交通事故の死亡事故は年々減少傾向にありますが、死亡事故における高齢者の割合は増加傾向にあります。
交通事故により、被害者の方がお亡くなりになってしまった場合、相手の加害者側に請求する損害賠償金については、「何が請求できるのか?」をよく理解しておかなければなりません。
特に、高齢者の方が被害者となってしまった場合は、「高齢者であること」を理由に金額に影響がある項目もあります。
ここでは、高齢者の方がお亡くなりになった場合における死亡慰謝料など損害賠償金についてご説明をさせていただきます。
目次
1 交通事故における高齢者の死亡慰謝料の相場
まず、高齢者の方が亡くなった場合、高齢であることや、仕事をしていなことで慰謝料が減るのではないかと心配されている方もいらっしゃるかと思いますが、結論から申し上げますと、年齢、職種が慰謝料に影響することはありません。
慰謝料は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料とありますが、死亡慰謝料についてのみ、算定基準によっては被害者の方の家庭内の役割(立場)や家族構成などが影響します。これは後程ご説明をさせていただきます。
さて、交通事故の慰謝料は、被害者の方が受けた精神的ダメージに対して、金銭的に補償するものであり、病院の通院回数、期間や後遺障害の等級、死亡の場合は、被害者の方の家族構成などにより決まります。
各慰謝料ですが、算出するにあたり、3つの算定基準があります。
⑴自賠責基準 |
⑵任意保険基準 |
⑶弁護士基準(裁判所基準) |
⑴自賠責基準
原動機付自転車を含むすべての車両は自動車損害賠償責任保険(通称:自賠責保険)に加入をしなければならないと法律によって義務化されています。
自賠責保険は、多くの被害者の方からの請求に対して、迅速・公平に対応する必要があることから、支払い基準、支払い限度額が定められており、交通事故の人身事故の被害者の最低限の補償を目的しています。
自賠責基準は、この自賠責保険で使用されている基準です。
3つの算定基準の中では最も低い金額を算出する基準となっています。
⑵任意保険基準
強制保険である自賠責保険に対して、本人の任意で加入するか否かを決めることができる保険を任意保険といい、その任意の保険会社で使用される基準を任意保険基準といいます。
各任意保険会社が個々で算定方法、金額等を定めていることから、明確な計算方法等は非公開となっています。ただ、実際に任意の保険会社より損害賠償額の提示を受けた際をみると、自賠責基準を少し上回る、もしくは同等の金額が算出されています。
⑶弁護士基準(裁判所基準)
弁護士基準は、過去の裁判例を基に作られている基準であり、裁判所基準、裁判基準とも呼ばれています。
3つの算定基準の中では、最も高い金額が算出されると言われています。
裁判になった場合、もしくは弁護士を介入しての示談交渉の際に使われる基準です。
さて、被害者の方が、死亡した場合の死亡慰謝料の相場ですが、選定基準によって大きく異なります(詳しい金額については後程ご説明をさせていただきます)。
被害者のご遺族の方は、まず相手の任意の保険会社との交渉の際は「どの基準で計算をされているのか」を確認することを忘れないでください。
なお、多くの場合は、任意保険基準、自賠責基準で計算をされていることでしょう。
保険会社はあくまでも「営利企業」です。そのため、自社から出ていくお金をできる限り抑えることを基軸に動いています。
結果、被害者の方に提示する金額は低い基準で算定した、低額のものとなります。
これは、死亡事故であっても変わりません。
最も高い基準である弁護士基準で相手の保険会社と示談交渉をするためには、弁護士に依頼をするしかありません。
弁護士基準は法的拘束力がないことから、たとえ、被害者の方本人が知識をつけて、弁護士基準で計算し請求をしたとしても、相手の保険会社に強制することができないため、応じることはほぼありえません。
弁護士に依頼をすれば、弁護士は裁判を見越して示談交渉を行いますので、保険会社は、「裁判となって余計な費用が掛かり、長期化するのであれば、弁護士基準を検討しよう 」と考え、示談交渉の段階で高額の損害賠償金を引き出せる可能性が上がります。
