交通事故 交通事故基礎知識 後遺障害 慰謝料
2023.10.24 2024.07.04

交通事故による聴力低下は後遺障害等級いくつになる?判定基準や慰謝料請求方法を解説

交通事故による聴力低下は後遺障害等級いくつになる?判定基準や慰謝料請求方法を解説

交通事故で頭部外傷を負った場合に,音が聞こえにくくなる、まったく聞こえなくなることがあります。

聴力低下の後遺障害が残れば,コミュニケーションが取りづらくなり,家庭や職場・学校などで生きづらさを感じてしまいます。

生活への大きな影響から,せめて,金銭面での補償は受けたいと考えるでしょう。

当コラムでは,交通事故による聴力低下についてご説明いたします。

目次

1 交通事故による聴力低下とは?原因と症状を解説

⑴交通事故による聴力低下の原因

耳は,「外耳」(入り口から鼓膜までの部分),中耳(鼓膜,耳小骨,鼓室,乳突蜂巣),内耳(さらに奥の蝸牛と三半規管がある部分)に分かれています。

これらのどこか,または大脳の聴覚中枢に障害が起これば難聴が起こります。

交通事故の場合,事故で鼓膜が破れる,頭を強く打ち耳小骨の連携が破壊されたり骨折したりする,頭部外傷や頚部外傷を負った場合に難聴が起こります。

⑵交通事故による聴力低下の症状

交通事故が原因で起こる難聴では,種類ごとに以下のような症状があります。

①伝音難聴

耳が詰まった感じがする,大きな音は聞こえるが通常の音が聞こえにくい

②感音難聴

よく聞こえないうえに,言葉が聞き取れない

③後迷路性難聴

音が聞こえるけれど,言葉が聞き取れない

④混合性難聴

小さい音が聞こえづらく,音がぼやけるような聞こえになる

なお,交通事故で耳鳴りの症状がある場合について,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。

交通事故で耳鳴りの治療を受ける場合に注意することは何かを知りたい

参照:厚生労働省 e-ヘルスネット 難聴

2 聴力低下の後遺障害等級とは?判定基準と検査方法・検査のポイントを紹介

⑴聴力低下の後遺障害等級と判定基準

①両耳の後遺障害

後遺障害等級後遺障害
4級3号両耳の聴力を全く失つたもの=平均純音聴力レベルが90㏈以上,または80㏈以上で,かつ,最高明瞭度が30%以下のもの
6級3号両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの=平均純音聴力レベルが80㏈以上,または50㏈~80㏈未満で,かつ最高明瞭度が30%以下のもの
6級4号一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの=一耳の平均純音聴力レベルが90㏈以上,かつ,他耳の平均純音聴力レベルが70㏈以上のもの
7級2号両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの=両耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上で,かつ,最高明瞭度が50%以下のもの
7級3号一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの=一耳の平均純音聴力レベルが90㏈以上で,かつ,他耳の平均純音聴力レベルが60㏈以上のもの
9級7号両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの=両耳の平均純音聴力レベルが60㏈以上,または50㏈以上で,かつ,最高明瞭度が70%以下のもの
9級8号一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの=一耳の平均純音聴力レベルが80㏈以上で,かつ,他耳が50㏈以上のもの
10級5号両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの=両耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上,または40㏈以上で,かつ,最高明瞭度が70%以下のもの
11級5号            両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの=両耳の平均純音聴力レベルが40㏈以上のもの

②片方の耳の後遺障害

後遺障害等級後遺障害
9級9号            一耳の聴力を全く失ったもの=一耳の平均純音聴力レベルが90㏈以上のもの
10級6号一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの=一耳の平均純音聴力レベルが80㏈~90㏈未満のもの
11級6号一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの=一耳の平均純音聴力レベルが70㏈~80㏈未満,または50㏈以上で,かつ,最高明瞭度が50%以下のもの
14級3号一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの=一耳の平均純音聴力レベルが40㏈~70㏈未満のもの

