自転車は対自動車相手の交通事故の場合、被害者側の立場になることが多いですが、対歩行者相手の交通事故となった場合、加害者側の立場へと変わります。
免許取得の必要がなく、児童から高齢者まで幅広い世代で運転することが可能な自転車ですが、道路交通法上では【軽車両】に分類されます。
自転車側が、相手に怪我を負わせてしまった場合、自動車の事故と同様に損害賠償金を支払わなければなりません。
ここでは、自転車と歩行者の交通事故についてご説明をさせていただきます。
目次
1 自転車と歩行者の交通事故について
⑴道路交通法における自転車とは
道路交通法上において自転車は車両に分類され【軽車両】に該当します。
道路交通法で定められている内容に違反をした場合は、自動車と同様に責任が問われることとなります。
⑵自転車で事故を起こした時の責任
自転車で交通事故を起こし、相手の方に怪我をさせてしまった場合、もしくは死亡させてしまった場合は、業務上過失致死傷害罪、過失運転致死傷罪、危険運転致死傷罪、過失建造物損壊罪などといった『刑事上』の責任が問われることとなります。
また、刑事上だけでなく『民事上』の責任も負うことになります。
民事上の責任は、怪我、もしくは死亡させた相手に対しての慰謝料や休業損害を支払わなければならないという損害賠償責任が発生します。
これは自転車だから金額が減額されるということはありません。基本的には自動車事故の加害者側同様の損害賠償責任を負います。
⑶自転車事故の損害賠償
『自転車事故の場合、自動車事故程の損害賠償金にはならないだろう。』という考えをお持ちの方がいらっしゃるかもしれませんが、これは誤った認識です。
自転車での交通事故であっても、自動車と同様に損害賠償金を支払わなければなりません。
しかし、それにも関わらず、自動車事故程、自転車は保険制度が整備されていません。
そのため、加害者側が保険に未加入であったり、補償範囲の狭い保険に加入していたりした場合、死亡事故などを起こすと、支払いが非常に困難な状況となります。
自転車が加害者となり、被害者の方に対して高額な損害賠償金の支払いを命じた裁判例がいくつかあります。
その中でも、『自転車事故で、自動車事故と同じ水準での損害賠償を科せられた』と世の中が認識した事例は、2013年に7月に男子小学生が起こした事故による、約9500万円の損害賠償命令です(神戸地方裁判所)。
この事故は、加害者である男子小学生が、坂道を下っていた際に、被害者である歩行中の女性に正面衝突しました。女性はそのまま転倒し、頭蓋骨を骨折し、植物状態となりました。
損害賠償を命じられた、約9500万円の中には、治療費や慰謝料、休業損害、また後遺障害慰謝料、逸失利益、さらには将来に渡っての介護費用が含まれています。
この事故では、当事者である男子小学生は支払い能力がないため、その親が支払いを命じられています。
なお、この1件はあくまでも一例であり、自転車と歩行者の交通事故で高額な損害賠償金の支払いを命じられた裁判例は多数あります。
自転車を乗る方が、必ず覚えておかなければならないことは、自転車事故と自動車事故は慰謝料を含み、損害賠償は同水準だということです。
それにも関わらず、自転車には自動車のような、最低限の被害者救済を目的とする自賠責保険はありません。
保険に未加入の状態で事故を起こしてしまった場合、損害賠償金のすべてが加害者の事故負担となります。
2 自転車の責任
⑴自転車の交通ルール
自転車は、自動車とは異なり運転免許がありませんので、交通ルールを知らないまま乗っている方も少なくありません。
以下は自転車に乗る上で守らなければならない交通ルールです。
①自転車は車道を走らなければならない
歩道と車道の区別がある道路では、自転車は軽車両ですので、原則として車道を走行することになっています。
②車道の左側を走行する
自転車が車道を走行する際、自動車と同じく左側を走行しなければなりません。
③歩道走行時は、車道寄りを走り、歩行者を優先とする
①でご説明したように、基本的に自転車は車道を走行しなければなりませんが、危険を伴うと判断される車道では、歩道の走行が可能です。
しかし、歩道の走行時は、あくまでも歩行者を優先すること、また歩道の中央から車道寄りを走行しなければなりません。
