日常でよく耳にする【飲酒運転】。罰則が強化されても年々減少傾向にありますが、今なお、劇的に減ることはありません。痛ましい事故が増える中で、飲んだら運転をしない、運転をするならば飲まない、そんな言葉もあり、世間の飲酒運転に対する意識が変わりつつあります。
しかし、世間の飲み会が多い時期になると、ちょっとくらいいいのでは?と飲酒運転も増えます。そのちょっとの気のゆるみが、誰かの命を奪うことになるかもしれません。ここでは飲酒運転についてご説明します。
目次
1 飲酒運転が原因の交通事故
⑴近年の飲酒運転の交通事故状況
冒頭でお伝えしたように、飲酒運転は減っているとはいえ、全くの0件というものには至っていません。警視庁の調べによると、平成30年の全国の総事故件数は43万601件になり、そのうち3,355件が飲酒運転となります。10年前の平成20年が約2倍の6,219件であることを踏まえると、減ってはいますが、とはいえまだ一定の割合を占めています。
飲酒運転が減っている理由には、若者の車離れが要因の1つとも言われますが、大きな要因として考えられるのは【飲酒運転に対する厳罰化】です。この厳罰化は、平成21年の福岡県での事故が大きなきっかけとなっています。これは飲酒運転をしていた当時22歳の乗用車が、家族5人を乗せた車に追突し、海に転落、3人の子供が亡くなりました。
この事故を起こした加害者は、危険運転致死傷罪の適用が争点となりましたが、結果、最高裁にて、危険運転致死傷罪と道路交通法違反を併合した懲役20年の実刑判決がなされました。
⑵人身事故と物損事故
飲酒運転による人身事故の中で一番問題視されるところは【死亡事故率の高さ】です。飲酒運転の死亡事故は、年間200~250件程度発生しています。飲酒運転事故の全体の件数と比べると5%の死亡事故率とされています。これは他の事故よりも非常に高い数値であることから飲酒運転では死亡事故になりやすいと考えられます。また、損害賠償額も死亡事故となると非常に巨額となります。これについては後程ご説明をいたします。
物損事故については、加害者はこの後説明をする行政処分の他、注意しなければならないのは、保険についてです。自動車損害賠償責任保険、通称自賠責保険は【人身のみ】の補償となります。もし、不幸中の幸いで、相手が怪我をしておらず、車両の破損だけで済んだとしても、加害者が対物保険に入っていなければ、自腹で相手の修理費(ないしは買い替え費用)を支払うこととなります。物損だけだからといって低い金額だと思ってはいけません。
2 飲酒事故の行政処分はどういったものか?
飲酒運転には2種類あり、刑罰もそれぞれで異なります。1つは酒気帯び運転、もう1つは酒酔い運転です。2つについて詳しく説明をしましょう。
⑴酒気帯び運転
酒気帯び運転は【呼気中にアルコールが検出される状態での運転】を指します。具体的には、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15㎎以上検出された状態をいいます。
罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。行政処分は①呼気1リットル中のアルコール濃度0.15㎎以上、0.25㎎未満は13点の加点で免許停止90日、②呼気1リットル中のアルコール濃度0.25㎎以上は25点の加点で2年の免許取り消しとなります。
⑵酒酔い運転
酒気帯び運転に対して、酒酔い運転は、検査などしなくても明らかにお酒によっている状態での運転行為をいいます。具体的にはまっすぐ歩けない、返答がおかしいなどが客観的に見て判断できる状態です。この場合、アルコール濃度の数値は関係ありません。たとえ呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15㎎未満であったとしても、お酒が弱い方で車両の運転に支障をきたしている場合は、酒酔い運転で罰則を受ける可能性が高いです。
罰則は5年以下の懲役または100万円以下の罰金です。行政処分は35点の加点で3年の免許取り消しとなります。
上記で述べた行政処分は、あくまで初めて飲酒運転で取り締まられた場合です。前歴1回目、2回目と重ねると行政処分は当然厳しくなります。なお、この点数がどれだけ大きな違反点数であるかわかりやすくいうと、信号無視の違反加点が2点であることが挙げられます。これにより、飲酒運転がどれだけ悪質とされているかわかります。
3 飲酒運転の死亡事故について
飲酒運転で、被害者が死亡した場合、この時の損害賠償関係はどうなるでしょうか?
