肩鎖関節脱臼とは,肩の外側を強く打ち付けた際に靭帯を損傷し,症状が重くなると骨がずれてしまうことです。
交通事故で肩を打ち付けた際,肩鎖関節脱臼の後遺障害が残ることがあります。
当コラムでは,肩鎖関節脱臼の後遺障害についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で肩鎖関節脱臼する場合とは?
肩鎖関節は,鎖骨と肩甲骨の間にある関節のことです。
バイクや自転車に乗っているところ交通事故に遭い,転倒して,肩を強く打ち付けた際に,肩鎖関節脱臼することがあります。
軽症であれば,肩を動かしたときに痛みを感じる程度ですが,重症になると,鎖骨の出っ張りがはっきりとして,周囲が腫れます。
肩鎖関節脱臼には6段階があります。
グレードⅠ~Ⅲでは保存療法が,Ⅳ~Ⅵでは観血術による固定がなされます。
グレードⅡ以上になると,後遺障害の認定がなされるおそれがあります。
グレード | |
Ⅰ捻挫 | 肩鎖靭帯の部分損傷,烏口鎖骨靭帯,三角筋・僧帽筋は正常。XPでは異常が認められない。 |
Ⅱ亜脱臼 | 肩鎖靭帯が断裂,烏口鎖骨靭帯は部分損傷,三角筋・僧帽筋は正常。XPでは関節のすきまが拡大し鎖骨遠位端が少し上にずれている。 |
Ⅲ脱臼 | 肩鎖靭帯,烏口鎖骨靭帯ともに断裂,三角筋・僧帽筋は鎖骨の端から外れていることが多い。XPでは鎖骨遠位端が完全に上にずれている。 |
Ⅳ後方脱臼 | 肩鎖靭帯,烏口鎖骨靭帯ともに断裂,三角筋・僧帽筋は鎖骨の端から外れている。鎖骨遠位端が後ろにずれている脱臼。 |
Ⅴ高度脱臼 | Ⅲ型の程度の強いもの,肩鎖靭帯,烏口鎖骨靭帯ともに断裂,三角筋・僧帽筋は鎖骨の外側3分の1より完全に外れている。 |
Ⅵ下方脱臼 | 鎖骨遠位端が下にずれる,極めて稀な脱臼。 |
2 交通事故で肩鎖関節脱臼したら後遺障害等級はいくつになる?
肩鎖関節脱臼の後遺障害等級,症状は以下のようになっています。
後遺障害等級 | 後遺障害 | 症状 |
10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 患側の可動域が健側の2分の1以下となったもの(手が肩の辺りまでしか上がらない) |
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | 鎖骨に変形を残すもの(外見上,分かるような変形を指す。裸体で変形が確認できればよい) |
12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 患側の可動域が健側の4分の3以下となったもの(手が肩の位置よりは上がるが,上までは上がらない) |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 脱臼部に痛みを残すもの |
併合9級 | 肩関節の可動域で10級10号+鎖骨の変形で12級5号 | |
併合11級 | 肩関節の可動域で12級6号+鎖骨の変形で12級5号 |
3 肩鎖関節脱臼の後遺障害等級認定を申請する方法
後遺障害等級認定の申請方法には,⑴事前認定(加害者請求)と⑵被害者請求があります。
事前認定とは,加害者側の任意保険会社に手続を任せる方法です。
これに対して,被害者請求とは,被害者自身で必要書類を用意して,後遺障害等級認定を申請する方法です。
⑴事前認定(加害者請求)
①症状固定の診断を受ける
後遺障害は,症状固定の段階で残っている症状を指します。
症状固定とは,これ以上治療を続けても症状が改善しない状態のことです。
②後遺障害診断書を作成する
後遺障害等級認定を申請するには,事前認定・被害者請求どちらにせよ後遺障害診断書が必要です。
後遺障害診断書は医師しか作成できないので,主治医に後遺障害診断書の作成を依頼しましょう。
③加害者側の任意保険会社に後遺障害診断書を送る
事前認定では,それ以外の必要書類は加害者側の任意保険会社が収集するので,被害者は後遺障害診断書を送付するだけで足ります。
④必要書類の提出と調査を行う
加害者側の任意保険会社は,後遺障害診断書を含めた必要書類を損害保険料算出機構に提出します。
その後,損害保険料算出機構は,提出書類に基づき,後遺障害等級に該当するか調査します。
⑤等級認定と被害者への通知を行う
自賠責保険会社に調査結果が報告され,調査結果をもとに自賠責保険会社は等級認定を行います。
任意保険会社は等級認定の通知を受け,さらに被害者に認定結果を通知します。
⑵被害者請求
①症状固定の診断を受ける
事前認定と同様に,後遺障害等級認定を申請するには医師から症状固定との判断を受けなければいけません。
