交通事故 慰謝料 被害者請求
2020.10.01 2024.04.25

交通事故で慰謝料を払えないと言われたらどうすればよいか知りたい。

交通事故で慰謝料を払えないと言われたらどうすればよいか知りたい。

交通事故の被害者の方が受け取る慰謝料は、怪我の程度や、治療の期間等によっては、数百万円となる場合もあります。

しかし、加害者が慰謝料を支払えない場合があります。 これはどういった場合が多いのでしょうか?

ここでは、加害者が慰謝料を支払えない場合の被害者の方の対処方法を含めて、ご説明を致します。

任意保険に加入していない場合

自賠責保険に対して被害者請求する

まず、自動車保険には以下の2つの種類の保険があります。

・自賠責保険(正式名称:自動車損害賠償責任保険)

自動車による人身事故の被害者の方を救済する目的である自賠責保険は、原則は原付を含みすべての自動車につけることが、法律上で義務付けられています。

この保険に入らずに、運転をした場合には「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」となる可能性があるほど、強制的な保険です。

・任意保険

任意保険は、その名の通り「任意」で加入する保険です。加入は自由ですが、日本では、おおよそ70%の方が加入しています。

交通事故の相手が保険に加入していないという場合でも、それは任意保険の話であり、自賠責保険には加入していることが多いです。何故ならば、先ほども述べましたように、自賠責保険は原則加入しているものだからです。

加害者が任意保険に加入をしてない場合、被害者の方は加害者の自賠責保険へ請求をする形になります。

しかし、この自賠責保険は、任意保険とは補償の範囲、並びに補償の内容が異なります。

具体的には、自賠責保険では物の損害に対しては、補償はされません。また、補償の範囲ごとに支払いの上限額が定められております。

任意保険は、補償額が無制限となっている契約内容が多く、もし制限があったとしても、自賠責保険よりも上限額は高いことが多いです。

※任意保険でも契約内容によっては物の損害については対象外の場合もあります。

これは、自賠責保険の目的に関係します。自賠責保険は、より多くの被害者の方を公平であり、かつ迅速に救済をすることを目的としています。 そのため、最低限度の補償をすることし、人身損害のみの補償となります。

自賠責保険の上限額

自賠責保険で補償される範囲は「傷害部分」「後遺障害部分」そして、「死亡による損害」の3つとなります。この各範囲で支払いの基準と、支払いの上限額が設けられています。

各範囲の支払い基準と上限額は、具体的には以下の通りになります。

①傷害部分

支払い上限額:被害者の方1名につき120万円まで

支払い内容

損害項目

内容 支払い基準
治療費 診察料、手術費、検査費、道整復費、薬局費用等 必要かつ妥当な経費  
看護費 近親者等の付添(医師が看護の必要を認めた場合、または被害者が12歳以下の場合) 原則として

入院1日につき4,100円(※4,200円)

通院1日につき2,050円(※2,100円)

 
諸雑費 入院のための氷代、布団使用料、栄養費、通信費等 原則として

入院1日につき1,100円

 
通院交通費 通院、入院に要した交通費 必要かつ妥当な実費  
その他実際に要した費用 義肢・メガネ・コンタクトレンズや補聴器代等 必要かつ妥当な実費

ただしメガネ、コンタクトレンズについては上限50,000円まで(税抜)

 
診断書等の費用 診断書・診療報酬明細書等の発行費用 必要かつ妥当な実費  
文書料 交通事故証明書、住民票、被害者の方の印鑑証明書等 必要かつ妥当な実費
休業損害 傷害のために発生した休業による損害(欠勤による賞与減額を含む)

※家事従事者も請求可能

1日につき5,700円(※6,100円)これ以上に収入減の立証がある場合は実額(19,000円が限度)
傷害慰謝料 精神的・肉体的な苦痛に対する補償 1日につき4,200円(※4,300円)

※2020年4月1日以降の事故の場合の新基準

上記の損害項目を合わせて、「傷害部分」とされております。よって、重傷の怪我を負った場合は、手術や入院費だけで120万円を超えるケースもあります。

②後遺障害部分

支払い限度額

①「神経系統の機能または精神」「胸腹部臓器」のいずれかに著しい障害を残し、介護を必要とする後遺障害

被害者1名につき

・常時介護を要する場合…第1級 4,000万円

・随時介護を要する場合…第2級 3,000万円

②上記①以外の介護を必要としない後遺障害

被害者の方1名につき、第1級3,000万円~第14級75万円

後遺傷害部分は後遺症が残っていれば誰でも請求できるわけではありません。被害者の方が、後遺障害部分の損害について補償を受け取るためには、後遺障害等級認定を受けなければなりません。こちらも相手の自賠責保険会社を通じて申請をし、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所にて審査をしてもらいます。

