自分に過失が一切ないもらい事故。
もらい事故は,交通事故の約3分の1を占めるとされています。
もらい事故では,自分の保険会社に示談交渉を行ってもらうことはできません。
そのため,自分で示談交渉を行ったところ,相手の保険会社から過失の指摘を受けたり,示談金が少ないなど理不尽な対応がなされることも少なくありません。
もらい事故で自分の損害を正当に評価してもらい,納得いく示談金を支払ってもらうには,どう対応すればよいのか,解説いたします。
目次
1 もらい事故とは何か?特徴と種類
⑴もらい事故とは
もらい事故とは,被害者に一切の過失がない事故をいいます。
被害者に全く落ち度がないので,過失割合は(被害者)0:100(加害者)になります。
⑵もらい事故の特徴と具体例
①もらい事故の特徴
(ア)保険会社が示談交渉を行ってくれない
もらい事故では,被害者に賠償責任が生じないので,保険会社が示談交渉を行うことはできません。
もしも被害者側の保険会社が示談交渉を行えば,他人の法律事務を代行したものとして,弁護士法72条違反になってしまいます。
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
(イ)損害賠償金において,過失相殺はされない
被害者側に過失がないので,過失相殺はなされません。
(ウ)違反点数は加算されない
交通ルール違反行為に対しては,違反点数が加算される点数制度がとられています。
もらい事故では,被害者側に過失がないので,違反点数の加算はありません。
(エ)車が破損して車両保険を使えば,翌年の等級が3等級下がる
ただし,車両無過失事故に関する特約を付けていて,一定の条件を満たしていれば等級には影響しません。
また,怪我などをして,人身傷害保険を使用した場合,等級への影響はありません。
②もらい事故の具体例
(ア)信号待ちで停車中に,後続車から衝突された
後続車が前方不注視であったり,車間距離を保持していないなどの一方的な過失による事故です。
そのため,追突された被害者の過失はゼロであるのが原則です。
(イ)対向車がセンターラインを越えて正面衝突してきた
車は道路の中央線から左の部分を通行しなければいけないです。
そのため,センターラインをオーバーした車の一方的な過失による事故で,追突された被害者の過失はゼロであるのが原則です。
(ウ)青信号で進行中,信号無視の車と衝突した
信号を無視した車の一方的な過失による事故なので,追突された被害者の過失はゼロであるのが原則です。
(エ)駐車場内で停車中に,走行してきた車に衝突された
相手方の一方的な過失による事故なので,追突された被害者の過失はゼロであるのが原則です。
もらい事故には被害者の過失が全くなく,防ぎようがありません。
2 もらい事故の場合の損害賠償金
⑴物損事故の場合
①車の修理費
事故当時の車両価格の金額を上限として,基本的に全額請求できます。
②代車使用料
交通事故が原因で,車を使用できない期間に,代わりの自動車を使用するのにかかった費用を請求できます。
⑵人身事故の場合
①治療費
交通事故で負った傷害などの治療にかかった費用を請求できます。
②通院交通費
治療のための通院にかかった交通費のことで,公共交通機関の乗車賃などをいいます。
③休業損害
入通院のために仕事を休み,減収した分が休業損害にあたります。
④逸失利益
後遺症によって労働能力が低下し,将来得られる収入が減少してしまった場合に,本来得られるはずの収入が逸失利益にあたります。
⑤慰謝料
入通院慰謝料,後遺障害慰謝料の2つがあります。
※人身事故の場合も,車の故障があれば修理費を,車を使用できず代わりの自動車を使用すれば代車使用料を請求することが可能です。
3 もらい事故に遭った場合の対処法
⑴一般的な対処法
①警察に連絡する
警察は,加害者を刑事裁判にかけるかどうかを捜査するので,示談には関与しません。
もっとも,警察が作成した資料には,示談交渉に役立つものもあるので,警察とはこまめにやり取りをして,警察が作成した資料を適切に入手できるようにしましょう。
警察は,物損事故では簡単な手続きで済ませてしまうことが多く,事故の詳細についての資料が作成されません。
そのため,もらい事故で負傷している場合には,人身事故として届け出て,実況見分調書を作成してもらいましょう。
②加害者の氏名,住所,車のナンバー,保険の有無を確認する
もらい事故における損害賠償請求の相手方は,相手方本人又は保険会社です。
そのため,相手を特定できる情報と保険の有無は重要になります。
③お互いの保険会社へ連絡する
相手方の保険会社は損害賠償請求の相手方となりうるので,保険に加入している場合は連絡しましょう。
