股関節は,歩く,立つ,しゃがむなどの様々な運動を可能にしています。
交通事故で股関節を負傷すれば,機能障害,変形障害などの後遺障害が残る可能性があります。
当コラムでは,股関節の後遺障害についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で股関節が負傷したらどうすればいいの?行うべき3つの対応
交通事故で股関節が負傷したら,以下の対応をとりましょう。
⑴病院を受診する
早期に病院を受診して検査を受け,傷病名が分かり治療を開始すれば,後遺障害が残らないことがあります。
そのため,股関節を負傷したらすぐに病院を受診しましょう。
⑵継続的に治療を受ける
適切な治療を受け続ければ,後遺障害が残らない可能性があります。
仮に,後遺障害申請を行うにしても,定期的に通院していなければ,すぐに治る怪我だと判断され,後遺障害等級が認定されないおそれがあります。
⑶弁護士に依頼する
後遺障害申請をする・しないどちらにせよ,加害者側に対して損害賠償請求することになるでしょう。
弁護士に依頼すれば,示談交渉を代わりに行ってもらえるうえに,「弁護士基準」という高い基準で示談金を算定してもらうことができます。
2 交通事故による股関節疾患の種類とその特徴とは?
交通事故が原因で発症する股関節疾患には以下のようなものがあります。
⑴股関節後方脱臼(こかんせつこうほうだっきゅう)・骨折
車に乗車中,交通事故に遭い,事故の衝撃で膝がダッシュボードに打ち付けられて,大腿骨が関節包を突き破り後方に押し上げられることで発症します。
その際に,大腿骨頭が収まっている部分を骨折することもあります。
股関節後方脱臼・骨折が重症化すれば,変形性股関節症を発症する場合があります。
股関節脱臼の症状は,脱臼部位の痛み,腫れ,股関節の異常可動域,内側に異常に曲がる状態となり,後方に大腿骨が押し上げられ,大腿が短くなる,などです。
骨折も合併していれば,骨折片が坐骨神経を圧迫し,坐骨神経麻痺を引き起こすことがあります。
股関節脱臼により,大腿骨頭に栄養を送り込んでいる血管を損傷すれば,大腿骨頭に栄養や酸素が供給されなくなり,大腿骨頭が壊死してしまいます。
大腿骨頭が壊死した場合,大腿骨頭部を切断して人口骨頭を埋め込みます。
⑵股関節中心性脱臼(こかんせつちゅうしんせいだっきゅう)
自転車・バイクと自動車の事故で,自転車・バイクの運転者に多く,事故時に左右方向から圧力が加わることで発症します。
股関節中心性脱臼を発症すると,変形性股関節症や骨化性筋炎を発症することもあります。
⑶変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)
股関節部の軟骨が摩耗し,骨に変形をもたらす疾患です。
立ち上がった際,歩き始めの際に股関節に痛みを感じることから始まり,進行すれば股関節の痛みが持続し歩行が辛くなります。
⑷ステム周囲骨折
車に乗って,交差点で信号待ち中,右足はブレーキを踏んでいます。
その際,後ろから追突されると右股関節に大きな衝撃が加わります。
右股関節が人工関節である場合に発症するのがステム周囲骨折です。
また,股関節が人工関節である歩行者・バイク・自転車と,自動車が出会い頭で衝突する交通事故でもステム周囲骨折を発症します。
⑸股関節唇損傷(こかんせつしんそんしょう)
歩行者・自転車・バイクが交通事故に遭い,転倒時に股関節が大きく広げられた場合,関節唇(股関節にある柔らかい軟骨組織)に亀裂が生じます。
股関節唇損傷を発症すれば,脚を動かそうとする際(例えば,靴下を履くとき)に疼痛が走り,引っかかるような症状が出ます。
3 股関節疾患の後遺障害等級の決め方とは?