この審査により、被害者の方の後遺症に対し、何らかの等級が認定された場合は、後遺障害部分の損害の補償を受けることが可能となります。

後遺障害等級は最も高い等級を1級とし、被害者の方の後遺症の内容によって14級までの段階で分けられています。

後遺障害等級

支払い限度額

第1級

3,000万円

第2級

2,590万円

第3級

2,219万円

第4級

1,889万円

第5級

1,574万円

第6級

1,296万円

第7級

1,051万円

第8級

819万円

第9級

616万円

第10級

461万円

第11級

331万円

第12級

224万円

第13級

139万円

第14級

75万円

上記には、後遺障害慰謝料と逸失利益(事故の後遺症が原因で、労働能力が喪失もしくは減少したことにより、将来に発生すると考えられる収入の減少分)が含まれています。

また、後遺障害慰謝料には上限額があります。上記の後遺障害の損害に対する支払い上限額の中に、さらに慰謝料の支払い上限額があるとされます。

なお、2020年4月1日以降の交通事故については、後遺障害慰謝料の上限額が改正されています。下記表をご覧いただくとわかるように、慰謝料上限額は増えています。しかし、その一方で、逸失利益分の上限限度額が減っているので、後遺障害の損害の「全体での支払い上限額」には、変更はありません。

別表Ⅰ 後遺障害により介護が日常的に必要な場合の後遺障害に使用

後遺障害等級 2020年4月1日以前 2020年4月1日以降
第1級 1,600万円 1,650万円
第2級 1,163万円 1,203万円

 

別表Ⅱ その他、日常的な介護が必要ない場合の後遺障害に使用

後遺障害等級 2020年4月1日以前 2020年4月1日以降
第1級 1,100万円 1,150万円
第2級 958万円 998万円
第3級 829万円 861万円
第4級 712万円 737万円
第5級 599万円 618万円
第6級 498万円 512万円
第7級 409万円 419万円
第8級 324万円 331万円
第9級 245万円 249万円
第10級 187万円 190万円
第11級 135万円 136万円
第12級 93万円 94万円
第13級 57万円 57万円
第14級 32万円 32万円

※13級、14級の後遺障害慰謝料に変更はありません。

死亡による損害

支払い上限額:被害者の方1名につき3,000万円

支払い内容

損害項目 内容 支払い基準
葬儀費 通夜、祭壇、火葬、墓石等に要する費用

(ただし、墓地、香典返し等は含まれません。)

60万円、ただし立証資料により最大100万円

(※100万円)

逸失利益 被害者が死亡していなければ将来得ることができたと考えられる収入額

※本人の生活費は控除されます。

収入および就労可能期間、被扶養者の有無を考慮し計算されます。

 

死亡による慰謝料 被害者本人の慰謝料 350万円(※400万円)
遺族の慰謝料

※請求者(親、配偶者、子)の人数により金額は異なります。

請求者が

1名の場合:550万円

2名の場合:650万円

3名以上の場合:750万円

※被害者に被扶養者がいる場合においては、上記の金額に200万円が加算されます。

※2020年4月1日以降の事故の場合の新基準

加害者本人と交渉

自賠責保険で補償を受けることができない物の損害や自賠責保険の上限額を超えた人身損害の損害賠償金については、加害者本人へ請求することになります。

しかし、任意保険に入っていないということは、保険料の支払いができないほどに、加害者の資力が乏しいということも考えられます。

加害者本人が支払いする意思がない、もしくは経済力がない場合においては、被害者本人で示談交渉にて、損害賠償金を回収することは非常にハードルが高いです。

加害者より損害賠償金を強制的に回収する方法としては、裁判を起こし、判決を得るという手段が1つあります。 請求する金額が60万円以下で、争点が少ない場合は、「少額訴訟」という手続きがあります。これにより判決を迅速に得ることができます。

その後、被害者の方は判決の内容を基に、強制執行の申し立てをします。強制進行により、加害者の財産を差し押さえ、損害賠償金を回収していきます。

なお、ここで注意をしなければならない点は、この時に加害者に財産が全くなければ、賠償金を回収はできないということです。

自賠責保険にも加入していない場合

あまり考えたくないケースですが、自賠責保険にすら入っていない加害者もいます。この場合、被害者の方はどうすれば良いのでしょうか?

自分の任意保険を利用

加害者から損害賠償金を回収することができなかったとき、被害者の方にとっては納得がいかない選択肢かもしれませんが、選択肢の1つに、自分が加入している任意保険会社の補償を受けることを考えましょう

任意保険を使用した場合、等級が下がることや、また事案によっては免責金を取られることもあるでしょう。 さらに、等級が下がるということは、すなわち保険料が上がってしまうということになります。この保険料の増額分については、加害者に請求は難しいとされます。何故ならば、任意保険の使用は、被害者の方の判断だからです。

