交通事故の被害に遭われた方の中には、年々減少しているとはいえ、毎年一定の人数がお亡くなりになっています。
被害者の方が亡くなった場合、亡くなった被害者の方の代わりに、ご遺族である相続人の方が、加害者側へ損害賠償金を請求することになります。
ここでは、死亡した場合に被害者側が受け取ることができる損害賠償金についてご説明を致します。
目次
1 交通事故で死亡した場合に支払われる損害賠償金
交通事故で被害者の方が死亡した場合に支払われる損害賠償金は以下の種類があります。
⑴葬儀費
葬儀費用には、葬祭費用だけでなく、供養費、墓碑建立費、仏壇費、仏具購入費などの他、火葬や埋葬等といった遺体の処理費用も含まれることとなります。
墓地や香典返しは認められないとされています。
葬儀費用については、以前は「人はいずれ死ぬことから、葬儀費用は必ずかかるので損害賠償請求の対象ではない」という主張もありましたが、最高裁で損害賠償請求の対象であると判断されたため、現在は裁判所が否定することはありません。
被害者の方の最低限の救済を目的とした自賠責保険では、支払い限度額は100万円を基準として設けています。
※2020年3月31日以前の交通事故については、限度額60万円とされており、この金額を超える場合は、立証資料があり、必要かつ妥当であると判断されれば、100万円までは支払われます。
これに対し、最も高額な算定基準を算出する裁判所基準では、成年・未成年に問わず、150万円までとされています。
ただし、実際にかかった費用の立証資料が必要であるため、実際にかかった葬儀費用が150万円を下回る時については、加害者側に請求が可能となるのは、「実際に支出した金額」だけとなります。
なお、事案によっては150万円を上回る葬儀費用を認められた過去の判例もあります。
⑵慰謝料
慰謝料とは、被害者の方が受けた精神的苦痛に対する損害賠償の項目の1つです。
被害者の方が交通事故で死亡した場合のおいての慰謝料は2種類あります。
まず、被害者の方本人への慰謝料です。
これは、被害者の方が死亡させられた際に、被害者の方には精神的苦痛が存在したものと考えられます。よって、死亡させられたことに対する慰謝料を請求することができます。
この被害者の方の死亡慰謝料については、請求する被害者の方がお亡くなりになっていることから、慰謝料の請求権は、ご遺族の方へ相続されます。つまり、死亡した被害者の方の慰謝料については、亡くなった被害者の方に代わって、ご遺族の方が加害者に請求します。
次に、ご遺族の方の慰謝料です。
死亡事故の場合は、ご遺族の方も固有の慰謝料が請求可能となります。
なぜなら、亡くなった被害者の方の近しい関係であるご遺族の方には、「突然の交通事故で被害者の方を亡くした」という大きな精神的苦痛を負わされます。
先ほど述べた慰謝料は、あくまでも死亡させられた被害者の方が受けた精神的苦痛に対するものであり、ご遺族の方が負った精神的苦痛とは別の者であると考えられます。
よって、被害者の方の、配偶者や子ども、父母等の相続人となるご遺族の方には、「遺族独自の固有の慰謝料」が認められます。
したがって、死亡事故における被害者側が請求可能となる慰謝料は、2種類あることになります。
⑶逸失利益
逸失利益とは、本来交通事故がなければ、被害者の方が将来得られたであろう給与や収入などのことをいいます。
被害者の方が亡くなってしまった場合は「被害者が生きていていれば得られるはずであった利益」のことをいいます。
死亡による逸失利益は、基本的に、被害者の方の「1年あたりの基礎収入」に亡くなった時点での年齢から、「稼働可能期間」(原則として18歳~67歳)をかけて算出されます。
なお、被害者の方が、67歳をすでに超えていたり、67歳付近であったりと、高齢者の方で、収入がある場合においては、簡易生命表を利用し、平均余命の2分の1を適用して計算がされます。
参考:交通事故の逸失利益はどうやって計算するの?2パターンの具体的な計算方法と弁護士を入れるメリット
2 損害賠償金はいくらになるのか
⑴死亡慰謝料の計算方法
慰謝料の計算基準には3つの基準があり、どの基準を適用するかで金額は大きく変動します。
以下では、各基準についてと2種類の死亡慰謝料について、計算方法をご紹介いたします。
①自賠責基準
自賠責基準とは、3つある算定基準の中で、最も低い基準です。
被害者の方救済の最低限の補償を目的とする自賠責保険で使用される基準であり、支払い限度額、並びに支払基準が明確に定められています。
自賠責基準では、以下の内容が支払い限度額となります。
