交通事故に遭った被害者の方は、相手の加害者側に損害賠償請求を行います。
この際に被害者の方はどういった損害を請求できるのでしょうか?
大きくは、交通事故に遭ったことで支出を伴う積極損害、交通事故に遭わなければ得ることができたであろう利益の損失(消極損害)、そして精神的損害の3つに分類されます。
精神的損害は、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料といったものがあります。
ここでは、交通事故で被害者となった方が請求できる積極損害、消極損害の主な項目について、また、整骨院の施術費用について、ご説明をいたします。
目次
1 交通事故による損害の範囲
⑴積極損害
積極損害とは、交通事故が無ければ支払う必要がなかった、つまり交通事故により実際にかかってしまった費用を指します。
病院での診察費用や検査費用、病院へ行くための交通費、被害者の方が亡くなった場合は、葬儀費用等があげられます。
代表的な損害項目は以下となります。
①治療費
治療費は、交通事故で怪我を負った被害者の方が、病院で診察や検査を受けたり、手術を受けたりなど、病院で治療を受けた費用が含まれます。また、薬を医師から処方された場合の処方箋代や、投薬費用も治療費とされます。
病院以外にも、整骨院・接骨院などで施術を受けた場合の施術費用も治療費に含めることができる場合もあります。こちらは、後程詳しくご説明いたします。
②通院交通費
被害者の方が病院へ通うために、公共交通機関やタクシーを使用するとなった場合、交通費を相手に請求することができます。
また、自家用車を使用した場合は、ガソリン代を請求することとなります。ガソリン代は1㎞あたりにつき、15円で換算されます。
通院交通費には、駐車場代や高速道路利用代も含まれます。遠方で治療を受ける場合、またその遠方地で宿泊が伴う場合は、宿泊費用も相手に請求する場合もあります。
なお、タクシー代や駐車場代、高速道路利用料、宿泊費用の他、特急列車を使用した場合は、必ず領収証やETCカードの記録を保管するようにしましょう。
根拠資料がなければ、請求をしても相手が認めない場合もありえます。
③付添看護費
怪我をされた被害者の方の年齢や、怪我の程度などを考慮した結果、入通院に付添人が必要であると判断されることがあります。
このような場合、付添看護費を相手に請求することが可能です。
被害者の方の怪我が入院を伴う時、親族の方が付き添うことが多いですが、この場合は『1日あたり6,000円』を請求することができます。
親族の方ではない、たとえば職業付添人に付き添いを依頼した場合、実際に被害者側が負担した費用が基準となります。
また、付添看護人が仕事をしており、付き添いの為仕事を休業した場合は、実際の休業損害額を基準として付添看護費が算出されます。
ただし、後者の場合、職業付添人を上回る金額については、補償が難しくなります。もしも親族の方が付き添うことにより、職業付添人以上に損害が発生するのであれば、職業付添人を雇うべきであろうと考えられるからです。
また、通院に際して付添人が必要であると判断された場合も、通院付添費を請求できることがあります。通院付添費を請求できるのは、被害者の方が幼児等の子供である場合、もしくは歩くことが困難であるといった、怪我の内容によって、付き添いが必要であると認定された場合に限ります。
もしも、認められた場合は、相手に『1日あたり3,000円』で請求が可能となります。
④入院雑費
被害者の方が入院をした場合、おむつや病衣などといったものが必要となることがあります。このような場合、諸雑費を相手に請求することが可能です。入院雑費は1日あたり1,500円で算出されます。
⑤将来介護費
被害者の方に後遺障害が残り、それが将来に渡って介護が必要となる傷害であった場合、介護にかかる費用も積極損害の1つとして、損害賠償請求できます。
将来介護費は、症状の程度や医師の診断を考慮し、必要であると認められた場合において支払わられます。
将来介護費が請求可能となる障害は、高次脳機能障害や植物状態といった、遷延性意識障害、四肢麻痺などといったものがあげられます。
なお、職業介護人を雇う場合と家族などといった親族が介護する場合では、請求できる金額の差が大きく異なります。
たとえば、後遺障害等級の1級や2級とされる高次脳機能障害や遷延性意識障害等といった後遺障害を持ち、常時職業介護人が必要である場合は、職業介護人にかかる費用のすべてが請求対象となります。1日20,000円程度の請求が認められたことも過去にあります。
対して、家族の方が介護する場合は、1日あたり8,000円程度が基準となります。もちろん被害者の方が負った後遺障害の重さに応じて多少の増額はありえますが、職業介護人よりも低くなることが多いです。
示談の際は、家族で介護することとなっており、将来介護費を計算されていても、その後、何かしらの理由で職業介護人を雇うこともあるでしょう。しかし、1度示談をしてしまうと、そういった事情は考慮されません。
将来介護費用を計算する際は、どのような体制で介護が将来も続くのか、現実的な観点から計算をしなければなりません。
⑥葬儀費用