また,自分の加入している保険会社は示談交渉をしてくれませんが,弁護士費用特約や人身傷害補償保険などを利用できる可能性もあります。
そのため,自分の加入している保険会社にも連絡しましょう。
④病院に行って診療してもらう
事故から時間が経って病院に行った場合,保険会社から本当に事故のせいでその症状が発生したのかを疑われてしまいます。
また,自分では怪我をしていないと思っても怪我をしている場合があります。
そのため,自分では怪我をしていないと思ってもすぐに病院に行きましょう。
また,治療費を支払った場合は領収書を保管しておきましょう。
さらに,警察に人身事故として届け出るために,診断書を発行してもらいましょう。
⑤示談交渉する
交通事故による損害が確定したら,加害者もしくは加害者の保険会社と示談交渉を行い,損害賠償金の金額を決めます。
⑥加害者から被害者に損害賠償金を支払う
示談交渉で決定した損害賠償金が,加害者から被害者に支払われます。
⑵もらい事故で相手の保険会社の対応に納得いかない場合の対処法
①「あなたに過失がある」と言われる場合
客観的な証拠を提示して,「自分に過失がない」と反論していくことになります。
ドライブレコーダーの映像,防犯カメラの映像,現場の状況(スリップ痕や損傷した自動車),現場の写真,目撃者の証言,警察が作成した実況見分調書などが証拠になります。
もっとも,被害者自身で過失割合を立証するのは難しい場合も多いです。
②示談金が少ない場合
保険会社は多額の示談金を支払いたくないので,保険会社が提示する示談金は低額であることが多いです。
そのような場合には,適正金額を算出してみて,交渉することが考えられます。
しかし,適正金額を正確に算出することは難しいですし,保険会社は事故対応に慣れているので,言いくるめられてしまうかもしれません。
なお,(ア)交通事故で示談がどのように行われているか,(イ)交通事故の示談の進め方,(ウ)交通事故の示談が難航したらどうすればよいかについて,当事務所の次のコラムでご紹介していますので,ご覧ください。
4 もらい事故で被害者が示談交渉を行う際の注意点
(1)保険会社の言うことを鵜呑みにしない
慰謝料の算定基準には,⑴自賠責基準,⑵任意保険基準,⑶弁護士基準がありますが,弁護士基準が最も高額です。
加害者側の保険会社は,任意保険基準に沿って,相場よりも低い慰謝料を提示するので,保険会社の提示する慰謝料を鵜呑みにしてはいけません。
また,保険会社から強引に交渉を進められてしまう可能性もあります。
被害者は示談交渉に不慣れなので,不利になりやすいです。
(2)示談交渉を始めるタイミングに注意
すべての損害が確定した段階がベストです。
基本的には,治療終了後又は後遺障害等級認定後になります。
①請求できる賠償金の費目・相場を確認しておく
相手方から相場よりも低い金額を提示される可能性があります。
提示された金額が適正かどうかを判断するために,前もって請求できる賠償金の費目・相場を確認しておきましょう。
②弁護士のサポートを受ける
加害者側の保険会社は,相場よりも低い慰謝料を提示します。
また,示談成立後のやり直しは原則として行うことができないので,示談交渉は慎重に進める必要があります。
被害者が増額を主張しても根拠が弱く,受け入れてもらえることは少ないです。
弁護士基準の金額に増額するには,弁護士自身が交渉を行うことが有効です。
また,保険会社は専門知識を持つ弁護士を無下にすることはできません。
そのため,弁護士に依頼した方が高額の示談金を得ることができ,被害者にとって得になります。
5 もらい事故で保険会社の対応に納得できない場合は弁護士にご相談を
もらい事故での相手方の保険会社との示談交渉について,ご説明させていただきました。
「自分に非がないのに,相手方の保険会社から『過失があるのでは?』と言われる」
「示談金が少ないのではないか?」
交通事故問題に慣れていない方が,このような疑問についてご自身で判断することは難しいです。
また,ご自身で示談交渉を行うよりも弁護士に依頼した方が高額の示談金を得られる可能性が高まります。
弁護士に依頼すれば,事故の初期段階の対応からアドバイスが可能ですし,示談交渉の代行も可能です。
ご自身の加入されている自動車保険に弁護士費用特約が付帯されていれば,一定額までは負担なしで弁護士に示談交渉を依頼することもできます。
当事務所には,交通事故問題に詳しい弁護士が在籍しています。もらい事故で保険会社の対応に納得できない場合は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご連絡ください。