交通事故の被害に遭い、怪我を負ったことなどで損害が発生すると、基本的に、慰謝料や休業損害等といった損害賠償金(示談金)を加害者側から受け取ることになります。
これは、交通事故によって被害者の方が受けた損害に対する支払いの為、労働の対価として得られる収入とは異なります。
しかし、【お金を得た】という事実には代わりがないことから「確定申告に影響があるのでは?」と考えられる方も珍しくありません。
ここでは、交通事故の示談金による収入について、確定申告が必要なのか否かなどについてご説明をさせていただきます。
目次
交通事故の示談金と確定申告について
基本的に確定申告する必要はない
まず、原則としては、交通事故の被害によって得た治療費や慰謝料、その他の損害賠償金を受け取った場合、確定申告をする必要はありません。
なぜなら、これらの金銭は「非課税」のものとして扱われているからです。
交通事故の慰謝料は原則として非課税
「交通事故の慰謝料などは原則として非課税である」ということに対して、お金を受け取っているにも関わらず何故非課税であるのか、という疑問が残る方は少なくないかと思います。
これは、慰謝料などの示談金を受け取ったからといって「被害者の方に得が生まれているわけではない」からです。
そもそも、慰謝料などの示談金は何を目的に相手側から支払われているのかを考えてみましょう。
交通事故の被害者の方は、交通事故に遭ってしまったがゆえに、何らかの損害を被ることになりました。それは、物が壊れたり、怪我を負ったり、精神的にも負担がかかったり、場合によっては後遺障害が残ってしまったりなど様々です。
この損害は、本来「交通事故に遭わなければ被る損害ではなかった」ものです。
被害者の方が受け取る示談金は、これらの損害を補償するものとなります。
つまり、示談金を受け取ることは、被害者の方にとってプラスになるのではなく、マイナスだった状態をプラスマイナスゼロに戻すということになります。
この考え方ですと、被害者の方にとって示談金を受け取ることは得が生まれるということにはあたりませんので、原則として示談金は非課税であり、確定申告はする必要が無いと言えます。
交通事故の慰謝料で確定申告が必要な場合
先ほども述べたように、基本的は、慰謝料などの金銭は非課税扱い、確定申告不要です。
しかし、例外的に「収入」として扱われることがあります。
非課税対象である理由は「示談金は被害者の損害をプラスマイナイスゼロの状態に戻すためであるから」というものでした。
言い換えると、「プラスマイナスゼロの状態に戻すためであると言えないもの」については非課税対象として考えることは難しくなります。
以下は例外的に課税対象になる場合です。
過剰に高額な慰謝料
原則として慰謝料は非課税です。しかし、非課税はあくまでも「損害賠償として認められる範囲内の慰謝料」です。過剰な慰謝料については非課税の慰謝料の対象外となることがあります。
例えば、全治1週間程度の打撲の怪我で、数万円の示談金を受け取った場合は、受傷の程度、通院における手間、精神的苦痛等、総合的に見ても問題ないと考えられ、非課税の対象として考えられるでしょう。
一方で、同じく全治1週間程度の怪我にも関わらず、示談金を数百万円受け取った場合です。
これは、受傷の程度と金銭が見合っていると言うには難しいはずです。
慰謝料が非課税対象として扱われるには、被害者の方の損害を補償するにあたり、社会通念上適していると考えられる金額でなければなりません。
あくまでも「プラスマイナスゼロの状態に戻すため」であることが重要です。
よって、非課税な慰謝料として相当な範囲を超えている場合は、「プラスマイナスゼロの状態に戻すため」とは言い難いため、確定申告をする必要があります。
被害者が死亡した場合
交通事故が原因で被害者の方が死亡した場合、ご遺族の方は被害者の方が亡くなったことに対する慰謝料をはじめとする示談金を受け取ることになります。
この場合、原則通りご遺族の方が受け取る示談金は非課税対象です。
しかい、被害者の方が亡くなったタイミングによっては、例外的に示談金に課税がなされてしまうこともあります。
稀なケースではあるのですが、典型的な例をあげると、交通事故で怪我を負った被害者の方が、加害者との間で示談交渉を進めており、示談が成立したが、その示談金を受け取る前に被害者の方が亡くなってしまった場合です。
この場合、示談金が相続税の対象となってしまうのです。
ご遺族の方は、被害者の方が亡くなったことで「示談金を請求する権利」を相続することとなります。
ご遺族の方からすると、「交通事故で受け取る示談金」であることには変わりありませんので、非課税対象ではないのか?と思うかもう知れません。