しかし、最終的に自分の任意保険より受け取れる金額が、保険料増額分を上回る場合は、自分の保険を利用したほうが良いとも考えられます。

また、免責分は加害者に請求することは可能です。ただし、実際は、加害者の経済力により、支払われることが難しいことが多いです。

政府保障事業を利用

政府保障事業という制度があります。これは、被害者の方が受けた損害を国土交通省、つまりは国が加害者に代わって立替払いをする制度です。 政府保障事業は、国が自賠法(正式名:自動車損害賠償保障法)のもと、被害者の方を救済することが目的です。

よって、損害の補償範囲は、自賠責保険で使用されている基準と同様になります。

一方、自賠責保険の制度と異なる点もあります。 まず、請求対象者は被害者のみです。自賠責保険では、加害者も怪我をした場合は、被害者の方の自賠責保険へ請求が可能ですが、政府保障事業では、加害者側からの請求は受け付けていません。また、健康保険や労災保険等の社会保険による給付の対象となるケースでは、その金額は差し引かれて、被害者の方に支払われます。

慰謝料を払えないと言われた時の注意点

直接交渉はトラブルになりやすい

加害者が任意保険や自賠責保険に加入していない場合、示談交渉において、慰謝料の支払い、損害賠償金の内容にてトラブルになりやすいです。

また、保険会社が介入しない=当事者間で損害賠償金を計算しなければなりませんので、たとえ交通事故の知識が多少あったとしても、事務的な面でも非常に負担が大きいです。

加害者が自己破産した場合

加害者が自己破産をした場合の被害者の方への損害賠償金はどうなるのでしょうか?事実上、損害賠償ができなくなってしまうのでしょうか?

そもそも破産制度は、債務者の財産を処分し、債権者へ返済(配当)する代わりに、残った債務者の返済の責任を免責とし、債務書の経済的更生を試みるというものです。

しかし、これはすべての債務が対象になるわけではなく、一定の例外があります。 交通事故の損害賠償債務においては次の2つが問題となります。

・破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法第253条1項2号)

・破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(同条同項3号)

2号では、「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」とだけ規定されています。3号のように生命や身体の損害に限定はされていません。

これに該当すると考えれば、人身損害(例:治療関係費、休業損害、慰謝料、逸失利益等)や物の損害(修理代、携行品等)問わず、免責とはなりません。

しかし、一般的な交通事故は、「悪意で加えた不法行為」には当たらないと考えられています。

故意または過失により他人の権利・利益を侵害することを不法行為と言い、交通事故は不法行為に分類されます。

一方で、この2号にある悪意とは、単なる故意ではなく、「不正に他人を害する意思ないしは積極的な害意」を意味します。

たとえば、加害者が被害者の方に保険金をかけ、その保険金を目当てに轢き殺すような、きわめて著しく悪質な場合が想定されています。

あくまで一例でありますが、これは非常に極端な例外です。よって、普通の加害者側の過失が原因である交通事故は、「悪意で加えた不法行為」に該当しないと考えられています。

次に、3号では「生命又は身体を害する不法行為」としています。つまり、物の損害については対象外と考えられ、上記で述べたような「悪意」がない場合はすべて免責されてしまいます。

一般の交通事故は単なる「過失」による事故です。ここで問題となるのは、「重大な過失」とは何が対象となるかです。

ここでの重大な過失とは「故意に匹敵するほどの著しい注意義務違反」をいいます。

無免許運転や、飲酒運転(酒酔い運転)、またひき逃げのように、危険運転致死罪にあたいする危険運転のケースが想定されています。またこのような場合ではなくても、事故の内容によっては、重大な過失して判断されることはあります。つまり、明確な基準がないことから、加害者が強く非難されるような事故だった場合としか言えません。

直接交渉におけるトラブルや、加害者が自己破産をするケースでの対応は、交通事故問題に積極的に取り組んでいる弁護士に相談、依頼をすることを強くお勧めします。

交通事故問題における損害賠償請求は専門性が高いため、弁護士に依頼をすることで、被害者の方は安心して任せることができます。

また、弁護士に依頼することで慰謝料増額の可能性もあります。弁護士は慰謝料を計算する際に、自賠責保険の基準とは異なり、最も高い計算基準である裁判所基準を使用します。 そのため、加害者に請求できる金額が増額する可能性が上がります。

もしも、被害者の方がご自身の保険に弁護士費用特約をつけていらっしゃるようであれば、弁護士の費用については保険会社が支払いますので、利用をしてみましょう。

当事者間のトラブルを避けるためにも、早期に弁護士に相談することを検討しましょう。

慰謝料が払えないと言われた場合は、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ。

加害者に慰謝料や損害賠償金を払えないといわれた場合についてご説明をさせていただきました。

自賠責保険への請求や政府の保障事業を利用する、またはご自身の保険を使用し、対処することも1つの選択肢として考えていくことが大切だと言えます。

被害者の方が1人で解決しようとすると、納得のいかない示談内容になることもあります。

加害者が何らかの理由で慰謝料を含む損害賠償金を払えないとなった場合は、必ず弁護士に相談をするようにしましょう。

加害者との示談交渉にお困りの方は、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。

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