交通事故に遭って、被害者の損害がすべて出揃うと、そこからは加害者、もしくは加害者の加入している保険会社と示談交渉を行います。双方が受け取る金額、支払う金額に合意をし、書面を交わしたら【示談成立】となります。
ただ、示談交渉は難航することが多く、スムーズに終わることの方が少ないです。ここでは、示談が進まない場合にどうすればいいのか?を中心に解説をしていきます。
目次
1 示談とはいったい何?
⑴意味
そもそも示談とは、【相手に損害賠償を請求する手続き】をいいます。交通事故に遭った時に、物が壊れたら買い替えの費用や修理費が発生します。怪我をした場合は、治療費や、病院に行くための交通費や慰謝料も発生します。
他にも多くの損害が被害者に発生することがありますが、その損害を相手の加害者が加入している保険会社(加入していない場合は加害者本人)へ請求する方法の一つが話し合いです。この話し合いを一般的には【示談】といいます。
⑵成立までの平均的な交渉の期間
示談にかかる交渉の期間は、一概には言うことができません。示談成立は双方の合意によってなされます。事故の内容や保険会社の提示金額で、示談交渉の進み具合は大きく変わります。「平均的にどれくらいかかりますか?」とご質問をいただくことは多数ありますが、示談交渉を開始してから、1週間で終わるケースもあれば3か月以上かかるケースがあるのが実情です。
なぜそういったことが起こるのでしょうか?これは、保険会社はできる限り支払いを少なくしたいがために、非常に低い金額を提示してくることが多いからです。また、被害者が交通事故について知識がない、交渉も初心者であるのをいいことに、「交通事故とはこういうものです!」と被害者の主張を受け付けない保険会社も少なくないです。
2 ADR(裁判外手続)の利用で解決を目指す
⑴意味
どうしても保険会社と折り合いがつかない場合は、ADR機関を利用することも解決方法の一つです。
ADRとは、裁判手続きを行わない紛争解決方法のことです。「Alternative(代替的)」「Dispute(紛争)」「Resolution(解決)」の略となります。このADRを用いて、紛争の解決を図っている機関をADR機関といいます。
①調停
さて、一般的に第三者が介入する際は、裁判や調停を進めていくこととなります。ただし、裁判や調停は費用がかかるという点で、被害者に負担がかかります。ただ、性質的な面でいうと、調停とADRは、和解を目指すという目的は同じであり、さらに、ほぼ同じ流れで、当事者間の和解を目指しますので、裁判所の介入がない和解あっせんをADRと捉えていただいてもよいかと思います。
②交通事故紛争処理センター
自動車事故の損害賠償問題の紛争を解決するためのADR機関に、交通事故紛争処理センターというものがあります。公正かつ中立の立場をとり、無料で解決の手助けをする機関となります。センターには嘱託された弁護士が常時配置されており、当事者間の話を聞き、和解あっせんを行います。
あっせん案に合意ができない場合は、センターに設置されている審査会へ審査をすることを請求し、審査会から示される損害賠償の解決方法=裁定を被害者は待ちます。全国に11か所の窓口があり、被害者の住まいもしくは事故現場の住所で担当のセンターが決まります。
③日弁連交通事故相談センター
公益財団法人日弁連交通事故相談センターは日本弁護士連合会が、被害者救済を目的として設立している、無料で法律相談や示談あっせんをしている機関です。公平かつ中立に交渉をサポートする役割を持つこのセンターは、全国統一のナビダイヤルで無料の電話相談が可能です。
また、具体的な相談を個別で対応するために、無料の面接相談も行っています。全国157か所に相談所が設置されているので、非常に足を運びやすいことが特徴です。なお、面接相談は原則5回まで可能とされています。
⑵メリット
ADRのメリットであり特徴は、①手続きが裁判に比べて簡易であること、②解決までの時間が比較的に短いこと、③当事者の意向を尊重した手続き・解決を目指せること、④多くの機関では利用料が無料であることが多く、経済的にやさしいこと、⑤調停や裁判と違い、手続きが非公開でありプライバシーを守られること、などが挙げられます。
3 示談交渉が長引いた時に気にすることは?