死亡事故の場合、損害賠償金は非常に高額になる可能性が高く、その分争われる可能性があります。さらに、高齢者の方となると、この後ご説明をさせていただきます「死亡逸失利益」の認否が争点となることも珍しくありません。
被害者のご遺族の方は、必ず弁護士に相談することをしましょう。
2 交通事故で高齢者が死亡した際に請求できる損害賠償金
交通事故で高齢者の方が亡くなった場合、加害者側に請求できる損害賠償金は「死亡慰謝料」「死亡逸失利益」「葬儀関係費用」というものがあります。
⑴死亡慰謝料とは
死亡慰謝料は2種類あります。
①被害者の方本人に対する慰謝料 |
②ご遺族の方に対する慰謝料 |
なお、死亡事故の場合、被害者の方が亡くなっているので、示談交渉は被害者の相続人であるご遺族の方が行います。
①被害者の方本人に対する慰謝料
まず、被害者の方の慰謝料は、被害者の方には、交通事故に遭った際に精神的苦痛が存在したと考えられます。そのため、死亡させられたことによる精神的苦痛に対する慰謝料の請求が認められます。
②ご遺族の方に対する慰謝料
次に、ご遺族の方の慰謝料です。
ご遺族の方も、被害者の方本人への慰謝料とは別途の固有の慰謝料が認められています。
突然の交通事故で近しい人を失ったご遺族の方の精神的苦痛は、被害者の方本人が受けた精神的苦痛とは別ものであると考えられるからです。
⑵死亡慰謝料の相場
では、死亡慰謝料の相場はいくらになるのでしょうか?
算定基準ごとにご説明をさせていただきます。
①自賠責基準
自賠責保険基準では、以下の内容が支払いの限度額となります。
死亡による慰謝料 | 内容 | 支払基準 |
被害者本人の慰謝料 | 400万円(※350万円) | |
ご遺族の慰謝料
※請求者(親、配偶者、子)の人数により金額は異なります。 | 請求者が
1名の場合:550万円 2名の場合:650万円 3名以上の場合:750万円 ※被害者に被扶養者がいる場合においては、上記の金額に200万円が加算されます。 |
※印は2020年3月31日以前の事故の場合の基準
ご遺族の方の慰謝料については、自賠責基準においては、「請求する人数」によって異なります。
また、ご遺族の方の中に、被害者の被扶養者がいる場合、金額200万円が加算されて支払われます。
②任意保険基準
任意保険基準は、先ほどの述べましたように、各保険会社が個々で算定方法を定めていますので、以下の表はあくまでも、おおよその推定金額をご紹介いたします。
被害者の方の家庭内での役割
一家の支柱 | 1,500万円~2,000万円程度 |
母親・配偶者 | 1,300万円~1,600万円程度 |
その他(独身者、未成年者、高齢者等) | 1,100万円~1,500万円程度 |
任意保険基準の場合、慰謝料の相場は、「被害者の方が家庭内でどの立場なのか」がポイントとなります。
たとえば、被害者の方が一家の支柱の場合、家庭の経済的支柱が失われるということから、他の立場の方に比べると、慰謝料の相場が高額となる傾向があります。
なお、任意保険基準では、自賠責基準と異なり、被害者の方本人の慰謝料とご遺族の方の慰謝料が分けて計算されることは、ほとんどありません。
③弁護士基準(裁判所基準)
弁護士基準でも、被害者の方本人とご遺族の方の慰謝料は分けずに算出されます。
被害者の方の家庭内での役割
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
その他(独身者、未成年者、高齢者等) | 2,000万円~2,500万円 |
なお、被害者の方が入院、通院をしたのちにお亡くなりになった場合については、死亡慰謝料だけでなく、入通院慰謝料も請求が可能となります。
入通院慰謝料の各基準の相場、計算方法については以下の記事をご覧いただければと思います。
では、ここで3つの基準を比較してみましょう。
(例) 亡くなった被害者の方は高齢者でありましたが、既婚者であり、妻と子1人がいる一家の経済的支柱を担う方でした。 また、妻、子は被害者の方の被扶養者でもありました。 |
【自賠責基準】本人への慰謝料…400万円(※350万円) 遺族への慰謝料…650万円+200万円 合計額…1,250万円(※1,200万円) (※)内は2020年3月31日以前の交通事故の場合 |
