上腕骨近位端骨折は,高齢者に多くみられる骨折ですが,交通事故で生じることもあります。
当コラムでは,上腕骨近位端骨折の後遺障害等級,認定基準,後遺障害慰謝料等の請求方法についてご説明いたします。
目次
1 上腕骨近位端骨折とは?
上腕骨は,二の腕部分の骨のことで,上腕骨近位端は付け根に近い部分,すなわち肩関節近くを指します。
腕の付け根で折れてしまう骨折を,上腕骨近位端骨折といいます。
高齢者が転倒時に手をついて生じることが多いです。
交通事故では,肩を地面に打ち付けて発症します。
上腕骨近位端の骨構造は,上腕骨骨頭,大結節,小結節,上腕骨幹部に分類できます。
どの部分を骨折したか,元の骨の位置から分離(転位)しているかで,上腕骨近位端骨折は分類されます。
上腕骨近位端骨折を生じると,局所の強い痛み,腕を挙げることができないなどの症状が現れます。
複数方向のX線検査を行って診断し,必要があればCT,3DCTを行います。
骨頭の骨折で転位がなければ3週間の三角巾固定で足りますが,転位が認められるとX線透視下に徒手整復を実施し,4週間のギプス固定を行います。
大結節の骨折では,皮膚を通してKワイヤーやラッシュピンで固定します。
小結節,骨幹部の骨折では,髄内釘やプレートを用いて骨折部位を固定する,観血的整復固定術が用いられます。
2 上腕骨近位端骨折で後遺障害が残る場合の等級と認定基準とは?
上腕骨近位端骨折の後遺障害では,肩関節の機能障害と,骨折部の疼痛の症状が残ります。
(1)機能障害
後遺障害等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
8級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 強直/完全弛緩性麻痺かそれに近いもの |
10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 患側の可動域が健側の2分の1以下 |
12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 患側の可動域が健側の4分の3以下 |
つまり,肩関節の機能障害の認定基準は,具体的には以下の表のようになっています。
高齢者かつ重い骨粗しょう症である場合を除き,上腕骨近位端骨折で可動域制限を残すことは少ないです。
そのため,上腕骨近位端骨折が生じても機能障害の後遺障害等級が認定されることはあまりありません。
部位 | 主要運動 | 参考運動 | |||||
肩関節 | 屈曲 | 外転 | 内転 | 合計 | 伸展 | 外旋 | 内旋 |
正常値 | 180° | 180° | 0° | 360° | 50° | 60° | 80° |
8級6号 | 20° | 20° | 0° | 40° | |||
10級10号 | 90° | 90° | 0° | 180° | 25° | 30° | 40° |
12級6号 | 135° | 135° | 0° | 270° | 40° | 45° | 60° |
(2)神経症状
後遺障害等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 現在残存している症状の原因が何であるかが他覚的所見に基づいて判断できる |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 障害の存在が医学的に説明可能 |
3 上腕骨近位端骨折で後遺障害が認められた場合の慰謝料の相場は?
交通事故で上腕骨近位端骨折した被害者は,加害者(加害者が任意保険に加入している場合は,任意保険会社)に対して損害賠償金を請求することができます。
項目としては,治療費実費,通院交通費,後遺障害逸失利益,入通院慰謝料,後遺障害慰謝料,修理費などがあります。
そのうち,後遺障害慰謝料の相場は,弁護士基準,自賠責基準の支払基準から分かります。
弁護士基準と自賠責基準では2倍近く金額が変わるので,どちらの基準を用いて算定するかが大切です。
(1)機能障害
後遺障害等級 | 後遺障害 | 弁護士基準 | 自賠責基準 |
8級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 830万円 | 331万円 |
10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 | 190万円 |
12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 290万円 | 94万円 |
(2)神経症状
後遺障害等級 | 後遺障害 | 弁護士基準 | 自賠責基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 290万円 | 94万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 110万円 | 32万円 |
なお,後遺障害慰謝料の計算方法については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
4 慰謝料等の損害賠償を請求するまでの流れは?
