交通事故後、被害者側のすべての損害が確定した段階で、加害者が加入する保険会社と示談交渉を行います。しかし、多くの場合は、被害者にとって適正な金額は提示されません。保険会社は自社から出すお金をできるだけ抑えたいという理由があるからです。被害者がそういった時にどうすればいいのでしょうか?ここでは、示談案についてご説明をいたします。
目次
1 示談案とはいったい何でしょうか?
【44秒かんたん解説!】
⑴示談案とは
被害者のすべての損害が確定した後に、「この金額で示談しませんか?」といった趣旨の書面が、保険会社から被害者の手元に届きます。この書面を「示談案」といいます。示談案の中には、被害者の損害賠償について、項目ごとに計算された金額が記載されています。
⑵誰が作成すべきか
示談案については、基本的に被害者、加害者のどちらが作っても構いませんが、作成した側が有利になる傾向があります。交通事故の場合は、被害者、加害者の当事者間で解決をはかる場合は、全体の支払い金額を当事者間で決定する傾向にあるので、被害者が作成すべきと考えます。
しかし、加害者側が任意保険会社に入っている場合は、基本的には任意保険会社が示談案を作成します。保険会社との示談交渉の場合は、各損害項目を1つ1つ計算することとなります。そうなった場合、被害者は計算方法等がわかりませんので、保険会社が作成します。
もし、被害者が弁護士に依頼している場合は、弁護士が作成することが良いでしょう。弁護士が作成する示談案は、一般的に保険会社が提示するものより、高額な内容だからです。
⑶示談案と示談書の違い
示談案はあくまで「提案書」となりますので、両者の署名欄等はなく、あくまで金額の内容をすり合わせる書面です。一方で、示談書は双方が最終的に合意をした内容が記されており、署名・捺印をすると示談が成立したことになります。
2 示談案の注目ポイント
示談案が加害者の保険会社から提案されたとき、被害者の方はどこを確認すればよいでしょうか?以下のポイントは確認必須となります。
⑴慰謝料の額
慰謝料には3つの種類があります。
入通院慰謝料 | 入通院を余儀なくされた際に被害者の精神的苦痛に対する賠償金 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残存し、後遺障害の等級が認定された場合の、後遺障害が残ってしまったという精神的苦痛に対する慰謝料 |
死亡慰謝料 | 被害者が死亡させられたことに対する慰謝料 遺族にも独自の慰謝料請求権があります |
この慰謝料ですが、基本的に保険会社からの提示額は低額であるケースが多いです。慰謝料はどうやって計算されているのでしょうか?
交通事故の損害賠償の計算には3つの基準があります。
①自賠責保険基準 |
②任意保険基準 |
③裁判所基準(弁護士基準とも呼ばれます) |
この3つの基準は、計算方法が異なり、最終的な金額も大きく異なる傾向があります。3つの基準の中で、最も低い基準が自賠責保険基準となり、ほぼ変わらない金額となる任意保険基準、そして最も高い基準は、裁判所基準となります。
自賠責保険基準は自賠責保険に請求をした際に支払われる算定基準であり、自賠責保険が「被害者を救済することを目的」としており、最低限の補償しかありません。
任意保険基準は、各保険会社が過去の実績を元に独自で設定している計算基準となります。計算の方法等は明確にはなっておりませんが、自賠責保険基準と変わらないか、もしくは少しだけ高いだけとなっております。
裁判所基準は最も適正な基準と言われています。「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(赤い本)」をベースに金額は算出されています。実際に裁判で用いる金額であることから、弁護士を入れるとこの基準での計算となります。被害者本人でも使用は可能ですが、現実、この基準は弁護士を入れなければ、保険会社は応じないことが多いです。
さて、慰謝料に当てはめた場合、この基準はどれくらい影響されるのでしょうか?入通院慰謝料を例に各算出方法を見てみましょう。
①自賠責保険基準
「入通院の期間(総治療期間)×日額4200円」によって計算されます。