死亡による慰謝料 | 内容 | 支払基準 |
被害者本人の慰謝料 | 400万円(※350万円) | |
ご遺族の慰謝料
※請求者(親、配偶者、子)の人数により金額は異なります。 | 請求者が 1名の場合:550万円 2名の場合:650万円 3名以上の場合:750万円 ※被害者に被扶養者がいる場合においては、上記の金額に200万円が加算されます。 |
ご遺族の方の死亡慰謝料については、「請求する人数」によって変わります。さらに、その請求する方の中に、被害者の方の扶養者がいる場合については、上記の金額に200万円が加算されることになっています。
たとえば、亡くなった被害者男性の方が、家庭を持っており、妻と子どもが2人おり、この妻と子ども達が、被害者男性の被扶養者であった場合は、以下の内容が、被害者側が受け取ることができる慰謝料となります。
被害者の方本人への慰謝料 | 400万円(※350万円) |
ご遺族の方への慰謝料 | 750万円+200万円 |
合計額 | 1,350万円(※1,300万円) |
②任意保険基準
任意保険基準は、3つの基準の中で真ん中に位置するものであり、計算方法や算定表といったものは非公開です。
これには、各保険会社が独自で定めているという事情があります。
これから紹介するのはあくまでも目安の金額です。
任意保険基準の場合は、「被害者の方の家族内での役割」が慰謝料に大きく影響します。
被害者の方の家族内での役割
一家の支柱 | 1,700万円程度 |
母親・配偶者 | 1,500万円程度 |
その他(独身者、未成年者、高齢者等) | 1,500万円程度 |
被害者の方が一家の経済的な支柱であった場合は、被害者の方が亡くなったことで、家庭の経済的支柱が失われると考えられます。そのため、慰謝料は他の方立場の方が亡くなった場合に比べて、高額となる傾向があります。
なお、自賠責基準とは異なり、被害者の方本人の慰謝料とご遺族の方の慰謝料について、分けて計算されることはあまりありません。
③弁護士基準
弁護士基準は、3つの基準の中で最も高額な慰謝料を算出できる基準です。
過去の裁判例などを参考に作成されていることから、裁判所基準、裁判基準とも呼ばれます。
裁判時もしくは、示談交渉段階では弁護士に依頼をした際のみ使用が可能です。
「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(通称:赤い本)」には基準の詳細が記載されており、死亡慰謝料については、以下の内容で記載されています。
被害者の方の家族内での役割
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
その他(独身者、未成年者、高齢者等) | 2,000万円~2,500万円 |
任意保険基準と同じく、被害者の方の家庭内の役割を基に定められており、また、被害者の方本人と遺族の方の慰謝料は分けて計算はされず、合算した金額となります。
⑵逸失利益の計算方法
死亡による逸失利益については、以下の計算式で求められます。
(計算式) 死亡逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×勤労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
基礎収入額については、被害者の方が事故に遭う前に得ていた年収を基に計算がされます。そのため、職業によって異なります。
被害者の方が無職であった場合は、就労による収入が見込まれるのであれば、基礎収入が認められ、逸失利益が請求できる可能性があります。
たとえば、再就職の予定が決まっていたり、就労の意欲があり蓋然性があったりした場合などが当てはまります。
また、実際の収入はありませんが、家事労働者である主婦や主夫の方が亡くなった場合も逸失利益が認められる可能性があります。ただし、この場合、基礎収入額をいくらに設定するかが争点となります。
基本的には「賃金センサスの平均賃金」を用いられます。
次に、生活費控除率ですが、亡くなった被害者の方が生きていた場合にかかった生活費を、損害賠償金から差し引くというものです。
このパーセンテージは、亡くなった被害者の方の家族内での役割や性別で異なります。
一家の支柱(扶養家族1人) | 40% |
一家の支柱(扶養家族2人以上) | 30% |
女性 | 30% |
男性 | 50% |
なお、年金受給者である高齢者の方が亡くなった場合は、収入である年金のほとんどが生活費にあてられると考えられることから、年金金額を考慮しつつ、生活費控除率は50~70%とされることが多いです。
