多くのケースでは、交通事故の被害者の方は、加害者が加入する任意保険会社(もしくは加害者本人)と、損害賠償の内容や金額、過失割合を、裁判外にて話し合いによって決めてきます。
これを【示談交渉】といいます。
ここでは、当事者間の示談がどのように進むのか、どのように行われているかについてご説明を致します。
目次
1 交通事故から示談成立までの流れ
まずは、意外に知られていない交通事故の示談の流れをご説明させていただきます。
⑴交通事故から示談開始まで
①交通事故発生、事故直後の対応
まずは、交通事故に遭ったら、警察に必ず通報をします。警察への通報は義務です。これを怠ってしまうと、懲役3ヶ月以下または罰金5万円以下の刑罰を科せられる可能性もあります。
また、警察は交通事故証明書を発行するために現場で聴取をします。この交通事故証明書がなければ、後々に保険金や損害賠償金を請求できなくなる可能性が高くなるので、警察には必ず通報するようにしましょう。
警察が到着するまでの間は、相手の氏名や連絡先、車のナンバーなどを可能であれば控えておきましょう。また、できる限り事故の現場状況、車両の損傷具合などを写真で納めてきましょう。これは、その後の過失割合の交渉時にも役立つ可能性があります。
②治療開始
事故で怪我をされた場合は、必ず病院へ行き、医師の診察を受けてください。これは当日、遅くとも翌日にはいくことが望ましいです。事故より日が経ちすぎてしまうと、交通事故と怪我との因果関係を否定され、証明することに一苦労する可能性があります。否定されてしまうと、本来相手が支払うはずの治療費や慰謝料など損害賠償金を受け取れなる場合も出てきます。
交通事故の怪我でなりやすいむちうちなどは、後日に症状が出てくることも多いです。この場合、そのまま放置をしてしまう方もいますが、少しでも違和感があれば、すぐに医師の診察を受けるようにしましょう。
なお、治療は定期的に通院するようにしましょう。通院の頻度が少なかったり、以前の診察から1ヶ月以上空いてしまったりすると、保険会社からの治療費の支払いが止められてしまう可能性が高くなります。
通院期間や頻度は、示談交渉時の傷害慰謝料の請求にも大きく影響するので、注意して通院を続けることをおすすめします。
③治療終了または症状固定
治療は、完治をして治療終了するまで、もしくは症状固定をするまでは継続的に続けましょう。
症状固定とは、これ以上の治療を続けたとしても、身体の状態が良くも悪くもならない状態のことをいいます。この場合、人によって程度の差はあれ、後遺症が身体に残ることとなります。
完治し、治療が終了となればそのまま示談交渉が開始となりますが、症状固定となった場合は多くの方が、後遺障害等級の認定申請を行います。後遺障等級の認定申請から結果が出るまで、準備期間を含めると、症状固定からおおよそ2~3ヶ月はかかります。
なお、障害が重い場合(たとえば高次脳機能障害等)は、揃える資料がむちうちなどに比べると多く、審査内容も複雑となるため、申請から結果が出るまで、半年以上かかることもありえます。
等級の結果次第で請求できる後遺症に対する損害賠償金は変わってきます。
⑵示談開始から示談成立まで
①示談交渉開始
示談の開始時期は事案によって異なりますが、被害者の方が怪我をした場合における開始のタイミングは、治療が終了した、もしくは後遺障害の等級の結果が出た段階となります。後程詳しくご説明を致します。
過失割合についても争いがある場合は、示談交渉の段階で交渉をすることが一般的です。
なお、大前提として、交通事故の直後のその場で示談をすることはおすすめできません。それはたとえ口約束であったとしてもです。口約束も双方が合意をしていれば、示談とみなされてしまいます。
車の修理や、怪我についての問題が落ち着いた段階で示談交渉をしなければ、被害者の方にとって不利な内容で示談をしてしまうこともありえますので注意しましょう。
参考:交通事故で保険会社と示談交渉の正しい対応方法がわからない。
②示談成立
示談成立は、当事者の双方が損害賠償金の内容に合意した段階で示談となります。
示談が成立すると、保険会社より示談書(または免責証書、承諾書)が届きます。被害者の方は、示談交渉でお互いが合意した内容に相違が無いかを確認し、問題がなければ署名捺印をします。示談書を保険会社へ返送をすると、入金の手続きを行ってもらえます。
示談成立から示談金の受け取りまでは、郵送の関係もありますので、最低でも2週間はかかると考えておくと良いでしょう。
なお、示談交渉の段階で、相手の保険会社から、示談書が届くこともあります。これは保険会社が早急に示談をまとめたいときにする行動です。
この書面に署名捺印をし、返送をしてしまうと示談が成立してしまいますので、必ず損害賠償額の内容について確認し、合意をしたのちに署名捺印をするようにしましょう。
2 示談はいつ始めたら良いか?