被害者の方がお亡くなりになった場合、葬儀費用も積極損害として請求が可能となります。
葬儀費用は、通夜や祭壇、火葬、埋葬、墓石などに要する費用の他、お寺、僧侶に対してのお布施、お花代、お食事代が含まれます。
香典返しについては損害に含まれません。
また、金額は150万円程度を限度額として判断されることが多く、それを下回る場合は、実際にかかった金額をそのまま請求することができます。
なお、お亡くなりになった被害者の方の社会的地位によっては、150万円以上の葬儀費用がかかることもあり、その賠償を認められた裁判例もあります。
⑦弁護士費用
交通事故の被害者の方が、加害者である相手に損害賠償を請求する際に、弁護士を入れて示談交渉や訴訟を行うケースは、最近非常に多くなっております。
その際にかかった弁護士費用については、基本は被害者の方が負担されますが、場合によっては相手に請求が可能となります。それは、損害賠償請求訴訟、つまり裁判を行い、判決で相手の加害者に支払いが命じられた場合です。
なお、弁護士費用の全額ではなく、裁判で認定された損害賠償額の10%が、弁護士費用として相手に支払いを求めることが可能となります。
裁判以外(示談交渉や調停、ADR機関での紛争解決等)で解決する場合は、請求することは困難となります。
⑵消極損害
消極損害とは、交通事故が無ければ被害者が得られたであろう利益、つまり、交通事故によって失われた利益を指します。
人身事故における消極損害は、休業損害、後遺障害による逸失利益、死亡逸失利益が上げられます。
以下3つの損害項目を説明いたします。
①休業損害
休業損害とは、交通事故で負った怪我が原因で、働けない期間が発生したり、通院のために仕事を遅刻や早退したことで、得られなくなってしまったりした収入、減少した給与のことをさします。
この、『休業しなければ得ることができた収入』は休業損害として相手に請求することが可能です。
休業損害の計算は、基本的に『1日当たりの基礎収入×休業日数』で求めることができます。
この1日あたりの基礎収入の計算は、会社員や公務員の方の場合は、交通事故前の3ヶ月分の給与額を足して、就業日数(稼働日数)で割って出すことが多いです。
また、賞与がある場合は、年収を基準に計算されることもあります。賞与についてですが、休んだことにより、減額された場合は、賞与減額証明書等といった書面を勤務先に作成してもらいましょう。
自営業の場合は、事故前年度の確定申告書の所得を元に算出されます。
専業主婦(主夫)などの家事従事者の場合は、性別・年齢に関わらず、女性の平均賃金を使用して基礎収入が計算されます。
例えば、令和元年の全年齢の女性の平均収入は388万円です。これを365日であると、1日あたりの家事従事者方の基礎収入は、10,630円となります。
さて、休業日数は、『交通事故の怪我が原因で実際に休業せざるを得なかった日数』を指します。
会社員や公務員の方は、勤務先に『休業損害証明書』を作成してもらい、実際に欠勤した日を明記してもらう必要があります。
自営業者や家事従事者の方については、入院日数については、休業日数として基本的には換算されますが、通院日や自宅療養をした日については、すべての日数を休業日数として判断されることは非常に難しいです。
認められるためには、医師に診断書の作成を依頼し、就労制限があったこと、休業が必要であったことを証明することが重要です。
②後遺障害による逸失利益
消極損害の中でも、非常に重要であるのが、『逸失利益』です。
後遺障害逸失利益は、後遺障害が身体に残存したことにより、将来的に得られなくなってしまった収入を指します。
後遺障害逸失利益が認められるのは、基本的には、就労により収入を得ていた方です。ただし、子供や学生の方であっても、後遺障害が残らなければ、将来的に得られていた収入が、減少するとみなされた場合は後遺障害逸失利益を請求することが可能です。
後遺障害逸失利益は『事故前の1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×稼働可能期間に対応するライプニッツ係数』で算定が可能となります。
基礎収入は、被害者の方の事故前年度の年収が基本とされます。
子供が被害者の場合は、男女別の平均賃金を使用して計算されることが多いですが、この場合、女子の逸失利益が男子に比べて低額になることから、女子を計算する場合は『男女の平均賃金』を使用することが多いです。
労働能力喪失率とは、後遺障害によって失われてしまった労働能力の割合を示す数値であり、後遺障害の等級によって異なります。等級が高ければ高いほど、労働能力喪失率も高くなります。
以下の表が各等級における労働能力喪失率です。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
最後に、ライプニッツ係数です。
逸失利益は、本来、徐々に受け取る収入を、損害賠償金として一括で受け取ることになります。つまり、本来は得られる予定がなかった運用利益が発生します。交通事故の損害計算においては、その点も調整されることになります。
