今や,外出時のイヤホン使用は浸透しており,街中や電車では,大半の人がイヤホンを付けています。
また,自転車走行中にイヤホンを付けている人も見かけます。
最近では,骨伝導イヤホンという周囲の音も聞こえるイヤホンが販売されていますが,骨伝導イヤホンであっても,自転車走行時に使用することは禁止されているのでしょうか。
当コラムでは,自転車走行時の骨伝導イヤホン使用と,追突された場合の損害賠償請求についてご説明いたします。
目次
1 イヤホンを付けて自転車を運転するのは違反?
道路交通法にはイヤホンを使用しながらの自転車の運転を直接禁止する規定はありません。
もっとも,道路交通法を受けて各都道府県が定めた規則などでは,自転車走行時のイヤホン使用を禁止する規定が存在します。
道路交通法
(運転者の遵守事項)
第七十一条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
六 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項
(罰則 第一号、第四号から第五号まで、第五号の三、第五号の四及び第六号については第百二十条第一項第十号 第二号、第二号の三及び第三号については第百十九条第一項第十五号 第五号の五については第百十七条の四第一項第二号、第百十八条第一項第四号)
大阪府道路交通規則
(運転者の遵守事項)
第13条 法第71条第6号(道路交通法71条6号のこと)の規定により車両等の運転者が遵守しなければならない事項は、次に掲げるとおりとする。
(5) 警音器、緊急自動車のサイレン、警察官の指示等安全な運転に必要な交通に関する音又は声を聞くことができないような音量で、カーオーディオ、ヘッドホンステレオ等を使用して音楽等を聴きながら車両を運転しないこと。
大阪府道路交通規則では,大音量で音楽等を聴きながらの自転車の運転を禁止しています。
イヤホンやヘッドホンステレオ、携帯音楽プレーヤー等を使用して,警音器,緊急自動車のサイレン,警察官の指示等安全な運転に必要な交通に関する音又は声を聞くことができないような音量で音楽等を聴きながら自転車を運転すると、5万円以下の罰金になります。
2 「骨伝導イヤホン」を付けて自転車を運転するのは違反?
⑴骨伝導イヤホンとは何か
普段音を聞く際,空気の振動が耳の中の鼓膜を振動させて蝸牛に届き,蝸牛が音の情報を脳に伝えます。
鼓膜を使わずとも,耳周辺の骨を振動させて,その振動を蝸牛に伝える方法でも,音を聞くことはできます。
通常のイヤホンは耳の穴に入れるのに対して,耳周辺の骨を振動させて音を聞くのが,骨伝導イヤホンです。
これに対して,骨伝導イヤホンは耳の顔側又は後ろ側の骨の上に装置をつけて,骨を振動させます。
骨伝導イヤホンは耳の穴を塞がないので,周囲の音も同時に聞くことができます。
骨伝導イヤホンを付けながら自転車を走行しても,車の走行音など周りの様子に気づくことができます。
⑵骨伝導イヤホンを付けて自転車を運転していいのか
骨伝導イヤホンは,周囲の音も同時に聞くことができるので,各都道府県の規則等に違反しないのでしょうか。
島根県では,島根県道路交通法施行細則で自転車の運転者が守らなければならない事項のひとつに,
「高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転しないこと。」
と規定しています。
島根県では,骨伝導イヤホンの使用の場合も、上記規定に該当するような使用は禁止されているそうです。
しかし,全ての都道府県で骨伝導イヤホンの使用について明確に記載されているわけではありません。
ただ,骨伝導イヤホンであっても大音量で聞いていて周囲の様子に気づかない場合は違反となる可能性があることに留意しましょう。
骨伝導イヤホンに関する警察庁の通達については,3 「片耳イヤホン」で自転車を運転する場合は違反にならない?で記載しているのでご覧ください。
3 「片耳イヤホン」で自転車を運転する場合は違反にならない?
イヤホンを片耳にしか付けていないのであれば,もう一方の耳で周囲の音を同時に聞くことができるので,各都道府県の規則等に違反しないのでしょうか。
埼玉県では,片耳の使用でも音量が大きければ周りの音が聞こえにくくなりますし,音楽に気を取られて安全運転に集中できなければ危険なことに変わりはないとして,「片耳だから大丈夫」とはならないとしています。
島根県では,島根県道路交通法施行細則で自転車の運転者が守らなければならない事項のひとつに,
「高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転しないこと。」
と規定しています。
島根県では,片耳イヤホンの使用の場合も、上記規定に該当するような使用は禁止されているそうです。
片耳イヤホンでも,走行中の使用が禁止されているかどうかは,都道府県ごとに違うでしょう。
安全な運転に必要な交通に関する音又は声を聞くことができないとして,片耳イヤホンで自転車を運転することが違反とされる可能性があることに留意しましょう。
なお,警察庁の通達では,骨伝導イヤホンや片耳イヤホンについて以下のように記載されています。
「イヤホン等を片耳のみに装着している場合や、両耳に装着している場合であっても極めて低い音量で使用している場合等には、周囲の音又は声が聞こえている可能性があるほか、最近普及しているオープンイヤー型イヤホンや骨伝導型イヤホンについては、装着時に利用者の耳を完全には塞がず、その性能や音量等によってはこれを使用中にも周囲の音又は声を聞くことが可能であり、必ずしも自転車の安全な運転に支障を及ぼすとは限らないと考えられる。」
そして,イヤホンを使用している自転車利用者を取り締まる際は,
「警察官が声掛けをした際の運転者の反応を確認したり、運転者にイヤホン等の提示を求め、その形状や音量等から、これを使用して自転車を運転する場合に周囲の音又は声が聞こえない状態となるかどうかを確認したりすることにより、個別具体の事実関係に即して違反の成否を判断すること。」
と記載しています。
そのため,骨伝導イヤホンや片耳イヤホンで自転車を運転しても,周囲の音に気づける音量で音楽を聴いているのであれば,違反とならない可能性があります。
参照:埼玉県 埼玉県道路交通法施行細則(自転車関係)について イヤホン・ヘッドホンについて
警察庁 イヤホン又はヘッドホンを使用した自転車利用者に対する交通指導取締り上の留意事項等について(通達)
4 「骨伝導イヤホン」を付けて運転する自転車に追突されたら損害賠償請求できる?
