大阪府内の自転車対歩行者の事故発生件数は,平成25年には276件であったのに,令和4年には371件にまで増えています。
また,大阪府内の交通事故全体に占める自転車関連事故の割合は,平成25年には31.6%であったのに,令和4年には34.7%に上昇しています。
誰もが自転車事故に遭う可能性があります。
もし,自転車事故に遭い,加害者が逃げたらどうすればよいのでしょうか。
当コラムでは,自転車にひき逃げされた場合の損害賠償請求についてご説明いたします。
参照:大阪府警察 自転車相互・自転車と歩行者の事故発生状況の推移(過去10年)
大阪府警察 自転車関連事故の全交通事故に占める割合の推移(過去10年)
目次
1 自転車にひき逃げされたらまずすべきこと
⑴ひき逃げとは
「ひき逃げ」とは,自動車などで人身事故を起こし,逃亡する行為のことです。
自転車で人身事故を起こし,逃亡することも「ひき逃げ」にあたります。
自転車は道路交通法上の「軽車両」にあたるので,自転車のひき逃げは道路交通法72条違反になります。
(定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 八 車両 自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう。 十一 軽車両 次に掲げるものであつて、移動用小型車、身体障害者用の車及び歩行補助車等以外のもの(遠隔操作(車から離れた場所から当該車に電気通信技術を用いて指令を与えることにより当該車の操作をすること(当該操作をする車に備えられた衝突を防止するために自動的に当該車の通行を制御する装置を使用する場合を含む。)をいう。以下同じ。)により通行させることができるものを除く。)をいう。 イ 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含み、小児用の車(小児が用いる小型の車であつて、歩きながら用いるもの以外のものをいう。次号及び第三項第一号において同じ。)を除く。) (交通事故の場合の措置) 第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。 |
⑵自転車にひき逃げされたら
①加害者の特定
あとで加害者に損害賠償請求を行うために,加害者を特定する必要があります。
自動車と違って自転車にはナンバープレートがないので,自動車事故と比べて加害者を特定することは難しいです。
警察は加害者を特定しようと捜査します。
ただ,軽傷のひき逃げ事件であれば,検挙率は69.6%であるため,警察が必ずしも加害者を特定できるわけではありません。
そこで,ご自身でも以下の方法をとって加害者を特定しましょう。
・スマートフォンで加害者が逃げ去る様子を撮影する ・現場周辺の防犯カメラ・車のドライブレコーダーを確認する ・加害者が制服を着ていれば学校・職場に連絡する ・目撃者がいれば加害者の特徴を尋ねる ・声を出して周囲の注目を集め,加害者を覚えてもらう |
②警察に連絡
交通事故が起こった場合,届け出をすることは道路交通法上の義務です。
また,警察に届け出をしなければ交通事故証明書が発行されません。
交通事故証明書がなければ,保険会社は保険適用を拒否する可能性があります。
そのため,警察に届け出ることは,保険金を受け取るためにも必要になります。
なお,交通事故の届け出については当事務所の次のコラムでご紹介しているので,ご覧ください。
③病院を受診
事故直後には気付かなくとも,怪我をしている場合があります。
事故から数日経ってから病院を受診すれば,「交通事故とは別の原因で怪我を負ったのではないか?」と交通事故と怪我の因果関係が疑われる可能性があります。
加害者に損害賠償請求するかもしれないことを踏まえて,「怪我をしていない」と思っても,病院を受診しましょう。
なお,自転車と歩行者の交通事故について,当事務所の次のコラムでご紹介しているので,ご覧ください。
2 自転車にひき逃げされたら誰に損害賠償を請求すれば良いのか
⑴自賠責保険
自動車の場合,自賠責保険への加入は義務付けられており,未加入で自動車を運行すれば刑罰が科されます。
しかし,自転車は「自動車」ではないので,自賠責保険の適用はありませんので,自賠責保険に請求できません。
⑵任意保険
加害者が自転車保険に加入していれば,自転車保険から補償を受けることができます。
自転車保険への加入については,大阪府や京都府などでは義務化されていますが,努力義務ないしは義務化されていない都道府県もあります。
自転車事故の加害者が無保険である場合,被害者は十分な賠償金を受け取ることができない可能性があります。
加入義務の対象となる自転車保険には,以下のものがあります。
自転車保険の種類 | 保険の概要 | |
個人賠償責任保険 | 自転車向け保険 | 自転車事故に備えた保険 |
自動車保険の特約 | 自動車保険の特約で付帯した保険 | |
火災保険の特約 | 火災保険の特約で付帯した保険 | |
傷害保険の特約 | 傷害保険の特約で付帯した保険 | |
共済 | 全労済,市民共済など | |
団体保険 | 会社等の団体保険 | 団体の構成員向けの保険 |
PTAの保険 | PTAや学校が窓口となる保険 | |
TSマーク付帯保険 | 自転車の車体に付帯した保険 | |
クレジットカードの付帯保険 | カード会員向けに付帯した保険 |
参照:国土交通省 自転車損害賠償責任保険等への加入促進について
⑶加害者
加害者が自転車保険に加入していない場合,加害者に直接賠償金を請求することになります。
この場合,保険会社の担当者ではなく,加害者本人と直接示談交渉をすることになります。
当事者同士の話し合いになれば,冷静な話し合いが期待できず,交渉が一向に進まない可能性があります。
弁護士に依頼すれば,弁護士は示談交渉に長けているので,加害者本人との示談交渉であっても冷静に対応し,交渉を進めることができます。
3 自転車にひき逃げされた時の損害賠償請求の流れ
⑴症状固定
損害が確定するのは,症状固定のタイミングです。
症状が固定してから示談交渉を開始しましょう。
交通事故後,症状が残っている場合は,後遺障害診断書を作成してもらいます。
⑵示談交渉
保険会社ないしは加害者と示談交渉を行います。
自転車保険に「示談代行サービス」が付いていなければ,保険会社に示談交渉を代行してもらえず,被害者ご本人が示談交渉を行うことになります。
加害者側の保険会社が提示する示談金は相場よりも低いことが多いです。
そのため,すぐに保険会社が提示する示談金額を鵜呑みにしてはいけません。
一方で,弁護士が交渉すれば,「弁護士基準」と呼ばれる過去の裁判例をもとに設けられた基準に基づいて示談交渉を行うことができます。
「弁護士基準」で計算した方が,示談金が高くなります。
また,弁護士相手であれば,保険会社は訴訟に発展することを恐れ,態度が軟化する可能性も高いです。
そのため,弁護士に依頼すれば示談金の増加を見込めます。
⑶裁判
示談交渉でまとまらなければ交通事故紛争処理センターでの和解を目指したり,訴訟で解決することになります。
4 相手が特定できなかったら?
加害者を特定できなければ,加害者の保険を使ったり,加害者に損害賠償請求することはできません。
もしも,被害者ご本人が保険に加入していれば,補償を受けることができるかもしれません。
被害者本人とご家族が,「人身傷害補償保険」に加入している,または加入している保険にこの特約がついていれば,自転車事故によって生じた損害について,補償を受けられる場合があります。
5 まとめ
当コラムでは,自転車のひき逃げ被害に遭った際にとるべき行動や,損害賠償請求の流れについてご説明致しました。
自転車のひき逃げ事故では,自動車のひき逃げ事故と比べて加害者の特定が難しいこと,加害者が保険に入っていない場合もあることから,被害者ご本人で動いて十分な補償を受けることは難しいです。
そのため、法律の専門家である弁護士の介入が重要です。その際は、交通事故を多く取り扱う大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。