交通事故 高次脳機能障害
2020.06.21 2022.11.15

交通事故後の高次脳機能障害について。後遺障害認定等級は何級?

交通事故後の高次脳機能障害について。後遺障害認定等級は何級?

交通事故に遭った方の相談をお受けする中で、本人ではなく家族から電話をいただくことがあります。被害者本人ではなく、なぜ家族の方から相談をと聞くと「本人が電話できる状態じゃないです。医者からは高次脳機能障害になるかもしれないと言われています。」と返されました。日常生活で【高次脳機能障害】という病名は中々聞く言葉でなく、家族の方も戸惑われたまま電話を下さいます。ここでは聞きなじみのない、高次脳機能障害はとは何か、についてご紹介します。

高次脳機能障害とは?

a:特徴

高次脳機能障害とは脳卒中などで脳が損傷し、神経回路が傷ついた場合に起こる傷害のことをいいます。交通事故に遭った時には目に見える怪我と見えない怪我にわかれますが、これは目に見えない怪我の代表例です。この障害の中での最たる特徴は【被害者本人に自覚症状がない】ということです。
交通事故において、高次脳機能障害が起こる原因の代表例は頭部を強く打ったことによる脳挫傷や外傷性くも膜下出血があげられます。事故に遭われた直後の被害者は意識がないことが多く、意識を取り戻してから発覚をすることも高次脳機能障害の特徴です。

b:代表的な症状

高次脳機能障害の代表的な症状は①記憶障害②注意障害③社会的行動障害④遂行機能障害⑤失語症・失行症⑥病識欠如⑦欠認症といったものがあります。簡単にそれぞれの症状についてご案内します。

1 記憶障害…怪我を負う前の記憶、過去の記憶を思い出すことができない逆行性と新しいことを記憶できない前向性の2つに分かれます。高次脳機能障害の症状の中でも、最も発症が多く、事故の前後の記憶が抜け落ちてしまっている方が多いです。具体例を上げると、父親の顔や名前がわからなかったり、仕事で何か案件を任されてもその任されたこと自体を忘れてしまったりすること等があげられます。

2 注意障害…注意力や集中力の低下、行動に統一性がなくなります。1つのことに集中して進めることができない、2つのことを同時に進めようとすると混乱するといった症状です。また集中力がないことからぼーっとしてしまうことも症状の一つです。他にもこの注意障害には、以前は関心があったことに全くの無関心なるという症状もあります。実際、山登りが大好きだった被害者に事故後、妻が山の話をしても全く興味を示さなくなったとお話がありました。

3 社会的行動障害…思い通りにならなければ怒鳴る、自分中心に物事が進まなければ満足しない、その場の状況を考えず発言、行動をするといった、周りの人にとってはまるで別人の人間と接しているかのような錯覚に陥るレベルです。また、身だしなみに気を使わなくなったり、金銭の管理が自身で全くできなかったりという症状も見られます。じっとしていられず、大声で叫び出し、酷いときは暴力を振るうこともあります。

4 遂行機能障害…複数の動作が組み合わさるとできなくなる症状を指します。書く、話す、聞く、の単体は可能ですが、書きながら話す、聞きながら書くなど2つ以上のことが同時にできないことが特徴です。また、自分で計画を立てても実行することができなかったり、物事に対しての優先順位をつけられず、行き当たりばったりで行動したりします。

5 失語症、失行症…文字の通り、思い通りに言葉を発することができない、体に障害が現れなくても日常生活においての動作ができなくなります。日常会話においては言葉が出てこなかったり、話が全く別の話になったりします。他にも、本や新聞を読むことができない、頭では理解しているが行動が伴わないこともあります。例えばご飯を食べるために箸を持つ、ただ【箸を使ってご飯を食べる動作】ができないということです。

6 病識欠如…本人の障害に対する自覚症状がない、ということです。自覚がないので、治療やリハビリの拒否をしたり、うまくいかないことを自分は悪くないと他人のせいにしたり、また困っていることはないとして周りの援助を断ったりすることがあります。

7 失認症…視覚・聴覚・触覚などの感覚を通して対象物を認知することができない障害です。たとえ家族の顔であっても人の顔を判別できないこと、何を触っているのかわからないこと等が症状としては見られます。

c:交通事故原因の立証

どの後遺障害でも言えることではあるのですが、こういった症状については必ず、【交通事故原因の立証】が必要となります。要は因果関係を証明しなければいけないということです。
高次脳機能障害の場合は、まずは【医師の正確でかつ詳細な診断書の作成】です。高次脳機能障害を正確に診断して書面を作成する医療機関は限られています。まずは適切に診断をしてくれる医療機関を探しましょう。
次にご家族や周りの方による具体的な状況の説明書=日常生活報告書が必要となります。事故前と事故後でどれだけ被害者の性格が変わり、また、日常生活における障害をご家族の目線で記録し、書面を作成します。被害者の方が学生や就労していた方なのであれば、学校の先生や勤務先の方にも協力していただきましょう。日常生活の大半を過ごしていた学校や職場にて事故前と事故後でどれだけ被害者に変化があったのかを証明していかなければなりません。

