交通事故に遭った時、被害者の方は加害者が加入している任意の保険会社から慰謝料含み損害賠償金を受け取ることができます。
しかし、相手が任意保険会社に加入していない場合もあります。この場合、被害者の方は、車を持っている人が必ず入る【自賠責保険】から回収をすることになります。
では、自賠責保険から受け取れる慰謝料はいくらなのでしょうか?
ここでは、自賠責保険で受け取れる慰謝料について紹介すると共に、自賠責保険の注意点についてもご説明を致します。
目次
自賠責保険で受け取れる慰謝料
自賠責保険とは
自動車損害賠償責任保険、通称自賠責保険は原付を含む車を購入した場合に必ず加入しなければならない、法律で義務付けられている、いわゆる強制保険です。
自賠責保険は、「自動車による人身事故の被害から最低限の被害者救済のための保険」として位置づけられています。
つまり、自賠責保険では物の損害については対象外となります。たとえば、被害者の方の自動車が破損した場合の修理費用や買い替えの諸費用は、加害者が全額、自己負担することとなります。
また、多くの被害者の方を救済するために、迅速かつ公平な手続きを行う必要があり、そのため、自賠責保険には支払い限度額が設けられています。
なお、自賠責保険はあくまでも「他人」への傷害に対して補償をするものです。自身の怪我に対しては「相手側」の自賠責保険から回収することとなります。
自賠責基準と限度額
次に、自賠責基準の支払い基準と限度額についてご説明を致します。
支払い基準と限度額は、傷害部分、後遺傷害部分、死亡による損害部分に分かれます。1つずつご説明をしてまいります。
・傷害による損害
支払い限度額:被害者1名につき120万円
支払い内容
損害項目 |
内容 |
支払い基準 |
|
治 療 関 係 費 |
治療費 |
診察料、手術費、検査費、道整復費、薬局費用等 |
必要かつ妥当な経費 |
看護費 |
近親者等の付添(医師が看護の必要を認めた場合、または被害者が12歳以下の場合) |
原則として 入院1日につき4,100円(※4,200円) 通院1日につき2,050円(※2,100円) |
|
諸雑費 |
入院のための氷代、布団使用料、栄養費、通信費等 |
原則として 入院1日につき1,100円 |
|
通院交通費 |
通院、入院に要した交通費 |
必要かつ妥当な実費 |
|
その他実際に要した費用 |
義肢・メガネ・コンタクトレンズや補聴器代等 |
必要かつ妥当な実費 ただしメガネ、コンタクトレンズについては上限50,000円まで(税抜) |
|
診断書等の費用 |
診断書・診療報酬明細書等の発行費用 |
必要かつ妥当な実費 |
|
文書料 |
交通事故証明書、住民票、被害者の方の印鑑証明書等 |
必要かつ妥当な実費 |
|
休業損害 |
傷害のために発生した休業による損害(欠勤による賞与減額を含む) ※家事従事者も請求可能 |
1日につき5,700円(※6,100円)これ以上に収入減の立証がある場合は実額(19,000円が限度) |
|
入通院慰謝料(傷害慰謝料) |
精神的・肉体的な苦痛に対する補償 |
1日につき4,200円(※4,300円) |
※()内の金額は、2020年4月1日以降の事故の場合の新基準
表にある治療関係費や文書料、休業損害、慰謝料のすべて合わせて、120万円が限度額とされています。
怪我の程度が重く、入院があった場合や、長期の通院期間の場合、治療費だけで120万円超えることもありえます。その場合、休業損害や慰謝料等については、加害者本人に直接請求することとなります。
・後遺障害による損害
支払い限度額
①「神経系統の機能または精神」「胸腹部臓器」のいずれかに著しい障害を残し、介護を必要とする後遺障害
被害者1名につき
・常時介護を要する場合…第1級 4,000万円
・随時介護を要する場合…第2級 3,000万円
②上記①以外の介護を必要としない後遺障害
被害者1名につき、第1級3,000万円~第14級75万円
後遺障害の損害部分を自賠責保険に請求するためには、後遺症が残っているだけでは請求ができません。
被害者の方は、後遺障害等級認定の申請を行い、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所による審査を受け、この審査を基に等級が認定された場合において、後遺障害の損害について賠償金を受け取ることができます。