交通事故加害者(加害者が任意保険に加入している場合は,任意保険会社)に後遺障害慰謝料などの損害賠償金を請求するには,以下の対応を取る必要があります。
(1)病院を受診する
交通事故が発生して当日,少なくとも翌日には病院を受診しましょう。
事故から時間経過後に病院を受診すれば,事故と怪我の因果関係が否定される可能性があります。
そのため,交通事故に遭い,肩を地面に打ち付けた場合はその日のうちに病院を受診しましょう。
(2)治療を受ける
病院を受診して,上腕骨近位端骨折だと診断されれば,治療を続けましょう。
後遺障害が残らずに完治することが理想なので,継続的に通院してください。
ただし,後遺障害が残った場合,後遺障害等級認定を受けるには,6ヶ月の通院が必要です。
定期的に通院しましょう。
(3)主治医から症状固定だと診断される
完治せず,後遺障害が残るようであれば,主治医から「これ以上回復は見込まれない」(症状固定)と診断されます。
次の対応として後遺障害申請を行うことになるので,その際に必要な後遺障害診断書の作成を主治医に依頼しましょう。
(4)後遺障害申請を行う
後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益など,後遺障害に対する損害賠償金を求めるには,後遺障害等級認定を受けなければいけません。
後遺障害等級認定を受けるために,後遺障害申請を行いましょう。
後遺障害申請には,事前認定(加害者請求)と被害者請求があります。
被害者が必要書類を収集でき,ポイントを踏まえた申請ができる,被害者申請の方が被害者にはよいです。
(5)認定結果が通知される
審査が行われた後,被害者に対して後遺障害等級に該当するかどうか結果が通知されます。
(6)保険会社との示談交渉を行う
後遺障害等級認定を受ければ,後遺障害に対する損害賠償金を請求できるようになるので,加害者もしくは保険会社との示談交渉を始めます。
請求できる損害賠償項目を調べた上で一方が示談金額を提示し,他方が示談金額を検討したうえで,合意に至らなければ再検討します。
(7)示談が成立する
双方が合意すれば,示談が成立し,示談金が支払われます。
なお,示談交渉の流れについては当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
5 弁護士に依頼するメリットとは?
(1)治療に専念できる
弁護士は被害者の代わりに加害者側の保険会社と連絡をとってくれるうえに,今後行うべき対応のアドバイスもくれます。
慣れない保険会社への対応や,この先どうなるかの不安に気を揉まれず,治療に集中できます。
(2)後遺障害申請へのアドバイスをもらえる
適切な後遺障害等級認定を受けるには,6ヶ月以上の通院期間,他覚的所見(検査結果),後遺障害診断書が必要です。
後遺障害申請には特殊なポイントがあるので,被害者ご本人がいきなり行うことは難しいです。
弁護士に依頼すれば,後遺障害申請の注意点を教えてもらうことができますし,被害者申請の手続を代行してもらうこともできます。
(3)適切な後遺障害等級を獲得できる
弁護士は,後遺障害事例の取り扱い経験があるので,適切な等級認定を受けることができるでしょう。
(4)適切な示談金を獲得できる
示談書にサインし,示談が成立すれば,原則として示談のやり直しはできません。
相場より低額での示談成立を防ぐために,弁護士に依頼して請求できる損害賠償項目と相場を確認しましょう。
また,弁護士は交渉のプロであり,かつ弁護士基準を適用して慰謝料を算定することができるので示談金の額を引き上げられるかもしれません。
なお,交通事故で相談する弁護士の選び方については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
6 まとめ
上腕骨近位端骨折が生じた場合の後遺障害等級・対応についてご説明させていただきました。
上腕骨近位端骨折の示談金を受け取るまでは,通院・症状固定の診断を受ける・後遺障害申請を行う必要があるため長時間かかります。
治療を行いながら長期間の後遺障害申請や示談交渉を行えば,心身に大きな負担がかかります。
しかし,弁護士に相談すれば効果的なアドバイスを受けることができるうえに,ハードな手続きを代行してもらえます。上腕骨近位端骨折の後遺障害で悩まれている方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにぜひご相談ください。