確かに被害者の方が亡くなることなく、示談金を受け取った場合は、過剰に高額な慰謝料でさえなければ基本的には非課税で取り扱われるものです。
しかし、この場合、示談が成立した段階で被害者の方は加害者に対して「示談金を請求できる権利」を得ることになります。
この権利が実現されないまま、被害者の方が亡くなると、権利=金銭債権そのものがご遺族の方へ相続されることになります。
相続した以上は、「示談金を請求する権利」は「ただの単純な金銭債権」として扱われます。
つまり、「示談金として50万円を請求できる権利」ではなく「50万円を請求できる権利」として、どのようなことが原因でその金銭債権が発生したのかは関係なくなるということです。
そうなると「プラスマイナスゼロの状態に戻す」という性質は失われるため、相続税の対象となってしまいます。
これは、示談交渉の場合だけでなく、裁判にて争っており、判決や和解で損害賠償額が確定したものの、実際に支払われる前に被害者の方が亡くなった場合も同じ考え方が当てはまり、相続税の対象となります。
課税対象になるケース
「交通事故で受け取った示談金は全て非課税である」と決めつけてはなりません。
税制上の気を付けておかなければいけないものがいくつかあります。
その例外を知らなければ、後々に延滞料と併せて請求があることもありますので、確定申告の取り扱いは非常に慎重にならなければなりません。
上記で紹介したもの以外にも課税対象となるケースはあります。
本来の意味とは違う見舞金
交通事故の怪我により、事故前と同様に働くことができなくなってしまう被害者の方は大勢いらっしゃいます。
事故前と同じように働けないということは、その分以前と同じ給与が受け取れないという状況が発生します。
このような場合、通常であれば加害者側から休業損害として補償を受けるべきですが、全額の補償は受けとれないことは珍しくありません。
この加害者側から補償された分は、「プラスマイナスゼロの状態に戻すため」のものであるため、非課税として扱われます。
注意をしなければならないのは、加害者側から支払われた休業損害では補償しきれず、収入が落ちてしまった場合、勤務先が「見舞金」として不足分の金銭を支払ってくれる事案です。
この場合、見舞金であり、かつ金額も社会通念上問題ない金額であると想定されることから、非課税として取り扱っても、一見問題ないと考えられるかもしれません。
しかし、この見舞金としての支払いは、元々給与として受けっといた分に達するために勤務先が支払いますので、実質的には「給与」に代わる性質をもった金銭だと考えられます。つまり、所得税が課されることになります。
被害者の方が覚えておかなければならないことは、勤務先から支払われる給与相当額の見舞金は、収入に代わる性質があるため、課税対象として扱われるということです。
経費を補てんする損害賠償金
交通事故が原因で、積載品である商品のすべてが売り物として市場に出せなくなった、となった場合、これらも被害者の方が受けた損害として、商品に対する金銭が支払われます。
さて、ここでの注意点は、事故に遭い損害を受けた商品は、そもそもは、市場に流して、代金を得るものであったということです。
本来、事故が無かった場合、通常の市場であれば、商品は被害者である売り手から買い手に渡り、代わりに売り手は金銭を得ることになっていました。
しかし、被害者の方は、交通事故が原因でこの市場取引を行うことができなくなりました。
その結果、「商品は売り手である被害者の方の手元からなくなり、その代わりに損害賠償金を受け取る」ことになります。これで「プラスマイナスゼロの状態に戻る」ことになります。
つまり、商品代に対する損害賠償は、商品代=収入金額と同様の性質を持つことになります。
よって、被害者の方は、交通事故で壊れた商品について、名目はさておき、商品代として損害賠償金を受け取った場合、税金がかかってしまいます。
交通事故の示談金についてのご相談は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ
交通事故の示談金は確定申告をする必要があるのか否かについてご説明をさせていただきました。
重ねて申し上げますが、交通事故で受け取る示談金は原則非課税です。しかし、事案によっては課税対象になりえます。
申告漏れなどで後から、追加徴収などにより手間が増えることを避けるためにも、税理士などに相談をするようにしましょう。
また、慰謝料等の示談金についての金額そのものについての相談も、弁護士に早めにするようにしましょう。
交通事故に巻き込まれたら、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。