交通事故では,後遺障害が複数残ることがかなりあります。
その場合,後遺障害等級はどうやって認定されるのでしょうか。
当コラムでは,後遺障害の「併合」についてご説明いたします。
目次
1 後遺障害の併合とは
自賠責保険では,別表第2の後遺障害が2つ以上ある場合,
⑴別表第2の5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は重い後遺障害等級の3級上の等級に位置づけ, ⑵別表第2の8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は重い後遺障害等級の2級上の等級に位置づけ, ⑶別表第2の13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は重い後遺障害等級の1級上の等級に位置づけ, ⑷それ以外の場合は重い後遺障害等級に |
位置づけています。
⑴~⑶の場合を,後遺障害の「併合」といいます。
2 後遺障害の併合の基本ルールとそれ以外を解説
⑴後遺障害の併合の基本ルール
1の⑴~⑶のとおり,後遺障害等級に該当する障害が2つ以上ある場合,最上位の障害等級を最大3級上に繰り上げます。
表にすると,以下のようになります。
最上位の等級 | |||||
1~5級 | 6~8級 | 9~13級 | 14級 | ||
次順位の等級 | 1~5級 | 重い等級+3級 | |||
6~8級 | 重い等級+2級 | 重い等級+2級 | |||
9~13級 | 重い等級+1級 | 重い等級+1級 | 重い等級+1級 | ||
14級 | 重い等級 | 重い等級 | 重い等級 | 14級 |
⑵基本ルールどおりではない場合
基本ルールに掲げたような後遺障害の併合がなされないのは,以下の場合です。
①同一系列の後遺障害等級同士の併合である
系列が同じ後遺障害同士(系列番号が同じ)の場合です。
例えば,右上肢の肘関節に著しい機能障害(10級10号)があり,右上肢の肩関節に単なる障害(12級6号)がある場合,同じ系列(系列番号18)なので併合はなされません。
もっとも,仮に併合を行うのであれば,10級+1で9級と評価されていたでしょう。
そのため,併合を行った場合と同じ9級「相当」と認定されます。
部位 | 障害 | 系列番号 | |
眼 | 眼球(両眼) | 視力障害 | 1 |
調節機能障害 | 2 | ||
運動障害 | 3 | ||
視野障害 | 4 | ||
まぶた(右) | 欠損又は運動障害 | 5 | |
まぶた(左) | 欠損又は運動障害 | 6 | |
耳 | 内耳等(両耳) | 聴力障害 | 7 |
耳殻(右) | 欠損障害 | 8 | |
耳殻(左) | 欠損障害 | 9 | |
鼻 | 欠損及び機能障害 | 10 | |
口 | 咀嚼及び言語機能障害 | 11 | |
歯牙障害 | 12 | ||
神経系統の機能又は精神 | 神経系統の機能又は精神の障害 | 13 | |
頭部,顔面部,頚部 | 醜状障害 | 14 | |
胸腹部臓器(外生殖器を含む。) | 胸腹部臓器の障害 | 15 | |
体幹 | 脊柱 | 変形又は運動障害 | 16 |
その他体幹骨 | 変形障害(鎖骨,胸骨,ろく骨,けんこう骨又は骨盤骨) | 17 | |
上肢 | 上肢(右又は左) | 欠損又は機能障害(右) | 18 |
欠損又は機能障害(左) | 21 | ||
変形障害(上腕骨又は前腕骨。右) | 19 | ||
変形障害(上腕骨又は前腕骨。左) | 22 | ||
醜状障害(右) | 20 | ||
醜状障害(左) | 23 | ||
手指(右) | 欠損又は機能障害(右) | 24 | |
手指(左) | 欠損又は機能障害(左) | 25 | |
下肢 | 下肢(右又は左) | 欠損又は機能障害(右) | 26 |
欠損又は機能障害(左) | 30 | ||
変形障害(大腿骨又は下腿骨。右) | 27 | ||
変形障害(大腿骨又は下腿骨。左) | 31 | ||
短縮障害(右) | 28 | ||
短縮障害(左) | 32 | ||
醜状障害(右) | 29 | ||
醜状障害(左) | 33 | ||
足指(右) | 欠損又は機能障害(右) | 34 | |
足指(左) | 欠損又は機能障害(左) | 35 |
ただし,系列が異なっていても,以下のように同一系列として扱われることがあります(「みなし系列」といいます。)。
(ア)両眼球の視力障害,調節機能障害,運動障害,視野障害の各相互間 (イ)同一上肢の機能障害と手指の欠損または機能障害 (ウ)同一下肢の機能障害と足指の欠損または機能障害 |
②組み合わせた後遺障害等級が存在する
組み合わせた後遺障害等級が存在する場合,基本ルール通りにはなりません。
例えば,両足の3大関節のすべてが強直していれば,下肢の全廃の後遺障害が残っています。
右足:右足の用を全廃した(5級7号) 左足:左足の用を全廃した(5級7号) |
として,5級+3で,併合2級となるように思われます。
しかし,「両下肢の用を全廃したもの」(1級6号)という後遺障害等級が既に存在します。
