近年、交通事故の全体の件数は減少傾向にありますが、高齢者の方の事故は増加傾向にあります。これは、事故の被害者側、加害者側、どちらの立場であってもです。
この背景には、単純に高齢者の人口が増加しているというだけではなく、高齢者特有の事情も影響していると考えられます。
高齢者の方が交通事故に遭わないため、起こさないためにはどのようなことを注意していけばよいのでしょうか?
目次
1 高齢者が交通事故に遭わないようにするには?
冒頭でもお伝えしたように、高齢者の方が被害者となる事故が年々増加しています。さらに、高齢者の方の場合、死亡事故となることが多く、全体的にも、他の世代に比べると、死亡事故の被害者が高齢者の方である割合が高くなっています。
これは、年齢的に若い方が事故で受傷をした場合は、回復力が高く、乗り切れる怪我であっても、回復力が低下している高齢者の方にとっては、死亡に至る傷害となるケースもあるからと考えられています。
では、高齢者の方が交通事故に遭わないようにするには、どうすればいいのでしょうか?
(1)交通ルール厳守と安全確認
高齢者の方が被害者となってしまう事故の中で、多いのが「歩行中」の事故であり、さらにその原因のほとんどが、高齢者自身の交通ルール違反となります。
横断歩道以外の場所の横断であったり、走行車両の直前直後の横断、さらには横断歩道での信号無視であったり、様々な交通ルール違反が挙げられます。
このようにご説明をすると「交通ルール違反をする高齢者の方が悪いのでは?」とお考えになる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、この違反の背景には、老化による判断力・体力の低下などの高齢者の方特有の事情が影響していることも少なくありません。
たとえば、青信号で横断歩道を渡り始めたけれど、途中で赤信号に変わってしまい、事故の被害者となってしまう事案です。
これは、青信号で渡り切れると思って、本人は横断歩道を進んだとしても、歩く速度が遅く、その結果、時間がかかり赤信号になってしまったということです。
他にも、このような事案もあります。
道路を横断しようとした際に、左からAの車が来たことを目視します。高齢者の方は、A車に気を付けながら、進もうとしたところ、右から別の車B車が来たことに気づき、驚きつつも、通過を待ちます。
この時、B車への驚きと、通過したことによる安心感で、A車のことを忘れてしまい、その結果、道路を渡ってしまい、A車に轢かれてしまうということがあります。
このように、高齢者になると、身体の衰えや情報処理能力も落ちてしまうことから、交通事故の被害者になりやすいとされます。
また、高齢者の方が被害者となる場合の事故の半数が、自宅から近い、身近な場所です。これは高齢者の方も「慣れている道だから」「危ない目にあったことがないから」という油断が招いていると考えられます。
高齢者の方は以下の点を守り、交通事故の被害に遭わないようにすることが大切です。
①交通ルールの厳守 ・信号無視はしない。 ・横断禁止の標識があるところで、横断はしない。 ・道路を渡るときは横断歩道や歩道橋などを利用する。等 ②自分の運動能力、身体能力を過信しすぎない。 ③慣れている道でも十分な安全確認を行なう。 |
なお、ドライバーの方も、高齢者の方の事情を理解したうえで、注意をしながら運転をしていくことが大切です。
高齢者の方は、歩行速度が遅く、また走行車両との距離や速度を見誤りやすいということがある、といった高齢者の特徴を理解し、高齢者の歩行者を見かけたら減速や一時停止をする等、高齢者の方にとって優しい運転を心がけましょう。
(2)ドライバーの目につきやすくする
高齢者の歩行者の方の事故の特徴として、夕暮れ時・夜間に多発しています。
この時間は車の流れが活発であり、また、高齢者の方もコントラスト感度が低下するといった、眼の衰えが影響し、暗くなると黒と灰色に近いし白の区別がつきにくいです。
その結果、黒、ないしは黒っぽい車への反応が遅れてしまい、事故に繋がってしまうということがあります。
このような事故を防ぐためにも、なるべく夕方・夜間の外出を控えることも大切ですが、やむを得ない場合は、「ドライバーの目につきやすい服装を身に着ける」ことが非常に大切です。
つまり、「こちら(高齢者の歩行者の方)の存在を積極的にドライバーに知らせる」という方法です。
白や黄色といった明るい色の服を着用したり、車のライトを反射する「反射材」を身に着けたりしましょう。
歩行者の方が黒っぽい洋服を着ている時は、ドライバーは、歩行者の方との距離が30メートルほどになった時、認識ができると言われます。
一方で、反射材を身に着けている場合は120メートル離れていても認識することが可能となります。
ドライバーの方も、夜間も安全運転を心がけ、特にヘッドライトで照らされ切れていない対向車線側にも、高齢者の方がいないか注意して運転をするようにしましょう。
2 高齢者が交通事故を起こさないようにするには?