【任意保険基準】1,500万円~2,000万円程度 |
【弁護士基準】2,800万円 |
比べていただくと明らかなように、弁護士基準が圧倒的に高くなります。
なお、高齢者の方が、死亡事故の被害者であっても、基本的には上記の表にあてはめて計算がなされます。
ただし、高齢者の方が一家の支柱であったりした場合など、事案によっては上記の表に当てはまらないこともあります。
⑶死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、「生きていれば、被害者の方が本来得られたはずの利益(収入)」のことをいいます。
死亡逸失利益は、被害者の方の就労状況や事故当時の収入、また年齢等を基に計算されます。
事案によっては、高額になることが多く、争点になることは珍しくありません。
特に高齢者の方の場合、収入の有無や勤労可能年数などが大きく影響するため、争点になりやすいです。
以下、高齢者の方の収入について、考えられるパターンをご説明します。
①就労による収入があった場合
高齢者の方でも、自営業やパート、アルバイトなどの就労により、収入を得ている場合は、死亡逸失利益の請求が可能と考えられます。
基本的には、実際に得ている収入を基礎収入として算出されることになります。
②年金受給者
就労が無く、年金で暮らしている高齢者の方はおおくいらっしゃいます。
この場合、年金は「収入」と考えられ、死亡逸失利益は認められる可能性があります。
ただし、年金の中でも、老齢年金、障害年金、退職年金などは、逸失利益性が認められる傾向がありますが、遺族年金については、逸失利益としては認められていないなどありますので、弁護士に相談をするようにしましょう。
③基礎収入がない場合
高齢者の方で、年金も受け取っておらず、働いていない場合=基礎収入がない場合については、本人の就労意欲、就労する能力、蓋然性があったか否かなどがポイントとなります。
仮に事故当時に就労をしていなかったとしても、再就職の内定を受けていたり、就労意欲、能力があったりした場合については、就労による収入が見込まれることから、基礎収入があったと考えられ、死亡逸失利益はあったと考えられることもできます。
また、亡くなった高齢者の方が、家事従事者(主婦・主夫)の場合があります。
このような事案でも、死亡逸失利益が認められる可能性があります。
ただし、基礎収入がない高齢者の方の死亡逸失利益を算出する際、「基礎収入」をいくらで計算するかについては、大きな争点の1つになりやすいです。
高齢者の方ではなく、若い人が死亡事故の被害者となってしまい、かつその方には基礎収入が無い場合においては、「賃金センサスの平均賃金」を使って計算されることが一般的です。
同じく高齢者の方も、賃金センサスの平均賃金にて、計算が可能ですが、身体能力が若い人に比べると落ちることから、労働能力も落ちると考えられ、基礎収入を計算するにあったて、適宜減額されることが多いです。
⑷葬儀関係費用
高齢者の方に限らず、死亡事故の場合は、葬儀関係費用が請求できます。
葬儀費用には、葬祭費用ではありません。
供養費や墓碑建立費、仏壇費、仏具購入費、遺体の処理費用(火葬、埋葬)などといった費用も含まれます。
なお、墓地や香典返しについては、認められません。
自賠責保険では、葬儀費用については、支払い限度額は100万円とされています。
※2020年3月31日以前の交通事故については、限度額は60万円。
この金額を超える場合は、必要かつ妥当でありと判断され、また立証資料がある場合においては、100万円までは支払われることになります。
弁護士基準の場合の葬儀費用については、150万円までとされています。
ただし、実際にかかった葬儀費用が150万円を下回る場合においては、「実際に支出した金額」だけとなります。
請求には立証資料が必ず必要となります。
なお、過去の裁判例においては、150万円を上回る葬儀費用が認められたこともありますので、請求可能か否かは、弁護士に相談をすることを強くお勧めします。
3 死亡逸失利益の計算方法
高齢者の方の死亡逸失利益はどのように計算されるのでしょうか?
