交通事故の被害に遭った時に、加害者に「嘆願書」を書いてほしいと言われることがあります。
嘆願書とは、被害者が裁判官や検察官へ、加害者を刑事処分に課さないであげてほしい、もしくは刑事処分を軽くしてあげてくださいと希望を伝える、つまり、加害者の刑事罰を軽くする目的で被害者が作成する書面となります。
ここでは、この嘆願書についてご説明をさせていただきます。
目次
1 交通事故の示談前に嘆願書を書く場合
⑴被害者に嘆願書を書く義務はない
嘆願書は、被害者が加害者に依頼を受けて作成する、もしくは被害者自身の意思で作成する書面となります。
前者の場合は、加害者が自身の刑事処分を軽くしたいという気持ちから、被害者へお願いをする形となります。
後者の、被害者自らの意思というのは、交通事故の加害者の中には、事故後も誠実に対応し、十分な反省が見られ、中には被害者が同情するほど、自身を責める加害者もいます。
そういった加害者に対して、被害者が積極的に嘆願書を作成することもあります。
なお、加害者に頼まれたから、被害者は嘆願書を必ず作成しなければいけないというわけではありません。
どのような処分を加害者に希望するか、その希望を表明するか否かは、被害者の自由です。よって、嘆願書の作成も被害者の自由となります。
⑵示談前に嘆願書を書く意味
基本的には、嘆願書の作成は、示談が成立していなければ、難しいです。
示談前に、嘆願書を書くのは、被害者にとってプラスはなく、損害賠償請求のトラブルになることもあります。よって、本来は嘆願書には示談の内容も書くことが一般的です。
しかし、交通事故の場合、被害者の怪我の程度によっては示談までにはかなり時間がかかります。
よって、示談前に嘆願書の作成を求められることがあります。
なぜなら、嘆願書は、刑事処分の内容や程度を決めるにあたって影響を少なからず与える可能性のある書面となるからです。
交通事故の加害者に対する刑事処分については下記がポイントとなります。
- ・被害者が負った怪我の程度
- ・加害者の過失割合
- ・被害者の感情
嘆願書は、ポイントの1つである、【被害者の感情】に影響します。
刑事処分は検察官が求刑し、裁判官が判断して決めることから、必要以上に重い罰を与えることは基本的にできません。
しかし、刑事処分には情状酌量があり、この要素には被害者の感情が含まれています。
嘆願書には、被害者から加害者に対する処罰感情がないこと、もしくは減刑を望むことを証明する効果があるため、加害者も作成を被害者に依頼します。
また、被害者が刑事処分よりも民事上の責任を重視した場合、嘆願書を作成するケースもあります。
たとえば、もしも、加害者が任意保険に入っておらず、被害者の損害賠償を加害者自身がする場合、加害者が刑務所に入ることで損害賠償を得られない可能性があります。
その時に、被害者の方が、重い刑罰を望むのではなく、被害者が負った怪我や後遺障害に対する賠償責任を、加害者に果たして欲しいだけだとした場合は、処罰されずに、働いて、損害賠償金を支払ってほしいとし、嘆願書を作成するということもあります。
嘆願書の効果を正しく理解したうえで、被害者は加害者からの作成依頼に応じるか否か、作成をするか否かを決めることが大事です。
2 嘆願書の効果
嘆願書は、加害者の状況によって提出先が異なります。
加害者が起訴される前であれば、検察官宛になりますし、加害者が判決を受ける前であれば、裁判所宛となります。
⑴裁判で有利になる
嘆願書の効果としては、まず、不起訴処分になる可能性が上がります。
先ほども述べたように、検察官が、起訴か不起訴かを判断するにあたり、被害者の感情は大きく影響します。
何故ならば、もともと刑事処分は、国家が被害者の代わりに加害者を制裁するものだからです。よって、被害者の処罰感情は無視することはできません。
被害者の処罰感情がない、もしくは乏しい場合においては不起訴かもしくは、略式起訴(罰金刑のみの簡易な手続き)で終わる可能性が高くなります。
嘆願書は被害者の感情を証明するものとなりますので、提出されている時点で、加害者にとっては有利になると考えられます。
⑵実刑判決や執行猶予への影響
起訴された場合、加害者の実刑判決の内容については、刑事裁判の裁判官の判断となります。
その際も、刑を考慮するひとつの事情として、被害者の処罰感情の有無とまたその感情の程度は、判断材料の一つとなります。
被害者の処罰感情が大きくなければ、加害者は罰金刑、もしくは執行猶予付きの懲役刑や禁錮刑となる場合があります。
なお、ここまで加害者の刑事処分を軽くすることが前提の嘆願書について説明をしましたが、厳罰を求める嘆願書もあります。
先ほども述べたように、検察官が求刑し、裁判官が判断するといったことから、必要以上に重い刑罰を加害者に与えることはできません。
しかし、加害者に全く反省の色がなく、人としてありえない対応をしてくる加害者もいます。そんな加害者に対して、許せないという思いがあり、厳罰を望む場合は、厳罰嘆願書を作成し、検察官または裁判所に提出してみることも一つです。
検察官や裁判官も人である以上、加害者の対応がいかに不誠実だったか、どれだけその対応に傷ついているか、死亡事故の場合は、被害者の無念の思いを遺族が綴っていれば、厳罰嘆願書の内容によっては、心証が変わることも可能性としてありえます。
3 示談前に嘆願書を書く場合の注意点
⑴示談内容が有利になるケース
示談交渉において、嘆願書を出すことにより、心証が良くなり、より被害者側に示談内容を有利に進められる可能性はあります。
⑵示談を急ぐ必要はない
先ほども述べましたが、基本的には、嘆願書を書くにあたって、示談が成立していなければ、難しいです。
しかし、加害者は刑事処分を受けたくないがために、嘆願書の作成だけでなく、示談を急かしてくることがあります。
そういった場合、被害者の中には、加害者に同情して、示談をし、嘆願書を書くケースがありますが、被害者は加害者の刑罰のことを考えて、治療も終えてないのに示談をする必要は全くありません。
こういったケースで嘆願書を作成する場合は、【和解はまだ成立していません。しかし、被告人に対する処罰感情は持っていませんので、被告人(加害者)に寛大な処分を望みます】といった内容を記載しましょう。
このように記載することで、示談成立と同等の効果は得られると考えられます。
4 嘆願書は作成すべき?とお悩みの方は、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ
嘆願書は、作成するもしないも、内容についても被害者の自由です。
嘆願書の内容がどのような効果を発揮するのか把握したうえで作成をするか否か等を決めていきましょう。
嘆願書の作成や内容についてお困りであれば、交通事故対応の経験が豊富な大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。