交通事故 交通事故基礎知識 後遺障害 損害賠償
2023.10.24 2024.07.04

交通事故による嗅覚障害は後遺障害になる?後遺障害等級の判定基準と損害賠償請求のポイント

交通事故による嗅覚障害は後遺障害になる?後遺障害等級の判定基準と損害賠償請求のポイント

においを感じることができなくなれば,危険を察知する能力が低下するうえに,生活の質も格段に下がります。

嗅覚障害の後遺障害が残った場合の日常生活への影響は大きいです。

当コラムでは,交通事故で嗅覚障害が残った場合についてご説明いたします。

1 交通事故で嗅覚を失ったらどうなる?嗅覚障害の症状と生活の影響

⑴嗅覚障害の症状は?

交通事故で外傷を負うと,嗅覚障害が残ることがあります。

例えば,鼻骨骨折が原因で嗅素を運ぶ空気が嗅上皮に到達せず,におい を感じることができなくなります。

また,頭部を打った際に嗅神経の末端が断裂する,前頭葉や側頭葉の挫傷あるいは血腫によりにおいの伝わる神経回路に障害が起こった場合にも嗅覚障害の症状が出ます。

①嗅覚脱失

嗅覚が完全になくなり,においが全くしなくなることです。

②鼻呼吸困難

通常,鼻で呼吸しますが,鼻呼吸が困難になっている状態です。

③嗅覚減退

においが分かりにくくなることです。

強いにおいしか分からない,またはにおいはしても何のにおいか分からないようになります。

⑵嗅覚障害の生活への影響は?

嗅覚障害が残れば,日常生活には以下のような影響があります。

①腐った食べ物を食べてしまう

腐った臭いがしないので,食べ物が腐っていることに気付きません。

②食材を焦がしてしまう

焦げているにおいが分からないので,食材や鍋を焦がしてしまいます。

③ガス漏れに気づかない

ガスの臭いを感じないのでガス漏れに気付かず,一酸化炭素中毒を起こし,場合によっては死亡することがあります。

④食べ物の味を感じにくい

匂いが分からないので味も感じにくくなり,食事が美味しくなくなります。

なお,頭部外傷を負い,高次脳機能障害となることがありますが,高次脳機能障害については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。

交通事故が原因で高次脳機能障害になったら?

交通事故後の高次脳機能障害について。後遺障害認定等級は何級?

2 嗅覚障害は交通事故の後遺障害になるの?後遺障害等級の判定基準と認定方法

⑴嗅覚障害の後遺障害等級の判定基準

12級相当嗅覚脱失T&Tオルファクトメータによる基準嗅力検査の認知域値の平均嗅力損失値が5.6以上
鼻呼吸困難
14級相当嗅覚減退T&Tオルファクトメータによる基準嗅力検査の認知域値の平均嗅力損失値が2.6以上5.5以下

※後遺障害等級表に認定されていない障害でも保険金支払いの対象の障害と認定できることがあります。

これを,「相当等級」と呼びます。

後遺障害等級表には,嗅覚障害は含まれていませんが,上記の嗅覚障害が残った場合,12級相当もしくは14級相当が認定されます。

⑵嗅覚障害の後遺障害等級の認定方法

自賠責保険における後遺障害認定では,T&Tオルファクトメータか静脈性嗅覚検査による検査結果が用いられています。

①T&Tオルファクトメータ

バラの香り,焦げたにおい,腐敗臭,甘い香り,糞の臭いの5種類のにおいを嗅がせます。

それぞれの臭素は,濃度の薄いものから順に-2~5までの8段階に希釈されていて,0が嗅覚正常者が検出できる濃度です。

被験者がにおいを感じた濃度,何のにおいか感じた濃度,それともにおいを感じることができなかったのかを5種類のにおいそれぞれで記録します。

5種類のにおいの認知域値の平均を算出し,下記の表のように後遺障害等級12級相当もしくは14級相当どちらに当たるのかを判断します。

20分ほどで終わる検査です。

②静脈性嗅覚検査(アリナミンPテスト)

アリナミン10㎎注射液2mlをできるだけ等速度で20秒間かけて左肘正中皮静脈に注射し,アリナミン特有のニンニク臭が感じられたら合図してもらい,静脈注射開始からニンニク臭を感じるまでの時間を潜伏時間,ニンニク臭を感じてから消失するまでを持続時間として測定します。