死亡逸失利益を求める式は以下となります。
死亡逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
⑴基礎収入額
まず、就労により基礎収入がある高齢者の方の場合は、アルバイトやパートなどの給与所得者である場合と、自営業者である場合で考え方が異なります。
給与所得者 | 事故前3ヶ月の給与 |
自営業者 | 事故前年度の年収(※基本的に確定申告の所得金額がベース) |
年金受給者の方は、年金支給額を基礎収入として算定します。
なお、基礎収入がない方の場合の死亡逸失利益を算定する際の基礎収入は、以下のように考えられます。
①事故当時に、次の就職先が決まっていた方の場合
就職予定であった職場の給与をベースに基礎収入額は算定されます。
内定書、雇用契約書などの根拠資料が必要となります。
②まだ就職先が決まっていないが終了可能であった状態、もしくは主婦(主夫)の方の場合
「賃金センサスの平均賃金」をベースに基礎収入を算定します。
⑵生活費控除率
生活費控除率とは、生きていれば本人が生活費として消費していたであろう部分を得るはずであった収入より差し引くものです
亡くなった方の家族構成や役割、男性・女性で生活費控除率は変わります。
一家の支柱(扶養家族1人) | 40% |
一家の支柱(扶養家族2人) | 30% |
女性 | 30% |
男性 | 50% |
なお、年金受給者の場合については、計算時に忠治が必要です。
基本的に年金のほとんどは「生活費」として使用されると考えられます。
そのため、年金受給者の方の場合は、生活費控除率は高く考えられる傾向があります。
実際は、基礎収入の金額を考慮しつつ、50%~70%を生活費控除率とされることが多いです。
⑶就労可能年数
就労可能年数は、事故当時の年齢から67歳までを基準として、あと何年就労できたかを計算します。
たとえば、47歳の方が交通事故により亡くなった場合、67歳-47歳として、20年間分の逸失利益を被害者側は受け取ることになります。
この67歳というのは、裁判や紛争処理センターだけでなく、示談交渉時でも使用されます。なお、むちうち症などの軽症の場合は例外です。
しかしここで問題になるのは、すでに67歳を過ぎている、もしくは67歳間近である高齢者の方の勤労可能年数です。
この場合は、簡易生命表の平均余命をから、就労可能年数を算出します。
具体的に申し上げると、67歳を超えている、もしくは67歳間近の高齢者の方の逸失利益を計算する際の、就労可能年数については、「その年齢の男子(または女子)の平均余命の半分」と考えられます。
たとえば、79歳の男性の方が死亡した場合、簡易生命表から、平均余命は9.68となるため(平成30年度)、勤労可能年数は、その半分の4.84となります。
平均余命の2分の1を計算する際は基本的に、小数点以下を切り捨てて計算がされますので、上記のケースでは4年と考えられます。
なお、67歳間近場合の高齢者の方の場合は、①死亡してから67歳までの年数②平均余命の2分の1、①②を比べて年数の長い方を適用します。
なお、ライプニッツ係数とは、将来の収入を一括で受けとることから、中間利息を控除する必要があるという考え方により、予め差し引きされるための数値です。
ライプニッツ係数は、勤労可能年数に応じて計算がなされます。
4 高齢者の方の損害賠償請求については交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
高齢者の方の死亡事故における慰謝料などの損害賠償金についてご説明をさせていただきました。
高齢者の方の損害賠償金を請求する際、死亡慰謝料、死亡逸失利益については争点なりやすく、特に死亡逸失利益については、基礎収入、勤労可能年数のこともあり、難航する傾向があります。
死亡事故については、必ず弁護士に相談をするようにしましょう。
死亡事故は、傷害事故に比べると、損害賠償金は高額となることから、保険会社と争うことは避けられません。
また、何もわからないまま相手の言う通り進めていると、低い金額での示談が成立してしまう可能性があります。
弁護士に依頼をすると、大幅に増額する可能性もあり、また高齢者の方の死亡逸失利益についても支払われる可能性が高くなります。
高齢者の方が亡くなってしまった事故については、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。