特定商取引法(特定商取引に関する法律)とは、訪問販売や連鎖販売取引など、消費者トラブルを招きやすい取引方法に対して、トラブルを防ぐために一定のルールを課すための法律です。特定商取引法に違反すると、最悪の場合行政処分として業務停止命令を下されたり、刑事罰を受けたりすることが予想されます。
この記事では、特定商取引法に違反しないためのリスクについてご説明します。
目次
特定商取引法を違反するリスク
特定商取引法に違反すると、次のようなリスクが考えられます。それぞれ具体的に見ていきましょう。
- クーリングオフや中途解約をされる
- 行政処分の対象になる
- 刑事罰が下される
- 悪評が拡散する恐れがある
1.クーリングオフや中途解約をされる
特定商取引法の対象となる事業者に対して、消費者は次の4つの権利を行使できます。
- クーリングオフ
- 不実告知等を理由とする契約の取り消し
- 中途解約
- 過量販売解除
クーリングオフ
(通信販売を除く)特定商取引法の対象になる取引行為に対して、一定期間内であれば無条件に契約を解除できるクーリングオフが認められています。
不実告知等を理由とする契約の取り消し
嘘をついて契約を結んだり(不実告知)、重要な事実を説明しないで契約を結んだり(事実不告知)した場合、消費者は契約を取り消すことができます。
中途解約
連鎖販売取引と特定継続的役務提供の場合、クーリング期間が過ぎた後でも理由に関係なく消費者は中途解除が可能です。解約の際に事業者が請求できる金額には上限が定められています。連鎖販売取引の場合、一定の条件を満たせば消費者は商品を返品することが可能です。
過量販売解除
本来の必要以上に過剰に商品を買わされた場合、契約後1年間であれば消費者は契約を解除できます。
2.行政処分の対象になる
特定商取引法違反をすると、一定期間の業務停止命令や業務禁止命令などを下されます。さらに『執行事例の検索|特定商取引法ガイド』などに事業者名と処分内容
違反行為の内容などが掲載されるため、企業の信用低下は免れません。
3.刑事罰が下される
虚偽の情報を伝えて商品を購入させるなどした場合、1億円以下の罰金に処せられる恐れがあります。
4.悪評が拡散する恐れがある
悪質な業者から消費者を守るため、テレビのニュースで報道されたり、インターネット上の掲示板やS N S等で悪評が拡散したりすることが考えられます。
特定商取引法の対象になる取引行為
全ての商取引が特定商取引法の対象となるわけではありません。同法の対象になる取引方法は以下の通りです。
1.訪問販売
消費者の住居に訪問する行為(訪問販売)、路上でキャッチをして営業所に連れて行く行為(キャッチセールス)、ネット上でアポをとって営業所に呼び出す行為(アポイントメントセールス)などが規制の対象となっています。
2.通信販売
通信販売とは、インターネットやテレビなどを介した商品販売方法のことを指します。
3.電話勧誘販売
電話をかけてアポをとったり商品販売などをしたりする方法を指します。
4.連鎖販売取引
別名マルチ商法、ネットワークビジネス。消費者を販売員として契約し、新しい販売員を勧誘させる方法です。
5.特定継続的役務提供
一定期間継続的に提供されるサービスに対して、対価を支払う取引方法です。具体的には、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスの7役務が特定継続的役務として指定されています。
6.業務提供誘引販売取引
事業者が提供する商品やサービスを購入すれば、顧客も利益を得られると伝えて勧誘をする取引方法です。
特定商取引法における行政規制
消費者への適正な情報公開のために、取引の特性に応じて次のような規制が行われています。
- 氏名等の明示義務
- 不当な勧誘等の禁止
- 広告規制
- 書面交付義務
- 告知義務
氏名等の明示義務
勧誘をする際は、氏名や勧誘目的である旨を消費者に対して伝える義務があります。
不当な勧誘行為の禁止
不実告知や事実不告知、再勧誘、消費者を威迫するような勧誘行為は禁止されています。
広告規制
著しく事実に相違する表示である虚偽広告、実際のものよりも著しく優良
有利であると誤認させるような誇大広告が禁止されている他、重要事項を表示することが義務付けられています。
書面交付義務
事業者は、契約締結時に重要事項が記載された書面を消費者に交付しなければなりません。
告知義務
事業者は、消費者に対して一定の期間内であればクーリングオフができる旨を伝える義務があります。
特定商取引法に違反しないための対策
事業者が特定商取引法に違反しないためには、具体的に何をすると特定商取引法に違反する恐れがあるのか正しい知識を身につけた上で、現場の労働者に周知することが重要です。ここでは、特定商取引法に違反しないための対策についてお伝えします。
- 特定商取引法について現場に周知する
- マニュアル化してしまう
- 弁護士と顧問契約を結ぶ
特定商取引法について現場に周知する
現場で働く労働者に対して、研修や勉強会を行うなどして特定商取引法について周知しましょう。特定商取引法の全体像について全員が把握している必要はありませんが、最低限各人が自分の業務のどの部分が特定商取引法に関係してくるのか理解している必要はあるでしょう。
マニュアル化してしまう
例えば、新規契約の顧客に対して説明する内容を一部マニュアル化したり、あらかじめ交付する書面を特定商取引法に則った形で作成したりするなど、各労働者の力量や裁量に依存せずに対応できる部分に関しては、事前に用意をしておくといいでしょう。
例えば、必ず事前に説明するべき内容をリストアップした上でマニュアル化してしまえば、事実不告知を防ぎやすくなります。顧客との間でトラブルが起きそうなポイントをリストアップし、それぞれを未然に防ぐような仕組みを作ればヒューマンエラーなどを避けやすくなります。
弁護士と顧問契約を結ぶ
特定商取引法を遵守するためには、労働者を指導する立場にある管理職の方と実務にあたる現場の労働者ともに、自社の事業のどの職務で何をすると特定商取引法に違反しうるのか、正確に理解をしている必要があります。
しかし、特定商取引法の全体像を把握するには時間がかかりますし、条文の解釈の仕方については法に精通する弁護士でなければ難しい場合もあります。特定商取引法違反によるリスクを避けるには、弁護士と顧問契約を結び不明点をいつでも質問できる状態を作っておくと安心です。
まとめ
ここでは、事業者が特定商取引法に違反しないための知識についてご説明してきました。トラブルを未然に防ぐ一助となれれば幸いです。