高齢者の方が被害者となる事故が増える一方で、高齢者の方が「加害者」となってしまうケースも増えています。
ここからは、高齢者の方が起こす事故を、どのように未然に防ぐかを、ご説明していきます。
(1)身体機能の衰えを意識
まずは、加齢による身体機能(能力)の低下、つまり身体の衰えを意識するようにしましょう。
先ほども述べましたが、年齢を重ねていくと、周辺視力や動体視力、さらには反応速度も加齢に従い低下をしていきます。高齢者の方は、それを自覚してカバーをしていく努力が必要です。
たとえば、視力にあった眼鏡を買うといった、自身の身体に合わせ物を購入し身体の衰えをカバーしたり、集中力や反応速度の衰えを補うために、意識して常に周囲に注意を払うという意識を持ったりすることも大切なことです。
車を発進させるとき、ブレーキをとき、角を曲がるとき、車線変更をするとき、その際に身体機能の衰えを意識したうえで、周囲の状況を確認し、気配り、目配りを習慣づけましょう。
(2)高齢者事故の主な原因を確認
高齢者の方が起こす事故の主な原因は運転操作ミスです。
ハンドルやブレーキ操作が遅れて事故を起こすといったものです。
その中でも、「ブレーキとアクセルの踏み間違い」による交通事故は特に多い傾向があります。
たとえば、駐車場などで歩行者や他の車が予期せぬところで出てきた際に、慌ててペダルを踏んだ結果、ブレーキがアクセルだったということも珍しくありません。
また、長年運転していた方による「慣れ」も交通事故の原因の1つと言えます。この慣れから、油断をしてしまい、一時不停止で道路に侵入し、事故を起こすことも多いです。
なお、事故の種類としては、交差点での出会い頭の事故が多いです。これは、交通状況判断に時間がかかってしまったり、不十分になってきていたりするからだと考えられます。さらに、ぼんやり運転や自身の進む方向にだけ気を取られて、信号・標識といった大事なサインを見落としてしまうということも原因と考えられます。
このような高齢者の方が起こす事故の原因を、高齢者の方自身が理解し、「自身がいつ加害者になってもおかしくないんだ」という認識をもって運転をすることが大切です。
(3)サポカーを利用する
安全運転サポート車、通称サポカーの利用も高齢者の方は検討しましょう。サポカーは先進安全装備を取り入れ、高齢者の方が運転する際のハンディをカバーする車です。
サポカーには以下の2種類があります。
①自動ブレーキのみを搭載した「サポカー」 ②自動ブレーキに加えペダル踏み間違い防止装置を搭載した「サポカーS」 |
【サポカー・サポカーSの技術】
技術 | 機能 | 詳細 |
ぶつからない | 自動ブレーキ(対車両、対歩行者) | 車載のレーダーやカメラにより前方の車両や歩行者を検知。衝突の可能性がある場合、運転者に対して警報を鳴らす。 衝突の可能性が高い場合には、自動でブレーキを作動する。 |
飛び出さない | ペダル踏み間違い時加速抑制装置 | 停止時や低速走行時に、車載のレーダー、カメラ、ソナーが、前方や後方に壁や車両を検知している状態で、アクセルを踏み込んだ場合、エンジン出力を抑えることで、急加速を防止する。 |
はみ出さない | 車線逸脱警報 | 車載のカメラにより道路上の車線を検知。車線からはみ出しそうになる、またははみ出した場合には、運転者に対して警報を鳴らす。 |
ヘッドライト自動切換え | 先進ライト | ・自動切替型前照灯 前方の先行車や対向車などを検知。ハイビームとロービームを自動的に切り替える。 ・自動防眩型前照灯 前方の先行車や対向車などを検知。ハイビームの照射範囲のうち当該車両のエリアのみを部分的に減光する。 ・配光可変型前照灯 ハンドルや方向指示器などの運転者操作に応じ、水平方向の照射範囲を自動的に制御する。 |
サポカーは自動ブレーキのみ搭載のため、サポカーSのほうが安全性は高く、さらには、現在はサポカーSよりもさらに高度な先進安全装備を搭載した自動車が販売されています。
なお、この先進安全技術はあくまでも安全運転の支援です。機能には限界があります。
サポカーに乗っているから絶対的に安全、というわけではありません。路面や気候次第では正常に機能が作動しないことも考えられます。
そのような場合も踏まえて、高齢者の方は注意を払うことは忘れずに、運転を行いましょう。
なお,交通事故の高齢者問題,高齢者の交通事故の原因については当事務所の次のコラムでもご紹介しているのでご覧ください。
3 政府が取り組んでいる対策
増加する高齢者ドライバーの事故に対して政府は以下の政策を取り組んでします。
(1)認知症対策
まず、認知症対策を強化した、改正道路交通法を基に、臨時認知機能検査、医師の診断、また高度化された高齢者講習などが行われています。
具体的には、医師会等、関係団体への協力要請などによって、平成29年末には、医師約5,700名の協力体制を確保しています。
また、一部の府県警察においては、認知機能検査で「認知症の恐れがある」と判定された高齢者の方の要望に応じて、生活支援等について相談ができるように、地方公共団体福祉部局に、必要な情報を提供する制度を置いています。
(2)移動手段の確保