最後にライプニッツ係数ですが、「就労可能年数に対応する中間利息控除係数」といいます。
本来であれば、年月をかけて得る収入を、一括で損害賠償金として被害者側は得ることになります。
この損害賠償金を、銀行などに預けると利益が発生することから、利益分を予め差し引く必要があります。その際に用いられる数値をライプニッツ係数といいます。
死亡により働けなくなった年数に応じて数値は算出されます。
この年数は、死亡した年齢~67歳までの期間と考えることが一般的です。
ただし、定年間近であったり、67歳をすでに過ぎていたりする方も、交通事故の死亡事故の被害者になりえます。
その場合は、以下の方法で勤労可能年数を算出します。
①被害者の方の年齢が67歳間近の年齢だった場合
(ア)死亡または症状固定年齢~67歳までの年数 (イ)平均余命の2分の1の年数 |
上記2つのうち長い方を適用
②被害者の方の年齢が67歳を過ぎていた場合
平均余命の2分の1の年数 |
3 死亡慰謝料が増える場合
⑴被害者の精神的苦痛
被害者の方が受けた精神的苦痛が、通常よりも大きいものであると判断された場合、死亡慰謝料は増額する可能性があります。
たとえば、事故の態様が悪質であったり、加害者の態度が不誠実なものであったりした場合です。
被害者の方が死亡した事故の原因が、加害者の飲酒運転や信号無視などのケースは、加害者の過失が著しく大きく、事故の態様は悪質であると言えます。
また、加害者の態度が不誠実というのは、救護義務違反(ひき逃げ)や、警察から事情を聴取された際に虚偽の発言をした場合、示談交渉で不真面目な態度を見せた場合などがあたります。
事案によっては、加害者の立場であるにもかかわらず、被害者に対しての暴言を、ご遺族の方へ吐くことも珍しくありません。そのような場合も増額の理由となることがあります。
また、被害者の方が妊娠しており、胎児まで死亡してしまったケースでも死亡慰謝料は増額する可能性があります。
胎児の権利については、出生と共に認められることから、「胎児固有の慰謝料」は残念ながら法的に認められていません。
ただし、そこを補填する意味合いで、亡くなった妊婦である被害者の方の慰謝料を増額するようにしています。
⑵慰謝料の算定基準の見直し
交通事故の損害賠償請求問題は、ほとんどが示談交渉で解決していきます。
示談内容に双方が合意した場合は、そのまま示談成立となりますが、示談内容がまとまらない場合については、裁判や、交通事故紛争処理センターといった第三者機関で解決を図ります。
さて、交通事故問題における示談交渉ですが、多くの場合は、加害者が加入している任意保険会社を相手に進めていきます。
つまり、示談交渉を交通事故問題のプロを相手に進めていかなければならないということになります。
これは、被害者の方、死亡事故の場合はご遺族の方が行うため、非常に精神的な負担も大きく、また、わからないままに進めると、相手の保険会社のペースで話を進められてしまうことから、非常に低い金額で示談が成立しかねません。
先ほども述べましたが、慰謝料の算定基準が異なるだけで、死亡慰謝料は大きな差が生まれます。
相手の保険会社から示談案を提示された場合、保険会社がどの算定基準を使用しているか、まずは確認をしましょう。
もっとも、保険会社は、自社からの損失をできる限り抑えたいという理由から、任意保険基準か自賠責基準で算定していると考えられます。
ご遺族の方は必ず弁護士に相談するようにしましょう。そして算定基準の見直しをしてもらいましょう。
4 死亡事故についてのお悩みは、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
死亡事故における損害賠償請金についてご説明をさせていただきました。
死亡事故については、必ず弁護士に相談、依頼をすることを強くお勧めします。
ご遺族の方は、被害者の方が亡くなった悲しみの中、さまざまな手続きを進めていかなければなりません。加えて慣れない保険会社とのやりとり、示談交渉が加わると、その精神的ダメージは計り知れません。
弁護士に依頼をすることで、ご遺族の方は、示談交渉を任せることができるという点で、精神的負担を軽減することができます。
また、弁護士に依頼をすれば、弁護士基準ですべての損害を算定し、相手に請求を行えますので、慰謝料を含む損害賠償金の増額を見込むことができます。
死亡事故によりお困りの方は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。