交通事故直後は物損事故として警察に届け出ていても,あとで痛みが出てくることがあります。
その場合,人身事故へ切り替えなければいけません。
当コラムでは,物損事故から人身事故への切り替えることのメリット・デメリットや切り替えの方法についてご説明いたします。
目次
1 物損事故から人身事故に切り替えるとどうなる?
⑴物損事故・人身事故の違いは?
交通事故には,「物損事故」と「人身事故」の2種類があります。
物損事故 | 物の損傷しか被害が出ない交通事故のこと |
人身事故 | 人が怪我を負ったり死亡した交通事故のこと |
物損事故と人身事故の違いは,死傷者が出たかどうかにあります。
物の損傷があっても,死傷者がいれば人身事故にあたります。
具体的には,以下のような違いがあります。
① 賠償範囲
人身事故では,治療関係費,将来介護費,逸失利益,休業損害,慰謝料等に加えて車の修理費,代車費用を請求できます。物損事故では車の修理費,代車費用を請求できます。
(詳しくは,2 物損事故から人身事故に切り替えることのメリットをご覧ください。)
② 損害賠償額
人身事故の賠償範囲は物損事故よりも広いので,人身事故の方が損害賠償額は高いです。
③ 自賠責保険
人身事故では適用されます。物損事故では適用されません。
④ 加害者の刑事責任
人身事故では過失運転致死傷罪などの罪(注1)に問われる可能性があります。物損事故では加害者が逃亡したら道路交通法違反の罪(注2)に問われます。
注1:運転の態様によって過失運転致死傷罪もしくは危険運転致死傷罪に問われます。
注2:道路交通法72条で定められている危険防止措置義務違反,報告義務違反に問われます。
⑵物損事故から人身事故に切り替えるとどうなる?
物損事故から人身事故に切り替えると,加害者に請求できる損害賠償金の範囲が変わります。
また,自賠責保険も適用されます。
さらに,人身事故になれば警察が実況見分を行います。
2 物損事故から人身事故に切り替えることのメリット
⑴損害賠償金の額が増える
人身事故の方が,加害者に請求できる損害賠償金の範囲が広いので,損害賠償金の額が増えます。
具体的には,以下の項目を請求することができます。
① 物的損害
車の修理費 | 事故を原因として,車の修理にかかった費用を指す |
代車費用 | 交通事故が原因で,車を使用できない期間に,代わりの自動車を使用するのにかかった費用を指す |
② 人身損害
治療費 | 治療のために病院にかかった実費全額を指す |
通院交通費 | 治療のために病院へ通院するための交通費を指す |
装具・器具購入費 | 交通事故が原因で怪我を負い,購入が必要になった器具等の費用を指す。例えば,松葉づえやメガネの費用などがある |
付添看護費 | 被害者の通院に付き添いが必要だった場合にかかる費用を指す |
入院雑費 | 入院中に発生した日用雑貨の購入費などの雑費を指す |
将来介護費 | 交通事故が原因で後遺障害が残り,介護が必要になった場合の介護費用を指す |
葬儀費用 | 被害者が死亡した場合,通夜や葬儀などの法要にかかったお金を指す |
逸失利益 | 交通事故を原因とする後遺障害や,被害者が死亡した場合に得られなくなった将来の収入に対する補償を指す |
休業損害 | 事故前の収入を基礎として,交通事故による受傷によって休業したことの収入減を指す |
入通院慰謝料 | 怪我の治療などが原因で精神的苦痛を受けたことに対する金銭的な補償を指す |
後遺傷害慰謝料 | 後遺障害が原因で,将来にわたって不便を強いられたり,辛い思いをすることで生じる精神的苦痛に対する金銭的補償を指す |
死亡慰謝料 | 被害者が死亡した場合の,被害者本人・遺族の精神的苦痛に対する金銭的な補償を指す |
⑵確実に損害賠償金を受け取ることができる
加害者に資力がない,加害者が任意保険に加入していないような場合,もしも自賠責保険の適用がなければ損害賠償金を受け取ることができません。
人身事故では自賠責保険の適用があるため,そのような場合でも自賠責保険から損害賠償金を受け取ることができます。
⑶実況見分を行ってもらえる
人身事故であれば,警察は実況見分を行います。
実況見分の結果は実況見分調書にまとめられるので,交通事故の新しい証拠が増えます。
⑷加害者に刑事責任を問うことができる