自動車を運転することに、不安を感じる高齢者の方の為に、移動手段の確保等、社会全体で高齢者の方の暮らしを支える体制の整備することを、政府は進めています。
公共交通機関が少ない地方などでは、高齢者の方が自ら車を運転しないでも暮らせる社会づくりを進めています。
たとえば、全国では、配車アプリを活用し、タクシーを相乗りで低価格で利用できる「相乗りタクシー」というサービスを導入したり、地方では、自家用車が有料で高齢者の方などのお客様を運ぶ「ライドシェア」の規制を緩和したりしています。
また、自動運転バスの実用化に向けた検討も進めている地方もあります。
(3)サポカーの普及啓発
①サポカー補助金
サポカーを利用したくても、費用面でできない高齢者の方に向けて、資金面でサポートをする、「サポカー補助金」が2020年3月より申請受付が開始されました(2024年1月30日現在,サポカー補助金の申請受付は終了しています)。
これにより、65歳以上の高齢者の方が、①「対歩行者の衝突被害軽減ブレーキ」のみ搭載されたサポカーを購入するとき、また②「対歩行者の衝突被害軽減ブレーキ」と「ペダル踏み間違い急発進抑制装置」の両方が搭載されたサポカーを購入するときには、以下の補助金を受けることができるようになりました。
新車 | 中古車 | ||
乗用車 | 軽自動車 | ||
①の場合 | 6万円 | 3万円 | 2万円 |
②の場合 | 10万円 | 7万円 | 4万円 |
また、新しく車を購入するのではなく、すでに購入してある自動車に、後付けで「ペダル踏み間違い急発進抑制装置」を設置した場合でも補助金を受けることができます。
なお、この場合、障害物検知機能付きであれば、上限4万円、この機能が付いていない場合では、上限2万円の補助を受けられることになっています。
②サポカー限定免許の導入
2022年5月13日に施行された改正道路交通法では,申請をすれば運転することのできる自動車の範囲をサポートカーに限定する条件を運転免許に付与することができます。
サポートカー限定免許では,以下の自動車のみ運転することができます。
(ア)衝突被害軽減ブレーキ(対車両、対歩行者)
車載レーダー等により前方の車両や歩行者を検知し、衝突の可能性がある場合には、運転者に対して警報し、さらに衝突の可能性が高い場合には、自動でブレーキが作動する機能
(イ)ペダル踏み間違い時加速抑制装置
発進時やごく低速での走行時にブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み込んだ場合に、エンジン出力を抑える方法により、加速を抑制する機能
前述したように,サポートカーには,運転者の安全運転を支援するシステムが搭載されているとはいえ,サポートカーの技術を過信せずに運転することが大事です。
(4)運転技能検査の導入
2022年5月13日に施行された改正道路交通法では,高齢者の運転免許証の更新等の手続の際の,運転技能検査が導入されました。
75歳以上で信号無視や速度超過など,一定の違反歴がある場合は,運転技能検査に合格しなければ運転免許証の更新を受けることができません。
運転技能検査では,コース等で自動車を運転して,指示速度による走行ができるか,一時停止が指定された交差点で停止線の手前で確実に停止できるかなどの課題が出されます。
第一種免許であれば70点以上,第二種免許であれば80点以上をとれば合格です。
参照:警察庁 令和2年改正道路交通法(高齢運転者対策・第二種免許等の受験資格の見直し)(2022年(令和4年)5月13日施行) 高齢運転者対策の充実・強化
4 交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
高齢者の方の交通事故について、対策方法を中心にご説明をさせていただきました。
なお、残念ながら対策をしていたとしても、交通事故の被害者となることも加害者となることも可能性を0にすることはできません。
万が一、高齢者の方の交通事故が起きてしまった時は、弁護士に相談をするようにしましょう。
特に被害者になってしまったときは、早期の段階で弁護士に相談することをおすすめします。
何故なら、後遺障害が身体に残ってしまった場合、後遺障害等級が認められたとしても、損害賠償金を減額して示談を進めようとする保険会社も珍しくありません。
高齢者の方は、過去に別の交通事故で後遺障害を負っていることや、年齢的に持病を持っている可能性があるからです。
そのため、新たに後遺障害が身体に残ると、「元々、被害者の方が持っている要素が、今回の後遺障害に影響しているのでは?」と考えられます。
その結果、後遺障害慰謝料、および逸失利益において、争いになることが多いです。
被害を受けた高齢者の方にとっては、身体に痛みが残る中で、保険会社と交渉をしなければならないという精神的負担は非常に大きくなります。
このような時は、専門家である弁護士に任せることを検討しましょう。高齢者の方の事故についてのご相談は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご連絡ください。