高速道路を走行中,突然前からこちら側に向かって車が走ってきて衝突してしまった。
このような事故を逆走事故といいます。
逆走事故は,高速道路での事故全体と比べて死傷事故となる割合が約5倍,死亡事故となる割合が約40倍であり,危険性の高い事故です。
当コラムでは,逆走事故の過失割合についてご説明いたします。
参照:国土交通省 逆走事案のデータ分析結果 逆走事故の発生状況
目次
1 逆走事故とは?逆走事故に遭わないためには
⑴逆走事故とは
逆走事故とは,進行方向と逆方向に進行したことにより起こる交通事故です。
(通行区分)第十七条
4 車両は、道路(歩道等と車道の区別のある道路においては、車道。以下第九節の二までにおいて同じ。)の中央(軌道が道路の側端に寄つて設けられている場合においては当該道路の軌道敷を除いた部分の中央とし、道路標識等による中央線が設けられているときはその中央線の設けられた道路の部分を中央とする。以下同じ。)から左の部分(以下「左側部分」という。)を通行しなければならない。
日本の道路は,道路交通法において左側通行が定められています。
そこで,右側通行をすると,逆走していることになります。
逆走は,高速道路のインターチェンジなどで発生することが多く,逆走するドライバーは高齢者が多いです。
⑵逆走事故に遭わないためにできること
前方の見通しが悪いこと,高速道路ではお互いがかなりのスピードで走行していることから,逆走車に気づくまでに時間がかかることが多いです。
そのため,逆走車を発見したら,とっさの判断が求められます。
逆走車を見つけたら,まずは速度を落として前の車との車間距離をとりましょう。
その後,左側によって車線を移り,路肩に避難しましょう。
逆走車に遭遇する機会を減らすことも大事です。
逆走車は,追い越し車線を走行していることが多いので,追い越し車線は必要なときだけ走行しましょう。
2 逆走事故に遭ったらどうする?被害者の対応策と注意点
もしも,逆走事故に遭ったらその後どうすべきなのでしょうか。
逆走事故は高速道路で発生することが多く,高速道路ではハイスピードで絶えず車の行き来があります。
後続車に跳ねられるおそれがあるのでむやみに本線や路肩を歩き回らないでください。
かといって,車の中にいれば後続車に追突されるおそれがあります。
そこで,運転者・同乗者はガードレールの外など安全な場所に避難してください。
また,ハザードランプや発煙筒などを使用して後続車に停止車両があることを知らせましょう。
3 逆走事故の過失割合はどう決まる?認定基準と裁判例
⑴逆走事故の過失割合の認定基準
過失割合とは,交通事故に対して負う責任(過失)を数値で表したものです。
もし被害者にも責任(過失)があれば,その責任割合に応じて損害賠償額が減額されます。
過失割合は,交通事故の当事者が決定します。
過失割合は,基本過失割合をもとに,当該交通事故の事情も考慮して判断します。
逆走事故での基本的過失割合は,以下のようになっています。
過失割合 | ||
自動車:自動車 | 一般道を走行中,信号のない交差点で一方通行に違反して逆走してきた自動車と衝突した | 8:2(逆走車:非逆走車) |
センターラインを越えて逆走したところ,対向車と衝突した | 10:0(逆走車:非逆走車) | |
高速道路を走行中,前から逆走してきた自動車と衝突した | 10:0(逆走車:非逆走車) | |
車:バイク(車が逆走) | バイクが一般道を走行中,信号のない交差点で一方通行に違反して逆走してきた自動車と衝突した | 9:1(逆走車:非逆走バイク) |
車がセンターラインを越えて逆走したところ,対向バイクと衝突した | 10:0(逆走車:非逆走バイク) | |
バイク:車(バイクが逆走) | 車が一般道を走行中,信号のない交差点で一方通行に違反して逆走してきたバイクと衝突した | 7:3(逆走バイク:非逆走車) |
バイクがセンターラインを越えて逆走したところ,対向車と衝突した | 10:0(逆走バイク:非逆走車) | |
車:自転車(車が逆走) | 自転車が一般道を走行中,信号のない交差点で一方通行に違反して逆走してきた自動車と衝突した | 9:1(逆走車:非逆走自転車) |
自動車がセンターラインを越えて逆走したところ,対向自転車と衝突した | 10:0(逆走車:非逆走自転車) | |
自転車:車(自転車が逆走) | 自動車が一般道を走行中,信号のない交差点で一方通行に違反して逆走してきた自転車と衝突した | 5:5(逆走自転車:非逆走車) |
自転車がセンターラインを越えて逆走したところ,対向車と衝突した | 5:5(逆走自転車:非逆走車) | |
自転車が道路の右側を走行していたところ,自動車と衝突した | 2:8(逆走自転車:非逆走自動車) | |
自転車:自転車 | 自転車で走行中,逆走してきた自転車と衝突した | 5:5(自転車:自転車) |
