生産性が低いにもかかわらず努力が見られない社員や、注意しても勤務態度が改善されない社員はどこの企業にもいるのではないでしょうか。管理者からすれば、あまりにも問題のある労働者にはなんとかして退職してもらいたいというのが本音かと思います。
しかし、雇用者は被雇用者よりも強い立場にあることもあり、正当な理由なく従業員を解雇すると、不法行為として損害賠償を請求される恐れがあります。
違法にならない範囲内で退職勧告をするには、どうすればいいのでしょうか。この記事では、退職勧告に関連する用語について解説をした上で、違法な退職勧告をしないための知識についてお伝えします。
目次
違法な退職勧告をしないために押さえておきたい5つの用語
退職勧告について理解する上では、以下の5つの用語を先に押さえておくと理解が捗るかと思います。
- 退職勧告
- 解雇
- 退職強要(違法)
- パワハラ(違法)
- 不当解雇(違法)
上記のうち、1と2は正しい方法で行われる限り適法で、3~5は違法行為となります。具体的に何をすると違法行為になるのか、ここで把握していきましょう。
適法の範囲内で従業員を辞めさせるための手段は2つ
適法の範囲内で従業員に辞めてもらう方法は、退職勧告と解雇の2つです。退職勧告をしてから解雇を行うのが自然な流れとなります。
退職勧告(退職勧奨)
退職勧告とは、企業が従業員に対して自主的に退職するようにお願いすることをいいます。
退職勧告を受けた場合、退職するかどうかは当該従業員の任意となります。決定権が従業員の側にあるというのがポイントです。強要をしたり、威迫をしたりすると後述する退職強要やパワハラになってしまいます。
解雇
不当解雇にならないためには、次の2点を満たす必要があります。
客観的に合理的な理由があること
社会通念上相当であること
抽象度が高くて解釈が難しい場合もあるかと思います。適法な範囲内での解雇とは、具体的には次の3つになります。
- 整理解雇
- 懲戒解雇
- 普通解雇
整理解雇
業績が芳しくないため、やむなく従業員を解雇することをいいます。整理解雇をするためには、次の要件を満たしている必要があります。
【整理解雇の4要件】
- 1.人員整理の必要性
- 2.解雇回避努力義務の履行
- 3.非解雇者選定の合理性
- 4.解雇手続きの妥当性
懲戒解雇
極めて悪質な規則違反、法律違反をした従業員に対して、処分としての解雇を行うことを懲戒解雇といいます。あらかじめ就業規則に懲戒解雇についての規定があり、従業員に周知がなされていた場合は懲戒解雇をすることが可能です。
3.普通解雇
整理解雇・懲戒解雇以外の解雇を指します。客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な場合に普通解雇が可能になります。また、普通解雇をするためには就業規則に根拠になる条文が必要で、解雇予告や解雇予告手当ての支払いなどが必要になります。
退職勧告をする際に押さえておきたい3つの違法行為
実際に退職勧告をする際は、『退職強要』『パワハラ』『不当解雇』のいずれかに当てはまらないように行うことが重要です。
退職強要
退職勧告はあくまで従業員に任意での退職をお願いするものであるため、脅迫や暴言があった場合は退職強要になる恐れがあります。具体的にどこからが強要になるのかについては後述いたします。
パワハラ
退職に応じない社員を退職させるために職務上の権限を悪用して退職に追い込むとパワハラに当たる可能性があります。退職勧告時におけるパワハラとは、例えば減給や不当な配置転換をチラつかせること、達成不可能なノルマを課すこと、逆にシフトを入れないといったことなどがあげられます。
不当解雇
客観的合理性がなく、社会通念上相当でない場合に不当解雇になる恐れがあります。退職勧告に応じないからといって会社の方から解雇を告げてしまうと不当解雇になりえます。
日本の裁判では解雇権の濫用に関して厳しく判断がなされるので、解雇は最終手段と考え、退職条件の交渉をするなど合意の形成を図ることから始めるのが無難です。
退職勧告が違法・パワハラにならないためのポイント
上記でお伝えしたように、退職勧告をする際に強要や嫌がらせと取られるような交渉の仕方をしてしまうと、違法行為になってしまう可能性があります。退職勧告が違法になるかどうか判断されるポイントとしては、次のようなものがあげられます。
面談の回数や時間に気を付ける
退職強要にならないために面談時に気を付けるべきポイントは次のとおりです。
1度の面談が長時間にならないようにする
事情の説明や条件交渉など、必要最低限の回数にとどめる
大人数で面談を行いプレッシャーをかけない
業務時間外の面談はしない
言葉づかいに気をつける
個人を批判するような表現や、職場での権限を濫用するような表現は避けましょう。
従業員の名誉を傷つけたり中傷したりするような表現はしない
解雇や減給、降格や不当な配置転換などの話を持ちかけない
性別や妊娠、育児、介護などについて触れない
退職勧告を拒否されたらそれ以上退職を求めない
従業員本人が明確に退職勧告を拒否した場合、それ以上説得を行うと任意ではなく強制になってくるリスクが大きくなります。拒否をされた場合、その場では粘らずに、他の方法を考えるのが賢明です。
退職勧告を進める手順
ここからは、退職勧奨を進めていく手順について解説します。
関係者の合意を得る
まず、当該従業員に退職勧奨をしようとしている旨を管理職や直属の上司などに伝えて、あらかじめ合意を得ておきましょう。
伝える内容をメモしておく
退職勧奨はセンシティブな問題ですので、感情的対立は避けるべきです。したがって、あらかじめ伝えるべき内容はメモしておくなどして、失言をしないよう準備をするのが無難です。あくまで客観的かつ合理的な説明だけをするようにしましょう。
面談を行う
当記事でお伝えしたポイントを踏まえつつ、従業員に退職して欲しいと伝えましょう。退職勧奨をされると、対象の従業員は大いに動揺することが考えられます。したがって、午前中や週の頭に面談を行うと、業務や職場の人間関係に悪影響になりかねません。したがって、夕方以降や週末などに面談をするのが無難です。
条件面をすり合わせる
本人に退職の意思がある場合は、退職の時期や金銭的補助などの提示とすり合わせを行いましょう。
合意書を作成する
話し合いがまとまったら、合意書を作成しましょう。後に不当解雇を主張されないよう書面による証拠を残しておくのが無難です。
退職勧告をする際に弁護士に相談するメリット
退職勧告はあくまで任意ですので、従業員に退職をしてもらえない可能性はもちろんありますし、こちらにそんなつもりがなかったとしてもパワハラや退職強要になってしまう可能性もゼロではありません。
弁護士に相談することで、現在考えている退職勧告の方法に法的リスクがないか確認できます。退職勧告の具体的なやり方については法律などで決められているわけではないので、うまくいくかどうかは当事者の交渉力に依存してきます。
弁護士は交渉をするのが仕事なので、解雇や退職勧奨の経験が豊富な弁護士に依頼をすることで、法的リスクの少ない方法で退職勧告ができるようになります。
まとめ
退職勧奨は従業員に任意での退職をお願いする行為であり違法ではないものの、職権を濫用したり本人の意思を無視して交渉を続けたりすると、退職強要やパワハラなどになってしまいます。話し合いが難航しそうな場合や強い感情的対立が予想される場合には、一度弁護士に事情を説明してアドバイスをもらうことも検討してみてください。