なお、支払いの限度額は、最高額で最も高い等級であり、上記①の常時介護付きの1級4,000万円となりますが、その他の介護を必要としない場合においては、以下のように、1~14級の段階で分けられており、等級ごとに支払い限度額が定められています。
後遺障害等級 |
支払い限度額 |
第1級 |
3,000万円 |
第2級 |
2,590万円 |
第3級 |
2,219万円 |
第4級 |
1,889万円 |
第5級 |
1,574万円 |
第6級 |
1,296万円 |
第7級 |
1,051万円 |
第8級 |
819万円 |
第9級 |
616万円 |
第10級 |
461万円 |
第11級 |
331万円 |
第12級 |
224万円 |
第13級 |
139万円 |
第14級 |
75万円 |
この後遺障害の損害には、①後遺障害慰謝料②後遺障害による逸失利益が含まれています。逸失利益とは、後遺症の影響を受け、労働能力が減少または喪失したことで、将来に発生するであろう被害者の方の収入の減少分をいいます。
・死亡による損害
支払い限度額:被害者1名につき3,000万円
支払い内容
損害項目 |
内容 |
支払い基準 |
葬儀費 |
通夜、祭壇、火葬、墓石等に要する費用 (ただし、墓地、香典返し等は含まれません。) |
60万円、ただし立証資料により最大100万円 (※100万円) |
逸失利益 |
被害者が死亡していなければ将来得ることができたと考えられる収入額 ※本人の生活費は控除されます。 |
収入および就労可能期間、被扶養者の有無を考慮し計算されます。 |
死亡による慰謝料 |
被害者本人の慰謝料 |
350万円(※400万円) |
遺族の慰謝料 ※請求者(親、配偶者、子)の人数により金額は異なります。 |
請求者が 1名の場合:550万円 2名の場合:650万円 3名以上の場合:750万円 ※被害者に被扶養者がいる場合においては、上記の金額に200万円が加算されます。 |
※()内の金額は、2020年4月1日以降の事故の場合の新基準
死亡による損害については、損害額が非常に大きく、自賠責保険では明らかに補うことはできません。任意保険に加入していない加害者から、不足分を請求することは個人では難しいです。死亡事故の場合は、遺族の方は必ず弁護士に相談するようにしましょう。
3種類の慰謝料
上記の表内で記載はさせていただいておりますが、交通事故の慰謝料には以下の3つの種類があります。
・死亡慰謝料
死亡慰謝料は、亡くなった被害者の方本人への死亡させられたことへの慰謝料です。また、それとは別に被害者の相続人である遺族の方への慰謝料があります。
・入通院慰謝料
傷害慰謝料ともいいます。これは、被害者の方が、交通事故の怪我により、病院への入院や通院をしなければならなくなった、被害者の方の精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金です。
・後遺障害慰謝料
被害者の方が治療を行ったにも関わらず、後遺障害が残り、1級~14級が認定された場合において、後遺障害が残ってしまったという精神的苦痛に対しての慰謝料です。
自賠責保険における慰謝料の算定方法
死亡慰謝料
死亡慰謝料については、先ほど紹介をした表にあるように、家族の慰謝料は請求する人数によって異なります。
遺族の慰謝料
・家族が1人の場合…550万円
・家族が2人の場合…650万円
・家族が3人の場合…750万円
被扶養者がいる場合は、上記の金額に1人あたり200万円が上乗せされます。
たとえば、死亡した被害者の方が結婚をしており、妻と子供1人がいたとします。そしてこの妻と子供が、被扶養者だった場合は以下の通りとなります。
(本人への慰謝料)350万円(※400万円)+(家族への慰謝料)650万円+200万円=1,200万円(※1,250万円)
※()内は2020年4月1日以降の交通事故の場合
入通院慰謝料
自賠責基準で入通院慰謝料を計算する際には、「日額」と「入通院日数」が必要となります。
まず、日額ですが、これは上記の表にもあるように1日あたり4,200円(※2020年4月1日以降の事故の場合は1日あたり4,300円)として定められております。
次に、入通院日数は以下の2通りの方法で算出されます。その結果、少ない方の数字が採用されることとなります。
・治療開始日から治療終了日(もしくは症状固定日)までの全日数(治療期間)