※㏈(デシベル)は,数値が低いほど耳がよく聞こえています。

※言葉の聞き取りやすさのことを「語音明瞭度」といい,最も正答率の高い音量の語音明瞭度のことを「最高明瞭度」といいます。

⑵聴力低下の後遺障害の検査方法

①純音聴力検査

高さの異なる音の聞こえを調べる検査方法です。

オージオメータという機器を用います。

防音室に入ってヘッドホンを付けてもらい,音が聞こえたら手元にあるボタンを押してもらいます。

②語音聴力検査

言葉の聞き取りやすさを調べる検査です。

言葉の聞き取り能力を調べる「語音聴取閾値検査」と,言葉を聞き分ける能力を調べる「語音弁別検査」を行います。

スピーチオージオメータという機器を用います。

⑶後遺障害を認定してもらうための検査のポイント

①検査方法

聴力低下の後遺障害を認定するためには,上記の純音聴力検査と語音聴力検査の2つを行います。

②検査回数

日を変えて3回聴力検査を行います。

もっとも,語音聴力検査については,検査結果が適正だと判断できる場合には1回だけで構いません。

③検査の間隔

それぞれの検査は7日程度あければ足ります。

④障害等級の認定

後遺障害等級の認定は,2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルの平均で行います。

2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルに10㏈以上の差があれば,再度聴力検査を行い,2回目以降の検査の中で,その差が最も小さい2つの平均純音聴力レベル(差は10㏈未満)の平均によって後遺障害等級の認定を行います。

厚生労働省 耳の障害 難聴の聴力検査方法の変更について

3 聴力低下の慰謝料請求方法とは?流れや必要な書類と注意点を説明

⑴聴力低下の慰謝料請求の流れ

①通院

聴力低下が残存していることを医学的に証明するため,検査を受けましょう。

②症状固定

後遺障害は,「これ以上治療を続けても症状が改善しない」と判断されてから認定されます。

「これ以上治療を続けても症状が改善しない」時点を「症状固定」と言います。

③後遺障害認定申請

後遺障害等級認定申請を行います。

(ア)事前認定と(イ)被害者請求の2つの方法があります。

(ア)事前認定(加害者請求)

事前認定とは,加害者が加入している保険会社に申請を任せる申請方法です。

加害者側の保険会社が手続きを行うので,被害者本人には手間がかかりません。

一方で,十分な資料・証拠を収集してくれず,後遺障害が認定されないおそれがあります。

(イ)被害者請求

被害者請求とは,被害者(または代理人の弁護士)が行う申請方法です。

被害者が手続きを行うので,手間・時間がかかるおそれがあります。

一方で,提出書類を被害者が確認できるので,有利な資料・証拠を提出可能です。

また,先払い金や仮渡金を受け取ることができます。

④調査

自賠責損害調査事務所が調査を行います。

⑤後遺障害等級認定

調査結果が自賠責保険に送られ,その内容に応じた等級認定の結果が出ます。

⑥示談交渉

加害者と示談交渉を行います。

加害者が任意保険に加入している場合,任意保険会社の担当者が示談交渉の相手になります。

⑦示談金が支払われる

示談が成立すれば,相手方から示談金が支払われます。

⑵慰謝料請求に必要な書類

後遺障害慰謝料を請求するには,後遺障害等級の認定がなされなければいけません。

被害者請求で後遺障害等級認定申請を行う場合,以下の書類が必要になります。

提出書類取付け先 
自賠責保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書保険会社備え付け
交通事故証明書(人身事故)自動車安全運転センター
事故発生状況報告書事故当事者等
医師の診断書治療を受けた医師または病院
診療報酬明細書治療を受けた医師または病院
休業損害の証明は①給与所得者事業主の休業損害証明書(源泉徴収票添付)②自由業者、自営業者、農林漁業者納税証明書、課税証明書(取得額の記載されたもの)または確定申告書 等休業損害証明書は事業主納税証明書、課税証明書等は税務署または市区町村
損害賠償額の受領者が請求者本人であることの証明(印鑑証明書)被害者が未成年で、その親権者が請求する場合は、上記のほか、当該未成年者の住民票または戸籍抄本が必要です。住民登録をしている市区町村、本籍のある市区町村
委任状および(委任者の)印鑑証明印鑑登録をしている市区町村
後遺障害診断書治療を受けた医師または病院
レントゲン写真等治療を受けた医師または病院

