交通事故の示談が成立して,一段落した。
そんな中,後遺障害が残っていることが発覚したらどうすればよいのでしょうか。
示談をやり直せばいいのか,そもそも示談をやり直すことができるのか分からずに不安になるでしょう。
当コラムでは,交通事故の示談後に後遺障害が発覚したらどうすべきかについてご説明いたします。
1 交通事故の示談後に示談のやり直しは可能?可能なケースは?
⑴交通事故の示談のやり直しは可能なのか
交通事故の示談のやり直しは,原則として不可能です。
なぜなら,示談書には,通常,いわゆる清算条項を入れるからです。
「示談書」とは,交通事故の示談内容をまとめたものです。
また,「清算条項」とは,示談金支払の約束,他の請求はしない旨の請求放棄文言,他に債権債務はない旨の確認文言など,示談成立後に追加で金銭を請求されたりして紛争が蒸し返されないように加えられる条項のことです。
示談成立時に,清算条項が書かれた示談書に署名捺印している以上,被害者はこれ以上加害者に損害賠償を請求しないことに合意していることになり,示談のやり直しは不可能となるのです。
⑵交通事故の示談のやり直しが可能なケースはあるか
しかし,以下のケースでは示談のやり直しを行ったり,後遺障害に関する損害賠償金を請求することができるかもしれません。
①示談当時予想できなかった後遺障害が発覚したケース
示談当時予想できなかった後遺障害が発覚した場合には,示談のやり直しはできません。
しかし,後遺障害に関する損害賠償請求はできるかもしれません。
「全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて,早急に小額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては,示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は,示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって,その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合,その損害についてまで,賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは,当事者の合理的意思に合致したものとはいえない」(最判昭43・3・15民集22・3・587) |
この判決によると,示談当時に予想できなかった後遺障害は,示談による解決が予定されておらず,清算条項が適用されないと分かります。
このような場合,後遺障害に関する損害賠償金を新たに請求できる可能性があります。
ただし,示談は紛争解決のために行われるので,別途請求できるのは示談当時予想できなかった重大な損害が発生し,示談額と現実の損害額との不均衡が生じた場合に限られると考えられます。
②示談の効力を否定できるケース
示談とは,民法上の和解契約にあたります。
そのため,契約の無効事由/取消事由があれば示談を無効だと主張したり,示談を取り消したうえで,示談をやり直すことができます。
例えば,脅されて示談に合意した場合です。
なお,交通事故の示談を取り消すことができるかについては当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故の示談を取り消すことはできる?取り消しについて知りたい!
2 交通事故の示談後に後遺障害が発生した場合の損害賠償請求の方法と注意点
⑴交通事故の示談後に後遺障害が残った場合どうすべきか
1 交通事故の示談後に示談のやり直しは可能?可能なケース で説明したとおり,示談当時に予想できなかった後遺障害については,別途請求できる可能性があります。
後遺障害に関する損害賠償請求を行うには,示談後に残った後遺障害が交通事故によるものであることを証明しましょう。
具体的には,交通事故と後遺障害の因果関係が必要です。
そこで,病院を受診して,医師に診断書を作成してもらいましょう。
その後,加害者側の保険会社に,「示談後に発生した後遺障害について損害賠償請求したい」と伝えて,後遺障害に関する示談交渉を開始しましょう。
⑵交通事故の示談後に後遺障害が残った事態に備えて気を付けるべきこと
①示談書の文言にこだわる
示談書に,「新たな後遺障害が発覚した場合に再度請求できる趣旨の条項」を盛り込むことが重要です。
交通事故の後遺障害を認定する,損害保険料算出機構も,同趣旨のことを述べています。
「加害者側と示談が成立し,損害賠償請求権を放棄すると,加害者および自賠責保険への請求は原則としてできなくなります。
示談書を取り交わす時には,障害が悪化した場合や示談後に上位の等級が認定された場合に再度請求できる趣旨の条項を盛り込むことが重要です。」
参照:損害保険料率算出機構(損保料率機構) 脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定について
もっとも,保険会社がこのような条項を盛り込むことに簡単に同意するとは考えにくいです。
そこで,弁護士に依頼して,示談書の内容を相談することをお勧めします。
②安易に示談に応じない
示談のやり直しが認められるのは例外的ですし,やり直しを認めてもらうための手続きは非常に面倒です。
そのため,予想外の後遺障害が発生する事態に備えて,怪我の状況や全ての損害を請求できているか考えたうえで示談に応じましょう。
3 示談後に後遺障害が発生した裁判例
⑴名古屋地裁平成30年2月20日 交民 51巻1号175頁
示談時期:事故からわずか4か月後。被害者は通院治療中(リハビリ中)だった。 →手術の実施の有無も含めて右肩に後遺障害が残るかなどについてわからない状態 |
示談金:低額 |
このような状況では,当事者の合理的意思としては,傷害部分(治療費,入院雑費,通院交通費,休業損害,傷害慰謝料)にかかる損害については,その後の分も含め,示談で清算したものと解すべき。 他方,示談当時に後遺障害についてまで予想していたとは考え難く,後遺障害が残存した場合に,後遺障害にかかる損害(逸失利益及び後遺障害慰謝料)についてまで,その賠償請求権を放棄したとするのは相当ではなく,後遺障害に関する賠償請求権に本件示談の効力は及ばないと解する。 |
⑵東京地裁平成23年3月30日 交民44巻4号857頁
示談時期:事故後2年以上経過後。しかし,被害者の右眼の症状が固定する1年以上前で,自賠責保険の後遺障害の認定基準に該当する絶対暗点が検出されるに至っていない段階。 →示談は損害を正確に把握し難い状況の下に,早急に行われたものであるといえる。 |
示談金:示談における損害賠償額は1924万7461円であるのに対し,右眼の傷害及び後遺障害に関する損害賠償額は621万7817円で,全損害の損害賠償額の4分の3程度にすぎない。 |
このような状況では,医学的な専門知識を有しない被害者が,示談時に,症状悪化により右眼に後遺障害が残ることなどを予想することは困難。 したがって,示談の効力は,事故による被害者の右眼の傷害及び後遺障害から生じた損害に及ばない。 |
どちらの裁判例でも,示談時期,示談金の額,被害者の症状などを考慮して,後遺障害が残ることを予想できなかったために,別途後遺障害に関して損害賠償請求することができるとしています。
4 まとめ
交通事故の示談後に後遺障害が発覚して,後遺障害に関する損害賠償請求をするには,当コラムで説明したポイントを意識しなければいけません。
示談が成立したのに後遺障害が残ってしまって不安な中,ご自身で対応することは非常に大変です。
心身のストレスを減らすためにも,弁護士に相談して,後遺障害に関する損害賠償金をきちんと受け取ることをお勧めします。示談後に後遺障害が発覚して悩まれている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。