⑴期限の確認
保険会社と示談を進めている最中、示談内容に合意をしたくないという理由で、放置をしてしまう被害者の方も多数いらっしゃいます。実際に、最後に保険会社と話をしたのは2年前です、と弁護士に相談する方もいました。こういった状態は、非常に危険ですので、注意が必要です。なぜならば、示談には期限=時効があります。
①被害者が交通事故により加害者及び損害を知った時から、物損については3年の時効、人身損害については5年の時効 ②交通事故日より20年となります。 |
①については、令和2年4月1日以降に改正され、人の生命や身体を害する=人身損害については、以前は、物損と同じく3年が時効でしたが、現在は5年の時効となりました。なお、ひき逃げなどにより加害者がわからないといった、特別な場合は②、それ以外に関しては基本的には①の時効が適用されますので、示談交渉がすでに行われている場合は、①が時効となります。
⑵長引く原因の予想
示談が成立するまでに長引く理由は、以下の2つが予想されます。
①加害者側の問題 ②保険会社が低い損害賠償金を提示する |
①の加害者側の問題は、代表的なものは、任意保険に入っていない場合です。この場合、被害者と加害者の当事者間の協議になりますので、示談交渉に時間がかかります。当事者間の示談交渉の場合、加害者が支払いに応じないケースは珍しくありません。被害者からの連絡に出ない、また、「自分は悪くない」と認めないということがあるからです。
また、任意保険に入っていたとしても、保険料が上がることや等級が下がることを嫌がり、使用しないという加害者もいます。他にも、自賠責保険にすら入っていないという加害者の場合も考えられます。この場合は、保険料を支払えない経済的状況が想定されますので、損害賠償金の回収が厳しいという事情もあります。
②の保険会社が低い損害賠償金を提示するといった場合ですが、これは先に述べたように、保険会社はできる限り支払う額を少なくしたいという考えがベースです。保険会社にとって加害者の損害賠償を支払うことは、会社の損失に繋がりますので、会社の損失をいかに減らすかが、保険会社の役目になります。
また、損害賠償の算定基準には低い方から、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準と3つの種類があります。保険会社が提示してくる基準は一番低い基準の、自賠責保険基準かないしは、各保険会社が過去の実績等を踏まえて計算した任意保険基準で提案をしてきます。この任意保険基準の算出方法は明確になっていないのですが、自賠責保険基準と同じか、ないしは少々自賠責保険基準よりも高いものとなっています。
どちらにせよ、必要最低限の損害賠償となるので、場合によっては非常に不当な金額であることは間違いありません。なお、一番高い基準である裁判所基準は、弁護士が介入した際に使用できる基準となります。
過失割合を決定する際も、保険会社とトラブルになることがあります。被害者の過失割合が大きくなればなるほど、保険会社側は支払う金額が減りますので、当然被害者側の過失を強く主張してきます。
こういったことが、示談交渉が長引く要因として代表的なものとなります。
4 示談交渉のトラブルを解決するためには?
⑴弁護士に相談
示談交渉は被害者が思ってもいないことが起きることがあります。例えば、損害賠償の項目がごっそり抜けていることがあります。これが、保険会社の単純なミスであれば、指摘をすれば済む話ですが、「損害として認めていないから、入れていません」となると話は変わってきます。
また、過失割合についてもトラブルになりやすいです。実際に、物損損害については過失割合を本人が10%、相手が90%で合意をしたのに、人身損害については、過失割合を本人が20%、相手が80%で話を進めてくる保険会社もあります。こういったトラブルになった際に、交通事故のプロであり、交渉技術に長けた保険会社と、被害者本人が交渉を続けることは非常に困難です。保険会社によっては「これが妥当な判断です。これ以上言うのであれば、弁護士を入れます。」と被害者に高圧的に伝えることもあります。
そのようなトラブルについては、まず弁護士に相談をしましょう。弁護士は、保険会社が提示してきた金額の妥当性を判断してくれますし、弁護士が介入すれば、代わりに示談交渉を行ってくれますので、被害者の精神的負担は大幅に軽減します。
5 まとめ
示談書は一度サインをしてしまうと、その後、被害者が「この金額は不当である!」と主張をしても、受け入れられません。なぜなら、サインをして、保険会社に渡している時点で、双方が示談内容に合意している=「示談成立」となるからです。
本来であれば、納得していない内容にサインをする必要はありません。しかし実際は、示談が進まないことのストレスや、保険会社の対応に耐えかねて、示談書にサインをしてしまう被害者は少なくはないです。
被害者が適正な賠償金を受け取れないことは決してあってはならないことです。そうなってしまう前に、まずは一度弁護士に相談をしてみましょう。
なお、当事務所は数多くの交通事故問題を取り扱っております。示談交渉が難航している方やこのまま示談してもいいのかご不安な方は、是非一度、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。