令和4年に,大阪府内で起こった自転車関連事故の全交通事故に占める割合は,34.7%です。
全国で起こった自転車関連事故の全交通事故に占める割合は23.3%であるので,大阪府では自転車事故の割合が非常に高いといえます。
大阪に暮らしていれば誰でも自転車事故に遭う可能性があります。
当コラムでは自転車同士の交通事故についてご説明いたします。
参照:大阪府警察 自転車関連事故の全交通事故に占める割合の推移(過去10年)
目次
1 自転車の事故を避けるには?被害を抑えるにはどうすればいい?
⑴自転車の事故を避けるにはどうすればいい?
自転車事故で1番多いのは出会い頭の衝突,次に右左折時の衝突が多いです。
自転車で走行する際は,以下を遵守しましょう。
①交差点では一時停止して左右の確認をする ②後ろから自転車が来ていないか確認する ③信号を守る ④曲がり角では飛び出しに注意する |
また,自転車には,刑事罰の対象となる危険運転があります。
自転車の危険運転については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
⑵自転車事故で被害を抑えるにはどうすればいい?
大阪府内で過去3年間に発生した自転車乗用中の損傷部位別死者数では,頭部を負傷したものが70%です。
また,大阪府内で過去3年間に発生した自転車乗用中のヘルメットの着用有無別致死率をみると,ヘルメット非着用の方が,ヘルメット着用時と比べて約2.7倍高くなっています。
そこで,被害を抑えるにはヘルメット着用が効果的です。
令和5年4月1日から自転車利用者全員のヘルメット着用が努力義務化されています。
最近はお洒落なデザインのものも増えているので,人目を気にすることなくヘルメットを着用できます。
参照:大阪府警察 ある日突然,大阪で死亡事故に遭わないために 自転車関連事故
2 自転車同士の交通事故、過失割合はどう決まる?
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺)
第七百二十二条
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
自転車同士の事故によって被害を受けた者は,加害者に対して,不法行為に基づく損害賠償請求権を有します。
もっとも,損害の発生・拡大に影響する被害者の不注意があれば,損害額を決める際に被害者の過失を斟酌することができます。
自転車同士の交通事故での過失割合は,事故類型ごとに以下のようになると考えられます。
(1)信号機のある交差点
(2)一方に一時停止の規制がある交差点
(3)双方とも一時停止の規制がない交差点
交差点内の事故 | 信号機あり | 赤信号側(A):青信号側(B)=100:0 |
一方に一時停止の規制がある(信号機なし) | 一時停止規制側(A):規制なし側(B)=70:30 | |
双方とも一時停止の規制がない(信号機なし) | 50:50 |
(4)一方に一時停止の規制がある丁字路
(5)双方とも一時停止の規制がない丁字路
丁字路での事故(T字路での事故) | 一方に一時停止の規制がある(信号機なし) | 一時停止規制側(右左折車A):規制なし側(直進車B)=75:25 |
双方とも一時停止の規制がない(信号機なし) | 右左折車(A):直進車(B)=60:40 |
(6)対向自転車との事故
対向自転車との事故 | 歩道以外の道路上での事故 | 50:50 |
歩道上での事故 | 50:50 |
(7)追越車と被追越車との事故
(8)進路変更車と後続直進車との事故
(9)右左折車と後続直進車との事故
同一方向を走る自転車同士の事故 | 追越車と被追越車との事故 | 追越車(A):被追越車(B)=100:0 |
進路変更車と後続直進車との事故 | 先行車(A):後続車(B)=60:40 | |
右左折車と後続直進車との事故 | 右左折車(A):後続車(B)=60:40 | |
追突事故 | 追突車:被追突車=100:0 |
なお,自転車と車の交通事故での過失割合については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
3 自転車同士の交通事故の特徴と示談交渉をするときのポイント
⑴自転車同士の交通事故の特徴
①自賠責保険が利用できない
自賠責保険は,自動車の運行を原因とする人身事故に適用される保険です。
自転車は,自動車損害賠償保障法上の「自動車」ではないので,自転車同士の交通事故では自賠責保険を利用することはできません。
②自賠責保険で後遺障害の認定を受けることができない
自動車事故で後遺障害が残った場合は,自賠責保険で後遺障害等級認定を受ければいいです。
これに対して,自転車同士の事故では自賠責保険が適用されないので,自賠責保険で後遺障害等級認定を受けることはできません。
③過失割合で揉める