・実際に入院した期間と通院した実日数を足して2倍した数(実通院日数)
たとえば、被害者Aさんは、2019年12月に事故に遭われ、入院を20日間、通院を80日間、治療期間が180日の被害者Aさんがいたとします。
このAさんの入通院日数は…
(20日+80日)×2=200日
200日>180日のため、治療期間の180日が採用されます。
よって、Aさんの自賠責保険より受け取ることができる入通院慰謝料は…
4,200円×180日=756,000円となります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料にも限度額があります。
先ほどのご紹介した上記の後遺障害の損害部分の支払い限度額の中で、さらに後遺障害慰謝料の支払いに等級に応じての限度額があるということになります。
下記の表をご確認いただくとわかるように、2020年4月1日以降の事故より、自賠責基準が改正されたことにより、後遺障害慰謝料の限度額は増えています。しかし、その分、逸失利益分が減っていますので、全体の後遺障害の損害の支払い限度額には変わりありません。
別表Ⅰ 後遺障害により介護が日常的に必要な場合の後遺障害に使用
後遺障害等級 |
2020年4月1日以前 |
2020年4月1日以降 |
第1級 |
1,600万円(1,800万円) |
1,650万円(1,850万円) |
第2級 |
1,163万円(1,333万円) |
1,203万円(1,373万円) |
別表Ⅱ その他、日常的な介護が必要ない場合の後遺障害に使用
後遺障害等級 |
2020年4月1日以前 |
2020年4月1日以降 |
第1級 |
1,100万円(1,300万円) |
1,150万円(1,350万円) |
第2級 |
958万円(1,128万円) |
998万円(1,168万円) |
第3級 |
829万円(973万円) |
861万円(1,005万円) |
第4級 |
712万円 |
737万円 |
第5級 |
599万円 |
618万円 |
第6級 |
498万円 |
512万円 |
第7級 |
409万円 |
419万円 |
第8級 |
324万円 |
331万円 |
第9級 |
245万円 |
249万円 |
第10級 |
187万円 |
190万円 |
第11級 |
135万円 |
136万円 |
第12級 |
93万円 |
94万円 |
第13級 |
57万円 |
57万円 |
第14級 |
32万円 |
32万円 |
※13級、14級の後遺障害慰謝料に変更はありません。
※別表Ⅰ、Ⅱともに()内の金額は、被害者に被扶養者がいる場合となります。
自賠責保険の注意点
自賠責保険を使用するにあたり、知っておかなければならないこともあります。注意点として以下をご説明させていただきます。
過失による減額
基本的には被害者の方には、先ほど述べた計算方法、支払い限度額をもとに慰謝料を含め賠償金が自賠責保険より支払われます。
ただし、被害者の方に重大な過失があった場合においては、以下の内容で減額となります。
減額適用上の 被害者の過失割合 |
減額割合 |
|
後遺障害または死亡に係るもの |
傷害に係るもの |
|
7割未満 |
減額なし |
減額なし |
7割以上8割未満 |
2割減額 |
2割減額 |
8割以上9割未満 |
3割減額 |
|
9割以上10割未満 |
5割減額 |
通常、任意保険相手の損害賠償請求の場合、被害者側に5割、加害者側に5割の過失割合が認められる場合は、被害者の方は加害者側から5割分を減額された損害賠償金を支払われることとなります。
しかし、自賠責保険では、過失に応じてではなく、被害者の方に多少の過失があったとしても、7割未満であれば減額はされません。
被害者の方の過失の割合によっては、任意保険から受け取るよりも自賠責保険に請求する方が得な場合があります。
仮渡金制度
自賠責保険にある「仮渡金制度」とは、被害者の方が、迅速にお金が必要な場合において、自賠責保険が指定する必要書類を用意し申請することで、一定金額が振り込まれる制度です。
申請から、1週間から10日ほどで振り込まれますので、早急にお金が必要な被害者にとっては非常にメリットのあると言えます。
支払われる金額は、被害者の方の怪我の症状、状態により決められており、以下の内容となります。
症状、状態 |
金額 |