示談の流れについてご説明をしましたが、そもそも示談交渉はどういったタイミングで始めるのでしょうか?
事故の内容や被害者の方の希望にもよりますが、共通して言えることは、【すべての損害が確定した段階】が示談交渉を始めるうえでもっとも適したタイミングといえます。
例えば、物損事故の場合、まず双方の車両が修理工場に入庫され、修理にかかる費用を確定させます。代車費用やレッカー費用も計上します。もしも車両が修理不可という判断であれば、買替にかかる費用(時価額、買い替え諸費用など)を確定させます。
バイクなどの場合、衣服や携行品に損害が生ずることもありますので、そういった物の損害も確定していき、すべての物の損害が出そろった段階で示談交渉開始となります。
では、被害者の方が怪我をしてしまった場合の事故、人身事故ではいつ始めるのが良いのでしょうか?
先ほども説明をさせていただきましたが、基本的には、治療終了後か後遺障害等級認定後です。
⑴治療終了後
完治となると、治療の必要性がなくなりますので、それ以降の治療費は保険会社からは支払われません。賠償期間も終了となります。
よって、医師が「完治(治癒)」と診察し、治療終了となると被害者の方の損害が確定します。
相手の保険会社が治療費等を支払っている場合は、病院の事務処理の都合から、完治からおおよそ1ヶ月後に最終の治療費用や被害者の方が何日通院をしたのかが保険会社に伝わります。
この段階が、すべての損害が確定した段階といえるため、示談交渉開始タイミングとなります。
⑵後遺障害等級認定後
症状固定をし、後遺障害等級の申請をした場合の示談交渉開始のタイミングは、等級の結果が下りてからが良いといえます。
まず、後遺障害等級認定を申請するためには、症状固定と判断をした主治医の作成した後遺障害診断書が必要となります。
この書類の他、必要書類を作成・収集後、手続きを行います。
後遺障害等級は最も怪我の重い等級を1級とし、一番低い等級を14級としています。後遺症の内容によって1~14級、もしくは非該当に分けられ、1~14級のいずれかが認定された場合、相手側へ、後遺障害が残ったことに対する慰謝料と、逸失利益(後遺症が身体に残存したことにより、労働の能力が低下、もしくは喪失され、本来であれば被害者の方が得るはずだった減少した収入)を請求することができます。
後遺症がある場合は、後遺障害等級認定の申請をおすすめします。等級によっては、数百万円を請求できる可能性があります。
保険会社によっては、治療が長期化している場合、それにより、治療費用などが高額となっている場合、示談交渉を強引に開始しようとすることもあります。こうなった場合、被害者の方には、焦ったり、対応に嫌気がさしたりし、早く解決したいという気持ちから交渉を始めようとすることもあります。
また、示談成立後に後遺障害の部分は請求しようと考える方も中にはいらっしゃるでしょう。
しかしこれは得策ではありません。
示談後の追加請求は、一度示談成立したにもかかわらず、さらに追加で損害賠償を請求することになります。それは、たとえ弁護士が入ったとしても容易ではなく、また請求根拠の理由も必要となります。
示談成立から時間が経てばたつほど、被害者の方は、交通事故と後遺障害との因果関係を証明することは困難となります。かえって、時間と手間がかかり、また費用面も被害者の方に負担がかかります。
後遺症がある場合は、後遺障害等級の認定結果が確定し、必ず「すべての損害が確定した段階」で開始しましょう。
3 示談の注意点
示談交渉をするうえで覚えておかなければならないことは以下の2点です。
⑴示談を急いで始めると損する場合がある
示談は原則的には、示談成立後の撤回、やり直しを行うことはできません。例外的なケースもありますが、それらの場合でも、基本的には難しく、弁護士を入れても難航することが多いです。
そのため示談は慎重に行う必要があります。
示談を急いで始めてしまうと、被害者の方が損をするケースがあります。
例えば、本来あるべき損害項目が漏れており、金額が誤っている場合があります。誤った金額のまま示談を成立させてしまい、その後請求を改めてすることは困難です。
被害者の方は、損害賠償額の内訳、計算根拠のある書面を保険会社から受け取り、内容を確認するようにしましょう。
