骨盤は,人の上半身・足からの衝撃を受け止め,身体のバランスを保つ役割を担っており,いわば身体の要です。
当コラムでは,骨盤骨折の後遺障害についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で発症する骨盤骨折
交通事故が原因で発症する骨盤骨折には,以下のようなものがあります。
⑴尾骨骨折(びこつこっせつ)
尾骨とは,仙骨の下についている骨です。
自転車やバイクに乗っている際に交通事故に遭い,お尻から転倒した時に尾骨骨折を発症します。
⑵ストラドル骨折
骨盤の内側で輪を作っている部分を骨盤輪と呼びます。
骨盤輪の両側の恥骨・坐骨が骨折することをストラドル骨折と言います。
⑶マルゲーニュ骨折
骨盤輪を形成している骨盤が2か所骨折しているもので,骨盤がグラグラします。
2 骨盤骨折による後遺障害等級は?
交通事故で尾骨骨折などを発症すれば,後遺障害が残ることがあります。
骨盤骨折による後遺障害等級は以下のようになっています。
後遺障害等級 | 障害 | |
変形障害 | 12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
運動障害 | 8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | |
12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | |
神経症状 | 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | |
正常分娩困難 | 11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
下肢の短縮障害 | 8級5号 | 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの |
10級8号 | 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの | |
13級8号 | 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの |
なお,交通事故の後遺障害について,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
3 骨盤骨折による後遺障害の認定基準と立証方法は?
骨盤骨折による後遺障害の認定基準と立証方法は以下のようになっています。
後遺障害等級 | 障害 | 認定基準 | 立証方法 | |
変形障害 | 12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | 裸になったときに変形や欠損が明らかに分かる程度のもの | |
運動障害 | 8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 三大関節とは,股関節・ひざ関節・足関節のことです。「用を廃した」とは,⑴関節が全く可動しないかこれに近い状態である場合,⑵自分で動かそうとしても健側(障害のない方の足)の関節可動域の10度程度以下である場合のことをいいます。 | 病院で股関節の可動域を測定してもらいます。 |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 「著しい障害」とは,健側の関節可動域角度の2分の1以下であることをいいます。 | ||
12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 「障害」とは,健側の関節可動域角度の4分の3以下であることをいいます。 | ||
神経症状 | 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 障害の存在が医学的に証明できるもの | 骨折部に痛みがあれば,骨折部の3DCT撮影を行い,骨の癒合状況を確認します。変形癒合があれば,その度合いに応じて12級13号又は14級9号の後遺障害が認定されます。 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 障害の存在が医学的に説明可能なもの | ||
正常分娩困難 | 11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの | 狭骨盤または比較的狭骨盤(産科的真結合線が10.5㎝未満または入口部横径が11.5㎝未満のもの) | 交通事故被害者が女性の場合,骨折部の3DCT画像を持参して婦人科で正常産道が保たれているかの検査を受けます。 |
下肢の短縮障害 | 8級5号 | 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの | 短縮の有無・程度はX線写真による左右肢の比較などにより判断します | |
10級8号 | 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの | |||
13級8号 | 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの |
4 交通事故で骨盤骨折の後遺障害が残ったら何を請求できる?
交通事故で骨盤骨折の後遺障害が残れば,以下の項目を請求することができます。
治療費 | 基本的に,怪我の治療にかかった実費全額を請求可能です。 |
通院交通費 | 怪我の治療のために,病院へ通院する際の交通費です。タクシー利用が相当とされる場合を除き,電車・バスの料金が通院交通費にあたります。 |
装具・器具購入費 | 後遺障害によって失われた機能を補うために必要な装具・器具を購入する費用のことです。例えば,車いすや義手の購入費があります。 |
付添看護費 | 被害者が病院へ通院する際,付き添いが必要であった場合にかかる費用のことです。 |
入院雑費 | 入院中に必要な日用品の購入費,テレビカードの費用など,入院にあたって必要な諸費用の総称です。 |
将来介護費 | 後遺障害が残り,介護が必要になることがあります。その場合の介護費用のことです。 |
後遺障害逸失利益 | 後遺障害が残り,事故前と同じように働くことができなくなった場合に,将来得られるはずであった収入を補償するものです。後遺障害等級によって,後遺障害逸失利益の額は変わります。 |
休業損害 | 交通事故で怪我を負い,休業した際の収入減に対する補償です。 |
入通院慰謝料 | 入通院せざるを得なかったことに対する精神的補償です。 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残ったことに対する精神的補償です。 |
物損に対する補償 | 車の修理費,代車使用料(修理期間や買替期間中に,レンタカー等を使用した料金)などを請求することができます。 |
5 骨盤骨折による後遺障害に対する慰謝料はいくらもらえる?
骨盤骨折による後遺障害が残れば,後遺障害慰謝料も請求可能です。
後遺障害慰謝料には,3つの算定基準があります。
3つの算定基準とは,自賠責基準,弁護士基準,任意保険基準です。
自賠責基準が1番低い基準で,弁護士基準が1番高い基準になっています。
後遺障害等級 | 障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 | |
変形障害 | 12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | 94万円 | 290万円 |
運動障害 | 8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 331万円 | 830万円 |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 190万円 | 550万円 | |
12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 94万円 | 290万円 | |
神経症状 | 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 32万円 | 110万円 | |
正常分娩困難 | 11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの | 136万円 | 420万円 |
下肢の短縮障害 | 8級5号 | 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの | 331万円 | 830万円 |
10級8号 | 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの | 190万円 | 550万円 | |
13級8号 | 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの | 57万円 | 180万円 |
なお,交通事故の後遺障害慰謝料の計算方法については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
6 骨盤骨折による後遺障害等級が認められなかった場合にとり得る3つの対処法
骨盤骨折による後遺障害等級が認められなかった場合,以下の対処法をとることができます。
⑴保険会社に対して異議申立を行う
異議申立書などの立証資料を保険会社に提出し,異議申立を行います。
異議申立に回数制限はありません。
⑵調停の申請を行う
自賠責保険・共済紛争処理機構に対して調停の申請を行うこともできます。
調停結果について,保険会社は遵守義務があるのに対し,申請者は調停結果を受諾しなくても構いません。
被害者は⑴,⑵どちらの方法をとってもいいですが,保険会社に対する異議申立を行い,その結果に異議がある場合に調停の申請を行うことが一般的です。
⑶⑵の調停結果に不服がある場合
いずれかの方法をとることになります。
①保険会社に対して異議申立を行う
再度,保険会社に対して新たな立証資料を提出して,異議申立を行います。
②裁判で争う
加害者や保険会社を相手方として訴訟を提起して,裁判で争うこともできます。
7 まとめ
骨盤骨折の後遺障害について,ご説明させていただきました。
弁護士に依頼すれば,後遺障害認定申請を代わりに行ってもらえます。
また,加害者側の保険会社との示談交渉においても,弁護士基準で後遺障害慰謝料の主張をすることができます。
このように,弁護士に依頼すれば,手続きの手間が省けるうえに,十分な示談金を得ることのできる可能性が高まります。
交通事故で骨盤骨折を発症した場合,弁護士に相談するのは早い段階がいいです。
なぜなら,後遺障害等級認定を受けやすい通院方法,医師への後遺障害診断書の頼み方などのアドバイスももらうことができるからです。交通事故が原因で骨盤骨折の後遺障害が残り,悩まれている方は,なるべく早く弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。