※令和2年4月1日以降の事故については、日額4300円に改正されています。
入院と通院の日額は変わりません。ただし、実際に入通院した日数が少ない場合、「実通院日数×2」が計算基準となります。
よって、以下の算出方法で計算し、小さい方の数字がとられます。
総治療期間(入通院した期間)×日額4,200円 |
実際に入通院した日数×2×日額4,200円 |
自賠責保険基準は、実際に入通院した日数が少ないと、慰謝料が減額される傾向にあります。
②任意保険基準
任意保険基準は、計算方法が明示されておりませんので割愛させていただきます。
③裁判所基準
裁判所基準で計算をする場合は、入院期間の方が通院期間に比べると慰謝料が上がります。「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(赤い本)」に掲載されている表を用いて算出をしますが、基本的には総治療期間がベースとなります。
また、怪我の程度によって、計算方法が変わり、軽傷の場合は、通常の怪我の場合よりも慰謝料が3分の2減額されます。加えて、通院の日数が少ない場合においては、実通院日数×3.5の計算式を用いられることがあります。
弁護士基準の場合、6か月間の治療期間といっても、自賠責保険と異なり、怪我の内容や入院の有無、あればその期間によって大きく変動します。しかし、どの場合であっても基本は自賠責保険基準や任意保険基準よりも高い基準となります。相手からの示談案を目にした際には、必ず慰謝料の計算方法をまずは確認することが大事です。
⑵損害項目
損害項目には事案によって、いくつもの項目があります。そもそも損害は、積極損害と消極損害に分かれております。
①積極損害 | 交通事故により、実際の支払い生じた損害 |
②消極損害 | 交通事故により、本来得るはずだった、失われた利益(収入)の損害 |
①積極損害
積極損害には、治療費(診察費、検査費、手術費、投薬費等)の他、通院の交通費、怪我により必要となった装具(車椅子等)や家屋の修繕費(スロープを付けるなど)があります。亡くなった場合においては、葬儀関係費用(墓碑建立費や仏壇・仏具購入費用)や遺体処置費用等があります。裁判で判決をする時のみとはなりますが、弁護士費用も損害項目に含まれます。これは、裁判で認められた損害額の10%分とされています。
②消極損害
消極損害の代表的なものは、休業損害です。交通事故により働けなくなった際に減った分の収入が損害の内容となります。治療するために欠勤や遅刻、早退をし、給与に影響があった分を相手に請求ができます。また有給を使用した場合も、本来事故がなければ使用せずに、自身の望むタイミングで使用できたことから、【失われた利益】として相手に請求が可能です。他にも、欠勤や遅刻・早退により、賞与の減額があった場合も本来得るはずだった利益として損害に計上できます。
後遺障害の逸失利益も消極損害の一つです。これは後遺障害により労働能力が低下したために将来に渡り発生する収入の減少の補償をいいます。自賠責保険基準の場合、後遺障害慰謝料に含まれた形になるため、相手の保険会社も後遺障害慰謝料に含み、損害項目として省かれる傾向があります。一番低い等級の14級であっても非常に高額な損害賠償額を得ることができる可能性がありますので、必ず確認するようにしましょう。
死亡事故の場合も、死亡による逸失利益は請求項目に上がります。被害者が死亡しなければその後就労可能な期間において得ることができた収入となりますので、こちらも基本的には高額となります。
上記は代表的なものを紹介しましたが、事案によって損害項目が増えることはあります。示談案が来たときには、必ず損害項目に抜けがないのか、自身にとっての損害がすべて含まれているのかを確認しましょう。
⑶過失割合
すべての損害項目の最後に、過失割合分を差し引かれていることがあります。この過失割合分は必ず確認しましょう。自賠責保険基準の場合、被害者の過失が7割未満の場合は減額がされません。
よって、相手の保険会社から示談案の提示があった際に、0%とされているケースがあります。何も知らない被害者の方は、「得をした!」と考え、そのまま示談することがありますが、実際は、元々全体的に低い金額での計算基準となっているので、損をしている可能性もあります。