②後遺障害診断書を作成する
被害者請求の場合も,後遺障害診断書を作成しなければいけません。
③必要書類を集め,加害者の自賠責保険会社に必要書類を提出する
被害者請求では,被害者が必要書類を収集します。
④損害保険料算出機構が調査を行う
自賠責保険会社は損害保険料算出機構に調査を依頼します。
損害保険料算出機構は,提出書類に基づき,後遺障害等級に該当するか調査します。
⑤等級認定と被害者への通知を行う
自賠責保険会社に調査結果が報告され,調査結果をもとに自賠責保険会社は等級認定を行います。任意保険会社はその通知を受け,さらに被害者に認定結果を通知します。
事前認定と被害者請求には,以下のようなメリット・デメリットがあります。
事前認定(加害者請求) | 被害者請求 | |
メリット | 被害者の手間が少ない | ・必要書類を集めるのは被害者なので,書類内容にこだわることができる・後遺障害等級認定後,後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益の一部を受け取ることができる |
デメリット | ・必要書類を集めるのは加害者なので,被害者は書類を確認することができない ・後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益の支払を受けるのは示談成立後 | ・必要書類の収集に手間がかかる |
これらのメリット・デメリットを踏まえると,被害者が後遺障害等級認定を受け,後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益を早期に受け取るには,被害者請求の方が良いことが分かります。
4 交通事故で肩鎖関節脱臼した場合の慰謝料額の相場は?
交通事故が原因で肩鎖関節脱臼の後遺障害が残った場合,被害者は治療費などの他に後遺障害慰謝料を請求することができます。
慰謝料とは,交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償のことです。
後遺障害慰謝料は,交通事故が原因で後遺障害が残ったことに対する金銭的補償を指します。
後遺障害慰謝料の相場には,⑴裁判所基準,⑵任意保険基準,⑶自賠責基準があります。
3つの支払基準のうち,裁判所基準が最も高額の支払基準で,自賠責基準が最も低額の支払基準です。
裁判所基準は,弁護士が示談交渉で使用するので弁護士基準とも呼ばれます。
なお,後遺障害慰謝料の計算方法については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
後遺障害等級 | 後遺障害 | 裁判所基準 | 自賠責基準 |
10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 | 190万円 |
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | 290万円 | 94万円 |
12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 290万円 | 94万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 110万円 | 32万円 |
併合9級 | 690万円 | 249万円 | |
併合11級 | 420万円 | 136万円 |
5 弁護士に相談すべきベストなタイミングは?
肩鎖関節脱臼の後遺障害が残った場合,後遺障害慰謝料も含めた示談金を受け取るには,後遺障害等級認定を受けなければいけません。
被害者請求では,必要書類の収集が非常に手間となります。
しかし,交通事故が発生してすぐに弁護士に相談し,依頼していれば,被害者請求の手続きを弁護士に代行してもらうことができます。
また,それだけでなく,示談交渉も弁護士が被害者ご自身に代わって行います。
そのため,交通事故が発生してすぐがベストタイミングだと言えます。
なお,弁護士に交通事故を相談するタイミングについては当事務所の次のコラムでもご紹介しているのでご覧ください。
6 まとめ
肩鎖関節脱臼の後遺障害が残れば,病院のかかり方,後遺障害等級認定の申請方法,示談交渉など悩まれる点が沢山あります。
弁護士に依頼すれば,手続きを代行してもらえますし,弁護士費用特約を付していれば弁護士費用を気にする必要がありません。肩鎖関節脱臼の後遺障害で悩まれている方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。