また、車道を走行する際のスピードで走らず、すぐに停止できる速度を心がけ、歩行者の通行の妨げとなる場合、一時停止を行わなければなりません。
その他にも、夜間の無灯火運転の禁止、幼児2人同乗用自転車を除いた2人乗り運転の禁止、酒気帯び運転、酒酔い運転の禁止、2台以上並んでの並走禁止、傘さし運転や携帯電話・スマートフォン操作による片手運転の禁止等が挙げられます。
また、自動車と同様に、信号無視や一時停止違反、指定場所での一時停止違反等のルールがあり、先にあげたルールも含め、違反をすれば罰金、懲役などが科されます。
⑵自転車の過失割合
自転車事故の過失割合は、実はあまり類型化されていません。
自動車事故については、過去の裁判例からいくつか類型化されていますが、自転車同士、または自転車と歩行者の事故についてはパターンが確立されておらず、保険会社との交渉の際に争点になりやすいです。
過去の判例を基に協議はされますが、実際は事故の状況に応じて対応していくことが多いです。
自転車事故に遭った場合は、加害者側、被害者側どちらの立場であっても、適正な過失割合で進められるよう、交通事故問題に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。
3 歩行者にも責任があるケース
基本的に、自転車対歩行者の交通事故の場合、歩行者が交通弱者となるため、自転車側に損害賠償責任を問われる可能性が高いです。
しかし、歩行者にも責任が問われる場合もあります。
⑴車道上
横断禁止の場所から歩行者が無理に横断しようと車道に進入したケースや、歩行者信号が赤信号である時に、歩行者が横断歩道以外の場所から車道上に進入したといったケースでは、自転車側が予測することは非常に困難です。
歩行者は原則、車道と歩道に区別がある場合、歩道を通らなければなりません。
このようなケースで自転車と歩行者で事故が起きた場合、車道に進入した歩行者側には重い注意義務が課せられることになり、歩行者側にも過失があるとされます。
つまり、事案によっては、歩行者側が自転車側の治療費や自転車の修理代などと損害賠償責任を負うこともありえます。
⑵歩道上
歩道は、歩行者のための道路であることから、基本的には歩道を通る車両に歩行者側が注意する義務はありません。
先ほども説明させていただきましたが、自転車側には徐行義務や一時停止義務が課せられ、歩行者優先となります。
しかし、歩行者優先ではあっても『歩行者の自由』というわけではありません。歩行者側も他人の通行について注意する必要があります。
過去の事例では、歩道において、歩行者が周りの状況を確認せずに、傘を振った形で持ち替えたことで、自転車の籠に接触し、自転車が転倒した事故がありました。この際、歩行者側にも過失があったと認められています。
つまり、スマートフォンや携帯電話を見ながらの蛇行歩行や、交差点での飛び出しについては、歩行者側に損害賠償責任が問われる可能性もあるということです。
⑶車道と歩道の区別がない場合
基本的に、歩行者は交通弱者であり、自転車は歩行者の動きについて、注意して走行する義務が課せられています。
しかし、歩行者の予測不可能な行為・動き、飛び出しについては、自転車側が予測することは非常に困難です。
自転車も急に止まることはできない為、急ブレーキを踏んだ結果、転倒したり、自転車から投げ飛ばされたりすることもありえます。
よって、歩行者側の予測不可能な行為・動きや飛び出しについては、歩行者側にも責任が問われる可能性があります。
たとえば、団地の敷地内の道路において、駐車車両の陰から子供が飛び出し、自転車と衝突したケースなどが上げられます。
4 自転車と歩行者の交通事故については、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
自転車対歩行者の交通事故について、ご説明をさせていただきました。
自転車を普段から利用する方は、『軽車両』であり、万が一事故を起こしてしまった時には、自動車事故と同じ水準での損害賠償責任を負うことがあることを、覚えておきましょう。
また、歩行者の方も交通ルールを守らなければ、大きな事故に遭い怪我をしたにも関わらず、損害賠償責任を負う可能性があります。
自転車対歩行者の交通事故に遭い、お困りの方は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。