そのために、使用される特殊な係数を『ライプニッツ係数』といい、勤労可能年数によって、ライプニッツ係数は異なります。
③死亡逸失利益
交通事故により被害者の方が亡くなった場合、死亡慰謝料とは別途、死亡逸失利益を請求することが可能となります。
死亡逸失利益とは、被害者の方が生きていれば、将来に渡って得るはずであった収入を指します。
死亡逸失利益は、基本的には亡くなった被害者の方の「1年あたりの基礎収入」と、亡くなった際の年齢(原則として18歳~67歳)を基準に、「稼働可能期間」、つまり働けていたであろう期間を算出し、これを掛けて算定されます。
しかし、被害者の方は生きていれば収入も得ますが、生活費がかかることとなります。よって、この収入から生活費を差し引くことが必要です。
これは『生活費控除率』といいます。
生活費控除率は亡くなった方が家庭内でどのような立場であったかも考慮されます。
被扶養者が1人の場合は40%、2人以上の場合は30%、また家事従事者や独身の方、幼児などの子供の場合も30%とおおむね決められています。一家の支柱でない場合は、女性は30%、男性50%、ともされています。
また、後遺障害逸失利益と同様、ライプニッツ係数も使用されます。
よって、お亡くなりになられた被害者の方の逸失利益は『死亡逸失利益 = 事故前の1年あたりの基礎収入 × (1-生活費控除率) × 稼働可能期間に対応するライプニッツ係数』にて求めることが可能となります。
2 整骨院の施術費が交通事故の賠償金として認められやすい場合
⑴施術費用が症状により有効かつ相当
先程、積極損害をご説明させていただいた際に、『整骨院・接骨院の施術費用も治療費に含められる場合がある』と述べさせていただきました。
これは、どういった場合に治療費として認められるのでしょうか?
整骨院の施術費用を相手に請求するためには、整骨院の施術が、医学的に合理性があると認められる必要があります。
つまり、整骨院の施術が、被害者の方の怪我に対し、有効でかつ相当であることが重要です。
もしも、不要であると判断された場合は、相手に請求することはできません。
整骨院・接骨院の施術費用に限らず、病院での治療費にも言えることではありますが、相手に請求が可能な治療費は、必要かつ相当な範囲、であることがポイントとなります。
⑵医師の指示がある場合
「病院には行きましたか?」という質問に対して、「整骨院には行きました。」と回答される方は意外にも少なくありません。
実際、病院と整骨院は混合されることがよくあり、「整骨院に通っていれば問題なし」と認識されている方も多くいらっしゃいます。
ただし、実際は病院と整骨院は異なる施設であり、整骨院では医療行為である「治療」を受けることはできません。整骨院にいらっしゃる柔道整復師は医師ではないため、対応が可能なのは、医療類似行為とされるマッサージを中心とした施術行為となります。
そのため、整骨院で施術を受けても適切な治療ではない、という理由を相手より主張され、整骨院の施術費用を請求できない可能性もあります。
では、整骨院の施術費用を認めてもらいやすくするには、具体的にどうすればよいのでしょうか?
答えは、医師の指示をもらうことです。
事故に遭ったら、まずは病院、整形外科へ行き、医師の診察を受けましょう。
その上で、医師に整骨院へ通いたい旨を伝えましょう。
事前に医師から整骨院で施術を受けるよう指示を受けること、医師に整骨院への通院の許可を得ることは非常に重要です。
医師より許可が下りた後に、整骨院に通うことが被害者の方にとってベストな選択であるといえます。
何故ならば、医師の指示に基づいた施術行為は、被害者の方の怪我に対し、有効でかつ相当であるという主張が可能となるからです。
つまり、整骨院の施術費が治療費として、つまり損害賠償内として認められる可能性が非常に高くなります。
3 整骨院の通院については、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
被害者の方が請求できる積極損害、消極損害の主な項目について述べましたが、こちらで述べた内容はほんの一部です。
事故態様、怪我の内容によっては、請求できるものは異なります。
被害者の方は損をしない為にも、示談をする前に一度弁護士に相談することをおすすめします。
本来は請求できたものが、知らずに示談をしてしまったがために請求できなくなるということは、被害者の方にとって非常に不利益なことです。
整骨院の施術費用についても、相手の保険会社から「こちらは、病院での治療以外の費用は認めません。」と言われてしまうことも少なくありません。
被害者の方の中には、そういうものなのか、と思い、自己負担で整骨院委通院されている方もいらっしゃるでしょう。
このような時は、本当に請求ができないのか、弁護士に相談をしましょう。正しい手順を踏めば、請求できる可能性もありえます。
整骨院の施術費用についてのご不安、ご質問がある方は、交通事故問題を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談くださいませ。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。