交通事故の被害者の中には、怪我が原因で、治療のための通院や、自宅療養で、仕事を休まざる得なくなり、収入が減収する方もいます。
また、場合によっては治療費を一時的に自費で対応したり、通院の交通費もかかったりと、被害者の負担が大きくなっていきます。
しかし、相手の保険会社から損害賠償金を受け取れるのは、基本的には示談をするか、裁判で判決が出るまでとなります。
結果、経済状況が切迫されて困る被害者の方は多くいらっしゃいます。
ここでは、示談前に慰謝料を受け取る方法を中心ご説明させていただきます。
目次
1 慰謝料一時金を自賠責保険から前払いしてもらう
⑴被害者請求
交通事故の被害者は、加害者が加入している自賠責保険会社に直接、損害賠償額を請求することが可能です。これを「被害者請求」といいます。 被害者保護という観点から、損害賠償額が確定をしていない、治療中でも請求が可能です。 つまり、示談前に自賠責保険から慰謝料を先払いしてもらえる方法の1つとなります。
なお、この被害者請求を使用しての先払いの場合、慰謝料以外に治療費や休業損害も請求可能項目となります。 【第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。】 自動車損害賠償保障法第16条第1項より 根拠条文から、被害者請求は、「16条請求」とも呼ばれます。
⑵仮渡金の制度
被害者請求をするには、様々な資料を用意する必要があり、その収集に時間がかかることもあります。
また、申請から被害者が受け取れるまでは最低でも1ヶ月程度はかかります。こういった場合、即座に対応してほしい被害者にとっては、被害者請求の制度では保護ができません。
ここで、被害者がより迅速にお金を受け取れるよう、自賠責保険では、「仮渡金の制度」があります。
仮渡金の制度では、必要書類は以下の4点で手続きをしてもらえます。
- ・支払請求書
- ・交通事故証明書
- ・事故発生状況報告書
- ・診断書
以上4点を自賠責保険に提出すると、請求からおおよそ1週間から10日程度で支払われます。
なお、仮渡金については、慰謝料や治療費、休業損害等の損害項目ごとに計算をされるのではなく、ある程度の金額がまとめて支払われます。
仮渡金の制度のメリットは、少ない書類で、迅速に、お金を得ることができる、被害者にとってはとても便利な制度になります。
しかし、デメリットもありますので、以下のポイントを注意して使用することをおすすめします。
①仮渡金は一定の金額のみ
仮渡金の制度では、提出された診断書の内容、つまり症状に応じて支払われます。
以下の内容となります。
症状、状態 | 金額 |
1.死亡された場合 | 290万円 |
2.以下のいずれかの傷害を負った場合 ・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの ・上腕または前腕の骨折で合併症を有するもの ・大腿または下腿の骨折 ・内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの ・14日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの |
40万円 |
3.以下のいずれかの傷害を負った場合(上記2を除く) ・脊柱の骨折 ・上腕または前腕の骨折 ・内臓の破裂 ・病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日 ・14日以上病院に入院することを要する傷害 |
20万円 |
4.医師の治療を11日以上要する傷害を負った場合(上記2.3を除く) | 5万円 |
つまり、仮渡金の制度では5万円~40万円しか被害者本人は受け取ることができません。
②仮渡金の制度は1度のみしか請求できない
被害者請求は、傷害部分の限度額120万円までであれば、何度でも請求が可能です。
しかし、仮渡金の制度は1度のみしか請求ができません。
被害者の方は請求のタイミングをよく考えて行う必要があります。
③仮渡金は返金の可能性がある
仮渡金は、あくまでも慰謝料等の損害賠償金の仮払いです。
よって、被害者が受け取った金額が、損害賠償金から差し引かれますし、もしも、損害賠償金よりも上回った場合は、超えた分の差額は、被害者は自賠責保険に返さなければなりません。
④任意保険会社からの一括対応が打ち切られる
加害者が任意保険に加入しており、治療費関係を任意保険会社が支払うことを一括対応といいます。
この一括対応ですが、最終的には任意保険会社が、自賠責保険へ保険金を請求します。
このため、一括対応中に被害者が仮渡金の制度を利用し、お金を請求すると、前提が崩れることから、任意保険会社の一括対応は打ち切られます。
つまり、被害者は、仮渡金の制度利用後は治療費を一旦立て替える必要が出てきてしまいます。
参考:交通事故の「仮渡金」制度とは?使うメリット・デメリット
2 慰謝料一時金を任意保険から前払いしてもらう
⑴交渉次第でもらえる可能性
自賠責保険への仮払金制度を利用すると任意保険の一括対応は打ち切られてしまうと先ほど述べましたが、では、その問題をクリアするためには被害者はどうすればいいのでしょうか?
