令和4年に起こった,自転車が関連する事故の件数は,約7万件にものぼっています。
また,全交通事故のうち,自転車が関連する事故の割合は平成28年以降上昇しており,令和4年の全交通事故に占める自転車関連事故件数の割合は23.3%となっています。
街中でも,自転車の運転にヒヤッとする機会もよくあるのではないでしょうか。
そこで,法的に処罰される自転車の危険な行為と,それに対する罰則,危険運転の被害に遭われた場合の対処法についてご説明いたします。
目次
1 自転車の危険運転とは?具体的な15個の例を紹介
信号無視 | 自転車が道路を通行する際,横断歩道を進行して道路を横断する場合には信号機に従わなければいけません(道交法7条,道交法施行令2条) |
通行禁止違反 | 通行止めや車両進入禁止の場所を通行してはいけません(道交法8条1項) |
歩行者用道路における車両の義務違反(徐行違反) | 歩道を通行する際,歩行者に注意して運転しなければいけません(道交法9条) |
通行区分違反 | 自転車は原則車道を通行しなければいけません(道交法17条1項,4項,6項) |
路側帯通行時の歩行者の通行妨害 | 路側帯を通行する際,歩行者の通行を妨げてはいけません(道交法17条の2第2項) |
遮断踏切立入り | 踏み切りの遮断機が閉じようとしているとき,閉じているとき,警報がなっているときは,踏み切りに入ってはいけません(道交法33条2項) |
交差点安全進行義務違反等 | 交差点の進行等における違反をいいます(道交法36条) |
交差点優先車妨害等 | 交差点を右折する際は,直進車・左折車が優先です(道交法37条) |
環状交差点安全進行義務違反等 | 環状交差点では,時計回りの通行をしなければなりません(道交法37条の2) |
指定場所一時不停止等 | 道路標識等により一時停止すべきとされている場所では,一時停止しなければいけません(道交法43条) |
歩道通行時の通行方法違反 | 自転車は,原則として車道を通行しなければなりません。例外的に,運転者が子どもの場合,車道又は交通の状況に照らして当該自転車の通行の安全を確保するため当該自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるときには歩道を通行することができます。ただし,自転車は車道寄りを徐行しなければいけません(道交法63条の4第2項) |
制動装置(ブレーキ)不良自転車運転 | ブレーキ,反射板,尾灯を備え付けていない自転車を運転してはいけません(道交法63条の9,道交法施行規則9条の3) |
酒酔い運転 | アルコールの影響により正常な運転ができない恐れがある状態で自転車を運転してはいけません(道交法65条1項) |
安全運転義務違反 | ハンドル・ブレーキをきちんと操作して,他人に危害を及ぼさない速度・方法で運転しなければいけません(道交法70条)。携帯電話を使いながら運転し,事故を起こした場合にも適用されることがあります |
妨害運転(交通の危険のおそれ、著しい交通の危険) | 妨害運転とは,あおり運転のことです。他の車・歩行者の通行を妨げる目的で幅寄せなどを行ってはいけません(道交法117条の2第1項第4号,117条の2の2第1項第8号) |
参照:警察庁 自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~ 自転車に係る主な交通ルール
2 自転車の危険運転による罰則はどうなる?刑事罰と民事責任の違いとは
⑴自転車の危険運転による刑事罰
自転車の危険運転に対する道路交通法上の罰則は以下のようになっています。
危険運転 | 罰則 |
信号無視 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
通行禁止違反 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
歩行者用道路における車両の義務違反(徐行違反) | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
通行区分違反 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
路側帯通行時の歩行者の通行妨害 | 2万円以下の罰金又は科料 |
遮断踏切立入り | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
交差点安全進行義務違反等 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
交差点優先車妨害等 | 5万円以下の罰金 |
環状交差点安全進行義務違反等 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
指定場所一時不停止等 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
歩道通行時の通行方法違反 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
制動装置(ブレーキ)不良自転車運転 | 5万円以下の罰金 |
酒酔い運転 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
安全運転義務違反 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
妨害運転(交通の危険のおそれ、著しい交通の危険) | 3ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
また,交通事故を起こして相手が怪我を負ったり死亡すれば,「過失傷害罪」,「過失致死罪」,「重過失致死傷罪」のいずれかが成立することがあります。
罪名 | 罰則 |
過失傷害罪 | 30万円以下の罰金又は科料 |
