交通事故が起きた場合、治療の際に整骨院を利用することもあると思います。
整骨院での治療は、短期スパンで完治を目指すというよりはむしろ、徐々に症状を和らげていく性質のため、長期に及ぶことが多いといえます。
そうなると、もっと通ってもらい、もっと施術費を稼ごうとの誘惑が働いてしまう整骨院が存在する可能性もあることでしょう。
きちんと、被害者の回復を願い職務に専念する志のある整骨院であれば、そのような誘惑にも惑わされず、正当な施術のみを行うと考えられますが、悪徳整骨院であれば、そうとも限りません。より悪質であれば単なる偽装請求も考えられます。
不要な施術を繰り返すことは、被害者への負担にもなりますし、交通事故被害者であるにも関わらず、不正請求への片棒を担ぐことになりかねません。
そこで、整骨院で起こる不正請求がどのようなものであるか、不正請求の共犯とならないためにすべきことついてご説明致します。
目次
1 交通事故後、整骨院で起こる不正請求とは
⑴保険会社に対して行われる架空の水増し請求
交通事故後、整骨院が損害保険会社に対して、患者に対し不必要な施術をしたうえで施術費を請求する、通院してもいないのに通院したことにして施術費を請求するといった不正請求が行われることがあります。
交通事故被害者は、むちうち症のような長期的な施術が必要となるケースが多く、売り上げの観点からすると魅力があることは事実だと考えられます。そのため、本心ではむち打ち症ではないと考えていたとしても、むちうち症であることを前提とした施術を行ってしまおうという誘惑に負けてしまう整骨院も実際に存在します。
被害者にとっても、通院慰謝料の算定額が大幅に上がる可能性もあるため、美味しい話のように感じてしまい、むちうち症があるかのように保険会社へ申し出たり、通院していないのにも関わらず、通院したことにすることへ同意してしまうことが考えられます。
しかし、保険会社に対して、不要な施術を必要であるかのように装うことや、通院したかのように装い、保険会社を騙して治療費の支払いを受ける行為ですから、詐欺罪が成立する可能性があります。
また、被害者自身も、上記不正行為を認識していれば、被害者自身の利益にもなる不正請求ですので、共同正犯が成立する可能性もあります。
実際に起訴されるか、刑罰を科されるかは検察官や裁判官の判断によるところなので断言はできませんが、実例がある以上はリスクのある行為であるといえます。
不正請求を認識しながらその片棒を担ぐことは、交通事故の被害者であるにも関わらず刑事被告人になるといった、立場が変わってしまうことになるため絶対に避けるべきといえます。
2 不正請求の具体的な事例
⑴裁判
名古屋地裁令和2年9月25日刑事第一部判決の詐欺未遂被告事件につきご説明致します。
⑵事案の概要
交通事故被害に遭った被害者に対する施術について、保険会社に対し実際に施術を受けた日数よりも4日間多く水増しし保険金を請求し、3万4320円の保険金をだまし取ろうとしたが、保険会社職員に看破されたという事例です。
⑶判決主文
柔道整復師である被告人に対し、懲役1年6月の有罪判決がなされました。もっとも、執行猶予が付されています。
⑷量刑の理由
量刑の理由について裁判所は、借金返済のために繰り返し行っていたという被告人の常習性・利欲的な動機、柔道整復師の立場を悪用したという態様を重視し、刑事責任は軽くないという認定をしています。
もっとも、未遂に終わっていることや、余罪部分も含めた被害弁償を目的として約230万円の供託を行っていること、前科のないこと、反省の態度、謝罪及び被害弁償を進めていること等の事情を考慮し、社会的更生の機会を与えることを目的とし刑の執行猶予が与えられました。
⑸この判決から考えられること
まず、保険会社の職員に水増し請求につきばれていることです。今回の犯行は約3万5千円の請求であったにも関わらず、被害弁償として約230万円も支払おうとしている点からも、かなりの数の水増し請求をしていたことが推認できます。
数多くの交通事故対応を行っている保険会社にとって、負傷内容等様々な事情から、不自然な施術を行っているのではないかと簡単にばれていることが考えられます。不正請求を行っている整骨院が、自分に対してだけ不正請求を行っていることはまず考えにくいです。そのため、本件犯行の背後にも膨大な不正請求があったと推測できることから、当該整骨院はマークされ続けていたことが考えられます。