そのため,既に存在する1級6号となります。
③後遺障害を併合すると,序列がおかしくなる
併合を行うと,序列がおかしくなる場合も,基本ルール通りにはなりません。
例えば,右上肢をひじ関節と手関節の間で切断し,左上肢を肩関節とひじ関節の間で切断した場合,
右上肢:一上肢を手関節以上で失つたもの(5級4号) 左上肢:一上肢をひじ関節以上で失つたもの(4級4号) |
として,4級+3で併合1級となるように思われます。
しかし,両上肢をひじ関節以上で失つたもの(1級3号)よりも障害の程度が軽いにもかかわらず1級と認定されてしまうと序列がおかしくなってしまうため,基本ルール通りで併合認定することはできません。
そこで,1級の1つ下の併合2級と認定されます。
④一方の後遺障害が他方の後遺障害で既に評価されている
例えば,関節部位骨折が原因で関節機能障害・関節部位の神経障害が発症した場合,
(ア)関節機能障害:以下のいずれかの後遺障害等級で評価される
一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの(10級10号) 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの(10級11号) 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの(12級6号) 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの(12級7号) |
(イ)神経障害:以下のいずれかの後遺障害等級で評価される
局部に頑固な神経症状を残すもの(12級13号) 局部に神経症状を残すもの(14級9号) |
として,基本ルールに沿って併合認定されるように思われます。
しかし,関節部位の神経障害については,関節機能障害で既に評価されているので,関節機能障害(10級もしくは12級)で評価されます。
⑤別表第1の後遺障害等級である
別表第1の後遺障害等級に該当する障害と別表第2の後遺障害等級に該当する障害がある場合は,後遺障害の併合は行われません。
なぜなら,別表第1の後遺障害は十分保険金の額が高く,併合する必要がないからです。
例えば,別表第1の2級1号の後遺障害と,13級の後遺障害があっても,後遺障害は2級のままです。
3 併合された後遺障害等級によって慰謝料や逸失利益が変わる
交通事故で後遺障害が残った被害者は,治療費,慰謝料(入通院慰謝料,後遺障害慰謝料),休業損害,後遺障害逸失利益などを加害者側に損害賠償請求することができます。
⑴後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は,後遺障害等級ごとに異なります。
そのため,併合によって等級が1~3級上がれば,後遺障害慰謝料の額も大幅に上がります。
後遺障害慰謝料の相場
【別表第1】
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
1級 | 1650万円 | 2800万円 |
2級 | 1203万円 | 2370万円 |
【別表第2】
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
なお,後遺障害慰謝料の計算方法については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
⑵後遺障害逸失利益
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 |
の式で計算します。
このうち,労働能力喪失率は後遺障害等級によって変わります。
そのため,併合によって等級が1~3級上がれば,後遺障害逸失利益の額も大幅に上がります。
労働能力喪失率の表
【別表第1】
等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100% |
2級 | 100% |
【別表第2】
等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
なお,後遺障害逸失利益の計算方法については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故の逸失利益はどうやって計算するの?2パターンの具体的な計算方法と弁護士を入れるメリット
4 まとめ
後遺障害の併合についてご説明いたしました。
複数の後遺障害が残れば,必ず併合するわけではなく,併合の基本ルールが適用されないことも数多くあります。
基本ルールが適用されるかどうか見極めるには,後遺障害の併合について正確な知識が必要です。
交通事故を数多く取り扱っている弁護士は,後遺障害の併合について心得ているので,依頼すれば,後遺障害の併合について的確なアドバイスをもらうことができます。複数の後遺障害が残って悩まれている方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。