高次脳機能障害の後遺障害認定について

a:意味

後遺障害認定とは【損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所】にて後遺障害の等級の調査を行い、【後遺障害の等級認定】を受けるということです。

b:後遺障害診断書

まず、高次脳機能障害に限らず、後遺障害の申請には【後遺障害診断書】が必要となります。これは主治医が作成するものとなります。後遺障害診断書は【症状固定】のタイミングで作成がなされます。症状固定は【これ以上治療を続けても症状が良くも悪くもならない状態】を言い、高次脳機能障害の場合は、固定までは交通事故からおよそ1年半から2年ほどが目安とされています。ただし、高次脳機能障害の場合は先ほど述べたように多くの症例があるため、固定の時期は難しいので主治医とよく相談したうえで後遺障害診断書は書いてもらうようにしましょう。他にも、申請には【頭部外傷後の意識障害についての所見】、【神経系統の障害に関する医学的所見】といった書面を医師に作成していただく必要があります。

c:条件

まず、後遺障害に申請するにあたっては原則として【受傷から6か月】を経過すれば申請はできます。しかし高次脳機能障害の場合は、少なくとも受傷から1年間ほどの治療の継続と経過観察が重視されています。さらに高次脳機能障害の後遺障害として認定される条件としては以下4つの内容があげられます。

1:交通事故の後、昏睡、半昏睡状態が6時間以上、あるいは意識障害が1週間以上継続している。
2:交通事故により脳挫傷やくも膜下出血、びまん性軸索損傷(広範囲に散在する軸索損傷)があると診断名で出ていた。
3:初期画像と比較して、慢性的な脳室の拡大、萎縮が認められる。
4:高次脳機能障害の症状を疑う症状がある。

ただし、これらすべてが必ずしも必要とは限りません。条件を満たしていなくても認定の可能性はありますので、高次脳機能障害の疑いがある場合は、まずは申請をすることが大切です。

d:認定の流れ

認定を受けるためには、自賠責保険会社を窓口に損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が後遺障害の調査を依頼します。申請のために医師が作成した後遺障害診断書を含む手続き書類一式を送るのですが、手続きの方法は被害者が送る【被害者請求】と保険会社が送る【事前認定】がありますが、どちらにしても【加害者側の自賠責保険会社】へ送ります。高次脳機能障害の場合は保険会社に任せるのではなく、弁護士に依頼をし、しっかりと書類を整えたうえで被害者請求をすることをおすすめします。
自賠責保険会社から損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所へ書類が一式送られて調査が行われます。この調査は請求書類に基づき、公正かつ中立な立場で調査を行うため、保険会社や被害者(弁護士に依頼した場合は弁護士)がどういった状況なのかは確認することができません。申請してから結果が出るまでは平均で、むち打ち等の場合はだいたい1か月半~2か月程です。しかし、高次脳機能障害の場合は、等級認定が非常に難しいため自賠責損害調査事務所からさらに上の調査機関である地区本部や本部で審査が行われます。そのため、非常に長時間かかることがあり、結果が出るまでに半年以上かかることも少なくはないです。
審査が終わりましたら、自賠責保険会社へ結果が送られて、自賠責保険会社より被害者請求の場合であれば被害者へ、事前認定であれば相手の保険会社へ結果が通知されます。

高次脳機能障害の後遺障害の等級は何級があるのでしょうか?

a:種類

高次脳機能障害の場合は、最上級の別表第1の1級1号から非該当の9段階までありますが、高次脳機能障害と認定された場合、9級以上となることが一般的です。

b:等級別の基準(1~9級)

等級は症状の重さに応じて決まってきます。簡単な実例を交えて、ご紹介します。

別表第1

1級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
これは食事、排泄、入浴など、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要する状態です。また非常に高度な痴呆があるため、常に監視が必要となります。

2級 1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
自宅に置いての日常生活に問題はないですが、著しい判断力の低下や情動の不安定などがあり、外出することができない状態です。具体的には食事、排泄、入浴などの生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声かけや看視を欠かすことができません。

別表第2
3級3号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
自宅周辺を1人で外出はできるため、日常の生活範囲は自宅に限定はされていません。家族の声かけや、介助なしでも日常の動作は行えます。しかし、記憶力や注意力の他、新しいことを学習する、傷害の自己認識、円滑な人間関係の形成・維持が困難な状態のため、一般就労が全くできない状態です。