⑴自賠責基準
相手が飲酒運転だとしても、被害者側には基本的には影響はなく、相手方が加入している自賠責保険から請求は可能です。また、相手方が任意保険に加入している場合は、自賠責保険で算出される自賠責基準で不足となる分を請求し受け取ることが可能です。
なお、損害の算出基準には3つあり、低い順番から自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準となります。自賠責基準は被害者救済のための最低限の補償基準です。裁判所基準(弁護士基準ともいいます)は、弁護士が入れば交渉に使用ができる、最も適正な金額とされています。
任意保険基準は、各保険会社が独自に決めた計算基準で算出されるものですので、以下は自賠責基準と裁判所基準を中心に話をしてまいります。
⑵被害者の年齢、家庭状況
死亡した被害者の年齢や家庭状況は、被害者の損害を計算するうえでかなり重要になります。一家の支柱、子供、高齢者、それ以外を含み自賠責基準は、350万円です。しかし、裁判所基準の場合は以下の内容となります。
一家の支柱 | 2,800万円~3,600万円程度 |
子供 | 1,800万円~2,600万円程度 |
高齢者 | 1,800万円~2,400万円程度 |
上記以外 | 2,000万円~3,200万円 |
また、死亡逸失利益というものがあります。これは、被害者が死亡したことにより、本来得るはずだった収入を計算します。計算式は、
1年あたりの基礎収入×(1-生活費控除率)×ライプニッツ係数(被害者の労働喪失年数に応じた数値) |
となります。生活控除率とは生きていればかかる生活費のことです。これも被害者の年齢や家庭状況で左右されます。下記のパーセンテージとなります。
男性(未成年者含む) | 50% |
女性(主婦や未成年者含む) | 30% |
一家の支柱 | 30%〜40% |
⑶遺族が請求できる慰謝料の範囲
飲酒運転で、配偶者や子供、親を亡くしてしまった場合、被害者本人だけでなく、遺族も精神的な苦痛に対する慰謝料や損害賠償を請求することができます。請求権者(被害者の父母、配偶者、子)の人数により金額が異なります。下記は自賠責基準となります。
請求権者が1人の場合 | 550万円 |
請求権者が2人の場合 | 650万円 |
請求権者が3人の場合 | 750万円 |
さらに、被害者に被扶養者がいる時はこの金額に200万円が加算されます。
⑷示談の注意点
飲酒運転については、被害者側は必ず弁護士を入れましょう。死亡事故の場合、知らなければ不当に金額を下げられてしまうことが多いです。
上記で紹介したのはあくまで通常の死亡事故です。飲酒運転による過失が認められれば、慰謝料の増額される可能性が高くなります。安易に任意保険会社と示談することはおすすめできません。飲酒運転は正常な判断ができていないことが多いため、飲酒だけでなくスピード違反や、事故現場からの逃走などが重なることもあります。
被害者の方のためにも遺族の方は、必ず弁護士に相談をしましょう。
⑸自動車保険の補償、特約の確認
弁護士に依頼をするとなると心配になるのは、弁護士費用かと思います。もし、被害者本人やご家族の方が弁護士費用特約を自動車保険につけていらっしゃるのであれば、使用できるかどうか確認しましょう。
弁護士費用特約は1事故1人につき、法律相談料10万円まで、弁護士依頼関係費用300万円までは保険会社が支払いを行ってくれます。死亡事故となると、300万円を超えるケースも想定できます。その場合、基本的には賠償金額の一部を当てて支払う形となります。それでも被害者遺族自身で示談された自賠責基準の場合よりも、獲得できる損害賠償金は多いので、被害者側が損をする可能性は非常に低いです。
また、示談ではなく裁判で争う場合においては、損害賠償請求額の10%を弁護士費用として請求できる場合もあります。
以上の点から飲酒運転でご家族を亡くされた方は、弁護士を入れて解決をしていくことが良いでしょう。
4 まとめ
飲酒運転は、運転者や周りの「ちょっとくらい大丈夫だろう」という意識で起きます。逆を言えば、「ちょっとでも駄目だ!」と全員が自覚すれば、起きないものです。本人が酔っている自覚のない酒気帯び運転であっても危険行為であることは変わりありません。
罰則が厳しいから飲酒運転をしない、ではなく「飲酒運転をすることで誰かの命を奪うことになる、誰かの人生を台無しにしてしまう」という気持ちを持ちましょう。「飲んだら乗るな、飲むなら乗るな」を皆が徹底することが飲酒運転撲滅の第一です。
そして、万が一大事な家族が飲酒運転の被害者となり亡くなってしまった場合は、決して示談を安易にしてはいけません。精神的にもつらく、事故のことは早く忘れたいという気持ちもあるかとは思いますが、不当な金額を提示されたまま終わることは決してあってはいけません。迷わず一度、弁護士に相談しましょう。
飲酒運転の交通事故問題については、交通事故問題を多く取り扱う、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイに是非一度ご相談ください。