車を乗る方であれば、原則すべての方が加入している自賠責保険ですが、これは被害者の救済を目的としています。
そういった面から、被害者に対する救済措置の一つとして「重過失減額」というものがあります。
重過失減額とは、被害者に過失があった場合、その過失割合に応じて受け取る金額を相殺するのではなく、重過失がある場合に限って減額をするという制度となります。
ここでは、この重過失減額についてご説明をさせていただきます。
目次
1 自賠責保険の重過失減額とは?
⑴減額される割合
通常の損害賠償の場合、たとえば被害者に過失が4割、加害者に過失が6割のケースでは、被害者は、加害者に6割分の損害賠償しか請求できません。つまり、被害者にも過失があれば、その分は損害賠償金から差し引かれて加害者に請求されるということです。
しかし、自賠責保険では被害者に過失が多少あったとしても、過失に応じてではなく、一定の過失を超えた場合は、多少の減額をすることとされています。これを【重過失減額】といいます。
では、被害者にどのくらいの過失がある場合、重過失減額に相当するのでしょうか?
以下の表をご覧ください。
減額適用上の
被害者の割合 |
減額割合 | |
後遺障害または死亡に係るもの | 傷害に係るもの | |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
こちらの表にあるように被害者の過失割合が、7割以上10割未満である場合は、重過失減額の対象となり、支払われる自賠責の保険金が減額されることになります。
ただし、減額の割合は非常に少ないです。
自賠責保険では、過失割合が7割以上10割未満であれば、傷害に係る損害は2割の減額、後遺障害・死亡に係る損害については、2割~5割のみの減額しかされません。
例えば、被害者の方の過失が8割だったとします。この場合、後遺障害またが死亡にかかるものについては3割減額、傷害に係るものであれば2割しか減額されないということです。
⑵重過失減額に該当する状況
被害者の方の重過失、つまり過失割合が7割以上の事故とはどういった状況を言うのでしょうか?
①歩行者の場合
被害者の方が歩行者で、赤信号で横断を進めた場合には7割以上の過失があることが多いです。歩行者の方は交通弱者とされていますので、8割、9割以上の過失が取られることはあまりありません。
②自動車の場合
被害者の方が、自動車にて重過失を取られる主なケースは、一時停止違反や、赤信号を直進し、黄信号で進んできた車と衝突した場合があります。この場合は7割、8割以上が過失を取られることがあります。また、優先道路へと非優先道路から交差点に進入した際の衝突事故で9割以上の過失があると判断されることもあります。
③2輪単車の場合
被害者の方が2輪単車を運転して7割以上の過失があるケースは、赤信号を直進して右折の自動車と衝突した場合や、交差点で左側の車両を追い越し、左折した際の左側車両と衝突した場合が挙げられます。
ただし、上記の例は、それぞれの事故態様によりますので、修正要素が加えられることもありますので、必ずしもこうなるというわけではないことを覚えておいていただけたらと思います。
⑶7割未満の過失の場合
上記では、7割以上10割未満である場合は、重過失減額の対象であると述べさせていただきました。
つまり、被害者の過失割合が7割未満の場合は、減額はされません。
⑷被害者の過失が10割の場合
被害者の過失割合が10割である場合、相手に賠償責任はありません。そのような場合は、被害者の方はたとえ怪我をしていたとしても、相手が加入している自賠責保険(もしくは自賠責共済)へ賠償金の請求はできません。相手側は「無責」とされます。
2 被害者に過失がある場合の取り扱い
⑴自賠責保険の場合
被害者の方にもある一定の過失がある場合は、損害賠償を相手に請求する際、非常に注意が必要となります。
たとえば、被害者の方の過失が6割、相手の方の過失が4割、そして被害者の方の損害が100万円だった場合です。
自賠責保険の場合は、先ほども述べたように7割未満であれば減額はありません。よって被害者の方は100万円を受け取ることができます。
⑵任意保険の場合
同様のケースで任意保険の場合はどうなるでしょうか?
この場合、被害者の方の過失割合分がそのまま差し引かれることになります。
つまり、100万円であれば、被害者の方は40万円の損害賠償金を受け取ることとなります。
このように、被害者の方の過失が大きい場合は、自賠責保険を活用した方が、受け取れる金額が高額になるケースもあります。
3 自賠責保険の被害者に対する救済措置
⑴因果関係不明の減額
重過失減額の他に、自賠責保険には被害者に対する救済措置の一つとして「因果関係不明の場合の減額」というものがあります。
これは、交通事故の後遺障害や死亡について、事故との因果関係が少しでもある場合は素因減額しません、もしも因果関係を立証できない場合でも、5割しか減額しません、という制度となります。
被害者の方が交通事故に遭う以前から、元々持病を持っており、交通事故に遭い、事故後後遺障害になったり、お亡くなりになったりすることがあります。その場合、後遺障害が残った、または死亡した原因は元々の持病が原因でもあるのだから、その原因の割合分を損害賠償金から差し引くことになっています。
これを「素因減額」といいます。
本来の損害賠償請求では、この素因減額は行われるものですが、自賠責保険の場合、被害者救済の観点から素因減額をしません。
後遺障害が残った原因や死亡した原因には、被害者の方に元々悪化させる要素はあったけれど、交通事故が原因でもあるため、全額支払うという考え方になります。
ただし、事故との因果関係が立証できないケースもあります。
後遺障害が残ったこと、死亡したことは、事故が原因であるのか、もしくはもともとの病気が原因であるのかがわからないと言った場合、任意保険との示談交渉や裁判では、「因果関係がない」と判断され、損害賠償金が0円となることも考えられます。
しかし、自賠責保険ではそのような場合においては、5割分だけ減額して被害者に支払います、という制度を置いています。この制度を「因果関係不明の減額」と呼びます。
よって、医師から事故との因果関係が不明と判断された場合は、諦める必要はありません。自賠責保険には救済措置により、もしかしたら、自賠責保険から半分でも受け取れる可能性はあります。
一度弁護士に相談をしてみましょう。
4 自賠責保険の仕組みについては、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ
重過失減額についてご説明をさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
一般的に自賠責保険は最低限度の補償しかないということで、低い金額しかもらえないという印象が強いかもしれません。
しかし、重過失減額などきっちりと制度を知れば、被害者の方にとってプラスに働くこともあります。
過失が大きいから請求をあきらめているという被害者の方がいらっしゃいましたら、一度、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。