過失致死罪 | 50万円以下の罰金 |
重過失致死傷罪 | 5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金 |
(過失傷害)
第二百九条 過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
(過失致死)
第二百十条 過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する。
(業務上過失致死傷等)
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
なお,自転車と歩行者の交通事故について,当事務所の次のコラムでご紹介しているので,ご覧ください。
⑵自転車の危険運転による民事責任
自転車の危険運転を行い,通行人に怪我をさせる行為は,民法上の不法行為にあたります。
不法行為を行った運転者は損害賠償責任を負います。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
運転者は,賠償金として治療費や慰謝料などを支払うことになります。
被害者が死亡したり,重度の障害を負った場合には,多額の賠償金を支払わなければなりません。
例えば,男子小学生(11 歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62 歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となった事案では,9521万円の賠償が命じられています(神戸地方裁判所、平成 25 年7月4日判決)。
なお,自転車保険について,当事務所の次のコラムでご紹介しているので,ご覧ください。
⑶民事責任と刑事責任の違い
刑事責任と民事責任は別物なので,刑事裁判を受けたからといって,民事責任を免れることができるわけではありません。
もし加害者となってしまった場合,民事の賠償金は数千万円に昇ることがあるので,保険に加入していなければ支払うことができないかもしれません。
多くの都道府県では,自転車損害賠償責任保険等への加入が義務化されています。
もし加入していなければ,万が一に備えて自転車保険に加入しましょう。
また,高額の賠償事例も発生しているので,支払限度額が1億円以上の補償内容が備わっている保険に加入していることが望ましいです。
参照:国土交通省 自転車損害賠償責任保険等への加入促進について
3 自動車事故と自転車事故の違い
⑴自賠責保険への加入義務がない(都道府県による)
自動車の場合,自賠責保険の加入は義務化されています。
これに対して,自転車損害賠償責任保険への加入については,義務化されている都道府県とそうでない都道府県があります。
そのため,加害者が無保険である場合,自転車の危険運転被害に遭い,怪我を負っても十分な賠償金を受け取ることができない可能性があります。
⑵示談交渉
加害者が無保険であれば,保険会社の担当者が示談交渉を行うことはありません。
事故の当事者同士が交渉を行うことになります。
⑶後遺障害等級の認定機関がない
自動車事故の場合,後遺障害等級認定は損害保険料算出機構の自賠責損害調査事務所が行います。
これに対して,自転車の場合,自賠責保険の適用がないため,後遺障害等級の認定機関がなく,適切に後遺障害等級を認定してもらうことは難しいです。
4 自転車の危険運転に遭った場合の対処法とは
⑴警察への報告
警察への報告は道路交通法上の義務です。
また,警察へ報告しておかなければ,保険金を受け取るのに必要な交通事故証明書が発行されません。
警察へ届け出ておけば,実況見分がなされて,実況見分調書が作成されます。
実況見分調書は示談交渉で過失を争う際に有用です。
それに加えて,その場では怪我をしていないと思っても,あとから症状が出てくる場合があります。
警察に届けておかなければ,加害者から「事故なんて起こしていない」と白を切られて,治療費などを請求できない可能性があります。
⑵加害者への確認
あとで示談交渉を行うことになるので,加害者の個人情報を確認します。
名前,住所,連絡先,車のナンバーをメモに書き写すか,スマートフォンに残しておきましょう。
また,相手の免許証や自動車検査証などをスマートフォンで撮影しておきましょう。
さらに,加害者が任意保険へ加入しているかどうかも確認しておきましょう。
⑶病院に行く
自覚症状がなくとも,できるだけ早く病院に行って,診断・治療を受けましょう。
事故後時間がたってから病院に行くと,相手方から事故とは無関係の怪我だと反論される可能性があるからです。
⑷示談交渉
治療が終了し,損害が明らかになってから,加害者と示談交渉を行いましょう。
事故直後は症状が出ていなくとも,あとから怪我が発覚する場合もあります。
そのため,全ての損害が明らかになった段階で示談交渉を行いましょう。
自転車事故の場合,加害者本人と示談交渉をする場合もあります。
本人同士の交渉では,加害者が感情的になり,支払に応じてくれない可能性があります。
そこで,専門家であり交渉に慣れている弁護士に依頼した方が,スムーズに示談交渉を進めることができます。
また,後遺障害診断書の頼み方も助言してもらえるので,後遺障害等級認定がされやすくなります。
5 まとめ
自転車の危険運転被害に遭った場合,自動車事故の場合以上に,示談交渉がスムーズに進められなかったり,適切な後遺障害等級認定を受けることができない可能性があります。
そのため,自転車事故の対応には,自動車事故以上に被害者にとって負担となる可能性があります。
適切な賠償金を得るために,自転車の危険運転被害に遭ったら,弁護士に相談してみることをお勧めします。自転車の危険運転被害に遭い、お困りの方は、交通事故を多く取り扱う大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。