横断歩道を渡っていたところ,自動車同士の衝突事故に巻き込まれて怪我をした。
この場合,被害者は両自動車の運転手に対して損害賠償請求権を有します。
このような事故を,「共同不法行為」といいます。
共同不法行為では,加害者が複数人いるので,誰に,どうやって損害賠償請求すればよいのか分からないでしょう。
当コラムでは,交通事故の共同不法行為についてご説明いたします。
目次
1 交通事故の共同不法行為とは?
(共同不法行為者の責任)
第七百十九条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
共同不法行為は,民法719条に規定されています。
共同不法行為とは,複数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えることです。
交通事故の共同不法行為には,以下の類型があります。
⑴同時事故(同一場所で同一時に起こった事故なので,「同時事故」と呼ばれます)
交差点で自動車同士が衝突する交通事故が起こり,その際,横断歩道を渡っていた歩行者/同乗者が事故に巻き込まれて怪我をしたような場合です。
⑵同時類似事故(複数の交通事故が時間的場所的に近接して発生するので,「同時類似事故」と呼ばれます)
玉突き事故は,同時類似事故です。
玉突き事故とは,3台以上の車が絡む交通事故です。
後続車に追突された真ん中の車が前に押し出され,前方の車両にぶつかってしまう事故を指します。
追突事故の原因は,後続車(追突した車)が十分な車間距離を取らなかったことなどです。
そのため,後続車の運転手の過失が100%だとして全責任を負うこともあります。
もっとも,他の車の運転手にも落ち度があれば,過失割合が認められ,共同不法行為となります。
⑶純粋異時事故(複数の交通事故の間に時間的経過が存在するので,「純粋異時事故」と呼ばれます)
交通事故に遭い,治療中に再び交通事故に遭って同じ部位を怪我したような場合が純粋異時事故の1つです。
当コラムでは取り上げませんが,交通事故と医療事故が競合した共同不法行為もあります。
例えば,交通事故に遭った被害者が病院に搬送され,搬送先の病院で医師の治療ミスによって被害者が死亡した場合は,共同不法行為が成立することがあります。
2 交通事故の加害者が複数いる場合、誰に損害賠償請求できる?
(共同不法行為者の責任)
第七百十九条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
(連帯債務者に対する履行の請求)
第四百三十六条 債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
共同不法行為の加害者は,被害者に対して「各自が連帯してその損害を賠償する責任」,つまり連帯債務を負います。
連帯債務について規定した民法436条では,債権者は連帯債務者全員に対して損害賠償請求することが可能だと規定されています。
そのため,共同不法行為の交通事故に遭った被害者は,加害者全員に対して損害賠償請求することができます。
被害者は加害者片方に損害賠償請求してもいいですし,加害者双方に対して好きな割合で損害賠償請求しても構いません。
また,民法441条より,被害者が加害者の1人について債務の免除を行っても,免除の効果は他の加害者には及びません。
そのため,被害者が加害者の1人の債務を免除しても,他の加害者の損害賠償債務はなくならず,被害者は他の加害者に対して損害賠償請求することが可能です。
3 共同不法行為による損害賠償請求をするためには、どのような手続きが必要?