◎:必ず提出する書類

〇:事故の内容によっては提出する書類

⑶慰謝料請求の注意点

①後遺障害等級認定を受けてから示談交渉を始める

後遺傷害慰謝料を受け取るには,後遺障害等級認定を受けなければなりません。

相手方の保険会社から示談を急かされたとしても,後遺障害等級認定を受けてから示談交渉を始めましょう。

②聴力検査を受けておく

聴力低下の後遺障害があるかどうかは,聴力検査の結果を踏まえて判断されます。

そのため,純音聴力検査と語音聴力検査を受けましょう。

③適切な後遺障害等級を認定してもらう

認定された後遺障害等級によって,後遺障害慰謝料の額が異なります。

症状が重いのであれば,上の等級の後遺障害を認定してもらいましょう。

④弁護士に依頼する

弁護士に依頼すれば,後遺障害等級認定申請を代わりに行ってもらえますし,資料集めのアドバイスも受けられます。

また,弁護士が交渉すれば,より高い弁護士基準で後遺障害慰謝料を算定してもらうことができます。

なお,交通事故の示談の進め方について,当事務所の次のコラムで詳しくご紹介しているのでご覧ください。

交通事故の示談の進め方を知りたい

4 聴力低下の慰謝料はいくら?相場と事例

⑴聴力低下の慰謝料の相場

聴力低下の後遺障害が残れば,加害者に後遺障害慰謝料を請求することができます。

後遺障害慰謝料とは,後遺障害が原因で,将来にわたって不便を強いられたり,辛い思いをすることで生じる精神的苦痛に対する金銭的補償を指します。

後遺障害慰謝料の相場は,以下のようになっています。

後遺障害慰謝料の基準には,自賠責基準,弁護士基準,保険会社の基準の3種類があります。

3つの基準の中で,弁護士基準が1番高額で,自賠責基準とは倍近く金額が異なります。

一般人が保険会社と交渉しても,「弁護士基準」の額まで慰謝料を引き上げてもらえることはほとんどありません。

しかし,弁護士が交渉すれば,「弁護士基準」と呼ばれる,過去の裁判例をもとに設けられた基準に基づいて示談交渉を行うことができます。

後遺障害等級後遺障害自賠責基準弁護士基準
4級3号両耳の聴力を全く失つたもの 737万円1670万円
6級3号両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 512万円1180万円
6級4号一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 512万円1180万円
7級2号両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 419万円1000万円
7級3号一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 419万円1000万円
9級7号両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 249万円690万円
9級8号一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 249万円690万円
10級5号両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 190万円550万円
11級5号両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 136万円420万円

片方の耳

後遺障害等級後遺障害自賠責基準弁護士基準
9級9号一耳の聴力を全く失ったもの 249万円690万円
10級6号一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 190万円550万円
11級6号一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 136万円420万円
14級3号一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 32万円110万円

⑵聴力低下の後遺障害慰謝料請求が認められた事例

①名古屋地判平成22年5月14日 交民43-3-608

症状固定時に45歳であった男性が交通事故に遭い,事故前の障害等級11級程度の難聴が事故後9級に増悪したところ,432万円の後遺障害慰謝料請求が認められました。

後遺障害9級の後遺障害慰謝料相場は,自賠責基準では249万円,弁護士基準では690万円です。

この裁判例では,自賠責基準と弁護士基準の間の額が認められています。

②岡山地判平成21年5月28日 交民42-3-692

症状固定時に28歳であった男性が交通事故に遭い,障害等級11級の難聴の後遺障害が残ったところ,420万円の後遺障害慰謝料請求が認められました。

後遺障害11級の後遺障害慰謝料相場は,自賠責基準では136万円,弁護士基準では420万円です。

この裁判例では,弁護士基準の額が認められています。

5 弁護士に依頼するメリット

交通事故に遭い,聴力低下の後遺障害が残った場合,加害者から後遺障害慰謝料などの支払いを受けるには,後遺障害が生じていることを証明しなければいけません。

必要な書類の収集・作成は骨が折れますし,聴力低下の後遺障害が残っていれば,複数人とのコミュニケーションが取りづらくなるので,様々な手続きを行うことはご自身への負担となります。

また,医師も交通事故の専門家ではないので,後遺障害等級認定を受けられるような後遺障害診断書を作成してくれるとは限りません。

これに対して,弁護士は交通事故の専門家なので,後遺障害等級認定に詳しいです。

弁護士に依頼すれば,医師へ後遺障害診断書の作成を依頼する際のポイントを教えてもらうだけでなく,後遺障害認定申請手続きも代わりに行ってもらえます。

さらに,弁護士が示談交渉に入れば弁護士基準で後遺障害慰謝料の算定ができますし,弁護士は交渉に長けているので,より高額の損害賠償金を受け取ることができます。

6 まとめ

交通事故で聴力低下の後遺障害が残っても,どのような検査をすればよいか,どうやって加害者に慰謝料を請求すればよいか,分かる方は少ないでしょう。

弁護士に相談すれば,病院でどのような検査を受けるかのアドバイスを受けられるうえに,代わりに後遺障害等級認定申請や示談交渉を行ってもらうことができます。

また,弁護士に相談すればより高額の示談金を受け取ることができます。

当事務所の弁護士は,交通事故案件の経験が豊富です。交通事故に遭って聴力低下に悩まれている方は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。

このコラムの監修者

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