物損事故と異なり,加害者が事故現場から逃走していなくとも,加害者に刑事処分を加えることができます。
なお,当て逃げ(物損事故)をされた場合の対処法については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
3 物損事故から人身事故に切り替えることのデメリット
被害者にも過失があれば過失が認定され,免許の点数など行政処分を受けることがあります。
しかし,物損事故のままであれば人身損害について損害賠償金を受け取ることができないので,物損事故のままにしておく方が被害者の不利益が大きいです。
4 人身事故に切り替える具体的な方法
⑴病院を受診する
あとから怪我をしていることが分かれば病院を受診して,事故日・初診日・必要な治療期間・事故と怪我の因果関係が記載された診断書を作成してもらいます。
診断書の発行には,3000円から5000円程度かかることが一般的です。
⑵警察に物損事故から人身事故への切り替えを依頼する
交通事故の管轄の警察署へ行き,物損事故から人身事故への切り替えを依頼しましょう。
事前に電話連絡をして,訪ねる日時を予約しておけばスムーズです。
なお,交通事故と怪我の因果関係が明らかではないと判断されると申請が却下されてしまうので,なるべく早く切り替えを申請しましょう。
⑶実況見分に立ち会う
当事者立会いのもとで,実況見分が行われます。
実況見分の結果は実況見分調書にまとめられ,この実況見分調書は示談交渉で重要な証拠になります。
⑷交通事故証明書を取得する
自動車安全運転センターへ行き,交通事故証明書を取得しましょう。
警察署などで申請書をもらい,必要事項を記入の上,交通事故証明書の申請書を提出します。
ゆうちょ銀行・郵便局での払込み,自動車安全運転センター窓口での申し込み,自動車安全運転センターHPの申請ページからの申し込みが可能です。
⑸保険会社に連絡する
加害者が加入する保険会社に,人身事故へ切り替えたことを連絡しましょう。
この連絡をしなければ,加害者の保険会社は物損事故としての賠償しかしてくれません。
人身事故としての賠償を受けるために,忘れずに連絡しましょう。
※もしも,時間が経ちすぎていることを理由に警察で切り替えを受け付けてもらえなかったら,人身事故証明書入手不能理由書を保険会社に提出しましょう。
人身事故証明書入手不能理由書を保険会社に提出すれば,警察では物損事故扱いでも人身事故扱いになり,治療費などの損害賠償金を支払ってもらえる可能性があります。
人身事故証明書入手不能理由書の書式は保険会社に送ってもらいましょう。
自働車安全運転センター 各種証明書のご案内 交通事故に関する証明書 申請方法
なお,交通事故後の物損事故の示談書については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
5 人身事故への切り替えに期限はある?
厳密な期間制限はありません。
しかし,上述のとおり,交通事故から日にちが経ちすぎると,交通事故と怪我の因果関係が疑われ,警察が人身事故への切り替えを拒むことがあります。
そのため,できる限り早く切り替えましょう。
目安は交通事故発生から10日です。
交通事故発生から10日以内であれば切り替えの手続きがスムーズに行なわれます。
6 まとめ
交通事故直後は怪我をしていないと思っても,あとから痛みが出るなどして,怪我をしていたことが分かる場合があります。
物損事故と人身事故では,受け取ることのできる損害賠償金が大きく変わるので,怪我をしていれば人身事故への切り替えを必ず行いましょう。
物損事故から人身事故に切り替えるには,ご自分で上記の手続を行わなければいけません。
人身事故への切り替えを行うべきか,人身事故へ切り替えるにはどのような手続きを行わなければならないか分からないという方も少なくありません。
人身事故への切り替えは,早い段階で行う必要があるので,交通事故が起こればすぐに弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所の弁護士は,交通事故案件の経験が豊富です。交通事故に遭って,物損事故から人身事故へ切り替えたい方は、交通事故を多く取り扱う大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。