交通事故で肋骨を骨折すれば,後遺障害が認定されることがあります。
もっとも,後遺障害認定をしてもらうには,申請時期や後遺障害診断書の書き方など,注意すべきポイントがあります。
当コラムでは,肋骨骨折発症後に残った後遺障害についてご説明いたします。
目次
1 肋骨骨折とは?
肋骨は12本の骨で,上半身の内臓を囲むように取り囲んでいます。
身体の横側からの外力,前後からの圧力が加わった際に肋骨骨折を発症します。
骨折部位の痛み,圧痛,皮下出血,腫脹などの症状が現れます。
また,骨折部を軽く圧迫すると骨がきしむ音がすることもあります。
咳やくしゃみ,深呼吸した際に痛みが増します。
胸部の触診とX線撮影を行って,肋骨骨折かどうか診断します。
軽症であれば,バストバンドで肋骨を圧迫固定し,安静にします。
重症であれば,入院治療することもあります。
2 交通事故による肋骨骨折の後遺障害とは?
交通事故で肋骨骨折し,後遺障害が残れば変形障害または神経症状の後遺障害等級認定を受ける可能性があります。
(1)体幹骨の変形障害
等級 | 後遺障害 |
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
(2)神経症状
等級 | 後遺障害 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
3 交通事故による肋骨骨折の後遺障害等級の認定基準は?
(1)体幹骨の変形障害
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | 裸体になった時に変形および欠損が明らかにわかる程度のもの。レントゲン撮影等によって初めて見いだされる程度のものは含まない。 |
裸体になった時に,変形がわかる程度でなければいけません。
被害者が太っていて変形が分からないのであれば,後遺障害等級を獲得するにはダイエットをする必要があります。
(2)神経症状
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 障害の存在が医学的(ないしは他覚的)に証明できるもの=現在残存している症状の原因が何であるかが他覚的所見に基づいて判断できる |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 障害の存在が医学的に説明可能なもの |
局部の神経症状は,変形障害が存在する場合に通常派生するものとされています。
そこで,レントゲン撮影で骨癒合が確認でき,変形障害が認められない場合,神経症状の後遺障害が認められるには症状の推移,一貫性の記載に工夫が要ります。
以下の裁判例では,骨折部が癒合しており変形障害がなく,神経症状でも後遺障害等級が認められませんでした。
・東京地判平15・1・22 自保ジャーナル1511・21 被害者は,交通事故で右第6~第9肋骨を骨折した。 第5~第9肋骨は骨癒合していたが,右第5・6肋間神経痛がある旨の後遺障害診断書が作成された。自賠責保険,裁判所は右肋骨骨折に伴う肋骨の痛みは画像上骨折部の癒合を認められ,後遺障害等級には非該当だと判断した。 |
なお,肋骨と同じ体幹骨である鎖骨,肩甲骨の骨折については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故で鎖骨骨折してしまった!後遺障害等級と慰謝料がどうなるか知りたい!
交通事故による肩甲骨骨折の後遺障害等級認定基準と慰謝料請求の相場を解説
4 肋骨骨折の後遺障害の慰謝料相場は?
肋骨骨折を発症し,完治せず後遺障害が残れば,被害者は後遺障害慰謝料の支払いを受けることができます。
後遺障害慰謝料は,後遺障害が残ったことで生じる精神的苦痛に対して支払われます。
後遺障害慰謝料には,自賠責基準,弁護士基準,任意保険基準の3つの基準があります。
自賠責保険は,被害者への基本補償を確保するため,自賠責保険金の限度額の範囲内で支払うものです。
そのため,自賠責基準は最も低額な基準となっています。
弁護士基準は,弁護士・裁判所が使用する基準です。
過去の裁判例を踏まえた基準で,最も高いです。
なお,任意保険基準は,保険会社が使用する基準で,保険会社ごとに定められています。
この基準は非公表です。
(1)体幹骨の変形障害
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | 94万円 | 290万円 |
(2)神経症状
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 32万円 | 110万円 |
なお,自賠責基準,弁護士基準,任意保険基準について,詳しくは当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
5 交通事故による肋骨骨折の後遺障害の申請方法と申請タイミングは?