⑷休業損害
先ほど述べた、消極損害の一つである休業損害は、保険会社が不当に低い金額を提示してきやすい項目です。
例えば、主婦の休業損害においては、初回の示談案では0円で提示されることもあり、争点になることは少なくありません。家事従事者を理由に支払わない場合は、不当な可能性が高いです。
会社員の場合、保険会社は基本的に、事故前3か月の給与を足して、休日含む90日で割り、平均日額を算出します。裁判所基準では、事故前3か月の給与足して、休日を含まない、実際に稼働した(働いた)日数で割り、平均日額を算出します。双方ともに平均日額に休業した日数をかけます。
(例)事故前3か月の給与合計60万円、稼働日数が60日、休業日数が40日の場合
保険会社計算…60万円÷90日×40日=266,667円 |
裁判所基準…60万円÷60日×40日=400,000円 |
上記の例でわかるように、保険会社の提示は低い金額であることが多いです。さらに、会社員の方でも本来は請求できる分を、知らずして示談してしまうケースもあります。「遅刻早退でも請求できるのですか?」「有給も損害に入るとは知りませんでした。」とよく被害者の方から聞きます。
加害者の保険会社は決して被害者の味方ではありません。どれだけ対応が好印象であっても、適正な金額を提示されているかは、わかりませんので、必ず確認するようにしましょう。
3 示談案に不満!どうすればいいのでしょうか?
⑴条件に納得できない場合
相手の保険会社からの示談案に納得できない場合は、保険会社に納得できない部分について交渉をしましょう。なぜこの金額なのか、そういった内容の細かな部分を確認することが大切です。保険会社から「交通事故はこういうものです。」と言われて引き下がる被害者の方もいますが、きっちりとした根拠を聞きましょう。納得がいかないまま、示談書に署名・捺印はしてはいけません。
もし、署名・捺印をし、保険会社に渡してしまえば、その時点で「示談成立」となり、その後どれだけ金額について不当性や不満を訴えても示談内容を覆すことは基本的にはできません。
⑵弁護士に相談
保険会社と話すことが苦痛、早く終わらせたい、等の理由で急いで示談をしたい気持ちもわかりますが、そうなる前に、まずは弁護士に相談をしましょう。弁護士が入れば、基本的には裁判所基準が適用されます。
これまで述べてきましたように、裁判所基準は適正で、かつ一番高額な算定基準です。弁護士に依頼するだけで、損害賠償金が増額する可能性があると考えてください。
参考:交通事故後の示談交渉を弁護士に依頼した場合の費用はどうなる?
⑶交渉可能か
弁護士が入れば、すべての項目を裁判所基準で計算しますので、増額の可能性が上がるだけではなく、被害者が見落としていた損害がないか、また保険会社から不当な提案を受けていないかを確認したうえで、示談交渉が進みます。また、被害者本人だけでは受け入れられなかった損害の主張に対しても、その損害を証明する資料を集め、交渉することも可能です。
いずれにせよ、弁護士が入ることで大きなメリットがあります。示談交渉が始まってしまっていたら、弁護士には依頼できないのでは?と思ってしまうかもしれませんが、示談書にサインする前であれば、問題ありません。
参考:交通事故後の示談交渉を弁護士に依頼した場合の期間はどれくらい?
4 示談書にサインをする前に、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへお問い合わせください。
示談案が保険会社から届いたら、まずは弁護士に相談をしましょう。内容が適正であるか否かを判断してもらうことが非常に大切です。提示された示談案が適正かどうか、これで示談してもいいのか、そう一人で悩むのはおすすめできません。交通事故問題を多く取り扱っている、経験のある弁護士であれば、少し確認すればどれだけ不当な金額であるかを明らかにしてくれます。交通事故の被害者が適正な賠償金額を受け取れないことはあってはなりません。
ご自身で示談をする前に、まずは一度、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談くださいませ。