そのため、少しくらいならばれない、自分は大丈夫だ、のように考えることは止めましょう。
次に、本件で執行猶予が付されていることは前述の未遂に終わっていることや、余罪部分も含めた被害弁償を目的として約230万円の供託を行っていること、前科のないこと、反省の態度、謝罪及び被害弁償を進めていること等の事情があったからです。
仮に、保険金を騙し取ったという既遂結果が後から判明したケースや、被害金額がさらに高額であった場合、前科のあった場合、柔道整復師に弁償する資力の無かった場合などは、実刑判決が下された可能性が容易に考えられます。そのため、裁判となり有罪判決となっている本事例が、決して一番悪質な事例ではないということです。このように一番悪質な事例ではない場合でも有罪判決の下されるように、保険詐欺は決して軽い犯罪ではありません。
そして、被害の大きさや犯行態様の悪質性が、有罪認定や量刑に影響を与えることから、場合によっては保険詐欺に加担した被害者も共犯として罰せられる可能性が考えられます。
つまり、被害者も保険詐欺への積極的な関与があるといった態様、高額の通院慰謝料を獲得しようとしていたなどの被害者自身が利益を得ようとする目的、実際に騙し取った金額の大きさなどの事情があれば、被害者であってもかなり悪質であるといえます。このような場合、犯罪の主犯者である整骨院の柔道整復師と同様の共同正犯になってしまうことや、そこまでは認められなくても幇助犯として罰せられることも考えられます。
そのため、保険詐欺の片棒を担ぐことは自分も刑事責任を負う可能性があることを絶対に覚えておきましょう。
3 整骨院等で起こる不正請求の共犯にならないために
⑴優良な整骨院を選ぶポイント
あくまで、本記事でお伝えしたいことは整骨院を使用するなということではありません。むち打ち症などの場合、整骨院における施術が症状回復のために有用である場合も数多くあるため、信頼のできる整骨院を選択することが何よりも重要です。
その際、優良な整骨院を選ぶには、交通事故対応を数多く取り扱っている数多くの実績がある整骨院をお勧め致します。
実績のあるということは、被害者の方にとって最良の施術を期待できることは当然として、悪事に手を染めないからこそ信頼されていると推認できるからです。
⑵施術の内容の正当性
当然のことですが、症状の改善に役立つことが必要な治療である前提です。
例えば、特殊事情はないものとして、首のむちうち症が症状であるにもかかわらず、腰部のマッサージをしたとしてもそれが必要な治療であるとは誰も信じませんよね。
大げさな例を挙げましたが、施術の内容が、過剰であるといった疑いや、症状が全く改善しないのに子の施術は何のためにしているのだろうといった疑いを持った場合には、整骨院の先生に一度聞いてみることや、併用している整形外科等の医師にご相談されると良いかもしれません。明らかに不要な施術であればストップをかけてくれることでしょう。
⑶通院の頻度・回数の適切性
明らかに通院の頻度や回数についても多すぎた場合、疑問に持たれても良いかもしれません。これらの回数が多ければ多いほど、施術費は高くなるため、不正請求をしようとしている可能性があるからです。
いつまで通い続けるのだろう、慢性的な症状であるにもかかわらず、施術がこんなに頻繁なのはなぜだろうといった疑問を感じた場合は、同様に医師へ相談されても良いかもしれません。
4 交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
本記事において、整骨院で起こる不正請求がどのようなものであるか、不正請求の共犯とならないためにすべきことついてご説明致しました。
この記事において特にお伝えしたいことは、保険金はあくまで損害の回復のために必要な限度で支払われるものであるということです。保険金の支払いを受けることによって、交通事故前と比べて儲かってラッキーといった都合の良い話はありえないということです。
繰り返しますが、交通事故対応を取り扱う数多くの実績のある整骨院を選択されることを強くお勧め致します。
そして、どれほど気を付けていても保険詐欺に巻き込まれてしまうことや、保険詐欺を疑われてしまうことも考えられます。その際は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。