警察庁の統計によると,令和4年,日本全国で交通事故により死亡したのは2610人です。
日本では1日に約7人も交通事故で死亡しています。
死亡事故は,決して他人事ではありません。
当コラムでは,ご家族が交通事故で死亡された場合についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で亡くなった家族の慰謝料はいくら?
交通事故で被害者が死亡した場合,被害者自身に慰謝料請求権が発生し,相続の対象となります(最判昭和42年11月1日民集21巻9号2249頁)。
被害者自身の慰謝料請求権については,2 後日死亡した交通事故被害者の慰謝料はどう決まる?相場と計算方法で詳しく説明しております。
また,民法711条によれば,死亡交通事故の被害者の父母,配偶者,子も独自の慰謝料請求を行うことができます。
(近親者に対する損害の賠償)
第七百十一条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
被害者の父母,配偶者,子が請求できる慰謝料の相場には種類があります。
⑴自賠責基準,⑵弁護士基準,⑶任意保険基準の3つです。
⑴自賠責基準
自賠責基準は,被害者への最低限の補償を目的としている自賠責保険の定める慰謝料基準なので,1番低い支払基準になっています。
遺族の慰謝料の請求権者は,被害者の父母(養父母),配偶者,子(養子,認知した子及び胎児も含む)です。
請求権者の人数によって,慰謝料の相場が異なります。
請求権者の人数 | 慰謝料の相場 |
1人 | 550万円 |
2人 | 650万円 |
3人 | 750万円 |
被害者に被扶養者がいる場合,上記の表に記載されている金額に200万円が加算されます。
⑵弁護士基準(裁判所基準とも呼びます)
弁護士基準は,過去の裁判例を参考に導かれた基準で,弁護士が使用する基準です。
そのため,「弁護士基準」又は「裁判所基準」と呼ばれています。
弁護士基準では,被害者本人の慰謝料と,遺族固有の慰謝料を合わせた金額になっています。
以下の基準は目安なので,事案によっては増減されます。
被害者の属性 | 慰謝料の相場 |
一家の支柱 | 2800万円 |
母親,配偶者 | 2500万円 |
独身の男女,子供,幼児等 | 2000万円~2500万円 |
⑶任意保険基準
各保険会社が独自に定めている基準であり,公表されていません。
大体,自賠責基準と弁護士基準の中間の金額です。
なお,死亡保険金の相場については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
2 後日死亡した交通事故被害者の慰謝料はどう決まる?相場と計算方法
⑴自賠責基準
死亡本人の慰謝料:400万円
⑵弁護士基準(裁判所基準とも呼びます)
弁護士基準では,被害者本人の慰謝料と,遺族固有の慰謝料を合わせた金額になっています。
被害者の属性 | 慰謝料の相場 |
一家の支柱 | 2800万円 |
母親,配偶者 | 2500万円 |
独身の男女,子供,幼児等 | 2000万円~2500万円 |
なお,交通事故の死亡慰謝料,死亡保険金がいくらもらえるか,死亡保険金に相続税がかかるのかについては当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
3 被害者の家族は慰謝料以外に何が請求できる?
慰謝料以外には,葬儀費,逸失利益を請求することができます。
⑴自賠責基準
葬儀費:通夜、祭壇、火葬、墓石などの費用(墓地、香典返しなどは除く)。 | 100万円 |
逸失利益:被害者が死亡しなければ将来得たであろう収入から、本人の生活費を控除したもの。 | (年間収入額―生活費)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
⑵弁護士基準
葬儀費 | 150万円ただし,150万円を下回る場合は,実際に支出した額 |
逸失利益 | 基礎収入額×(1―生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
⑶被害者が後日死亡した場合に請求できるもの
被害者即死ではなく,事故から数日経ったのちに被害者が死亡することもあります。
その場合,被害者は事故後入院しており,家族が付き添っていることが多いです。
そこで,被害者が後日死亡した場合,家族は葬儀費・逸失利益以外に以下の項目を請求することができます。
具体的には,被害者が治療費などの損害賠償請求権を取得し,被害者死亡によって,その請求権を家族が相続することになります。
治療費 | 診察料や手術料、または投薬料や処置料、入院料等の費用など。 |
付添看護費 | 原則として12歳以下の子供に近親者等の付き添いや、医師が看護の必要性を認めた場合の、入院中の看護料や自宅看護料・通院看護料。 |
入院雑費 | 入院中に要した雑費。 |
休業損害 | 事故の傷害で発生した収入の減少(有給休暇の使用、家事従事者を含む)。 |
入通院慰謝料 | 交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償。 |
4 死亡と交通事故の因果関係は問題になる?