⑵逆走事故の過失割合に関する裁判例
①長崎地判平成15年11月27日 平14(ワ)108号
雨天時、一方通行路を逆走し、三叉路で一方通行規制のない道路に進入した加害車(普通乗用自動車)との衝突を避けようと急制動措置をとった対向進行中の被害車(自動二輪車)が転倒し、加害車に轢過されて被害車運転者が受傷した。
被害車運転者には、短時間の一方通行規制のため逆走車両を予測し、急制動により転倒しない程度の速度で走行すべき義務を怠った過失があるが、一方通行路を逆走しながら、前方注視を怠った加害車運転者の過失は重大であるとして、被害車運転者の過失割合は1割が相当とされた。
②大阪地判平成5年1月20日 昭62(ワ)11496号
深夜(午後11時40分頃)、国道を直進してきた被害者運転の車両(自動二輪車)が、国道を出るための一方通行の側道を後ろ向きに逆走し国道に出てきた加害車両と衝突した。
被害者にも,前方注視を怠っていたことも否定できないとして10パーセントの過失相殺を認めた。
③名古屋地判平成12年7月21日 平10(ワ)2222号
中央分離帯のある片側2車線道路において逆走した加害普通乗用車が対向直進してきた被害自動二輪車と衝突し、被害車運転者が死亡した。
事故の原因は主として加害車運転者の逆走にあることは明らかであり、中央分離帯のある道路上にあっては逆走する車があることの予見可能性はいっそう低いといえるから、加害車運転者の過失は大きいが、他方被害車運転者も制限速度を50キロメートル以上超過し、かつ蛇行運転をし、さらに無免許運転であることも併せて考えると過失を負担させることが公平の原則に適うとして、加害車運転者が飲酒運転であったことを加えて総合考慮し、20パーセントの過失相殺が認められた。
なお,過失割合の決め方,自転車と車の交通事故での過失割合については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
4 逆走事故に遭った時の損害賠償額はどうやって計算する?
被害者に過失が認められない場合,被害者は被った損害全額の支払いを受けることができます。
しかし,被害者に過失が認められると過失割合に沿って損害賠償金を減額する,いわゆる過失相殺がなされます。
過失相殺を行うと,
損害額×(100%―過失割合)=損害賠償額です。
自動車が一般道を走行中,信号のない交差点で一方通行に違反して逆走してきた自動車と衝突した事案を例に考えてみます。
加害者 | 被害者 | |
損害額 | 20万円 | 200万円 |
過失割合 | 8 | 2 |
相手方に請求する金額 | 20万円×(1―0.8)=4万円 | 200万円×(1―0.2)=160万円 |
実際に受け取る金額 | 4万円―160万円=―156万円(被害者に156万円支払わなければならない) | 160万円―4万円=156万円(加害者から156万円受け取ることができる) |
なお,過失割合による賠償金の負担割合については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
5 弁護士に依頼するメリット
⑴納得いく過失割合を主張できる
過失割合は,事故状況や過去の裁判例をもとに,事故の具体的な状況に応じて修正し,当事者の協議で決定します。
相手方の逆走が原因で事故が起こったとしても,損害賠償額を少なくするために,被害者の過失割合を多めに主張されることがあります。
相手方が提示する過失割合に納得できなければ,実況見分調書,現場写真,ドライブレコーダーの映像などの証拠を出して,過失割合の変更を試みましょう。
ただし,過失割合を変更するには,相手方に納得してもらえるように交渉しなければいけません。
その際は,普段から交渉事を行っている弁護士に依頼した方が,過失割合を変更できる可能性が上がります。
⑵損害賠償額を計算してくれる
逆走事故では,事故状況によって過失割合が変わるうえに,被害者側にも過失があれば過失相殺の計算も行わなければいけません。
逆走事故の計算は複雑になるので,弁護士に依頼して計算も任せた方が楽ですし,損害項目のもれがなくなり,十分な示談金を獲得することができます。
⑶ストレスを感じなくて済む
示談交渉などの面倒な手続きを自分で行なわずに済むので,余計なストレスを感じずに済みます。
6 まとめ
逆走事故の過失割合については,インターネットなどで調べることもできますが,交通事故の具体的状況や示談交渉の内容によって異なります。
そのため,ご自分で対応するには限度があります。
弁護士に対応した方が,納得いく過失割合で合意することができますし,最終的な損害賠償額も正確に算出することができます。逆走事故に遭って不安に思われている方は,弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにぜひ一度ご相談ください。