⑴同時事故または同時類似事故の場合
共同不法行為の交通事故に遭った被害者は,加害者全員に対して損害賠償請求することができます。
加害者が2人いる交通事故被害に遭った被害者が損害賠償請求をするには,以下のような手続きを踏むことになります。
①交通事故に遭う
加害者が複数いる交通事故被害に遭い,受傷します。
②病院を受診する
交通事故から時間が経った後に病院を受診しても,事故と傷害の因果関係が疑われる恐れがあります。
共同不法行為であっても,事故当日か,遅くとも事故翌日には病院を受診しましょう。
③通院を続ける
交通事故で負った怪我が数日で完治することは少ないです。
怪我が完治するまで通院を続けましょう。
また,怪我が完治せず後遺障害が残ってしまった場合,後遺障害等級認定を受けるには,6ヶ月以上の通院治療が必要です。
そこで,定期的に通院しましょう。
【怪我が完治した場合】
④示談交渉を開始する
治療が終了すれば,損害額が確定します。
そこで,このタイミングで示談交渉を開始して,損害賠償請求を行いましょう。
加害者が任意保険に加入していれば,加害者側の任意保険会社と示談交渉を行ったうえで,保険会社から示談金が支払われます。
任意保険会社から示談金を受け取ることができないケースは少ないです。
そのため,加害者双方が任意保険に加入していれば,どちらの任意保険会社と示談交渉を行っても変わりはないでしょう。
加害者の一方が任意保険に加入していて,他方は自賠責保険にしか加入していない場合は,任意保険に加入している加害者と示談交渉を行うことをお勧めします。
どちらも自賠責保険にしか加入していなければ,資力のありそうな加害者と示談交渉することをお勧めします。
なお,交通事故の相手が自賠責保険にしか加入していなかった場合については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
事故の相手が自賠責保険のみだった場合に被害者はどうなるか知りたい!
交通事故の相手が自賠責保険のみの時、通院にどのくらいの金額をもらえるのか?
⑤示談が成立する
示談が成立すれば,1~2週間ほどで,示談金が振り込まれます。
【後遺障害が残った場合】
④後遺障害診断書を作成してもらう
後遺障害が残った場合,後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益も加害者に対して請求したいです。
これらの後遺障害に関する損害を加害者に請求するには,後遺障害申請を行って後遺障害等級認定を受ける必要があります。
後遺障害申請には,後遺障害診断書が必須です。
症状固定だと主治医に診断されたら,後遺障害診断書の作成をお願いしましょう。
⑤後遺障害申請を行う
後遺障害診断書とそれ以外の必要書類を集めることができたら,後遺障害申請を行います。
後遺障害申請後,後遺障害等級認定を受けたら,それ以降の流れは,【怪我が完治した場合】と同じです。
⑥示談交渉を開始する
⑦示談が成立する
⑵純粋異時事故の場合
2個目の事故が発生すれば1個目の事故は任意保険会社の対応終了となり,2事故目の任意保険会社がそれ以降の部分を対応することが多いです。
しかし,1個目の事故も原因となって後遺障害が残った事案では,2個目の事故と後遺障害の因果関係が否定されてしまうと,1事故目の保険会社にも2事故目の保険会社にも後遺障害に関する損害賠償を請求することができなくなります。
そのため,純粋異時事故の場合,1個目の事故の示談交渉と2個目の事故の示談交渉を同じタイミングで行うことが理想です。
4 共同不法行為による損害賠償請求をする際の注意点
⑴被った損害の額しか請求できない
被害者は,加害者全員に対して損害賠償請求できるといっても,損害額分までしか損害賠償請求することができません。
そのため,損害額分の示談金を受け取ったら,他の加害者に対してさらに損害賠償請求することはできません。
⑵請求できる自賠責保険金の限度額が変わる
加害者が自賠責保険にしか加入していなければ,加害者の加入している自賠責保険会社から自賠責保険金を受け取ることがあります。
その場合,自賠責保険の賠償限度額×加害自動車の台数分が支払限度額となります。
もっとも,被害者の受けた損害額を超えて自賠責保険金が支払われることはありません。
5 まとめ
交通事故の共同不法行為や,損害賠償請求の方法についてご説明させていただきました。
共同不法行為では,加害者が1人の場合と比べて,誰に損害賠償請求するか,どのタイミングで示談交渉を行うかなど悩むポイントが多くなります。
弁護士に相談しなければ,適切な方法で損害賠償請求することはできないでしょう。加害者が複数いる交通事故被害に遭われた方は,交通事故を多く取り扱う,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへまずはご相談ください。