(1)肋骨骨折の後遺障害の申請方法
後遺障害申請には,事前認定と被害者請求の方法があります。
事前認定では,加害者の加入している任意保険会社が後遺障害申請を行います。
被害者請求では,被害者自身が後遺障害申請を行います。
事前認定を取った場合,被害者は加害者側の任意保険会社に手続を任かせることができますが,示談成立後にしか示談金を受け取ることができません。
被害者請求を取った場合は,被害者が書類を用意しなければいけませんが,自賠責保険の限度額内であれば示談成立前でも示談金の支払いを受けることができます。
(2)肋骨骨折の後遺障害申請のタイミング
後遺障害とは,交通事故によって身体に回復が困難と見込まれる障害が残ったため,労働能力や日常生活に支障があると認められる場合で,これ以上治療しても改善が見込めないものを指します。
そこで,医師がこれ以上改善は見込めないと判断したとき,すなわち「症状固定」と判断してからでなければ後遺障害申請することはできません。
また,申請には後遺障害診断書を含めた様々な書類を用意しなければいけません。
よって,後遺障害申請を行うのは,「症状固定」との診断を受け,かつ,後遺障害診断書などの必要書類を用意した段階です。
6 肋骨骨折の後遺障害等級認定の申請手続きで注意すべきことは?
(1)弁護士に依頼する
後遺障害申請の経験がない被害者と比べて,交通事故案件の経験豊富な弁護士は,後遺障害申請に慣れています。
弁護士の方が,後遺障害診断書の記載方法,どのような検査結果が必要かなどを把握しています。
弁護士に依頼した方が,後遺障害等級認定を獲得できる見込みが高いです。
(2)後遺障害診断書をお願いする
医師には自覚症状を具体的に伝え,かつ,後遺障害診断書に記載してほしい事柄を言っておきましょう。
医師によっては,後遺障害診断書の書き方を指図されると気を悪くする人もいます。
そこで,弁護士に上手な伝え方を聞いておきましょう。
(3)被害者申請を選ぶ
被害者申請であれば,後遺障害等級認定を受けやすくなるような書類を準備できます。
また,示談成立前でも示談金の一部の支払いを受けることができます。
そのため,被害者申請を利用しましょう。
7 肋骨骨折の後遺障害に詳しい弁護士の探し方
(1)弁護士ポータルサイト
交通事故に特化したポータルサイトがあるので,1つのサイト内で弁護士を比較することができます。
ただし,費用を支払うと登録できるので,肋骨骨折の後遺障害に詳しい弁護士なのか確証はありません。
(2)インターネット検索する
ホームページには弁護士の紹介や実績が掲載されていることが多く,事務所ごとの特徴が出ています。
法律事務所のホームページを比較して,「これは」と思った事務所に依頼しましょう。
ただし,手間がかかることは否めません。
(3)口コミを参考にする
実際にその事務所に依頼した人などの口コミをまとめたサイトなどがあります。
依頼者の評価なので,弁護士を探すうえで参考になります。
ただし,嘘の記載や大げさに書かれていることもあるので,信用性には注意しましょう。
8 まとめ
交通事故で肋骨骨折を発症し,完治しなければ後遺障害慰謝料を獲得することができます。
ただし,そのためには後遺障害等級認定を受けたうえで,示談交渉を行う必要があります。
これらの手続を正確に行うには,法的知識,医学的知識,交渉力がなければ難しいです。
一般の方が行うよりも,後遺障害に詳しい弁護士に任せた方が適切な後遺障害慰謝料を受け取ることができます。
法律事務所ロイヤーズ・ハイには交通事故の後遺障害問題に精通した弁護士が多数在籍しております。
当事務所の所属弁護士は,示談交渉も得意としていますので、有効なアドバイスをすることも可能です。交通事故で肋骨骨折を負い,悩まれている方は、ぜひ大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへご相談ください。