運転者が骨伝導イヤホンを付けているかどうかにかかわらず,自転車に追突されたら,被害者は加害者に対して損害賠償請求することができます。
加害者に請求できる損害賠償項目は,以下の通りです。
治療費,入院代 | 治療費の実費,入院代などです。 |
通院交通費 | 病院への通院に使用した公共交通機関の代金です。 |
傷害慰謝料 | 交通事故で受傷したことにより負った精神的苦痛に対する慰謝料です。 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残ったことにより被る精神的苦痛に対する慰謝料です。 |
休業損害 | 交通事故の怪我で生じた収入減に対する補償です。 |
後遺障害逸失利益 | 後遺障害が残ったことにより,得られたはずの収入が得られなかったという損害に対する補償です。 |
これ以外にも,看護料,入院雑費なども実際にかかっていれば請求することができます。
骨伝導イヤホンを付けていたことを理由に,加害者の過失割合が重くなる可能性があります。
なお,自転車と歩行者の交通事故については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
5 損害賠償が認められるために必要なこと
骨伝導イヤホンを付けて運転している自転車に追突されて,損害賠償請求をするためには,以下の行動をとる必要があります。
⑴警察に届け出る
警察への届出を行います。
物損事故であっても,届出は必要です。
届け出なければ,交通事故証明書や実況見分調書といった,損害額・過失割合を算定し,保険金を受け取るために必要な書類が作成されません。
なお,交通事故の届け出については当事務所の次のコラムで詳しくご紹介しているのでご覧ください。
⑵加害者の連絡先を把握する
相手方の住所、氏名、勤務先、電話番号などを確認してください。
目撃者がいる場合は、過失割合や損害額算定の証拠になるので,その人の住所、氏名を確認したうえで、証言依頼を行いましょう。
また,忘れないうちに事故状況メモを作成し,示談交渉に備えましょう。
⑶病院を受診する
怪我をしていないと思っていても,後から症状が出てくることがあります。
事故から時間が経過してしまうと,病院を受診していても,事故と怪我の因果関係を疑われてしまいます。
症状の有無にかかわらず,事故直後に病院を受診しましょう。
⑷弁護士に依頼する
自転車事故の対応には,馴染みのない方がほとんではないでしょうか。
どうすればよいか分からず,焦って示談に応じてしまい,少額の示談金しか得られない事態も考えられます。
プロに対応をお願いして,安心して過ごしましょう。
⑸後遺障害診断書を作成してもらう
自転車事故では,自賠責保険から後遺障害認定を受けることができません。
しかし,後遺障害が残っていることの証明ができれば,後遺障害に関する補償も受けられる可能性があります。
後遺障害が残っていることを証明する1番の資料は,後遺障害診断書です。
もしも後遺障害が残ってしまったら,主治医に後遺障害診断書を作成してもらいましょう。
⑹示談交渉を行う
加害者または,加害者が任意保険に加入していれば任意保険会社と示談交渉を行います。
示談交渉にあたっては,前提となる事実関係をお互いに確認しておくことなどが必要です。
また,交渉では示談の条件を明確にして,合意すれば示談書を必ず作成してください。
なお,自転車保険については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
⑺納得いく過失割合で合意する
示談交渉では,十分な示談金をもらう/支払う示談金を少なくするために,お互い過失割合を争うことがほとんどです。
事故状況とかけ離れた過失割合を主張されたら,修正していきましょう。
6 困ったらすぐに弁護士にご相談を
骨伝導イヤホンを付けて自転車を運転すれば,必ず違反となるわけではありません。
しかし,音楽に気を取られて運転に集中できなくなったり,周りの歩行者・車に気づくのが遅くなってしまって危ないことは間違いないです。
また,都道府県の規則等などによっては,違反であり,取り締まりの対象となることも考えられます。
明確な基準がない以上,自分の安全・周囲の安全のために,骨伝導イヤホンを付けて自転車を運転することは控えるのが得策です。
もしも骨伝導イヤホンを付けて運転している自転車と事故に遭って,損害賠償請求したいと考えられている方は,弁護士に相談することをお勧めします。骨伝導イヤホンを付けて運転している自転車との事故で悩まれている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへまずはご相談ください。