肺挫傷は,軽症であれば1週間程度で自然回復します。
しかし,重症であれば後遺障害が残ることがあります。
当コラムでは,肺挫傷の後遺障害についてご説明いたします。
目次
1 肺挫傷とは?
肺挫傷とは,外部から強い衝撃を受けることにより,肺の内部,肺胞,毛細血管が断裂して,内出血や組織の挫滅をきたすことです。
自転車・バイクに乗っている際に交通事故に遭い,衝撃で電柱に激突する,田畑に転落するなどして胸部を強く打撲すれば肺挫傷を発症します。
2 交通事故で肺挫傷になった場合の後遺障害等級認定基準
⑴肺挫傷の後遺障害等級
肺挫傷が原因で,呼吸器の後遺障害が残れば,以下の後遺障害等級のうちいずれかが認定されます。
後遺障害等級 | 後遺障害 |
要介護1級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
要介護2級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級4号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級3号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級5号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
⑵肺挫傷の後遺障害等級認定基準
肺挫傷の後遺障害は,呼吸器の後遺障害にあたります。
呼吸器の後遺障害は,①動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果②スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度③運動負荷試験の結果で判定します。
まず①②の検査を行って高い方の結果で等級認定をします。
①②の検査では等級非該当となっても,③の基準を満たせば後遺障害等級が認定されます。
①動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果
動脈血酸素分圧 | 動脈血炭酸ガス分圧 | |
限界値範囲内(37Torr~43Torr) | 限界値範囲外(左記以外のもの) | |
50Torr以下 | 要介護1級2号,要介護2級2号または3級4号 | |
50Torr~60Torr | 5級3号 | 要介護1級2号,要介護2級2号または3級4号 |
60Torr~70Torr | 9級11号 | 7級5号 |
70Torr以上 | 11級10号 |
②スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度
スパイロメトリーの結果 | 呼吸困難の程度 | ||
高度 | 中等度 | 軽度 | |
%1秒量≦35または%肺活量≦40 | 要介護1級2号,要介護2級2号または3級4号 | 7級5号 | 11級10号 |
35<%1秒量≦55または40<%肺活量≦60 | 7級5号 | 7級5号 | 11級10号 |
55<%1秒量≦70または60<%肺活量≦80 | 11級10号 | 11級10号 | 11級10号 |
※呼吸困難の程度
高度:呼吸困難のため,連続しておおむね100m以上歩けないもの
中等度:呼吸困難のため,平地でさえ健常者と同様には歩けないが,自分ペースでなら,1㎞程度の歩行が可能であるもの
軽度:呼吸困難のため,健常者と同様には階段の昇降ができないもの
③運動負荷試験の結果
運動負荷試験には,トレッドミル,エアロバイクによる漸増運動負荷試験,6分・10分間歩行試験やシャトルウォーキングテストなどの時間内歩行試験,50m歩行試験などがあります。
①・②の検査では後遺障害等級に該当しなくとも,呼吸機能の低下による呼吸困難が認められ,運動負荷試験の結果から明らかに呼吸機能に障害がある場合は,11級10号に認定されます。
3 交通事故で肺挫傷になった場合の後遺障害等級の申請方法
肺挫傷を原因とする後遺障害が残り,後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求するには後遺障害等級認定を受けなければいけません。
後遺障害等級の申請は,以下の流れで行います。
⑴主治医から症状固定と診断を受ける ⑵主治医に後遺障害診断書を作成してもらう ⑶必要書類を集めてから,後遺障害診断書とともに保険会社に提出する ⑷必要書類をもとに,損害保険料算出機構が審査を行う ⑸後遺障害等級の認定結果を被害者が知る |
後遺障害等級の申請には,加害者請求(事前認定)と被害者請求があります。
加害者請求と被害者請求は,⑶の必要書類の収集を誰が行うかに違いがあります。
加害者請求では,加害者の加入している任意保険会社が必要書類を集めます。
被害者請求では,被害者が必要書類を集めます。
4 交通事故で肺挫傷になった場合の慰謝料請求の相場
交通事故で肺挫傷になり,呼吸器障害が残れば,被害者は加害者側に後遺障害慰謝料を請求することができます。
肺挫傷の後遺障害慰謝料の相場は以下のようになっています。
裁判所基準,自賠責基準は後遺障害慰謝料の支払基準で,裁判所基準の方が高額の基準になっています。
詳しくは,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
後遺障害等級 | 後遺障害 | 裁判所基準 | 自賠責基準 |
要介護1級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 2800万円 | 1650万円 |
要介護2級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 2370万円 | 1203万円 |
3級4号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 1990万円 | 861万円 |
5級3号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 1400万円 | 618万円 |
7級5号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 1000万円 | 419万円 |
9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 690万円 | 249万円 |
11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの | 420万円 | 136万円 |
5 肺挫傷後遺障害の加害者責任と保険会社の交渉
⑴加害者はどのような責任を負う?
被害者が肺挫傷を負っているので,民法709条に基づき加害者は不法行為責任を負います。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
具体的には,治療費や入通院慰謝料などの支払責任を負います。
また,肺挫傷が原因で後遺障害が残れば,後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の支払責任も負います。
⑵被害者は,保険会社と交渉するのか?
①加害者が任意保険に加入している場合
任意保険では,死傷事故が起こった場合,加害者に代わって被害者に損害賠償金を支払う内容になっています。
そのため,被害者は任意保険会社と示談交渉することになります。
②被害者が自賠責保険にしか加入していない場合
自賠責保険でも,限度額はありますが死傷事故が起こった場合,加害者に代わって被害者に損害賠償金を支払う内容になっています。
被害者は加害者と示談交渉するのが基本的ですが,加害者から損害賠償金が支払われなければ,加害者の加入している自賠責保険会社に損害賠償金の支払を請求することもできます(被害者請求)。
③被害者が無保険の場合
被害者は加害者と示談交渉を行います。
もっとも,加害者が支払に応じない場合は,政府保障事業に補償を請求することができます。
6 肺挫傷後遺障害の損害賠償請求の時効と注意点
交通事故で肺挫傷後遺障害の残った被害者は,加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有します。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
交通事故で肺挫傷となった場合,治療費などの傷害による損害は,事故発生日の翌日から起算して5年が時効期間になります。
肺挫傷の後遺障害が残った場合,後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などの後遺障害に関する損害は,症状固定日の翌日から起算して5年が時効期間になります。
7 肺挫傷後遺障害の損害賠償請求に強い弁護士の選び方
⑴弁護士事務所のホームページを確認する
弁護士事務所のホームページに,肺挫傷の後遺障害の解決実績が掲載されている事務所であれば,肺挫傷の後遺障害を扱った経験があるので,後遺障害等級認定を受けて,示談金を増額できる可能性があります。
⑵総合検索サイトを利用する
後遺障害に強い弁護士を掲載した総合検索サイトや比較サイトは複数あります。
取り扱い事例や説明文を見て,気になる弁護士や弁護士事務所に連絡してみましょう。
なお,交通事故で相談する弁護士の選び方については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
8 まとめ
肺挫傷の後遺障害が残った場合,加害者側に損害賠償請求するには,後遺障害等級申請を行う,示談交渉の相手方が誰になるのか確認する,時効期間に注意するなど気を付ける事項が沢山あります。
これらに注意しながら,なるべく多額の示談金を得ることは,一般の方では難しいです。そのため,肺挫傷の後遺障害に悩まれている方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。