股関節疾患の後遺障害等級は,以下のように決まります。
後遺障害等級 | 後遺障害 | 認定基準 | |
機能障害 | 8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | ・股関節が全く動かせない・障害がない方の股関節が動かすことができる範囲と比べて,10%以下しか動かすことができない・人工股関節に置き換える手術を行った場合,障害がない方の股関節が動かすことができる範囲と比べて,2分の1しか動かすことができない |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | ・障害がない方の股関節が動かすことができる範囲と比べて,2分の1以下しか動かすことができない・人工股関節に置き換える手術を行った場合,障害がない方の股関節が動かすことができる範囲の2分の1よりも大きい範囲しか動かすことができない | |
12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 障害がない方の股関節が動かすことができる範囲と比べて,4分の3以下しか動かすことができない | |
変形障害 | 7級10号 | 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの | 次のいずれかに該当し,常に硬性補装具を必要とするもの・大腿骨の骨幹部又は骨幹端部(骨幹部等)にゆ合不全を残すもの・脛骨および腓骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すもの・脛骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもの |
8級9号 | 一下肢に偽関節を残すもの | 次のいずれかに該当するものをいう・大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので,常に硬性補装具を必要としないもの・脛骨および腓骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すもので,常に硬性補装具を必要としないもの・脛骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので,常に硬性補装具を必要としないもの | |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの | 次のいずれかに該当するもの。これらの変形が同一の長管骨に複数存する場合もこれに含む⑴次のいずれかに該当し,外部から見てわかる程度以上のもの①大腿骨に変形を残すもの②脛骨に変形を残すもの⑵大腿骨または脛骨の骨端部にゆ合不全を残すもの,または脛骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもの⑶大腿骨または脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの⑷大腿骨または脛骨の直径が3分の2以下に減少したもの⑸大腿骨が外旋45度以上または内旋30度以上変形ゆ合しているもので,次のいずれにも該当することが確認されるもの①外旋変形ゆ合にあっては,股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと内旋変形ゆ合にあっては,股関節の外旋が15度を超えて可動できないこと②X線写真等により,大腿骨骨幹部の骨折部に回旋変形ゆ合が明らかに認められること | |
動揺障害 | 8級準用 | 「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」に準じる | 常に硬性補装具を必要とするもの |
10級準用 | 「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」に準じる | 時々硬性補装具を必要とするもの | |
12級準用 | 「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に準じる | 重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの | |
短縮障害 | 8級5号 | 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの | X線写真による左右肢の比較などにより判断される |
10級8号 | 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの | ||
13級8号 | 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの | ||
神経障害 | 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 障害の存在が医学的に証明できるもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 障害の存在が医学的に説明可能なもの |
※動揺障害とは,股関節が正常より大きく動かすことができる,または異常な方向に動かすことができるようになったものを指します。
4 股関節疾患の被害者が受けられる損害賠償の種類と相場は?
⑴股関節疾患の被害者が受けられる損害賠償の種類
股関節疾患の被害者は,以下の項目について損害賠償請求することができます。
積極損害 | 治療費,入通院の付添費用,入院雑費,通院交通費などを請求できます。 |
消極損害 | 休業損害,後遺障害逸失利益を請求することができます。 |
慰謝料 | 入通院慰謝料,後遺障害慰謝料を請求することができます。 |
物損 | 修理費,代車使用料などを請求することができます。 |
⑵股関節疾患の被害者が受けられる損害賠償の相場
入通院慰謝料,後遺障害慰謝料には,自賠責基準,任意保険基準,弁護士基準の3つの支払い基準があります。
自賠責基準が1番低い基準で,弁護士基準が1番高い基準になっています。
股関節疾患の後遺障害慰謝料の相場は以下のようになっています。
後遺障害等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 | |
機能障害 | 8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 331万円 | 830万円 |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 190万円 | 550万円 | |
12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 94万円 | 290万円 | |
変形障害 | 7級10号 | 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの | 419万円 | 1000万円 |
8級9号 | 一下肢に偽関節を残すもの | 331万円 | 830万円 | |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの | 94万円 | 290万円 | |
動揺障害 | 8級準用 | 「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」に準じる | 331万円 | 830万円 |
10級準用 | 「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」に準じる | 190万円 | 550万円 | |
12級準用 | 「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に準じる | 94万円 | 290万円 | |
短縮障害 | 8級5号 | 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの | 331万円 | 830万円 |
10級8号 | 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの | 190万円 | 550万円 | |
13級8号 | 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの | 57万円 | 180万円 | |
神経障害 | 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 32万円 | 110万円 |
なお,交通事故で受け取れる損害賠償の相場,加害者に請求できる項目,入通院慰謝料の相場について,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故で加害者に請求できる14個の項目を弁護士が徹底解説!
5 まとめ
股関節疾患の後遺障害が残った場合,日常生活への影響は非常に大きいです。
身体に不自由が残る状況で,十分な損害賠償金を獲得するための手続きをご自分で行なうことはストレスでしょう。
なるべく早い段階で,後遺障害申請や,示談交渉に長けている弁護士に相談することをおすすめします。股関節疾患の後遺障害で悩まれている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにぜひご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。