご説明いたします。

1 交通事故の慰謝料の基礎知識

⑴交通事故の慰謝料とは?

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)

第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

慰謝料とは,精神的苦痛に対して認められる賠償です。

民法710条に基づき慰謝料請求をすることが可能です。

交通事故で請求できる慰謝料には,傷害慰謝料(入通院慰謝料),後遺障害慰謝料,死亡慰謝料があります。

⑵交通事故の慰謝料の相場は?

自賠責保険が保険金を支払う際の算出基準である自賠責基準と,過去の裁判例の蓄積によって形成された裁判所基準,各保険会社が定めている任意保険基準があります。

任意保険基準は,保険会社の内部基準であるため公表されていません。

 自賠責基準裁判所基準
傷害慰謝料(入通院慰謝料)1日あたり4300円入通院期間によって計算される
後遺障害慰謝料1級は1150万円,14級は32万円1級は2800万円,14級は110万円
死亡慰謝料被害者本人の慰謝料:400万円遺族の慰謝料:1名で550万円,2名で650万円,3名以上で750万円被害者に被扶養者がいれば,さらに200万円が加算一家の支柱:2800万円母親,配偶者:2500万円その他:2000万円~2500万円

⑶交通事故の慰謝料をもらうには

①被害者請求

被害者が,加害者側の自賠責保険会社に対して直接損害賠償請求します。

被害者請求は,示談成立前でも行うことが可能です。

自賠責保険会社から支払われた保険金を超える部分は,示談交渉を行って任意保険会社に請求します。

②示談交渉

自賠責保険から支払われる保険金も含めて,加害者側の任意保険会社と示談交渉を行って請求します。

任意保険会社が支払った自賠責保険金は,任意保険会社と自賠責保険会社の間で清算されます。

2 交通事故の仮渡金の基礎知識

⑴交通事故の仮渡金とは?

自動車損害賠償保障法

(被害者に対する仮渡金)

第十七条 保有者が、責任保険の契約に係る自動車の運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、政令で定める金額を第十六条第一項の規定による損害賠償額の支払のための仮渡金として支払うべきことを請求することができる。

 保険会社は、前項の請求があつたときは、遅滞なく、請求に係る金額を支払わなければならない。

自動車損害賠償保障法施行令

(保険会社の仮渡金の金額)

第五条 法第十七条第一項の仮渡金の金額は、死亡した者又は傷害を受けた者一人につき、次のとおりとする。

 死亡した者 二百九十万円

 次の傷害を受けた者 四十万円

脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの

 上腕又は前腕の骨折で合併症を有するもの

 大腿又は下腿の骨折

 内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの

 十四日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が三十日以上のもの

 次の傷害(前号イからホまでに掲げる傷害を除く。)を受けた者 二十万円

 脊柱の骨折

 上腕又は前腕の骨折

 内臓の破裂

 病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が三十日以上のもの

 十四日以上病院に入院することを要する傷害

 十一日以上医師の治療を要する傷害(第二号イからホまで及び前号イからホまでに掲げる傷害を除く。)を受けた者 五万円

被害者は,交通事故後すぐに治療費などが必要です。

それにもかかわらず,急な出費に対応できない場合,仮渡金の支払いを自賠責保険会社に請求することができます(自賠法17条,自賠令5条)。

仮渡金請求は,加害者の責任の有無を確定する前に,一定の仮渡金を迅速に支払うことで,被害者の事故直後の支出を補償する制度です。

⑵交通事故の仮渡金の相場は?

