後遺障害申請を行えば,必ずしも後遺障害等級認定を受けられるとは限りません。
むしろ,後遺障害等級認定を受けられる確率の方が低いです。
後遺障害等級認定がなされなくとも,「異議申立て」という手段があります。
当コラムでは,後遺障害の異議申立てについてご説明いたします。
目次
1 後遺障害の認定がされないよくある理由
後遺障害の認定がされない理由には,様々なものがありますが,主な理由は以下の5つです。
⑴軽微な事故/症状である
自動車の損傷が少ない軽微な事故や,被害者の傷害の程度が軽ければ,後遺障害が残るほどの交通事故ではないとして,後遺障害等級認定を獲得できないことがあります。
⑵他覚的所見がない
障害の存在を医学的に証明することができず,後遺障害等級認定を受けられない可能性があります。
⑶治療期間が短い
治療期間が短いために後遺障害が残ったのではないかと疑われて,後遺障害等級認定を獲得できないことがあります。
⑷後遺障害診断書の書き方に問題がある
後遺障害の審査は,提出書類を中心に行われます。
その中でも後遺障害診断書が重要なので,不十分な記載であったり,治癒の可能性があるとの誤解を招くような記載があれば,後遺障害等級認定がなされない可能性が高くなります。
⑸事前認定の手続を利用した
事前認定では,加害者側の任意保険会社が必要書類を用意するので,被害者に有利な書類を提出してくれるとは限りません。
そのため,後遺障害等級認定を獲得できない可能性があります。
なお,後遺障害のまとめ,交通事故の後遺障害が認定されない理由と認定されやすくするポイントについては,当事務所の次のコラムでもご紹介しているのでご覧ください。
【まとめ】後遺障害とは?よくある4つのケースと認定されるメリット・デメリットを解説
交通事故の後遺障害が認定されない5つの理由|認定されやすくする2つのポイント
2 後遺障害等級認定の仕組み
後遺障害等級認定の仕組みは,事前認定/被害者申請どちらの申請手続きを利用するかで変わります。
⑴事前認定
①後遺障害診断書を作成してもらう
被害者は,主治医に後遺障害診断書の作成をお願いします。
主治医に後遺障害診断書を作成してもらったら,加害者の加入している任意保険会社に後遺障害診断書を提出します。
②加害者側の任意保険会社が書類を集める
後遺障害診断書以外の書類は,加害者側の任意保険会社が集めます。
③加害者側の自賠責保険会社に,後遺障害診断書などの書類を提出する
加害者側の任意保険会社は,加害者の加入している自賠責保険会社に後遺障害診断書を含めた書類を提出します。
④損害保険料率算出機構に書類を提出する
加害者側の自賠責保険会社は,損害保険料率算出機構に書類を提出します。
⑤損害保険料率算出機構が審査を行う
損害保険料率算出機構は,提出された書類に基づいて後遺障害等級に該当するか審査します。
その際,後遺障害診断書が重視されます。
⑥自賠責保険は審査結果に応じて等級認定を行い,任意保険会社に通知する
加害者側の自賠責保険会社は,審査結果に応じて等級認定を行い,加害者側の任意保険会社に通知します。
⑦任意保険会社から被害者に結果が通知される
加害者側の任意保険会社は,等級認定の結果を被害者に通知します。
⑵被害者申請
①後遺障害診断書を作成してもらう
被害者は,主治医に後遺障害診断書の作成をお願いします。
②被害者が書類を集める
後遺障害診断書以外の書類を集めます。
③加害者側の自賠責保険会社に,後遺障害診断書などの書類を提出する
被害者は,加害者の加入している自賠責保険会社に後遺障害診断書を含めた書類を提出します。
④損害保険料率算出機構に書類を提出する
加害者側の自賠責保険会社は,損害保険料率算出機構に書類を提出します。
⑤損害保険料率算出機構が審査を行う
損害保険料率算出機構は,提出された書類に基づいて後遺障害等級に該当するか審査します。
その際,後遺障害診断書が重視されます。
⑥自賠責保険は審査結果に応じて等級認定を行い,被害者に通知する
加害者側の自賠責保険会社は,審査結果に応じて等級認定を行い,被害者に通知します。
3 後遺障害の認定がされなかった場合の異議申立ての方法
⑴一括払保険会社を相手方とする
加害者側の任意保険会社が一括払で対応している場合,被害者は一括社(加害者側の任意保険会社)に異議申立書を提出することが多いです。
一括社は,提出された異議申立書を損害保険料率算出機構に送付し,認定を求めます。
認定結果は,一括社を通して被害者に通知されます。
一括社を相手方とすれば,異議申立ての回数に制限がないという利点があります。
一方で,一括社への異議申立ては,損害賠償請求とはみなされないので,自賠責保険における時効中断の効果は生じません。
なお,一括払制度とは,加害者側の任意保険会社が,加害者側の自賠責保険会社からの精算できるであろう見込金額と任意保険会社から支払われる保険金を一括して支払う制度です。
ただし,一括払で対応できるのは,事前認定を利用した場合に限られます。
⑵自賠責保険会社を相手方とする
加害者側の任意保険会社が一括払で対応しているかにかかわらず,自賠責保険会社に異議申立書を提出することができます。
自賠責保険会社は,提出された異議申立書を損害保険料率算出機構に送付し,認定を求めます。
認定結果は,自賠責保険会社を通して被害者に通知されます。