5級2号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
単純で分かりやすい、繰り返し作業だけである仕事に限定をすれば、一般就労は可能ですが、新しい作業を覚えること、環境の変化で作業ができなくなることなどの問題がある状態です。よって障害がない人に比べて作業能力がかなり制限されています。職場の方の理解や援助がない限りは就労がかなり厳しいものとなります。

7級4号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
一般就労が可能で、かつ維持もできますが、作業の手順が悪かったり、期限を忘れたり、ミスが極端に多くなるなど、障害のない人と同じ作業、同じ条件で行うことはかなり厳しい状態です。

9級10号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
7級4号と同じく、一般就労が可能で、かつ維持もできますが、問題を解決していく能力に障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題が出てきます。
つまり、日常生活ができない程度、仕事が障害のない人と同様にできない程度で等級の大枠が決まってきます。なお、12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの、14級9号:局部に神経症状を残すもの、非該当となります。12級以下は高次脳機能障害を検討されたものの高次脳機能障害としては認定されなかったということです。

高次脳機能障害の賠償においてトラブル回避をするためには?

a:弁護士に相談

高次脳機能障害の申請には多数の医療資料を早い段階から収集、また内容に不備がないかどうかの確認等を行わなければいけません。その不備の確認やどんな資料が必要なのかは、一般の方が調べながら対応するにはなかなか厳しく、限界がいずれきます。さらに申請の準備は通常の後遺障害とは違い、本人には不可能に近いので、周りの家族の方々となります。家族の方が高次脳機能障害の申請のためだけに集中できるのならばともかく、被害者本人の介護に加えてとなると、非常に身体的にも精神的にも難しいかと思います。弁護士に依頼することで被害者への介護に専念できる一方で、適正な等級、金額を獲得できる可能性が上がります。損害賠償金は弁護士を入れるか否かで大幅に変わります。損害賠償には3つ基準があり、低い順番から自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準というものがあります。被害者が交渉する場合、相手保険会社は自賠責保険基準か人保険基準で提案をしてきます。しかし弁護士が入ると一番高い裁判所基準での請求が可能です。

b:タイミング

弁護士に相談をするタイミングは、できるだけ早くがいいです。医師に「高次脳機能障害の可能性がある」と判断された段階で一度必ず相談をしましょう。高次脳機能障害は上記で述べたように後遺障害の申請にあたりさまざまな資料が必要です。その中には主治医だけでなく、初診を行ってもらった医師に書いてもらったり、日頃の日常生活の記録を提出したりしますので、早い段階で等級に関する対策を行う必要があります。後になればなるほど思わぬトラブルが起きることがあります。

c:よくある事例

高次脳機能障害で多いのは、被害者の方のご家族が被害者本人の介護に手いっぱいでなかなか弁護士に相談ができないことです。
よくある事例でいうと、事故から1年後に相談に来られる方もいます。相談に来られた時期が、すでに症状固定前の前で、窓口のご家族の方は、保険会社からそろそろ症状固定と聞いて慌てて相談に来た、というケースは少なくありません。
このような場合は、弁護士が必要書類や主治医に書いていただくこと、検査をしていただくことをご家族に伝え、申請の準備に入ります。
しかし、申請には先ほど述べたように多くの資料が必要となります。すべての資料がそろうのに半年以上かかることは珍しくありません。
特に、被害者本人の症状が非常に多いと、比例して作成資料が多く医師への相談にかなりの時間を必要とします。また、長期の治療の場合、当時の医師が異動しており、誰が書類を作成できるかを院内で協議することで時間がかかることも少なくないです。

このように少しでも相談が遅くなるだけでさらに申請における依頼者の負担が大きくなります。よってトラブル回避のためにも弁護士への早期の相談が必須となります。

また、先ほど、弁護士を入れると裁判所基準で請求が可能と述べましたが、実際の金額を見てみましょう。あくまで一例ですが、自賠責基準の場合、1級は1,650万円と決まっています。それに対して裁判所基準は2,800万円と定められています。結果1,150万円が請求段階で異なります。この裁判所基準は弁護士だからこそ交渉で用いることができる基準になりますので、適正な賠償金を受けるためには、必ず弁護士を入れる必要があります。

まとめ

高次脳機能障害についご説明をさせていただきましたが、症状についてはほんの一例にすぎません。高次脳機能障害は残念ながら完治は難しい障害です。そして被害者本人はなぜ自分がこういった状況なのか、どうしてこうなってしまったのか自覚していないケースが大きいです。少しでも被害者本人や家族の方が適正な賠償を受けることができるよう、交通事故問題を多く取り扱う、大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイに一度ご相談ください。

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