自転車は子供から、大人、ご年配の方まで幅広い年齢層の方が使用している、手軽で便利な移動手段です。しかしその一方で、事故の危険性が非常に高く、誰もが加害者にも被害者にもなる、最も身近な交通事故です。ここでは、自転車事故の現状を中心に、自転車の交通事故についてご紹介をさせていただきます。
目次
1 自転車による交通事故の現状
⑴近年の自転車交通事故の傾向
近年の自転車事故は、全体の件数としては減少傾向にあります。これは平成19年以降「自転車安全利用五則」が世間に浸透し、自転車運転者がそれを意識し、守っていることが一つの要因だといえるでしょう。
【自転車安全利用五則】 ①自転車は、車道が原則、歩道は例外 ②車道は左側を通行 ③歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行 ④安全ルールを守る(飲酒運転・二人乗り・並進は禁止、夜間はライトを点灯、信号を守る、交差点での一時停止と安全確認) ⑤子どもはヘルメットを着用 |
警視庁の調べによりますと、自転車事故による負傷者数は減ってはいますが、死者数が増加している傾向があります。この死者数ですが、死亡者、重傷者、軽傷者ともに、バイクや原付運転手よりも自転車の方が多いという結果になっています。
⑵多い事故原因
警視庁によると、多くの自転車事故の原因が、何らかの交通違反を自転車側が起こしています。代表的な原因は3つです。
①安全確認の怠り
後方確認をせずに、進路変更をすることで、事故となることが、事故原因の多くの割合を占めます。これは自動車側も注意義務違反を問われます。
②一時停止を行わない
一時停止線や標識を無視して、左右を確認せずに飛び出したことで事故が起きることです。
③信号無視
自転車側が信号を無視して、交差点にて赤信号で進入したことが事故の原因であることです。
近年では「歩きスマホ」が問題となっているように、自転車を利用中のスマートフォン使用は、危険視されています。自動車だけでなく、自転車の走行中も携帯電話を使用することは、2008年の道路交通法改正で禁止となっています。
また、イヤホンをつけての走行も基本的には指導の対象となります。自転車の走行中は「高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。」とされています。これはイヤホンを使用していなかったとしても、自動車の警告音や声が聞こえない状態は危険であることから、運転はしないようにとされています。
その他、傘を差した運転や携帯電話を手に持っての通話や画面の注視も事故の原因となるため、禁じられています。
2 自転車事故件数と年代別自転車事故について
⑴交通事故全体に見る自転車事故件数
警察庁が2013年に公表をしている、年間の交通事故約65万件の中で、自転車が絡んでいる事故はその20%と言われています。つまり、自転車事故の総数自体は減少してきてはいるものの、全体の交通事故の約2割となるほど、割合自体は増してきています。
⑵高齢者の自転車事故
2015年の調べになりますが、高齢者(65歳以上)の自転車事故の件数は19,000件ほどありました。そのうち、ハンドルの操作ミスが他の世代に比べて、約2.5倍であり、転倒事故は約半数が高齢者の事故が占めているということが判明しました(自転車の安全利用促進委員会調べ)。
この原因は、身体能力の低下や視覚能力が衰えることによる認知ミスの他、運動能力が低下したことによるハンドル操作ミスが考えられます。なお、高齢者の自転車事故による死亡者数は、圧倒的に他の世代よりも多くなっています。高齢者の場合、重症化しやすいということが起因しているようです。
⑶こどもの自転車事故
死亡者数は高齢者が多いことに対し、負傷者数は小学生~高校生の世代が多いです。子供の自転車事故の中で、全体の割合を最も占めているのは出会い頭の事故です。警視庁によると約70%となっています。他左折時が11%、右折時が6%となっております。
子供の自転車事故が起きる要因は、視野が狭いことや安全確認意識が低いことが挙げられます。視野については、成人が水平方向の視野を150度、垂直方向の視野を120度見えている状態に対して、6歳の子供は水平方向が90度、垂直方向が70度しか見えていないというデータがあります。よって、成人と子供が同じ方向を、同じ位置から見ていたとしても、子供は大人の3分の2程度しか見えていないとされています。
安全運転意識については、子供の場合は約束や遊びを優先させて、スピード出したり、無理な運転をしたりすることが多いです。結果事故につながります。
