交通事故に遭い,身体に障害が残れば,後遺障害等級認定を申請することができます。
後遺障害等級が認定されなければ,後遺障害に対する慰謝料などを受け取ることができないので,後遺障害等級の認定を受けることは,慰謝料を獲得する第一歩です。
しかし,申請したからといって,必ずしも後遺障害等級が認定されたり,望む等級を獲得できるわけではありません。
当コラムでは,後遺障害等級が認定されない理由と,認定されなかった場合に対応策はあるのかについてご説明いたします。
目次
1 交通事故の後遺障害が認定されない2つの事例
【ケース1】 自転車と自動車の交通事故の事案
自転車に乗っていた被害者は腰・手首を捻挫し,事故後,腰痛・手首の痛み等に悩まされており,以前のように生活ができないと主張しましたが,後遺障害とは認定されませんでした。
後遺障害には該当しないと判断された理由
→後遺障害のうち,疼痛が認定されるには,「常時疼痛を残すもの」でなければならないところ,このケースにおいて被害者の自覚症状は,運動時だけであり,常時疼痛があるとはいえませんでした。
また,後遺障害診断書に,症状の存在を医学的に証明できる所見が認められない,とされました。
【ケース2】 停止中の自動車に,後ろから進行してきた自動車が追突した事案
停止中の自動車に乗っていた被害者は,手足の痺れなどの頚椎症性脊髄症状が後遺障害として残っていると主張しました。
後遺障害には該当しないと判断された理由
→事故から1年5ヶ月後に頚椎症性脊髄が発症しているので,交通事故が原因だとはいえない,とされました。
2 交通事故の後遺障害が認定されない5つの理由
⑴診断書の記載が不十分である
ケース1のような場合を指します。
後遺障害等級を認定してもらうには後遺障害診断書が必要で,認定にあたっては後遺障害診断書の記載が重視されます。
後遺障害診断書の作成に慣れていない医師であれば,認定に必要なポイントを押さえた記述がなされず,後遺障害が認定されないことがあります。
なお,交通事故で治療中に医師から病状固定だと判断され,後遺障害診断書を記載してもらう場合について,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
⑵治療日数が不足している
自賠責損害調査事務所が後遺障害等級を認定するにあたっては,通院実績も重視されています。
治療期間が短すぎると,「症状が軽く,治療の必要性が乏しかった」,「事故と後遺症には関係がない」などと判断される可能性が高いです。
適切な後遺障害等級認定を受けるには,継続的に通院しなければなりません。
⑶画像上の異常所見が認められない
後遺障害等級認定を受けるには,レントゲンなどの客観的証拠が重要です。
しかし,全ての交通事故を原因とする症状が画像上確認できるわけではありません。
そのような場合,客観的に症状が確認できないことを理由に後遺障害等級認定が下りないこともあります。
⑷事故と症状の因果関係が認められない
ケース2のような場合を指します。
交通事故から時間が経ってから症状を訴えた場合,事故と後遺症の因果関係を疑われることがあります。
⑸必要な検査をしていない
交通事故が原因で自覚症状があったとしても,その症状を数値などで示すことができるような検査を受けていなければ,医学的な裏付けができません。
しびれなどのレントゲンに現れない症状の場合,他の検査が必要になります。
3 後遺障害が認定されやすくなる2つのポイント
⑴適切な後遺障害診断書を作成する
後遺障害を認定してもらうには,後遺障害診断書が重要です。
後遺障害診断書は,医師が病状固定だと判断したタイミング,つまり,後遺症が確定した時点から作成が可能です。
後遺障害診断書には,以下の事項を記載することになります。
①被害者の基本情報
被害者の氏名などが記載されます。
②受傷年月日
交通事故に遭った日付のことです。
③入院期間・通院期間
後遺障害診断書を作成してもらう病院への入院・通院期間が記載されます。
④傷病名
症状固定時に残っている症状の傷病名が記載されます。
具体的な傷病名を記載することが必要です。
⑤既存障害
被害者が事故前から障害を有していれば,それを記載します。