示談成立後に金額に納得がいかず、保険会社に問い合わせても、取り合ってもらえません。そうなると、あまり考えたくないケースですが、被害者の方の中には、加害者本人へ請求をし、加害者が応じなければ、電話やメール、SNSを使用した嫌がらせ、つきまとうなどの行為、さらには脅迫行為にまで発展してしまうことも実際にあります。
そうなると被害者の方が今度は【加害者】になってしまうこともあります。
そのような事態に発展しないためにも、必ず示談を成立する前に、内容が不当に低い金額ではないか、請求漏れがないかを慎重に確認し、納得できる内容であるのか否かを判断するようにしましょう。
⑵示談交渉には時効がある
相手側との示談交渉の内容に不満がある場合、納得がいかない場合は無理に示談に応じる必要はありません。納得できる金額、根拠が明示されるまで、示談交渉は続けることが大切です。
一方で、被害者の方は忘れてはならないことは【時効】です。
交通事故の損害賠償請求権には時効があります。もしもこの時効が成立してしまった場合、被害者の方は加害者側に一切の金銭を請求することができません。
交通事故の時効は以下のどちらかが適用されます。
- ①被害者が交通事故により加害者及び損害を知った時から【物的損害は3年】、【人身損害は5年】
- ②交通事故発生日より20年
ひき逃げなどの場合は加害者がわかりませんので、②が適用されます。それ以外の加害者がわかる交通事故については①が適用されることとなります。
さて、示談交渉は【すべての損害が確定した段階】とご説明を重ねさせていただきました。
被害者の方に知っていただきたいことは、事案によっては、損害が確定するまで数年単位係るケースがあるということです。
たとえば、後遺障害の1つである、高次脳機能障害です。これは症状が複雑で、症状固定の判断がしづらいことから、治療期間が2年ほどかかるケースもあります。2年ほどかかった場合、後遺傷害等級認定申請の準備にも時間がかかりますし、また高額な損害賠償額が予想されることから、示談交渉は長引くことになるでしょう。
そういった事案の場合、時効間際でもまだ示談が成立していないこともありえます。被害者の方が心配されるかもしれません。
しかし、実務上では、「加害者が債務を承認した=支払い義務を認めた」日に時効は更新される仕組みになっています。つまり、加害者側から被害者へもしくは医療機関などへの支払いが継続している場合は、時効の起算日がそのたびに更新されて、新たな時効が開始されているということです。
以下の一番最後となる日から5年(または3年)が経過した場合、被害者の方は加害者側に損害賠償を請求することができなくなるということになります。
- ・治療費や休業損害、慰謝料の一部といった、被害者の損害賠償とされる一部を支払ったとき
- ・保険会社から金額の提示や支払い条件の提案などの通知があったとき
- ・損害賠償のことについて保険会社(ないしは加害者)と話をしたとき
なお、時効の起算日については、被害者側と加害者側で争われることもあります。その為、長期の治療を行っている、示談交渉に時間がかかっているといった時効について心配がある方は、必ず弁護士に相談するようにしましょう。
4 示談交渉がご不安な方は、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
示談交渉について、どのように進むのか、進めるにあたっての注意点等をご説明させていただきました。
「このままの金額で示談をしてしまっていいのか?」
「後遺障害に申請をしなくてもいいのか?」
交通事故問題に慣れていない被害者の方が、このような疑問について自身で判断を下すことは非常に難しいです。
弁護士に依頼をすれば、治療の段階から、的確な通院方法のアドバイスを行うこともできますし、示談交渉の代行も弁護士であれば可能です。
少しでも精神的な負担を軽減し、適正な損害賠償金を得るためにも、被害者の方は弁護士に相談することをお勧めします。
示談交渉について弁護士に相談したい方、依頼をしたい方は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご連絡ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。