交通事故で被害者の方が加害者から慰謝料を請求する際に使用される、慰謝料の算定基準には3つ種類があります。
そのうちの1つである裁判基準は、過去の裁判例を参考に作成されています。
自賠責基準や任意保険基準といった他の2つの基準よりも高額な金額が算出されます。
ここでは裁判基準の慰謝料についてご説明を致します。
目次
1 裁判基準だと慰謝料が増額する理由
まず、何故裁判基準だと慰謝料は他の基準に比べて高額になるのでしょうか?
⑴交通事故の判例を重視
裁判基準が高額となる最も大きな理由の1つは、過去に行った交通事故問題の裁判例を重視しているという点です。
公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称赤い本)」に載る赤本の算定基準=裁判基準は、実績があることから、信頼性が高く、裁判でも重視されます。
つまり、裁判になった場合の損害賠償額に最も近い金額を算出できる基準として裁判基準は考えられています。
⑵自賠責保険は最低限の補償
裁判基準が最も高額な損害賠償金を算出できる一方で、自賠責基準は最も低額な損害賠償金が算出されます。
自賠責基準を使用する自賠責保険(正式名称:自動車損害賠償責任保険)は、原付を含むすべての自動車が加入を強制されている保険です。
自賠責保険の目的は、自動車事故による人身事故の被害者の方を救済することです。ただし、多くの請求に対し、迅速かつ公平に対応するために、最低限の補償しかありません。
そのため、自賠責基準は最も低い基準額となります。
⑶任意保険会社は独自の基準
任意保険基準は、各任意保険会社で独自で定められています。
以前は、統一の基準があり、その基準に従い各保険会社は被害者の方に損害賠償金を提示していました。
しかし、その統一基準が撤廃されてからは、各保険会社が独自のデータや過去の実績等で算定基準を作成し、計算がなされています。
保険会社はあくまでも営利企業です。そのため、自社の損失をできるだけ少なくしようという考えを基軸に行動します。そのため、算定基準も自賠責基準とそう変わらない内容であると考えられます。
実際、保険会社が提示する金額は、自賠責基準よりも少し高いだけの金額となっています。
2 慰謝料の算定基準
ここで3つの算定基準を改めてご説明をさせていただきます。
⑴裁判基準(弁護士基準)
過去の裁判例を基に作成された基準です。「実際に裁判をすればこのぐらいの金額で請求できます」という訴訟前提の考え方であるため、最も高額な損害賠償金を算出することが可能となります。
この裁判基準は、裁判所基準や弁護士基準とも呼ばれます。
弁護士基準とも呼ばれる理由は、交通事故の示談交渉に段階において弁護士が使用する基準だからと考えられます。実際、知識さえあれば被害者の方本人でも裁判基準で自身の慰謝料を算出することは可能です。
しかし保険会社が認めることはほぼありません。
裁判基準には法的拘束力がないこと、そして、裁判基準で請求するには「赤い本の内容をすべて理解していること」が前提となります。
法律の専門家であり、裁判を見越して示談交渉を行う弁護士だからこそ、保険会社に対して裁判基準で請求をし、認めさせる可能性があります。
⑵任意保険基準
任意保険基準は、各保険会社で定められている独自の支払い基準であり、最も低額である自賠責基準よりも少し高い金額となります。
金額は保険会社によって多少は異なりますが、撤廃された旧任意保険基準を踏襲している保険会社が多いです。
なお、任意保険は自賠責保険で補償されない部分を補填する役割を持ちます。そのため、できる限り自賠責基準内で損害の賠償を終わらせたいと考える保険会社がほとんどです。
被害者の方本人が、保険会社に自賠責基準の支払い限度額を超えた部分を請求する場合、超えた部分については、任意保険基準で計算がされます。
⑶自賠責基準
自賠責基準は、各損害項目にて支払い限度額が定められています。
そのため、他2つの基準に比べると低額となります。
また、自賠責基準は支払い限度額だけでなく、各項目についても定型・定額化しています。
たとえば、慰謝料については入院・通院1日あたり4,300円(※2020年3月31日以前の事故は4,200円)としています。
なお、保険会社の担当者の中には、「120万円までは支払います」と被害者の方に伝えるケースがあります。これは、自賠責保険の傷害部分の支払い限度額120万円のことを示しています。
しかし、交通事故知識がない被害者の方を誤解させるような言い回しをし、その結果「120万円までしか補償してもらえないのか。」と誤解してしまうこともあります。
この認識は誤りですので、注意しましょう。
3 裁判基準の慰謝料計算方法
では、裁判基準での慰謝料はどのように計算をされるのか、相場金額を見ていきましょう。
なお、慰謝料には、死亡慰謝料、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料の計3種類あります。
⑴死亡慰謝料
死亡慰謝料は2つの種類があります。死亡した被害者の方本人への慰謝料と、被害者の方を失ったご遺族の方の慰謝料です。
共に死亡させられたことに対する精神的苦痛に対しての慰謝料となりますが、被害者の方とご遺族の方の精神的苦痛は別物であると考えられているため、それぞれ固有の慰謝料として請求できます。
慰謝料の相場金額は、被害者の方の家族の中での役割が裁判基準の場合、とても重要視されます。
被害者の方の家族での役割
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
その他(独身者、未成年者等) | 2,000万円~2,500万円 |
上記の表のように一家の支柱である方が死亡してしまった場合は、最も高額な慰謝料となります。これは、被害者の方が亡くなったことで、家族内での経済的支柱を失われると考えられているからです。
自賠責基準では、被害者の方とご遺族の方の慰謝料は定額化されており、分けて計算をされますが、裁判基準の場合は、分けることはせず合算した金額で取り扱われます。
⑵入通院慰謝料
入通院慰謝料は、入院、通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対して請求ができる慰謝料です。