結論からいうと、【任意保険会社へ仮払い、先払いを依頼する】ことが1つの方法です。
任意保険会社からの先払いは、治療費や休業侵害、通院の交通費は、示談前でも比較的に支払いを認められやすいです。
なぜなら、治療費や通院の交通費は、被害者に実際出費がありますし、休業損害は本来の被害者が得るはずだった収入が無くなってしまうものであるため、実損害があり、すぐにお金が必要だと考えられるからです。
一方で、慰謝料についてですが、これは交渉次第で認められるものであり、簡単には任意保険も認めてくれません。
慰謝料は、治療費や通院の交通費、休業損害とは違い、実際にかかった金額、失った収入といった目に見える金銭的な損害がありません。
そのため、先払いや仮払いが可能とはすぐには判断してもらえないことが多いです。
しかし、治療費や休業損害等の項目に分けがたい損害が被害者に発生することもあります。
そういった場合に、任意保険会社に事情を説明すれば、場合によっては慰謝料として支払ってくれる可能性もあります。
ただし、限度額は任意保険基準で算出をされた慰謝料分の金額と考えられます。
⑵被害者が加入している任意保険から
もしも、被害者の方が任意保険に加入している場合は、自身の加入している任意保険会社から慰謝料を前払いとして受け取れることがあります。
たとえば、人身傷害保険です。この保険は、記名被保険者またはその家族の方、契約の車に搭乗中の方が、自動車事故に遭い、死傷した場合に使用できる特約です。歩行中の事故でも使用可能な場合があります。
被害者本人の過失割合に関わらず、死傷された方の損害について、実損害額のすべてを、保険金額を限度に、被保険者ごとに補償されるますので、加害者との示談や判決よりも先に、慰謝料などを受け取れます。
加害者側の任意保険会社に先払い、仮払いを断られた場合は、自身の保険の内容を確認し、保険会社に相談をすることをおすすめします。
3 仮払い仮処分の命令の申立
⑴仮払い仮処分の条件
仮払い仮処分とは、一定の条件を被害者がクリアした場合、裁判所が加害者に対して、治療費や生活費用について支払うことを命じる制度をいいます。
損害賠償の金額や過失割合など、示談が難航し、まとまらない場合、被害者は損害賠償請求の訴訟を起こさなければならないこともあります。
そうすると被害者は、損害賠償金を判決が出るまでは受け取ることができません。数か月以上、場合によっては年単位の可能性もあります。
こういった場合、被害者の生活が困窮することもあります。そこで使える制度が、仮払い仮処分です。
この仮払い仮処分は、申立があると、裁判所が、当事者双方を裁判所に呼び出し、双方の主張と立証を踏まえ、短期間で判断され、決定が下ります。
なお、もしも、相手の加害者側が仮払い仮処分の決定に従わない場合は、強制執行を申立てることになります。
相手方が仮処分決定に従えば目的は達成されますし、相手方が仮処分決定に従わなければ、強制執行を申し立てて、目的を達成することができます。
また、任意保険会社を相手に仮処分申請をすることも可能であるため、そうする方も多くなっています。
では、仮払い仮処分の制度を利用するための条件とはどういったものになるのでしょうか?
この仮払い仮処分命令の申立は、保全命令の申立の一種となります。
保全命令が発せられる条件
1 保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
2 保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。
民事保全法第13条より
つまり、保全命令が発せられるためには2つの疎明が必要となります。
- ・被保全権利の疎明
- ・保全の必要性の疎明
※疎明(そめい)とは、裁判官が係争事実の存否について一応確からしいという推測を得た状態、あるいはそのための証拠の提出をする当事者の行為をいう。
仮払いの仮処分命令が発せられる条件
仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
民事保全法第23条2項より
よって、保全の必要性につき「著しい損害又は急迫の危険を避けるため」という高度な必要性が求められることとなります。
また、仮処分はあくまで仮のものです。
よって、後に裁判で覆される可能性があり、相手方に損害を与える可能性もありえます。そういった点から、請求額の一定の割合を担保として供託をすることがあります。
ただし、交通事故の場合は、被害者が生活費や治療費に困っていることが前提です。高額の担保を求めることでさらに経済的に困ってしまうこととなるため、担保も低い金額で設定されます。
なお、交通事故の被害者は受け取ったお金については、生活費や治療に使用します。
仮に、もしもその後の判決で損害賠償義務が否定された場合、担保も低額なことから、加害者側が仮払いした金額を全額回収できない可能性は大いにありえます。
そのため、仮払い仮処分の決定については、裁判所は非常に慎重に判断をします。
結果、通常の保全命令よりも仮払いの仮処分命令が発せられる条件は厳しくなると考えられます。
⑵慰謝料の仮払い仮処分は認められにくい
治療費や休業損害については、仮払い仮処分は比較的に保全の必要性が認められやすいです。
治療については、被害者は適切な時期、期間に受ける必要があり、治療費が払えないことで、適切な時期、期間に治療ができないという著しい損害を避ける必要性があると主張できます。
さらに、休業損害は、生活の基盤となる被害者の収入を補填するものです。そのため、その支払いがない場合は、著しく生活に支障をきたすことが考えられます。
結果、命令の発令を求めやすくなります。
その一方で、慰謝料は、仮払い仮処分の保全の必要性が認められにくくなっています。
何故ならば、精神的苦痛についての補填する慰謝料については、すぐに支払いを受ける必要があるのかと考えられるからです。仮に、すぐに受け取ることができなかったとしても、それが【著しい損害又は急迫の危険】と考えにくいからです。
もしも、被害者が慰謝料を困窮している生活費に充てるということであれば、主張立証することで、保全の必要性が認められることも考えられますが、基本時には認められにくいと考えておく方がよいでしょう。
4 慰謝料についてのご相談は、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ
慰謝料の一時金を受け取るためにはどうすればいいのかを中心にご説明をさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
自賠責保険や任意保険へ請求、もしくは仮払い仮処分の制度を利用するにあたっても、専門的な知識も必要なことから、被害者本人1人ではなかなかに厳しいかと思われます。
先払いについてどうすればいいのかわからない、いろいろ調べたけどどの方法を使うことが一番良いのかわからない、そういった方は、交通事故の慰謝料問題について多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。