既存障害が後遺障害に影響を与えていない場合でも,その旨を記載してもらいましょう。
⑥自覚症状
もれなく書いてもらいましょう。
痛みがある部位・症状,症状が現れる頻度や時間帯などを細かく説明しておきましょう。
⑦他覚症状・検査結果
後遺障害の有無を判断する客観的証拠となるので,レントゲンの画像所見などの検査結果等を記載してもらいましょう。
・障害内容の増悪・緩解の見通し
後遺障害とは,交通事故を原因とする後遺症のうち,治療後も事故前の状態にまで完全に回復せず,残る症状をいいます。
そのため,今後改善する可能性があれば,後遺障害に認定されない可能性があります。
そこで,「症状固定している」などの所見を書いてもらいましょう。
⑵弁護士に相談する
医師は交通事故の専門家ではないので,必ずしも被害者に有利となるような後遺障害診断書を作成してくれるわけではありません。
弁護士に相談しておけば,医師に診断書の作成をお願いする際のポイントや,作成してもらった診断書のチェックなどを行ってくれます。
また,その後の後遺障害等級認定申請の手続きのアドバイスやサポートを行ってくれます。
そのため,弁護士に相談することは効果的です。
4 交通事故の後遺障害が認定されなかった場合の対処法
⑴異議申し立て
①自賠責保険会社への異議申し立て
被害者が自賠責保険会社に異議申立書を提出する方法です。
自賠責保険会社は,異議申立書を損害保険料算出機構へ送付して認定を求めます。
損害保険料算出機構に設置された自賠責保険審査会において,外部の専門家が参加し,審査を行います。
認定結果は,自賠責保険会社から被害者に通知され,異議申立の回数は無制限です。ただし,1度異議申し立てをして認められない場合には,いくら無制限とはいっても新資料などが見つからない限りは何度も異議申し立てをしてもあまり意味がありません,
②一括払保険会社への提出
相手方保険会社が一括払で対応している場合,一括保険会社が事前認定を行ったその結果を被害者に通知します。
被害者が一括払保険会社に異議申立書を提出すれば,一括払保険会社は異議申立書を損害保険料算出機構へ送付して認定を求めます。
認定結果は,一括払保険会社から被害者に通知され,異議申立の回数は無制限です。
相手方保険会社が一括払で対応している場合,自賠責保険会社か一括払保険会社どちらかに異議申立を行うことになります。
③紛争処理機構への異議申し立て
紛争処理機構とは,自賠責保険金・共済金の支払について、支払の適正化を図ることを目的として国から指定された紛争処理機関です。
裁判に比べて迅速な解決を図ることを目的としている第三者機関です。
自賠責保険会社か一括払保険会社どちらかに異議申立を行った後で,その結果に異議があれば紛争処理機構へ異議申立として紛争処理の申請を行うことになります。
ただし,紛争処理機構への異議申立は,1回しか行えません。
⑵訴訟
後遺障害等級は損害保険料算出機構が決定します。
これに対して,訴訟では裁判所が判断するので後遺障害が認定される可能性があります。
もっとも,裁判所は損害保険料算出機構の認定を尊重するので,必ずしも後遺障害が認定されるわけではありません。
5 後遺障害が認定されない時は弁護士にご相談を
後遺障害が保険会社に認定されなかった場合,被害者ご本人で対応すれば,ご本人にかかる負担は大きいです。
異議申立を行った結果,認定の変更があった割合は約13%なので,認定結果を覆すことのできるような具体的な資料・証拠が必要であるところ,ご自身で必要な資料集めをして,論理的な反論を組み立てることは難しいからです。
また,訴訟を提起するとしても必ず後遺障害が認定されるとは限らないので,訴訟を提起すべきかの判断も難しいです。
弁護士は,交通事故による後遺障害の認定の経験に長けているので,適切な認定結果を得られる可能性が高まります。
また,示談交渉も含めて弁護士に依頼すれば,示談金の大幅な増額が期待できます。交通事故による後遺障害が認定されず,悩まれている方は,交通事故案件を多く取り扱い高い評価を得ている大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。