受け取ることのできる仮渡金の額は,類型ごとに定まっています。

死亡 290万円
傷害脊柱骨折で脊髄損傷の症状がある40万円
 上腕骨折又は前腕骨折で,合併症がある
 大腿骨折又は下腿骨折
 内臓破裂で腹膜炎を併発した
 14日以上の入院が必要な傷害で,30日以上の治療期間が必要
 脊柱骨折20万円
 上腕骨折又は前腕骨折
 内臓破裂
 入院が必要な傷害で,30日以上の治療期間が必要
 14日以上の入院が必要な傷害
 上記以外で11日以上の治療が必要 5万円

⑶交通事故の仮渡金をもらうには

自賠責保険会社等に用意してある仮渡金請求用紙に所定の事項を記載し,緊急を要するときは最低限の必要書類を添付すれば仮渡金を請求することができます。

仮渡金の請求に必要な書類

 死亡傷害
自賠責保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書
交通事故証明書(人身事故)
事故発生状況報告書
医師の診断書または死体検案書(死亡診断書)
損害賠償額の受領者が請求者本人であることの証明(印鑑証明書)被害者が未成年で,その親権者が請求する場合は,上記のほか,当該未成年者の住民票または戸籍抄本が必要
委任状および(委任者の)印鑑証明死亡事故等で請求権者が複数いる場合は,原則として1名を代理者として,他の請求権者全員の委任状および印鑑証明が必要
戸籍謄本 

◎:必ず提出する書類

〇:事故の内容によって提出する書類

3 交通事故の内払い金の基礎知識

⑴交通事故の内払い金とは?

示談が成立するまで,被害者は治療費の支払い,収入の減少などで金銭的に苦しくなります。

その場合に,加害者側の任意保険会社から,損害賠償金の一部を示談成立前に支払ってもらうお金が内払い金です。

以前は,加害者側の自賠責保険に内払い制度がありました。

しかし,加害者側の自賠責保険が行う内払い制度は廃止されており,内払い制度は任意保険会社が被害者の利益のために設けたものにすぎず,支払を義務付けることはできません。

⑵交通事故の内払い金の相場は?

治療費等が内払い金の対象です。

交通事故の内払い金は,以前の制度では自賠責保険から支払われていたものです。

その制度にならって,支払限度額は120万円とされることが多いです。

⑶交通事故の内払い金をもらうには

加害者側の任意保険会社に内払いが可能か聞き,可能であれば請求費目に関する書類を提出します。

4 交通事故で仮渡金制度を使うメリット・デメリット

⑴交通事故で仮渡金制度を使うメリット

①条件を満たしていると確実に支払われる

内払い金は任意保険会社のサービスにすぎず,必ず支払を受けられるわけではありません。

これに対して,仮渡金は法律で定められており,法律上の条件を満たしていると確実に支払われ,安心です。

②すぐに支払われる

申請後,不備がなければ1週間ほどで支払われるので,すぐに治療費等に充てることができます。

内払い金が支払われるのは,請求から1週間~1カ月ほど経過した時点であることと比べて,かなり早く支払われます。

⑵交通事故で仮渡金制度を使うデメリット

①あとから返金が必要なことがある

仮渡金は,加害者の責任をきちんと調査せずに支払われます。

そのため,被害者の損害が仮渡金を下回る場合には,自賠責保険会社から返還請求がなされます。

②1回しか利用できない

内払い金は,保険会社次第では複数回の請求に応えてもらうことができます。

これに対して,仮渡金制度は1度しか利用できず,支払われる金額も決められています。

5 交通事故で仮渡金を受け取った後の注意点

仮渡金は,自賠責保険金等の支払いにおいて損害賠償額の一部先渡しとして扱われます。

そのため,示談金を受け取る際に,仮渡金として支払われた分は控除されます。

また,損害賠償金が確定するのは,示談成立時です。

仮渡金が損害賠償金を上回っている場合は,損害賠償金との差額を返還する必要があります。

仮渡金は,あくまでも損害賠償金の先払いであることを肝に銘じておきましょう。

6 まとめ

交通事故に遭い,当座の資金に困ったら仮渡金を受け取ることができないか検討しましょう。

仮渡金は,条件さえ満たせば確実に受け取ることができるので,被害者が治療費などで不安を感じずに済みます。

交通事故に遭い,当面の治療費に困っている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにぜひご相談ください。

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