自転車事故は自動車事故よりも裁判例が少なく,前述した過失割合も明確に定まっているものではありません。
そのため,示談交渉では過失割合で揉めることが多いです。
⑵自転車同士の交通事故の示談交渉をするときのポイント
自転車同士の交通事故における被害者は,加害者に対して損害賠償請求することができます。
自転車同士の交通事故であっても,自動車事故の場合と同様に,調停や訴訟に発展することは少なく,当事者間で交渉を行って,損害賠償金の決定を行うことが一般的です。
このように話し合いで解決することを「示談」と言い,当事者間での話し合いのことを「示談交渉」と呼びます。
自転車同士の交通事故で示談交渉をするにあたっては,注意すべきポイントがあります。
①十分な損害賠償を受けられない場合に備える
加害者が自転車保険に加入していれば,保険会社との間で示談交渉を行い,保険金の支払いを受けましょう。
しかし,自賠責保険のように,自転車の運転手全員に加入が義務付けられている保険があるわけではないので,加害者が無保険であることもあります。
その場合は,加害者と示談交渉を行って,加害者から示談金の支払いを受けることになります。
加害者は何かと理由をつけて,示談に応じないことも考えられます。
また,加害者に資力がない場合は,示談が成立しても示談金を支払ってもらえないこともあります。
もしも加害者から示談金の支払いを受けられなければ,ご自身の加入している保険を使用できないか検討しましょう。
ただし,自転車保険への加入を義務化している都道府県が増えてきているので,加害者が無保険である可能性は低くなっています。
令和5年4月1日現在,自動車損害賠償責任保険への加入を義務付けている都道府県は32個あります。
②保険会社などから後遺障害等級認定を受ける
自賠責保険での認定を受けられないので,以下の方法をとりましょう。
(ア)加害者の加入している保険会社
加害者の加入している保険会社に,後遺障害等級の審査・認定を行ってもらうことが考えられます。
(イ)被害者の加入している保険会社
被害者が加入している人身傷害保険から後遺障害等級認定を受けることが考えられます。
ただし,示談交渉の相手は加害者側の保険会社または加害者なので,被害者側の保険会社の認定結果を受け入れてくれるとは限りません。
(ウ)労災
事故が労災にあたる場合,労災の後遺障害等級認定を受けることが考えられます。
労災保険で後遺障害の認定がなされたら,相手方との示談交渉でも後遺障害を主張していきましょう。
その際,相手方が労災の認定どおりの後遺障害の主張を認めてくれるかは分かりません。
(エ)訴訟
前述した方法をとっても相手方から後遺障害を認めてもらえなければ,裁判の場で後遺障害の有無を判断してもらいましょう。
③納得いく過失割合で合意する
自転車同士の事故の過失割合は,自動車事故ほど明確に定まっていません。
また,加害者側は,示談金額を減らしたいと考えます。
そのため,「被害者に過失割合がある」と主張してくることが考えられます。
しかし,自転車同士の事故での過失割合にも一定の基準はあります。
相手方の主張を鵜呑みにせず,裁判例などを根拠にして適切な過失割合を主張しましょう。
なお,自転車保険については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
4 自転車同士の事故で損害賠償を受けるために必要な証拠
⑴交通事故証明書
ご自身の加入している任意保険を利用する場合や,加害者側に損害賠償請求訴訟を提起する場合に交通事故証明書が必要になります。
警察に交通事故を届け出ると,交通事故証明書の交付を受けることができます。
⑵刑事記録(実況見分調書など)
人身事故を警察に届け出ると,実況見分が行われ,実況見分調書が作成されます。
実況見分調書には,事故発生状況やブレーキ痕など事故の証拠の有無等が記載されます。
実況見分調書は,過失割合を算定する資料になるので,必ず入手しましょう。
⑶自転車の写真
物損に関する賠償を受けるために必要です。
また,事故の衝撃の大きさを主張するうえでも有用な証拠となります。
⑷事故現場の写真
事故直後の写真があれば事故態様が分かるので,過失割合を算定する材料になります。
⑸医師の診断書
治療費や入通院慰謝料を請求するために必要です。
⑹画像による所見
怪我や後遺障害が残っていることを客観的に立証するために必要です。
⑺後遺障害診断書
後遺障害が残っている場合は,これが必要になります。
5 まとめ
自転車が普及している現在,自転車同士の事故に遭うことは誰にでもありえます。
自転車事故は身近な事故ですが,過失割合がどうなるか,示談交渉をどうすればいいかについては全く知らない方が多いでしょう。
自転車事故の対応は,専門家である弁護士に任せることをお勧めします。自転車事故に遭われて悩まれている方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。