被害者の方の治療期間(入院期間、通院期間)を基本に計算がされます。別表Ⅰ、別表Ⅱという2つの算定表があり、被害者の方の怪我の内容によって使い分けをされています。
むちうち以外の怪我の場合の傷害部分の慰謝料基準表(損害賠償額算定基準:別表Ⅰ)
万円
(単位) | 入院 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 |
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | |
1ヶ月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 |
2ヶ月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 |
3ヶ月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 |
4ヶ月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 |
5ヶ月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 |
6ヶ月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 |
7ヶ月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 |
8ヶ月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 |
むちうちなど他覚的所見がない場合に使用(損害賠償額算定基準:別表Ⅱ)
万円
(単位) | 入院 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 |
通院 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | |
1ヶ月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 |
2ヶ月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 |
3ヶ月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 |
4ヶ月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 |
5ヶ月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 |
6ヶ月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 |
7ヶ月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 174 | 183 |
8ヶ月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 175 | 184 |
具体的に計算をしてみましょう。
たとえば、入院期間30日、通院実日数90日、治療期間が210日の被害者の方の場合です。
表の見方は以下の3点がポイントです。
・縦列を通院の期間、横列を入院の期間として見ます。
・入院と通院の両方がある場合は、各月が交差する場所が相場となります。
・暦ではなく「ひと月あたり30日」と考えます。
まず、ひと月あたり30日と考えるので、入院期間30日=1ヶ月となります。
横列は1ヶ月の列を見ます。
次に、入院期間、通院期間を含む治療期間210日÷30日とすると7ヶ月です。
そのため、通院期間は治療期間7ヶ月-入院期間1ヶ月=6ヶ月で求められます。よって縦列は6ヶ月の列を見ます。
入院と通院が両方ある場合は、各期間の交差する部分が相場となります。
よって、以下の通りになります。
パターン①むちうち以外の場合:別表Ⅰ…149万円 |
パターン②むちうちなど他覚所見のない場合:別表Ⅱ…113万円 |
⑶後遺障害慰謝料
交通事故によって怪我を負い、その後治療を続けたものの、後遺症が残ることがあります。
この場合、被害者の方は、後遺障害等級認定の申請を行い、第三者機関である自賠責調査事務所での審査の結果、後遺障害等級を認定された場合に限り、後遺障害慰謝料を請求することが可能となります。
つまり、後遺症が残っていても、等級申請を行わなければ、後遺障害慰謝料は請求できません。
後遺障害等級 | 裁判所基準 |
第1級 | 2800万円 |
第2級 | 2370万円 |
第3級 | 1990万円 |
第4級 | 1670万円 |
第5級 | 1400万円 |
第6級 | 1180万円 |
第7級 | 1000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
後遺障害等級には1級~14級があり、等級に応じての慰謝料の相場は決まっています。
また、後遺障害の等級が認定された場合は、慰謝料以外に逸失利益(被害者の方に後遺症が残らなければ本来得ることができていた利益)が請求可能です。この逸失利益も等級に応じての計算となりますが、各算定基準で計算方法が異なり、裁判基準は他2つの基準に比べて非常に高額となります。
4 慰謝料が低いと感じたら、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ。
裁判基準を中心に慰謝料について説明をさせていただきました。
保険会社から提示された慰謝料が低いと感じた場合は、まずは弁護士に相談をしてみましょう。
ほとんどの保険会社は、自賠責基準か任意保険基準で慰謝料を提案しています。被害者の方本人が交渉相手の際に、裁判基準で提案する保険会社はまずないでしょう。
弁護士に依頼をすれば、裁判基準での交渉となるため、慰謝料の増額の可能性は非常に高いです。また、その他の損害項目についても、適正な金額で提案されているのか、請求漏れがないのかをしっかり確認してくれます。
慰謝料の増額については、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにぜひご相談ください。