交通事故の被害者が後日死亡した場合,死亡慰謝料や死亡逸失利益など,死亡に関する損害賠償請求をするには,死亡と交通事故に因果関係が認められなければいけません。
死亡と交通事故に因果関係が認められる場合は,上述した死亡に関する損害賠償請求を行うことができます。
⑴因果関係が認められる場合
①被害者の症状が固定し,後遺障害が残っていたところ,症状が増悪して死亡した/被害者が自殺したが,交通事故との間に相当因果関係が認められる
→死亡に関する損害賠償請求を行うことができます。
②交通事故後,被害者の治療中だったところ,症状が悪化して死亡した/被害者が自殺したが,交通事故との間に相当因果関係が認められる
→死亡に関する損害賠償請求を行うことができます。
⑵因果関係が認められない場合
①被害者の症状が固定し,後遺障害が残っていたところ,被害者は不慮の事故で死亡した/交通事故とは無関係に被害者が自殺した。
→後遺障害に関する損害賠償請求を行うことができます。
なお,後遺障害逸失利益は就労可能年数分認められますが,介護費用は死亡時までしか認められません。
②交通事故後,被害者の治療中だったところ,交通事故とは無関係に被害者が死亡した/交通事故とは無関係に被害者が自殺した。
→治療期間に応じて,治療関係費,入通院慰謝料の請求を行うことができます。
⑶交通事故後の自殺について,交通事故との因果関係が認められるのはどのような場合か?
最一平成5年9月9日交民26巻5号1129頁では,交通事故から約3年後に被害者が自殺した事案において,交通事故と自殺との因果関係を認めています。
「交通事故により受傷した被害者が自殺した場合において、その傷害が身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかったとしても、右事故の態様が加害者の一方的過失によるものであって被害者に大きな精神的衝撃を与え、その衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって、被害者が、災害神経症状態に陥り、その状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至ったなど判示の事実関係の下では、右事故と被害者の自殺との間に相当因果関係がある。」という旨の判断を行っています。
交通事故と自殺の因果関係が認められるのは,交通事故がうつ病を発症させる程度の規模であった場合だと考えられます。
5 被害者が後日死亡した場合の慰謝料等の請求方法
被害者が後日死亡した場合,相続人は被害者本人の損害賠償請求権と,遺族固有の損害賠償請求権を行使することが可能です。
被害者本人の損害賠償請求権を行使するには,相続手続きを行わなければいけないので,以下のようにして慰謝料等を請求します。
⑴相続手続きを行う
①相続人を確定させる
まず,被害者本人の損害賠償請求権を行使できるのは相続人のみなので,相続人が誰かを確定します。
だからです。
配偶者・子は必ず相続人になり,被害者に子がいなければ,父母も相続人となります。
②遺産分割協議を行う
相続人の間で遺産分割協議を行い,遺産分割の割合を決定します。
この割合に従って,相続人は損害賠償金を受け取ることができます。
⑵示談交渉を行う
加害者が任意保険に加入している場合は,任意保険会社と相続人の間で示談交渉を行います。
弁護士に依頼している場合は,弁護士に,代わりに示談交渉を行ってもらいます。
⑶示談が成立する
示談が成立すれば,示談金を受け取ることができます。
なお,交通事故で死亡した場合の遺体の解剖から引き取りまでの流れ,交通事故でお子様を亡くされた場合については,当事者の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故で死亡した場合の遺体の解剖から引き取りまでの流れを知りたい
6 困ったらすぐに弁護士にご相談を
交通事故で家族が死亡したら,残された家族は深い悲しみに襲われます。
また,葬儀の手配を行わなければならず忙しいうえに,今後の生活への心配もあり,心身ともに大きなストレスを感じるでしょう。
そのような状況で,損害賠償金の請求手続きを行うことは非常に苦しいです。
弁護士に相談すれば,必要書類の収集・示談交渉を代わりに行ってもらうことができますし,示談交渉の際に,「弁護士基準」と言われる高い相場で示談金の提案を行うことができます。
ロイヤーズ・ハイには交通事故案件に詳しい弁護士が多数在籍しています。ご家族が交通事故に遭い,死亡されて悩まれている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。