静脈性嗅覚検査では,嗅覚脱失か,嗅覚を感じるまでの反応が鈍くなったかどうかしか明らかにできません。

つまり,この検査方法では,後遺障害12級相当に該当するか,12級相当非該当なのかしか判断できず,嗅覚減退の判定には有効でない場合もあります。

そのため,T&Tオルファクトメータによる検査を行うことが理想的です。

参照:厚生労働省 障害等級認定基準の一部改正について(視野、嗅覚、味覚、関節)

3 嗅覚障害に関する裁判例

下記の裁判例から,嗅覚障害の後遺障害が認定されるには,T&Tオルファクトメータまたは静脈性嗅覚検査を行い,後遺障害12級相当もしくは14級相当の検査結果が出ていることが必要だと分かります。

(1)後遺障害が認定された裁判例

頭部外傷,頭蓋骨骨折,頸椎捻挫,全身打撲の傷害を負った被害者の臭上皮性嗅覚障害について,アリナミンテスト陽性,基準嗅覚検査(T&Tオルファクトメータ)で軽度ないし中等度の嗅覚障害がみられたところ,自覚症状でも日常的にガスの臭いが分からないことから14級相当の後遺障害が認定されました。

(2)後遺障害が否定された裁判例

嗅覚障害の所見を示した医師が行った検査方法が,「タバコ,香水などにおいのあるものを鼻腔に近づけかがせる」であった事例において,自賠責保険の実務で用いられている検査方法に準拠していないことを理由に後遺障害とは認められませんでした。

4 嗅覚障害の後遺障害を負ったときの損害賠償額はどうやって算出する?交通事故の損害賠償請求のポイント

嗅覚障害の後遺障害が残った場合,以下の項目を請求することができます。

(1)後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは,後遺障害が原因で,将来にわたって不便を強いられたり,辛い思いをすることで生じる精神的苦痛に対する金銭的補償を指します。

後遺障害慰謝料の相場は,以下のようになっています。

 自賠責基準弁護士基準
12級相当94万円290万円
14級相当32万円110万円

後遺障害慰謝料の基準には,自賠責基準,弁護士基準,保険会社の基準の3種類があります。

3つの基準の中で,弁護士基準が1番高額で,自賠責基準とは倍近く金額が異なります。

一般人が保険会社と交渉しても,「弁護士基準」の額まで慰謝料を引き上げてもらえることはほとんどありません。

しかし,弁護士が交渉すれば,「弁護士基準」と呼ばれる,過去の裁判例をもとに設けられた基準に基づいて示談交渉を行うことができます。

(2)後遺障害逸失利益

後遺障害が残れば,事故前と同じように働くことができなくなってしまいます。

働くことができなくなった度合に応じて,将来得られたはずの収入分が,逸失利益として補償されます。 

嗅覚障害の場合,必ずしも仕事に影響を与えるとは限らないので,裁判例では個別事情,特に職業等との関係を考慮して逸失利益を判断する傾向にあります。

例えば,料理人など嗅覚が不可欠な仕事の場合は,逸失利益を認められやすいです。

後遺障害逸失利益は,

基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

の計算式で計算します。

基礎収入額は,事故前の収入をベースに計算します。

労働能力喪失率とは,後遺障害によって失われた労働能力の割合のことで,後遺障害等級ごとに以下のようになっています。

後遺障害等級労働能力喪失率
12級相当14%
14級相当5%

逸失利益が認められると,本来であれば段階的に得られたお金を一括で受け取ることになります。

そうすると,逸失利益を運用するなどして利益が生じるので,その分を控除しなければなりません。

そのため,労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数を掛け,あらかじめ中間利息分の金額を逸失利益から差し引きます。

労働能力喪失期間とは,交通事故が原因で生じた後遺障害の影響で,労働能力を失った期間を指します。

後遺障害逸失利益の計算は煩雑なので,弁護士に依頼した方が,正確な額を請求することができます。

(3)それ以外

治療費,車の修理費,将来介護費,休業損害,入通院慰謝料なども請求することができます。

5 まとめ

交通事故で嗅覚障害が残っても,どのような検査をすればよいか,後遺障害等級認定申請を行う際に何を意識すればよいか,分かる方は少ないでしょう。

弁護士に相談すれば,病院でどのような検査を受けるかのアドバイスを受けられるうえに,代わりに後遺障害等級認定申請を行ってもらうことができます。

当事務所の弁護士は,交通事故案件の経験が豊富です。

交通事故に遭って嗅覚障害に悩まれている方は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。

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