交通事故で頭を強く打った場合,脳挫傷となることがあります。
脳挫傷の後遺障害は,要介護1級1号も含まれる非常に重度のものです。
当コラムでは,脳挫傷の後遺障害についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で脳挫傷になったらすべきこと
脳挫傷とは,強い外力を脳に受けることにより,脳そのものが損傷を受けることです。
交通事故で脳に強い外力を受けたら,病院を受診し,脳の損傷を確認するためCT検査を受けましょう。
また,症状を詳しく確認するため,MRI検査も受けましょう。
軽症の場合は,薬剤投与などの治療を行い,重症の場合は,手術が必要になることもあります。
2 脳挫傷の後遺障害等級の認定基準とは?等級ごとの特徴と審査ポイント
交通事故で脳挫傷となったら,⑴高次脳機能障害,⑵外傷性てんかん,⑶遷延性意識障害(植物状態)の後遺障害が残ることが多いです。
⑴高次脳機能障害
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
要介護1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために,生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの |
要介護2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって,1人で外出することができず,日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄,食事などの活動を行うことができても,生命維持に必要な身辺動作に,家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 自宅周辺を1人で外出できるなど,日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや,介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力,新しいことを学習する能力,障害の自己認識,円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって,一般就労が全くできないか,困難なもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 単純くり返し作業などに限定すれば,一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり,環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており,就労の維持には,職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一般就労を維持できるが,作業の手順が悪い,約束を忘れる,ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般就労を維持できるが,問題解決能力などに障害が残り,作業効率や作業持続力などに問題があるもの |
脳挫傷を原因とする高次脳機能障害の立証は,以下の段階を経てなされます。
①3要件を充足している
(ア)頭部外傷後の意識障害,もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が存在する
(イ)頭部外傷を示す脳挫傷が診断されている
(ウ)脳挫傷が画像で確認できる(XP,CT,MRI)
②日常生活における支障を家族から聴き取る
・遂行障害,失語
・記憶障害
・視覚認知機能,失認,失行
・注意,遂行機能障害
・情動障害,人格変化
・味覚・嗅覚・めまい・ふらつき
・麻痺
③神経心理学的検査を実施する
日常生活における支障を踏まえて,適切な神経心理学的検査を実施します。
④後遺障害診断書,神経系統の障害に関する医学的意見,日常生活状況報告を作成する
例えば,これらの書類を作成して,後遺障害申請を行います。
なお,高次脳機能障害の症状,高次脳機能障害を弁護士に相談することについては当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故が原因で高次脳機能障害になったので弁護士に相談したい
⑵外傷性てんかん
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 1カ月に1回以上の転倒する発作等あり |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 転倒する発作等が数か月に1回以上その他の発作が1か月に1回以上 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | その他の発作が,数か月に1回以上か,服薬でほぼ完全に発作が抑制されている |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 発作の発現はないが,脳波上に明らかにてんかん性棘波を認める |
⑶遷延性意識障害(植物状態)
等級 | 後遺障害 |
要介護1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
3 脳挫傷の後遺障害等級に応じた慰謝料相場と増額要因は?
⑴脳挫傷を理由とする後遺障害慰謝料の相場
①高次脳機能障害
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
要介護1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 1650万円 | 2800万円 |
要介護2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 1203万円 | 2370万円 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 861万円 | 1990万円 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 618万円 | 1400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 419万円 | 1000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 249万円 | 690万円 |
②外傷性てんかん
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 618万円 | 1400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 419万円 | 1000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 249万円 | 690万円 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 94万円 | 290万円 |
③遷延性意識障害(植物状態)
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
要介護1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 1650万円 | 2800万円 |
⑵後遺障害慰謝料の増額要因
後遺障害慰謝料の増額要因には,以下のものがあります。
①加害者に故意がある
②加害者に重過失がある
無免許運転,ひき逃げ,酒酔い運転,著しいスピード違反をした,信号無視,薬物等の影響により正常な運転ができない状態で運転をした
③加害者に著しく不誠実な態度がある
⑶後遺障害慰謝料が増額された事例
①遷延性意識障害(要介護1級1号)を負った事例
被害者は,遷延性意識障害(要介護1級1号)を負った。
加害者は事故前,飲酒するのを分かっていながら自動車で宴会場に行って飲酒し,帰宅時には代行か家人を呼んで帰るように言われていたにもかかわらず運転して帰宅した。
この事例では,傷害分500万円のほか,本人分3000万円,両親各400万円,後遺障害分合計3800万円が認められた(事故日平成16.1.21 仙台地判平21.11.17 交民42.6.1498)。
②高次脳機能障害(9級10号)などが残った事例
被害者は,高次脳機能障害(9級10号),顔面等の醜状等(併合9級)で併合8級相当とされた。
加害者が飲酒運転発覚を免れるため職務質問を無視して発進し,追跡を振り切るため時速約135㎞(法定速度時速約60㎞)で走行するという極めて危険な運転をし,故意にも比肩すべき重過失があること,衝突後もアクセルを踏み続け逃走を図ろうとしたと窺われ,何らの救護措置もとらなかったことから,傷害分277万円のほか,醜状痕に対する逸失利益を認めないこと,加害者の悪質性を考慮し後遺障害分1100万円を認めた(事故日平26.9.13 名古屋地判令2.10.7 交民53・5・1209)
4 弁護士に依頼するメリットとは?
⑴アドバイスを受けることができる
脳挫傷の後遺障害は,介護が必要になることもあります。
その場合,日常生活の忙しさや将来への不安から,何をすべきか調べたりする時間もないでしょう。
弁護士に依頼すれば,今後の対応・見通しについて的確なアドバイスを受けることができます。
⑵手続きを一任できる
自分・家族が要介護1級になったら,後遺障害申請などの手続きを行う余裕はないでしょう。
また,高次脳機能障害のような専門用語を理解しながら手続きを行うことは非常にストレスとなります。
弁護士に依頼すれば,後遺障害申請から示談交渉まで,あらゆる手続を代わりに行ってもらえます。
⑶示談金を増額できる
交通事故案件の経験豊富な弁護士であれば,ポイントを押さえた後遺障害申請を行い,等級認定を受けることができます。
そして,後遺障害慰謝料も弁護士基準で算定できるので,適切な後遺障害慰謝料を獲得することができます。
さらに,弁護士は保険会社との示談交渉のコツを抑えているので,十分な示談金をもらうことができます。
5 まとめ
脳挫傷の後遺障害は,要介護1級1号も含まれる重い後遺障害です。
例えば,弁護士基準で後遺障害慰謝料を算定する場合,要介護1級,要介護2級どちらが認定されるかによって,約500万円も異なります。
そのため,どの等級の認定がされるか,弁護士基準で算定するかどうかで,後遺障害慰謝料の額は大きく変わります。
脳挫傷の後遺障害を負った状態で,被害者ご自身やご家族が後遺障害申請を行うことは,肉体的にも精神的にも大きなストレスとなります。
ストレスを感じずに,十分な金銭的補償を受けるには,弁護士に相談することをお勧めします。交通事故で脳挫傷を負い,後遺障害に悩まれている方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。