⑷そのほかの年代の自転車事故について
自転車交通事故の件数は7歳~24歳までの若年層が多く、特に高校生から大学生の16歳~19歳の事故件数が多くなっています。先ほども述べましたが、死亡事故に関しては圧倒的に高齢者が多いです。若年層でいうと14~17歳が多いですが、あくまでも若年層の中であり、そこまで目立った傾向ではないです。
そのほかの年代の自転車事故はおおよそ横ばいになっており、目立った特徴はありません。
3 自転車の人身事故について
本来であれば、自転車事故は、自転車が軽量であり、またスピードもそこまで出ていないことが一般的ですので、自転車が対歩行者に人身事故を起こしたとしても、重症となるケースは多くはないです。しかし、高齢者の方の場合は転倒すると、骨がすぐに折れてしまったり、被害者の方が転倒して頭を打ったりした場合に、死亡することや重い障害が残ることがあります。
対自動車の事故でない限りは、損害賠償額は低いだろうとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。自転車であっても、被害者に怪我をさせたり、死亡させたりした場合は、損害賠償責任を加害者は負うことになります。そして、それは加害者が子供であっても変わりません。
自転車対歩行者の事故で、大きな損害賠償額を命じられた代表的な事例は2013年神戸地方裁判所の判決です。この事故は加害者が、当時小学校5年生の男の子だったということもあり、世間の注目を浴びました。
この事故は、2008年の9月の夜間に起きました。マウンテンバイクを使用して坂道を走行していた少年が、女性と正面衝突をしました。被害者の女性は転倒し、頭を強く打ったことで脳挫傷を負い、寝たきりのこん睡状態となりました。被害者側は裁判を起こし、結果、少年が時速20~30キロで自転車を運転していたこと、前方不注意を原因であるとし、裁判所は母親に約9,500万円の損害賠償を命じました。
他にも、女子高生が自転車で女性に追突し、女性が歩行困難となった自転車事故がありました。女子高生は、携帯を操作していた上にライトを点灯していなかったことから、裁判所は5,000万円のしはらいを命じています。
自転車の事故は冒頭に述べたように、軽い怪我が多いです。しかし、万が一の時のために自転車も任意保険に入ることをおすすめします。保険に入っておかなければ、巨額の損害賠償金を支払わなければいけなくなります。特に事故が多いとされる子供が加害者となった時には、監督義務を親が果たしていないとして、自己破産となるケースもあります。
4 自転車の物損事故について
自転車の物損事故については、自転車対自動車や自転車対バイク、自転車対自転車のケースが想定されます。例えば、飛び出してきた自動車と、自転車の前輪がぶつかったことで、怪我はしなかったけれど、自転車が壊れた、等といった交通事故です。ただ、自転車は生身ですので、物損だけの事故というのは非常に稀なケースです。
通常、自動車が走行している際は、自転車側が交通弱者として、過失が低くなります。もしも、走行している自動車との事故で、自転車側の過失が一方的に高くなるようであれば、弁護士に相談をすることをおすすめします。では、自転車側の過失が大きくなるケースはないのでしょうか?
結論からいうと、自転車側の過失が大きくなるケースはあります。自転車側が信号無視をしたり、乱暴な運転をしていたりすると、自転車とはいえ、過失割合が高くなる可能性があります。また、自転車側の過失が100%になるケースもあります。これは、停止中の自動車に自転車が突っ込んだ場合です。この場合、物損部分で言うと自動車の修理費用などの賠償責任を100%負う可能性が高いです。
5 まとめ
自転車は、忘れられやすいですが「軽車両」です。歩行者の次に交通弱者として扱われますが、あくまで歩行者ではなく、車両扱いになります。自転車は、冒頭でもお伝えしたようにかなり利便性の高い交通手段の一つです。しかし、一つの不注意で、交通事故に発展すると、加害者であっても被害者であっても、大きな交通トラブルとなります。自転車を利用される方は、今一度きっちりと交通ルールを確認し、安全な運転を心がけるようにすることが大切です。
自転車での交通事故トラブルに巻きこまれてしまった場合は、交通事故問題を多く取り扱う、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイに是非ご相談ください。