1.死亡された場合 |
290万円 |
2.以下のいずれかの傷害を負った場合 ・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの ・上腕または前腕の骨折で合併症を有するもの ・大腿または下腿の骨折 ・内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの ・14日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの |
40万円 |
3.以下のいずれかの傷害を負った場合(上記2を除く) ・脊柱の骨折 ・上腕または前腕の骨折 ・内臓の破裂 ・病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日 ・14日以上病院に入院することを要する傷害 |
20万円 |
4.医師の治療を11日以上要する傷害を負った場合(上記2.3を除く) |
5万円 |
自賠責保険は、被害者の方より提出された、「医師が作成した診断書に書かれた症状」で判断をします。
なお、この仮渡金制度は、被害者の方のタイミングで申請ができます。しかし、この制度は何度も活用できるもではなく、1度しか使用できません。使用のタイミングは、よく検討するようにしましょう。
また、仮渡金制度は、損害賠償金の仮払いです。そのため、被害者の方が仮払金として受け取った金額は、最終的に受け取る自賠責保険会社より受け取る賠償金より差し引きがなされます。万が一、仮渡金制度で受け取った金額が賠償金を上回った場合は、被害者の方は自賠責保険へ差額分を返金しなければなりません。
被害者請求
自賠責保険に請求する方法は2通りあります。
相手の任意保険会社を通して請求する方法を「事前認定」、そして被害者の方自身が行う場合を「被害者請求」といいます。
加害者が任意保険に入っていない場合は、必然的に被害者請求の手続きをとることになります。
被害者請求のやり方は以下の通りとなります。
①加害者の自賠責保険会社から書式を取り寄せます。
加害者の自賠責保険は、交通事故証明書に載っています。
②自賠責保険会社へ必要書類を提出します。
必要書類については死亡事故、後遺障害等級申請、傷害部分で異なりますので、確認して準備をしましょう。
③公正かつ中立な第三者調査機関の損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が書類を受領し、調査がスタートします。
調査とは、事故の態様、怪我と交通事故の因果関係、事故による被害者の方の損害が主な内容です。
④損害保険料率算出機構が自賠責保険会社に調査結果を報告します。
⑤この調査結果を元に、自賠責保険会社が自賠責保険の支払基準に従い、被害者の方に賠償金を支払うことになります。
被害者の方が注意をしなければならないのは、自賠責保険会社はあくまでも手続きの窓口であるため、示談交渉は行えません。定められた支払い限度額内で、支払い基準にのっとり支払い手続きを行うことになります。
なお、自賠責保険会社へ被害者請求をする際に、書類に不備があったり、不足があると、適正な金額を受け取ることができない場合があります。特に後遺障害等級申請については、被害者の方の後遺症の内容によっては、後遺障害診断書だけでなく、その他にも医師に作成を依頼しなければならない書類もあります。
被害者請求についてご不安な場合は、弁護士へ一度相談することをおすすめします。
自賠責保険についてのご相談は、大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ。
自賠責保険の仕組みも含め、自賠責保険から支払われる慰謝料についてご説明をさせていただきました。
被害者の方に覚えていてほしいことは、自賠責保険で受け取る金額は最低限の補償の為、決して適正な金額とは言えません。
相手が任意保険に入っていないからといって適正な金額を受け取ることができないことは、被害者の方にとって起きてはならないことです。
弁護士に依頼をすれば、適正な金額で損害賠償金を算出し、被害者の方の代わりに直接相手の加害者本人へ請求をします。
加害者が自賠責保険にしか入っておらず、お困りの方は、まずは一度交通事故を多く取り扱う大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。