自賠責保険会社を相手方とすれば,異議申立ての回数に制限がないという利点があります。
また,自賠責保険会社への異議申立ては,形式上,損害賠償請求であるので,自賠責保険における時効中断の効果を生じます。
⑶紛争処理機構を相手方とする
紛争処理機構に対して紛争処理の申請を行うこともできます。
紛争処理機構への異議申立ては1回しか行うことができません。
紛争処理機構は最終判断機関なので,一括社または自賠責保険に異議申立てを行い,その結果に異議がある場合に紛争処理機構に申し立てを行うのが一般的です。
異議申立ての相手方は,まとめると以下のようになります。
後遺障害申請の方法 | 提出先 |
事前認定 | 一括社(加害者側の任意保険会社)加害者側の自賠責保険会社 |
被害者請求 | 加害者側の自賠責保険会社 |
4 後遺障害の異議申立てに必要な書類
後遺障害の異議申立てには,以下の書類が必要です。
⑴異議申立書
日常生活や就労で生じる具体的な支障を記載することが効果的です。
⑵後遺障害診断書
詳細な自覚症状,他覚的所見,症状固定であることなどを記載してある新しい後遺障害診断書を作成しましょう。
⑶意見書
後遺障害診断書は記載項目が定型されているうえに,記載内容は医師の裁量に委ねられており,記載分量も限られているので,情報量が少ないです。
そこで,後遺障害診断書を補足し,かつ,医学的見解を表明するものとして意見書があります。
意見書には以下の内容を記載します。
①事故前の身体状況と既往症の有無 ②受傷状況と症状残存についての医学的見解 ③自覚症状と日常生活への支障状況 ④他覚所見と検査結果 |
⑷日常生活状況報告書
異議申立てを行うにあたっては,残存症状を示して,その症状が医学的な合理性を有することを立証する必要があります。
そこで,日常生活状況報告書を作成し,後遺障害についての医学的見解を医師に意見書として作成してもらうことが効果的です。
⑸CTやMRIなどの検査画像
症状を示す検査画像があれば,後遺障害が残ったことの証拠になるので,用意しましょう。
5 後遺障害の異議申立てはいつまで行うことができる?
一括社,自賠責保険会社を相手方とする場合,異議申立ての回数に制限はありません。
また,異議申立ての期間に制限はありません。
しかし,後遺障害等級認定獲得後の示談交渉は,加害者に対する損害賠償請求権の時効期間内に行わなければ示談金を獲得できません。
そこで,異議申立ても加害者に対する損害賠償請求権の時効期間内に行う必要があります。
症状固定日の翌日から5年以内に
異議申立て ↓ 後遺障害等級認定を獲得 ↓ 示談交渉 ↓ 示談を成立させる |
の全てを済ませなければいけません。
なお,交通事故の時効については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故の時効はいつ?損害賠償請求や慰謝料請求の時効と過ぎた後の対処法
6 後遺障害の異議申立てを成功させるための4つのポイント
2021年度,異議申立ての結果,等級変更があったのはわずか13%です(※)。
だからといって,異議申立てが全て失敗するわけではありません。
ポイントを踏まえて行うと,成功することがあります。
異議申立てを成功させるには,以下の4つのポイントに注意しましょう。
⑴等級認定を得られなかった理由を分析する
初回の後遺障害申請で等級認定を得られなかった理由を分析して,具体的な対策を立てなければ異議申立てを成功させることはできません。
結果通知書を確認して,非該当または希望どおりの等級が認定されなかった理由を検討しましょう。
⑵追加書類を提出する
等級認定を得られなかった理由に応じて,効果的な書類を準備しましょう。
例えば,症状を客観的に証明できなかったのであれば,MRIなどの画像所見を追加しましょう。
⑶医療照会について医師と相談する
異議申立てがなされて再審査が行われると,大抵医療照会が実施されます。
医療照会とは,被害者の通院していた病院の担当医に対して,後遺障害に関する質問を行うことをいいます。
医師が「軽減している」などと回答すると,後遺障害が治る見込みがあると考えられ,希望どおりの等級認定が得られない可能性があります。
医療照会がされたらどう回答するか,担当医と打ち合わせしておきましょう。
⑷弁護士に依頼する
等級認定を得られなかった理由の分析,追加すべき書類の選択,医療照会での回答の仕方を,被害者だけで判断することは難しいです。
弁護士は,異議申立てを熟知しているので,的確なアドバイスを行うことができます。
また,被害者に代わって難しい異議申立ての手続を行ってもらうことができます。
7 まとめ
交通事故の治療終了後に障害が残っていても,後遺障害の認定を受けられなければ後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などの後遺障害に関する補償を受けることはできません。
しかし,最初の後遺障害申請で認定を受けられなくても諦める必要はありません。
異議申立てで後遺障害が残ったことを説得的に証明できれば,認定を受けられる可能性が高いです。
その際,弁護士に依頼した方がより認定を受けられる可能性が高まります。後遺障害等級認定を受けられずに悩まれている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ一度ご相談ください。